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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
206/596

006

 高校生活最初の一日であるにも関わらず、1-2教室は奇妙なざわめきに包まれた。


 この日初対面となった隣の席のクラスメイトへの遠慮も、生徒達は忘れてしまった。

 その視線は、たびたび前側の扉へと向けられている。


 今しがた、勢いよく開け放たれた扉へと。


 それは、一番最初のホームルームも終わりを迎えようとしていた時のこと。

 式典も終わり、これからの高校生活への期待と不安が最高潮に達しようとしていた瞬間。


 場の雰囲気を吹き飛ばすかのように、教室の前扉は開かれた。


 ようやく迎えた入学式当日。1-2の教室には、空席があった。


 式典も近付き、移動するよう教員から指示があるまで埋まることのなかった空席。

 廊下側の、前から五番目――出席番号、五番の席。


 クラス中から名簿を確認された彼の出欠は、担任である東雲二葉でさえ知らなかった。


 家族らしき人物の姿もなく、クラスメイトがそれぞれ勝手に納得していた頃――突如として、彼はやってきた。


「ぎ、ギリギリセーフ……っ!」


 廊下を駆け抜け、扉を叩き壊す勢いで開け放ち、1-2教室に現れた。


「……誠に残念ながら、アウトだよ。小城宏太おぎこうた君」


 ――それが桐葉と、桐葉達と、小城宏太との初対面だった。






 ――前日。


「ま、まだ着いてないんですか?」


 思わず耳を疑った。


 わざわざこんな日に、しかも夕方に訊ねてくるから何かと思えば。


 例によって付いて来させられたらしい東雲さんも、どことなく困り顔。

 こんな話を聞かされたらそうなるに決まってる。


「最初に言っておいた筈だよ。この辺りまで伸びるかもしれない、って」

「まさか本当にここまでかかるとは思いませんでしたよ……」

「まあね。それに関しては私も同意見だ。でも、こうなった以上はそういうものだと受け入れるしかない」


 最初の買い物から気付けばほぼ三週間。入学式も、もう明日まで迫ってる。

 追加の家電も送られたのも、組織の設備も軽く見せてもらったのも、今からおおよそ二週間前。


 その頃には一通りの準備も終わってた。俺達だけじゃなく。

 それなのに、噂のもう一人はまだこのエリアに辿り着いてすらいないらしい。


 一体どんなトラブルがあったのか、俺もまだ詳しく教えてもらってない。

 一つのトラブルから連鎖的に色々と起きてしまった、とだけ。


 二九四三側の都合もあったんだろうけど、いくらなんでも遅すぎる。


 チームとしての予定が遅れるだけなら構わないけど、やってくる本人はそれどころじゃない。

 この三週間分のスケジュールをどこかで取り戻さなきゃいけない。


「数時間後には着くそうだから、私の方で対応をしておくよ。……本当は、今日にも会わせてあげたかったんだけど」

「手伝いますよ。それなら東雲先生の目的も達成できるじゃないですか。先生には明日のこともあるんですから」

「それは三凪や君達二人も同じだ。――勿論、これから来る彼にもね。君達の役目は明日に備えてしっかりと休む事だよ」


 こういうところは、真面目な人なんだろうな。


 この前の盗撮(?)はなかなかのものだったけど、それはそれ。

 本来なら、手が空いている人に任せておけば済むような話なんだから。


 ――そうして作り上げられた静かな雰囲気をぶち壊したのは、騒々しい着信音。


 組織からの緊急連絡。

 四つの携帯電話が全く同じメロディを部屋中に響かせる。


(っ、やっぱり……!)


 予想通り、あの化け物がまた現れた。


 ありがたいことに、発見場所はここから近い。

 この前、軽トラックが大爆走したのとはまた別の道路沿い。まだ民間人が巻き込まれたっていう話もない。


「……東雲先生。こっちなら、俺達が動いても構いませんよね?」

「そうだね……。うん、お願いしよう。ここから向かった方が近そうだ」


 あくまで、組織の監視設備が見つけただけ。

 動き出す時間には早いけど、そんなの気にしたって仕方がない。


 たとえば、何かの準備のために呼び出した個体がたまたま見つかった――とか。


「あ、あのっ……!」


 ――飛び出そうとしたその瞬間、呼び止めたのは東雲さん。


 何事かと思って振り返ると、まるでその反応に驚いたような顔。

 でもそれも、一瞬のことだった。


「えっと、その、迷惑じゃなかったら……私も、連れて行ってもらえませんか……!?」


 不安を押し殺したような東雲さんの頼みを、断れる筈がなかった。






「――《火炎》!」


 手裏剣を放つ動きになぞらえ放たれた一つの炎。


 円盤状に薄く伸びた桐葉の魔法は揺らぐことなく一直線に飛び――弾けた。

 標的である怪物を塵一つ残さず葬り去った。


 発見してから、わずか数秒。

 紅く爛々と光る眼を三凪が確かめた時には、もう魔法は放たれていた。


 補足された二匹は、三凪達へ攻撃を仕掛けることもなく消え去った。


「……呆気ないものですね」

「いいんだよ。誰も巻き込まれなかったんだから。……この前といい、教団の連中がいないのは気になるけど」

「打って出るだけの戦力がないのでしょう。……今のところは、としか言えませんが」

「まったくだよ。……何もしかけてなきゃいいけど」


 怪物が消え去ったその場所を眺める三凪をよそに、桐葉は周囲の調査を始めた。

 その後ろをついて回る衣璃亜も、ただ歩いているというわけではなかった。


「――東雲さんは?」


「はっ、はい……っ!?」


 突然呼ばれて、思わず声が裏返った。


「ごめん、驚かせちゃって。……何かあった? あの辺りを見てたけど」

「う……ううん、何も……。他の個体も見当たらないから、あれで全部だったんだと思う」

「ならよかった」


 隠そうとして誤魔化せるようなものでもない。

 燃えるように熱い顔を必死に桐葉達から背け、それでもなんとか、意識だけはそちらに向けた。


「何もないし、続きはそっちの部隊にお願いした方がいいか……。東雲さんも、それでいい?」

「えっ? あ……うん、天条くん達がそれでいいなら……」


 話もすぐに終わる。そう思っていたから、答えが遅れた。

 曖昧な返事を返してしまったと気付いた時には、もう衣璃亜が三凪のことを見ていた。


「その言い方……何か、あるんですか?」

「な、ない。本当に、何も……。……その、私に確認しなくてもいいのにって、思って……それだけ」

「? そう……?」


 言い訳がましいと思いつつも、それが三凪の本心。


 必要以上に気を遣われているのではないかと、思ってしまった。


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