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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Panicking Unite
201/596

001

 ――三月某日。


 夜の闇をかき分けるように、一対の翼が大きく羽ばたいた。

 淡い光を宿した翼は、主である少年――天条桐葉てんじょうきりはに従い、力強く羽ばたいた。


「……いいんですか? こんな勝手な真似をして。あれにも言われていたでしょう。可能な限り指示に従うように、と」


 夜の空を駆け抜ける桐葉の腕の中。


 透き通るような肌の少女――衣璃亜いりあは、不満を隠そうともしない。唇を尖らせ、桐葉を見上げていた。

 首に回されたか細い腕に過剰な力が込められているのを感じつつ、桐葉は渋々言い返す。


「だからって、そんな不満そうな顔しなくても。勝手に動くしかなかったんだよ。連絡したのに出なかったのは向こうなんだから」


 白い羽とは対照的な黒い衣服に身を包んでも、衣璃亜の冷たい視線は防げない。

 冬の厳しい寒さを思い出させる冷たい空気よりも、桐葉にとってはそれが何より辛い。


「不満などある筈がないでしょう。ええ、ありませんよ。何一つとして。あなたには」

「いや、どこが。とてもそんな風には見えないんだけど」

「あら、思い当たる節でもありましたか?」


 誰もが見惚れてしまう程に穏やかな微笑みが、桐葉にはかえって恐ろしく感じられた。

 眉間に拳銃を突きつけられているような心地さえした。


 美しい仮面に抑えきれない彼女の苛立ちを、桐葉は他の誰よりも正しく理解していた。


「か、必ず埋め合わせはするから。時間をとって。……な?」

「あなたの責任ではありませんよ。向こうが最低限の指示も出さないのが悪いんです」

「ここの人もドタバタしてるんだろ、きっと……」


 名実ともに、桐葉と衣璃亜はエリア二九四三に置かれた拠点の所属となっていた。


 教団の動きが確認された場合、他のメンバーと同じように情報は送られる――ことになっている。

 本来であれば、その筈だった。


「私達が移動するまでいくらでも時間はあったでしょう。その間に準備を済ませているものだとばかり思っていました」


 しかし、未だにその連絡はない。

 桐葉と衣璃亜が教団の存在を掴んでから二〇分近く経過した今でも、メールの一通も届かない。


 現在地も含め桐葉が送信した報告のメールにも、何の返答もなかった。


「そもそも、昨日移動するように指定したのはあちらだったのでしょう? てっきり今日中には向こうから接触してくるものだと思っていました」

「それはあれだよ。長旅の疲れを癒しておけ、的な」

「いくらなんでも好意的解釈が過ぎますよ。もしそうだとしても、ひとこと言うべきではありませんか?」


 未だに[アライアンス]のメンバーが接近する気配さえ感じられない。

 故に桐葉も衣璃亜も、帰宅を遅らせ[創世白教]を追うしかなかった。


「そもそもあいつらが余計な事をしなきゃ、こうはならなかったんだけど、っと……!」


 目印は、山を裂くように作られた片側一車線の道路。

 まるで緑に色づく山の中を這い上がる蛇のようだと思いながらも、桐葉は再びその翼を羽ばたかせる。


「言って聞く程度の集団なら誰も苦労しません。違いますか?」

「……確かに」


 教団の存在に気付いたのは、四苦八苦しながら向かった最寄りのコンビニ。

 覚えのある嫌な気配を先に察知したのは衣璃亜だった。


 しかし信徒達は、その時すぐには動かなかった。

 明らかに桐葉と衣璃亜の存在に気付きながら、山奥を目指して走り去っていったのだ。


 ――怪物の襲撃を受けたのは、コンビニを出て曲がり角に差し掛かった時のこと。


 二人にとってそれ自体は大した脅威ではなかったものの、教団がまた何かを目論んでいるのは明らかだった。


「どこに行っても、本当に同じなんだな……あの連中」


 独断専行と言われようと、追う以外の選択肢がなかったのである。






 エリア二九四三の拠点で知らせを受けたその人物は頭を抱えていた。


「な、何もこんな時じゃなくてもいいのに……」


 この地域に限らず、[創世白教]の行動が唐突なことは今に始まったことではない。

 組織に属していれば嫌でも思い知ることになる。


 しかし、その日ばかりは事情が違った。

 昨日、このエリアにとある二人が移動してきたばかりだったのだ。 


「それを言っても仕方がないよ。私達の事情なんて向こうが汲み取ってくれるわけがないからね」

「そ、そうだけど……でも……」


 何より場所が最悪だった。

 よりにもよって、彼らに割り当てられたアパートに近い場所で反応があったのだ。


 彼らが教団の存在に気付いている可能性は非常に高い。

 特別に確認が許された資料を見た限りでも、教団を放っておくような人物には思えなかった。


「彼らが移動していた昨日よりはマシだと思わないと。……気の毒なことはしてしまったけどね」

「気の毒……?」


「どうやら、向かっているらしい。……もう二〇分以上前のメールだ。今頃交戦していてもおかしくない」


(想定外の形ではあるけど……今の君の実力、見せてもらうよ。天条桐葉君)






「見つけた……っ!」


 移動手段が車じゃなかったら、もっと早く追い付くこともできたんだろうけど。


 荷台に布を覆いかぶせた軽トラック。

 運転席は見えないけど、車からはっきりと魔力を感じる。


(それから、二匹……!)


 何のために載せてるのか分からない。でも、確かにいる。


 真っ黒な身体に赤い眼を持つ怪物。

 ヒトを平然と襲う化け物。


(あっ! あのやろ……っ!)


 軽トラックも俺達に気付いたらしく、速度を上げた。


 制限速度なんて無視して、カーブの多い道を突っ走ってる。

 ラインも無視して、強引に。


「桐葉。分かっているとは思いますが……」

「当然。――……《流穿》っ!」


 ――逃がすわけないだろ。


 動き回る軽トラックを睨みつけたまま、圧縮した水を細長いドリルのように撃ち出した。


 狙いはタイヤ。

 もう、馬鹿みたいな速度で逃げられないように。


(当たり……っ!)


 夜の道を無茶苦茶に動き回っていたって、そのくらいは当てられる。

 まさか木に向かって突っ込めるわけもないし、狙いを絞るのは簡単。


 左後輪の支えを失った軽トラックは、たちまち暴れ出した。


 無茶苦茶なハンドル操作ももう利かない。

 案の定、派手なスピンを決め出した。


 もう、空から追う必要もない。

 翼を閉じて急降下。着地の直前に、ほんの少しだけ翼を動かして勢いを削ぐ。


 前に目を向ける頃には軽トラックもすっかり動かなくなっていた。

 夜の大暴走も、今のでおしまい。


 だけど、奇妙なことがひとつ。


「……無乗車運転?」

「魔法か何かで操っていたのでしょう。……とはいえ、逃げた後でしょうね。おそらく」


 ……何でもありだな、本当に。


 ここから見てもやっぱり運転席には誰もいない。

 途中、道に飛び出したわけでもない。


 絶対悪目立ちするだろ。あれ。

 どこかで乗り捨てたんじゃないだろうな。


「そんなことは後で考えれば済む事でしょう。……それより来ますよ」

「了解……っ」


 あとは、出てきた化け物を纏めて炎で消し飛ばしてやればいい。


 訳も分からず飛び出してきたのは、見慣れた犬型の怪物。

 限りなくそれに近いだけで、別に犬そのものでもなんでもない。


「吹っ飛ばせ――《爆炎》!」


 人を襲うことも厭わない、正真正銘のバケモノだ。


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