番外編 〈僕らの後ろ〉
捻じ曲げた言い方してますが、簡単に言えば過去の話ですね。はい。
深い意味はないです。…浅い意味もないですが。
子供にとって両親の存在は大きい。自分を無条件に愛し、守ってくれる存在。
村で病が流行り両親が死んだ。その時、世界は姿を変えた。
いや、元々そんな風だったのかもしれない。ただ、今まで隠されていた部分が見えるようになっただけで。
守ってくれる存在がいなくなり姉弟は自分達で身を守らなければいけなくなった。自分達以外の他人はみんな敵だと思った。
顔の左半分を隠すような格好をしている隻眼の弟は周りから気味悪がられていた。姉は自分が弟を守らなければいけないと思い、弟は自分が姉を守りたいと思った。
姉七歳、弟六歳。
幼い姉弟は追われるようにして村を出た。病で一番最初に死んだのが姉弟の親だったからだ。病の原因を村人は幼い姉弟に押し付けたのだ。
町や村を転々とする生活を数年続けたある日、次の町か村に向かう途中で二人は森に迷い込んだ。何日も彷徨って、一軒の小さな小屋を見つけた。小屋には一人の醜い老婆が住んでいた。顔の右半分が焼けて爛れ皮膚は引き攣り、服の袖から覗く腕も似たようなものだった。けれど、心根は良く見ず知らずの汚れた姉弟にも優しくしてくれた。
もともとは、どこかの傲慢な金持ちの家で侍女をしていて、身体の怪我はその当時のものらしい。老婆は弟の左目を見ても怖がらず、それどころか二人を住まわせて読み書きまで教えてくれた。
姉の瞳は爽やかに澄んだ空の青をしていて、弟の右目は神秘的な深海の蒼、左目は熟れた葡萄の紫。左右非対称な瞳の色。
オッドアイ。
常人にはないその色を隠すため、弟はいつも顔の左半分を布で覆っていた。
弟は普通の人とは少し違った。道具を使わずに火を熾すことができた。汲んできたばかりの水を瞬時に凍らすことができて、またその逆もできた。姉はそのことが自慢だったけど、それをやることは弟にとってかなりの負担になるらしく、滅多にやれることではなかった。
魔法が悪とされるこの世界で、弟のそれは正しく魔法でそれができる弟は魔法使いだった。世界の理により「死すべき存在」だった。
けれど、姉弟の両親はそれに歯向かい色の違う弟の左目を隠し「魔法」を使うことを禁じた。
老婆の家に住み始めて数年。もともと身体が丈夫な方ではない老婆は吹雪の止まぬ冬に風邪をこじらせ、姉弟の看病も虚しく息を引きとった。
最期に彼女は「誰かに看取ってもらえるなんて幸せだ」と笑って逝った。
吹雪の止んだ晴れた空の下。家の裏の雪を掘り、土を掘り。姉弟は老婆を埋葬した。
服が濡れてしまうこともかまわず、墓の前でなく姉に、弟は言った。
「旅に出よう」
ここにいても何も変わらない。何も分からない。
誰かが何かしてくれるのを待ってるだけじゃダメだ。僕らはもう何もできなかった子供じゃない。自分たちの力で生きていける。それだけのことを彼女は教えてくれた。もちろん、姉さんがそれを望まないのなら強制はしないけど。
尻すぼみになりながらも弟は言ったのだ。
はじめ、不安そうに瞳を揺らしていたがそれでも姉はフルフルと小さく首を横に振ると
「私も行く」
はっきりと言った。
君を一人にはさせられない。私は君の姉だもの。たとえ皆が君を否定しても私は君の傍にいる。ずっと君の味方だから。
そうして、幼かった姉弟は外の世界へ飛び出した。
エクルとルゥカの幼い時の話です。
閲覧ありがとうございました。
どうも、お粗末さまでした。




