二十五話 〈視点・エクル〉
区切る場所が微妙になってしましました。
「どうしよっか?」
しばしの沈黙の後ティティが訊いた。
「そりゃ貰えるもんは貰っておかなきゃなぁ?」
ロドル氏が軽く肩を叩く。
「エクル?」
気遣し気にルゥカが顔を覗く。
「とりあえず、引き出し開けてみよう」
机の反対側に回り込み鍵の付いた引き出しに向けて呪文を唱える。鍵穴に代わりに直接魔方陣が刻まれていたのだ。
中には両手で包み込めるくらいの小さな小箱があった。小箱の中身は
「これは・・・・・・ネックレス?」
銀の鎖に同じく銀で作られた台座。その中心に鎮座するのは、小指の爪ほどの大きさの楕円の形をした乳白色の石だ。
一見質素に見える台座には細かく精緻な装飾が施され、乳白色の石は光の加減で七色に輝いている。
「月長石だ」
「え?」
後ろから覗き込むように見ていたティティがそう呟いた。
「月長石だよ、エクル!ソフィアと同じ宝石だよ」
興奮したようにティティがエクルの肩越しに身を乗り出し、食い入るようにネックレスを見ている。ちょっと怖い。
「でも、ソフィアとは色が違うよ」
同じく後ろにいたルゥカが言う。
「月長石は青と白があんだよ。だからコレもれっきとした月長石だ」
ロドル氏が説明する。
『それも、これは特別な宝石じゃ』
この声はダ・リーリだ。
「特別?」
エクルが復唱する。
『エクル、わたくしの能力を覚えていらっしゃいます?』
ソフィアの能力?何だったけ?
『不干渉』
ポツリとフォーガストが呟く。
「あ!」
「なるほどな」
ルゥカが驚いた声をあげ、ロドル氏が納得する。
「カミルレさんはエクルがちゃんと魔法を使えるようにしてくれたんだね」
不干渉。その能力はその時空の理に干渉されないこと。
変革し、変わってしまったマナが満ちる未来で魔法使いで在れるために。
「いつ現れるか、本当に現れるかも分からない誰かのために・・・・・・」
どうしたらこれほどのことができるのだろう?果たして自分はそれだけのことをされるに足る人だろうか?彼の想いに応えられるだろうか?まだ何も知らない。ほんの少し前まで魔法の使い方すら知らなかった自分に。
不安ばかりが内を占める。幼い頃より染み付いた習性か普段はあまり頼りにならないが、いざという時の決断力が頼りになる姉を見上げた。
不安そうな弟の視線を受け、姉はふわりと微笑んだ。
「やっとここまで来たね。魔法使いとしての第一歩だね。一緒にがんばろ?あ、ダ・リーリに師事してたからこれは二歩目になるのかな?」
「そう、だね」
つられてエクルも笑みを溢す。姉には敵わない。
不安や心配はあるけど、エクルはカミルレの想いに応えたい。小箱からネックレスを取り出し首にかける。
「うん、似合う、似合う」
ルゥカが褒める。
「これでもうソフィアがいなくても魔法が使えるね」
「ずいぶんと手の込んだネックレスだな。よくもこれだけの腕前の匠を探したもんだぜ」
首から下がるネックレスを見ながら感嘆する。
「これほどの腕前の匠でなくちゃ魔宝石はできないんだよ。それも作ってすぐには魔宝石ができたかは分からない。永い歳月をかけてゆっくりと、最高の宝石は魔力を宿し魔宝石と呼ばれる特別な宝石になるんだ。これは賭けだっただろね」
改めてカミルレの想いの強さを知る。
『ねぇティティ』
『これのことじゃないかしら?』
唐突にリーズメルとイヴメルが問いかける。
「え、何が?」
『絶対にそうだわ』
『間違いないわ』
何のことか分からないがリーズメルもイヴメルも確信があるようだ。
『ねぇポーデトルト』
『これのことよね?』
『多分そうだと思うよ。ここに来てからいっそう強く魔力を感じたからね。あるとは分かってたけど。こんな遠くにあるとは思わなかったなぁ』
ハハハ、と笑う。
「うそ・・・・・・。もう他に反応はないの?ねえ、ないの!?」
やっと意味が通じたのかティティが絶望的な声を出す。
『ない、とは言い切れないけどあっても近すぎて分からないよ』
残念だね、とポーデトルト。とても残念そうには聞こえない声音だ。
それはそうと・・・・・・
「おい、何の話してんだ。全然みえねぇぞ」
意図しせずしてロドル氏がエクルの内心を代弁してくれた。
『魔宝石のことじゃよ。ティティの旅の目的じゃ』
膝をつき、残酷な現実に打ちのめされ中のティティに代わりダ・リーリが答えた。
「そういえば魔宝石を探してるって言ってたね」
「だからって、エクルのはあげないんだからね」
言いながらルゥカが両手で×の形をつくる。
『安心せい。それはわしらが探しておる魔宝石とは違う。わしらが求めておるのは意思を宿した特殊な魔宝石じゃ』
ダ・リーリたちのようなってこと?
『それに、その魔宝石はわたくしと同じ能力でしょう?それではいけないのですわ』
能力が被っちゃ駄目ってこと?
『ティティ、そろそろ戻っておいでよ。なかったって分かったらどうせ次に行かなきゃいけないんだから』
フォーガストが慰めているのかどうかいまいち分からない言葉をかける。
「うぅ~、わたしの苦労がぁ~」
『ティティ』
『落ち着いて』
『大丈夫よ』
『今回が初めてでは』
『ないもの』
『次があるわ』
慰めたいのか落ちこませたいのか。
「元気出してティティ。お屋敷の探検再開しよ?まだ行ってないとこたくさんあるよ」
見かねたルゥカが励ます。
「おい、それはいいが一旦町に戻らねぇか?」
「そうだね。町に戻って宿に置いたる荷物持ってこなきゃいけないし」
「エクル、本当にこのお屋敷貰うの?ここで暮らす気?」
ティティの肩に手を添えた状態で顔だけをこちらに向けルゥカが訊ねる。
「貰えるもんは貰っとけ。この屋敷がどこに建ってんのかは知らねぇが、お前にとっちゃぁいい隠れ家だ。それにここには魔法に関しての知識が詰め込まれてるらしいじゃねぇか」
『わしもその意見に賛成じゃな。今の世にはいざという時逃げ込める場所が必要じゃ。それがあれば心に余裕がきる』
ロドル氏の言うこともダ・リーリの言うことも分かるし、理解できる。でも、納得はできない。
こんな立派な屋敷をたまたま魔法使いであったというだけで貰ってもいいのだろうか?
「納得できないって顔してるね。だったらこのお屋敷もまた引き継げばいいんだよ」
いつの間にいか立ち直ったティティが言う。立ち直るのはやいな。
「引き継ぐ?」
エクルが繰り返す。
「そ、エクルはカミルレさんから魔法使いであることを継いだでしょ?それと同じにこのお屋敷も継げばいいんだよ。そしてエクルも次の魔法使いに引き継いで、このお屋敷は魔法使いの住まいとして隠れ家として永く受け継がれていくことになるのでした」
ちゃんちゃん、と手を叩く。上手く話をまとめないでよ・・・・・・。
でもそういうことならいいのかもしれない。
魔法使いとして技を磨き、知を深め、もしもの時の逃げ場として。
いきなり屋敷を手に入れたエクル。
旅の目的がスカだと分かったティティ。いつも当たるわけがないのです。
閲覧ありがとうございました。
2012年、今年最後の投稿となります。
来年もどうぞよろしくお願いします。




