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二十四話  〈視点・エクル〉

庭の探検の次は屋敷の中の探検です。


 最初に見た噴水が正面に、屋敷が左側の位置にある。

「どうやら庭を一周してしてきちまったらしいな」

「お屋敷も広かったけど庭園も広かったね。ずいぶん歩いたんじゃない?」

「うん。計ってたわけじゃないからよく分からないけど、かるく一時間は経ってると思うよ」

「結構かかったね。さて、次はお屋敷の中だね!」

 元気よくティティが言う。が、


「「「ちょっと待った!!」」」


 三人一斉に制止をかけられた。

「ティティ、さっきエクルが言ったこと聞いてた?」

「一時間以上歩いてたのにすぐに次ぎ行くの?」

「何で病み上がりのヤツが一番元気なんだ!?」

 ルゥカが心配そうな、エクルが呆れた、ロドル氏が信じられないといった顔をする。

「ちゃと聞いてたよ!もう、わたしがいつも人の話を聞いてないみたいだよ!」

 失礼しちゃうな、と頬を膨らませる。

 ティティを除く全員が、実際その通りだろ、と思ったが黙っていた。

「それはともかく、だ。気づいたか?」

 ロドル氏が噴水の(ふち)に腰を下ろす。

「ここに生えてる植物のこと?」

 エクルが問い返す。

「そうだ。ガラス張りの建物にあった珍しい物も含めてどれもこれも花が咲く季節、実をつける季節。そういったもんを全部無視してやがる」

「薬草はいつでも摘めるし、果実も好きなときに食べられる。便利だけど違和感があるね」

「ここは一体どうなってんだ?」

 気候は暑くもなく寒くもないくらい。

 春に咲く花の隣で秋に実る果実が重たそうに枝をしならせている。

「ね、そろそろ行こうよー」

 ティティが急かす。

 まるでどこぞの双子みたいだ。



 屋敷に入ると真っ先に書斎を探した。

 ティティ曰く

「何か、そういう雰囲気じゃない?実験室とか私室かなとも思ったけど、やっりそんな雰囲気。あの手紙を読んだ印象からするとね」

 だ、そうだ。

 別の言い方に直せば「勘」だ。曖昧なことこの上ないがすでにペースは彼女のものだ。

 部屋のドアを開けて中を覗いて閉める。その行動を何度か繰り返してちょっと飽きてきた頃にやっと書斎は見つかった。

 正面に大きな机がありその奥には窓。両側の壁には本棚が備え付けられており、ビッシリと書物が詰め込まれている。

 それでも収まりきらない物は床に積み上げられ、今にも雪崩がおきそうだ。

「ねぇ、ここの蔵書ってどれくらいあるの・・・・・・」

「・・・・・・知らない。とうか知りたくない」

 書斎を見つけるまでに本棚と収まりきらない書物で埋め尽くされた部屋を三部屋見つけた。もしかしたらまだ何部屋もあるのかもしれない。

 正面の机の上にも物が溢れ、真ん中のちょうど作業をするだけのスペースが残されているだけだ。

 その狭いスペースに紙が一枚。紙には複雑な魔方陣が描かれ下方にはまた文字が書かれている。 

 エクルは呪文を唱える。 

 魔方陣が光を発し、視界を遮る。光がおさまった後には人がいた。


「うむ。ようやっと来たか。刹那の時にも久遠の時にも感じられた。汝が魔法を操るものか?」

 短い白髪に鋭い目つき。白と黒、二色のモノクロのローブを身に纏い真っ直ぐにエクルを見据えてその人物は問う。

「だ、誰?」

 問い返したのはエクル、ではなくティティだ。

「誰、じゃと?無礼な小娘じゃ。我が名はカミルレ。魔法を操る者ぞ。ん?汝にも魔力を感じるぞ。まさか汝も魔法を操る者か?」

「わー!すごい、すごい!会話ができる。っということはあなたは思念体?」

 シネン、タイ?何だろう?いや、それよりティティ、人の話はちゃんと聞こうよ。それについて君が怒ったのはついさっきだったよね?

「いかにも。今の我は思念体。実体のない意識だけの存在じゃ」

 そして、カミルレさんはそんなティティを気にしないんだね。

「っ!?そこにいるのはもしや我が心の友ではないか!?姿は違えど心の友たる我には分かるぞ!」

「気づくのがおせぇんだよ。相変わらずその仰々(ぎょうぎょう)しい喋り方が好きだな」

 ニヤリと笑い応える。

「そう言う汝もそのぶっきらぼうな話し方は健在じゃな。汝がこの者等と共にいるのはもしや汝がここに導いたのか?」

「おめぇの書いた紙が読めなくて困ってたからな。あれは地図とは呼ばねぇよ」

 その言葉にエクル、ルゥカ、ティティの三人はコクコクと首を縦に振り同意し主張する。あれのおかげでどれだけ苦労したことか・・・・・・。

 その時の苦労が思い出されて思わず目元を拭う。

「何じゃと!あれほどに簡潔()つ分かりやすい地図は無かろうて」

 なぜだろう?カミルレが心なしか得意そうに見えるのは。

「物事の限度と常識を知れ」

 しかしそれをロドル氏がバッサリと切り捨てる。

「なんか、手紙に書かれたまんまの性格だね」

 コソッとティティが小声で言う。

「小娘!聞こえておるぞ」

「あらら」

 悪びれる様子もなくぺロリと舌を出す。

「いかに我が賢明であるか知るがよい。そもそもわ・・・・・・」

「それよりとっとと本題に入れよ」

 カミルレの言葉を遮り呆れ顔で話の軌道を修正する。

「うむ、そうであった。我には時間あまりがないのじゃ。余計なことをさせるでない」

 どうしよう?なぜか全身に疲労を感じる。昨日の出来事がここにきてひびいたのだろうか?


「我の身体から魂が離れてどれほどの時が経ったか知れぬ。我が師は申された。たとえこの身体朽ち、土に還ろうと魔法という一つの技は断たれることはない。私にお前が現れたように、お前にもいつか必ず誰かが現れよう。その時のために怠惰は許されぬ。術を磨け、知を深めよ。(いにしえ)よりの技を引き継ぎ新たなる技を伝えよ。この世が私達を拒絶しようと伝えねばならぬことがある。引き継ぎ、継承せねばならぬことがある。私達は居たのだと。魔法使いは確かに存在したのだと。とな」


 ふぅ、と深く息を吐く。

「この世に満ちているマナが形を変えた」

 魔力の源であり、全ての生き物が無意識のうちに取り込み、生み出すもの。

 かつて魔法が当たり前に使われ、魔法使いが存在した一千年以上前。世界に満ちるマナは魔法使いが魔法を施行するうえでよりよい形をとっていた。

 しかしいつの頃からかマナが変革を始めた。それに比例するように魔法使いの数は減少し世界から魔法が消えた。

 マナは常にヒトの傍にあるもの。

 ヒトの想いが流れ込み、沁み渡り世界に広がればそれは時に世に変動をもたらすこともある。

 時に革命を、時に紛争を時に反逆を。

 マナは世界の意思であり、数多の想いだ。そのマナに魔法は拒絶された。魔力がなければ魔法は使えない。魔法が使えなければ魔法使いとて少し物知りなだけのただのヒト。

 そうして魔法という一つの技は歴史の表舞台から姿を消した。

 ヒトの忘却ははやく、消えたはずの魔法は忘れた頃に時折、表舞台に現れては消え現れては消えを繰り返した。

 忘却の彼方へと消え、魔法の知識を持たぬヒトはそれを恐れ、気味悪がり魔法は「悪」であると定義した。

 自分の知らぬものは恐ろしい。理解できぬのなら消してしまえばいい。

 最後の魔法使いがこの世を去ってからその思想はさらに広く、ヒトの心に深く根を張り濃くマナに沁み渡って世界を染た。

「私は考えた。このままマナの変革が進めばいつか必ず魔法が使えぬ魔法使いが生まれてしまう」

 そして、一千年が経った今一人の魔法使いが現れた。カミルレの懸念は的中し、マナが完全に形を変えてから誕生した魔法使いは魔法が使えなかった。

 無理にでも使おうとすれば危険が伴う。それでは意味がない。魔法を自由自在に扱えてこその魔法使いなのだ。

「私は東奔西走(とうほんせいそう)古今東西(ここんとうざい)のありとあらゆる書物を集め何か打つ手はないかと尽力した。そしてついに見つけたのだ。・・・・・・とある匠の助力のもと完成したそれを汝に贈ろう。この机の鍵の付いた引き出しに入っておる」

 ユラリとカミルレの姿がブレ、向こう側が透けて見えた。

「時間じゃ。この屋敷は汝に譲ろう。魔法に関しての知識を詰め込んだ。ここは外界と隔絶された場所。屋敷の所有者である汝の許可なく何人(なんぴと)たりとも足を踏み入れること叶わぬ。魔法使いとしての術を磨け、知を深めよ。そして次に現れる魔法使いに汝の全てを伝えよ。私たちが居た証を未来に繋ぐのじゃ」

 視線をロドル氏に向ける。

「心の友よ、このようなかたちではあるがまた汝に会えたこと私は嬉しく思うぞ。さらばだ」

 自分の言いたいことだけを言うだけ言ってカミルレは揺らぎ、薄れ、消えた。



一千年前の魔法使いとのご対面!

面倒くさい性格です。



閲覧ありがとうございました。

それでは…。

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