二十三話 〈視点・エクル〉
*前話の二十二話を読み返してどうしても気になったので書き直しました。
内容は変わりませんが、所々文章が増えたり減ったりしています。
気が向いたら、読み直していただけると嬉しいです。
ご迷惑をおかけします。
視点変わりまして、エクルです。
光がおさまり恐る恐る目を開けてみる。
チカチカと点滅する視界が回復するとそこは広い玄関ホールだった。
「・・・・・・・・・・・」
旧領主邸で見たような、正面に階段がある貴族や豪富が好むような造りだ。
きっと階段を上がった二階には屋敷の主の書斎や寝室があるのだろう。
誰もが立ち尽くしたまま呆気に取られて玄関ホールを見回す。
ピカピカに磨かれた床や階段の手すり、瞬く灯りは魔法の光だろうか?
ここにそれを知る者はいないが、壁に飾られているのは故人となってから名を広めた有名な画家の絵画だ。
同じくそこかしこに飾られている芸術作品は今なおその子孫や弟子などが技術を受け継いでいるものばかりだ。
平民目にも分かるほどに豪華で贅の尽くされた屋敷だと分かる。
人間、心の底から驚くと何もできなくなるらしい。
どれくらいの時間そうしていただろう。一番に我にかえったのはロドル氏だった。さすがは年の功、いや魂の功と言うべきか?
「・・・・・・・・・・・・!オイ、オメェらいつまでそうて呆けてる気だ?ここに来た目的を思い出せ」
「・・・・・・何だかもう・・・・・・何て言うんだろ?」
「ある意味次元が違う・・・・・・別世界だよ。これは」
「すごいね~。ここが魔法使いの住処か。宝石とかたくさんありそうだね!」
誰も他人の話など耳に入っていない。
ティティに至っては後半の発言が事情を知らない者にとってはかなりヤバく聞こえる。
「ルゥカ!エクル!ティティ!」
「「「はいぃ!」」」
重低音で名前を呼ばれ、思わず背筋をシャンとのばし返事をする。
「ここに来た目的は?」
「はい!はい!わたしは魔宝石を探しに来たの!」
挙手して元気よくティティが答える。
「私たちは・・・・・・」
「・・・・・・何だろう?」
あの地図の場所へ辿り着くことに一生懸命でその後のことは全然考えていなかった。
こんなにも魔法使いに近づいたのは初めてでそれ以外のことは頭になかったと言ってもいいくらいだ。
逆に考えればあの時、地図の場所を見つけて呪文を唱えた時点で目的は達成したことにもなる。
「なら、このお屋敷を探検しよう!一千年以上も前の建物なのに朽ちた箇所が一つもないし、ここへ来るのにわざわざ転移の魔法を使って来た。直接来ればいいのに・・・・・・それをしなかった。もしくは、できなかった」
考え込んでしまった二人にティティが提案する。
「言われてみればおかしいよね?」
「うん、てっきりあの地図の場所に何かあるのかと思った」
「決まりだな。ホントに回りくどいことが好きだな。アイツは」
賛成多数により探検決定。
「よし、手始めに・・・・・・お屋敷の外を探検だー!」
クルリと向きをかえると大きな扉へ駆け出す。
力を込めて取っ手を引くと、ギギギと思い音がして扉が開く。
真っ直ぐにのびた白い石畳が続き、両側にはきれいに刈り込まれた芝生が生えている。
正面には大きな噴水があり、降り注ぐ陽光を反射してキラキラと輝いている。
順序よく並ぶ植木はつい先日剪定したばかりのように整っていて、実のなる木はどれもたわわに実っており枝がしなっている。
ティティの後について噴水の手前で左に曲がる。
『『うふふ』』
『すてきね』
『きれいだわ』
『ここは』
『マナが溢れてる』
芝生の上で、手をつなぎくるくると回りはしゃぐリーズメルとイヴメルの姿が現れた。
「っ!?」
「どうかしたの?」
「何かあったか?あ、この声か?」
ルゥカとロドル氏が心配してくれた。
「リーズメルとイヴメルがそこに・・・・・・」
はしゃぐ双子を指差す。
「今いるの?」
「んん?どこだ?」
視線を彷徨わせるもやはりルゥカには見えず、どうやらロドル氏にも見えないらしい。
『ふむ、どうやらそなたにはわし等は見えぬらしい。良いのはルゥカと同じ聴力のみののようじゃな』
今度はティティの隣にダ・リーリが現れた。
白い髭を梳きながら納得したような顔をしている。
「ティティ、びっくりするからいきなりダ・リーリたち具現するの止めようよ」
ただし驚くのは若干一名。エクルだけ。
ペロリといたずらっ子のように舌を出して具現化を解く。
「リーズメルとイヴメルが楽しそうだったから、つい」
「つい、って・・・・・・」
そんな簡単にできてしまうものなのかと感心するやら呆れるやら。
「あ、ほら何か建物があるよ」
大きなガラス張りの建物が建っている。
「あれ、暖かい?」
中は外より幾分か温度が高いようだ。
「これ何て花だろ?すごく毒々しい色してるね」
赤と青の斑模様の花を見てティティが誰にともなく訊ねる。
建物の中には実に様々な植物が植わっている。
「おい、これはラズリカじゃねぇか?こっちはトモエだ」
ロドル氏が限りなく青に近い緑色の葉をした背の高い植物とクルクルと螺旋状に伸びる蔓をした植物を前に少々興奮気味に言う。
「初めて見る植物ばかりだね。珍しいの?」
「珍しいってどころじゃねぇぞ、ルゥカ。これはもう絶滅して世界のどこを探しても見つからねぇもんだ。これだけじゃねぇ。ここにある大半の植物が絶滅か採りに行きたくても行けない場所にあったり育てるのが難しいものだ。よくもこれだけ集めたものだと感心するぜ」
「誰も世話をする人がいないのに今も枯れずにいるのも魔法のおかげなのかな?」
どこにもそれらしきものは見当たらないが、植物の方は幾つかエクルでも見たことがあるものがある。まぁ、書物の挿絵だったが。
確かにロドル氏の言ったとおり入手困難なものばかりだったはずだ。
ガラス張りの建物を後にしてさらに進むとあづま屋があった。
計算されたように柱に巻きつく蔦は瑞々しく淡い紫の花が葡萄のように垂れ下がっている。あれは確か遠く東の国の植物だったような?
それを横切り、庭園の景色を楽しみながらしばらく行くと、とうとう端にたどり着いた。
「すごいよ。ここに見えない壁がある。この外はどうなっているんだろ?」
ティティが何もない所に手をついて向こう側を覗こうとする。
「壁の向こうは真っ白で何も見えない。このお屋敷って実はすごく変な所に建ってたりしないよね?」
不安気なルゥカ。
「アイツの性格を考えるとそれは否定できねぇね。ん?おい、ここ見てみろ」
「文字が刻まれてる。これで周りを囲って庭と外界を区切ってるんだ」
庭園の形をなぞるように長く長く文字が刻まれている。エクルが使う魔法と同じ文字だ。
「どこかの時空に繋がってる、わけではないよね?」
『どうかしら?』
『違うと思うけれど』
『外界と』
『隔離』
『されているのは』
『間違いないわ』
「これの向こう側へはいけない?」
コツコツとエクルが見えない壁を叩く。
『行けない』
『ことはないけれど』
『圧死する』
『かもしれないわ』
「圧死!?」
いきなり物騒な言葉が出てきた。
『えぇ、だって』
『この向こうに』
『何があるのか』
『分からない』
『のだもの』
『閉じた空間に』
『翔んでしまったら』
『圧死でしょ?』
怖い、怖すぎる。あの魔法はそんな危険性を持ち合わせていたのか。
「待って。じゃあ、私たちそんな危険を冒してここまで来たってこと!?」
たった今エクルが思ったことをルゥカが口にする。
『そうでも』
『ないのよ』
「どういう意味だ?」
『玄関ホールに魔法陣があったじゃろ?あれは水車小屋にある魔方陣と繋がっておる。あそこから翔べば強制的に玄関ホールの魔方陣に着く仕掛けになっておるのじゃ』
「そうなんだ。あーよかった」
ルゥカがホッと胸をなでおろす。
『ねぇ』
『次に』
『行きましょ?』
『ここにいても』
『どうせ外は』
『見られないわよ』
「・・・・・・飽きたんだね」
ティティがズバリと指摘する。
『だって』
『白い』
『だけ』
『なんだもの』
可愛らしく拗ねたように言い訳する。
否定しないところを見ると、どうやらティティの指摘は図星らしい。
「じゃあ、ご要望どおり先に進もうか」
見えない壁伝いに歩き出す。
庭園には様々な物があり飽きることがない。
地面が隆起した所には小石がたくさん落ちていた。これはストーンサークルといって石は落ちているのではなく意図的に並べてあるのだとダ・リーリが教えてくれた。
魔術的な物で異種族との交流や呪術などに使うそうだ。
この屋敷の主が後者の用途目的でこのストーンサークルを作ったわけではないことを願いたい。
小石でできたストーンサークルより少し離れた所には岩でストーンサークルが造られていた。
直方体に近いいくつもの岩が、こちらは分かりやすく円の形に並べられている。
「すごい、大きいね。こんな岩どこにあったんだろ?」
ティティがそんな感想を漏らす。
その先にある雑木林を抜けまた歩いていくといつの間にか途切れていた石畳が現れ、水の流れる音が聞こえてきた。遠目に見えていた屋敷が近くなる。
とうとうやって来ました!魔法使いの棲家。
あずま屋は藤棚を想像していただければいいです。
閲覧ありがとうございました。
作中の植物は想像上の物です。




