二十一話 〈視点・ルゥカ〉
久方ぶりのルゥカ視点です。
(主に鼎の)復習も兼ねておさらいをば…。
地図の場所探しは相変わらず難航し、気分転換がてら旧領主邸へロドル氏を驚かせに行くことになった。・・・・・・いつの間にか。ルゥカが気付いた時にはそうなっていた。なぜ?
それはさておき、旧領主邸で驚かせようと思っていたロドル氏には先に見つかり逆に驚かされ我らの偉大なる企みは失敗に終わった。計画したのはルゥカではないけど。
世間話をしながらいつもの店へ向かう途中でいづぞやの盗賊に遭遇した。彼ら曰く「魔法使い」であり「悪」であり「化け物」であるティティを追ってきたらしい。
確かにティティは「魔法使い」ではあるようだけど、全くもって「悪」ではないし、ましてや「化け物」でもない。そんなティティをあの正教会に連れて行くなんて冗談じゃない。お金に目がくらんだ彼らはついでにルゥカを含む三人も魔法使いであると偽って――エクルは本当に魔法使いだけどそれとこれは話が別――連れて行くと言う。ホントに冗談じゃない。
突然切り込んできた頭の攻撃と手下の攻撃をティティが紙一重でかわす。そのようすに気をとられて自分に迫る刃に気付くのが少し遅れた。何とかかわして自分のダガーを抜き応戦の体勢をとる。
やはり経験はむこうの方が断然上でルゥカは防戦一方だ。巻き込んでおいて失礼だが、期せずしてロドル氏が強かったのは助かった。ルゥカもエクルもとてもじゃないが誰かを助けに行ける余裕がない。自分のことで手一杯だ。
そのロドル氏に刃が迫る。迫り来る刃は割って入ったティティの腹部に刺さり重傷を負わせた。
エクルが魔法を使いルゥカの前の手下と自分が応戦していた手下を気絶させ、残りの盗賊もすべて失神させた。
その間にルゥカはティティに駆け寄った。
こんなにたくさんの血を初めて見た。とにかく止血をしなければと患部を抑えるが血はいっこうに止まらない。
自分の無力さを思い知った。自分には何もできないのかと、傷ついた友達を前に憤る。
その時だ。ダ・リーリの声が聴こえたのは。続けてリーズメルとイヴメルの声が聴こえ、ジュッという音と人の肉が焼ける嫌な臭いがした。
何が起きたかを理解する前にリーズメルとイヴメルに言われ刺さったままのナイフを抜いた。
赤い飛沫が舞ったのは一瞬のことですぐにまたジュッという音と嫌な臭いがした。リーズメルとイヴメルが傷口を焼いて止血したのだと理解した。
傷口は塞がった。でもティティはもう限界だ。どうすればいいのか混乱が頂点に達しようとした時、耳を疑うようなダ・リーリの言葉がルゥカの理性を引き止めた。
『ティティ、聞こえとるな。リーズメルとイヴメルが患部を焼いて止血した。歌えるな?』
安心させるようなセリフを言ったすぐ後だった。
「ちょっ!こんな時に何言ってるの!?こんな状態で歌えるわけないし、歌ってる場合じゃないでしょっ!?」
こんな状態の人間に歌わせるなんてどうかしている。第一こんな状態のティティにそんな体力があるわけがない。
さらに抗議しようとしたら言い争っている時間も惜しいと止められた。それを言われたら黙るしかない。所詮私にできることなんて何もないのだから。
しかし、驚くことにティティは歌を一曲歌い上げた。その後は硬く瞼を閉じ眠ってしまったが、直視することもできない傷口は塞がれ、唇には赤みが戻り顔色もよくなっている。
これがティティの魔法らしい。歌で治療する魔法。ティティの生まれた時空の魔法。
「おい、いつまでこんな所に寝かせとく気だ?いくら傷口が塞がってもこれじゃ良くなるもんも良くならねぇよ」
呆けて黙ってしまった私達。
最初に我に返ったのはロドル氏だった。これが年の功というやつか?
ロドル氏がティティを抱き上げる。
「え?あ、うん」
「そうだ、よね」
驚きすぎてそこまで気が回らない二人は曖昧に返事をする。
『待つのじゃ。こやつ等をこのまま野放しにしておくには危険すぎる』
歩き出そうとしたロドル氏の足が止まる。
「誰だ?さっきからわざわざ年寄りくさい話方するのは」
『ふむ・・・・・・』
「え?ロドルさん聴こえるの?」
ロドル氏にもダ・リーリの声が聴こえてる・・・・・・?
「は?何がだ?」
「姉さんそれは後にして。ダ・リーリ、そんなこと言ったって何ができるの?」
エクルに怒られてしまった。でも、エクルの言うことも一理ある。
けれど、そんなこと言ったって私達に何ができるの?自警団に連れて行って、もし彼らが魔法のことを話して自警団がそれを信じたら?
たとえどんなに低い可能性でも危険は冒したくない。逆に自分たちの首を絞めることになる。
そう、私は無力だ。
ダ・リーリがフォーガストの名を呼ぶ。ルゥカの中では魔宝石の中で彼が一番の常識持ちだ。
そんなフォーガストとダ・リーリの会話。何が始まるのだろう?二人の会話だけでは予想できない。
「誰か他にいるのか?」
ロドル氏が不審気に目を細める。
「話せば長くなるから簡単に言う。・・・・・・後で説明するから」
その返事はどうかと思うの・・・・・・でも、これでロドル氏からは逃げられない。これだけ見せてしまったのだ。今さら秘密も何もないし。でも。
フォーガストの能力は“記憶”らしい。
『脅すつもりはないがの。ほれ、覚えておるか?半月前、あの小屋でそなたらがわしらの存在を知ったあの時。フォーガストとティティが言った言葉を』
何と言ったのか思い出せなくてエクルの顔見ると、どうやら弟も同じらしい。肩をすくめて首を傾げた。
『いざとなったら自分が責任を取る、と言ったのじゃよ』
ルゥカたちの反応から察してくれたようでそう言った。
「それって、もしかしていざという時は僕らの記憶も消すつもりだったってこと?」
『安心せい。今はそんなつもりはありはせんよ・・・・・・さて、フォーガストそろそろかの?あまり時間はないでな』
『うん、いいよ。急ごうか』
記憶の消去に改竄。それは、他人の思い出を本人に知られる事なくいじくれるということだ。
特に何をやったようには見えなかったがルゥカたちが話している間に終わったようだった。
ロドル氏がティティを抱えて歩きだす。
「ロドルさん、行き先は?どこかいいトコあるの?」
その後を追う形でルゥカが訊ねる。
「心当たりがある。滅多なことじゃ人が来ねぇ場所だ」
足運びに迷いはない。
ロドル氏の横をルゥカは歩いている。時折不安になりチラチラと視線を寄越すのはロドル氏に抱えられて眠っているティティだ。
(よかった。さっきよりも顔色がまたよくなってる)
ホッと気を吐く。
ロドル氏は決して悪い人ではないと思う。短い付き合いではあるがルゥカはそう思う。ならば信頼はできるのか?と問われたらルゥカ悩む。弟の命がかかっているのだ。絶対に姉が守らなくてはいけない。
魔法は「悪」なのだ。そして魔法使いは「化け物」だ。存在することすら許されない。
エクルを傷つけることは許さない。殺すことはもっと許さない。たとえそれが国民の『義務』であったとしても・・・・・・ルゥカには許すことはできない。
迷うことなくロドル氏が向かったのは旧領主邸だった。
どこから出したのか鍵をエクルにわたし、それを鍵穴に差し込み捻る。全員が扉を通った後、再び鍵を掛けロドル氏の先導で歩く。
たどり着いたのは夕方ティティがロドル氏にアレは何かと訊いた水車のついた物置小屋だった。
ここの扉に付いていた錠前もロドル氏が持っていた鍵で難なく開いた。
何で!?これって気にしたら負けなのかな?別に勝負をしているわけではないのだけど・・・・・・。
「それとこれをあっちに持って行ってくれ・・・・・・それと、そこにかけてある布も頼む」
ロドル氏の指示に従い木箱を二つ並べて、その上に畳んで厚みをもたせた布を敷き即席のベッドを作る。
そこへロドル氏がそっとティティを下ろす。
「うぅ・・・・・・」
横たえられたティティが呻き、うっすらと目を開けた。だいぶ顔色はよくなっているけど、やっぱりまだ辛いんだ。瀕死の、いや、死んでいてもおかしくないケガを負ったのだから当然だよ。
「ティティっ!」
エクルとルゥカが覗き込むように身を乗りだす。
「ここ・・・・・・どこ?」
「旧領主邸の物置小屋だよ」
「ほら、水車のある。ティティがロドルさんに訊いてた」
ルゥカとエクルが交互に答える。
「旧、領主邸?水車・・・・・・ロドルさん?・・・・・・ごめ・・・・・・迷惑かけ・・・・・・」
今の状況を思い出したからか、掠れた声で謝る。
「ううん、ティティは悪くないから」
涙ぐんだ目でルゥカが慰める。一番辛いのはティティなのに。
「ティティはまず少しでもはやく元気になることを考えて」
「二人の言うとおりだ。もう一眠りしておけ」
『そうじゃな。一曲歌ってから眠りにつくとよい』
口々にそう言われて小さく頷く。
そうして、また聞いたことのない言葉で歌を歌い眠りにつく。
間もなくしてティティの寝息が聞こえ始めた。
「さて、後で説明すると言ったな若人。姿が視えねぇからって逃げられると思うなよ」
ついにこの瞬間が来た。
「エクル、お前のことについても知りてぇな」
ドキリと心臓が跳ねる。化け物、と頭がティティに言っていた姿が脳裏をよぎる。
「心配するな。別にどうこうするつもりはねぇよ。ただお前らが何者なのか知りてぇだけだ」
知ってどうするの?つい懐疑心のこもった目で見つめてしまうのは仕方のないことだと思う。
「俺はな~、とある人物を待ってるんだ。それはもう、気の遠くなるくらい永くな」
ルゥカの心を知ってか知らずか、ロドル氏はとつとつと語りだす。
「古い友人に頼まれてな。自分もう永くない、だから俺にもしその人物が現れたら自分の代わりに導いてやってくれって頼まれたんだよ。気難しいヤツでな。変わった話し方をするヤツなんだが当時俺の知り合いはもうヤツしかいなかった。ヤツにとっても頼めるのなんて俺くらいしかいなかったんだよ」
目を細めて遠くを見る。
「でも、それと僕らが何者なのかとは関係ないんじゃ?」
「全く、というわけじゃねぇと思ってる。が、まあ俺個人が興味あるって言うのも理由の一つだな。それに類は友を呼ぶって言うだろ?もしヤツの言う待ち人なら必ずこの町に引き寄せられると本人が断言していたからな」
ティティが寝返りをうって肩から落ちた布をロドルさんがかけ直してやる。
「それで、お前らは一体何者なんだ?」
再度その質問をぶつけてくる。
どうしたってその質問からは逃げられない。ロドル氏の古い友人と言う人がどんな人でどんなことを頼んだのかは分からないけど、ルゥカはロドル氏を信じたい。
エクルに害を加えるなら許さないというのは変わらないけど。
チラリと横を見れば覚悟を決めた弟の顔。大丈夫。何があっても私はあなたの味方だよ。
「すでに予想はついていると思うけど僕は魔法使いだ。ティティもそう。でも姉さんは違う。姉さんは普通の人だよ」
言った。
「僕は魔法を使えるけど姉さんは使えない。町を歩いている人たちと同じだよ」
「確かに魔法は私たちの想像を遥かに超えている力だけど、それでもそれは使う人の気持ちで変わる。魔法を悪だと決めつけないで」
エクルに続きルゥカも言葉を重ねる。
怖い、怖い、怖い。
「おめぇら確か、何か探してるって言ってたな?」
唐突にロドルさんが脈絡のない質問をする。
何?いきなり。どんな話の流れ?
「探している物ってのは本当にこの町にあるのか?在処を記した、地図とか持ってたりしねぇか?」
戸惑う二人を気にせず重ねて質問する。
「地図は一応持ってる・・・・・・」
地図・・・・・・地図、地図なのかなぁ?あれ。
「その地図ってのはゴードからから一週間歩いた距離にある森の小屋で見つけたものじゃねぇか?」
「「っ!?」」
何でそれを?
ロドル氏がどこでもない、遠くを見つめる。
あの小屋は魔法で隠されていたはず。どうしてロドル氏が小屋の存在を知っているの?
「待ってたぜ。エクル、いや次代の魔法使い殿」
ロドル氏はエクルを見てニヤリと笑う。
「待ってた?ロドルさんが僕を?」
何で?どうして?どうなってるの?
ルゥカはひどく混乱した。
そう言えば、そんな事もありましたよね(遠い目)
閲覧ありがとうございました。
切る場所に悩みました。で、ここで切りました。




