二十話 <視点・エクル>
ティティ「みんな、おはよう」
東雲 = 夜が明けようとして東の空が明るくなってきたころ。あけがた。(goo辞書より抜粋)
「うーん、それはちょっと違うかも。事態の認識に相違があるよ・・・・・・おはよう」
グッと身体をのばしながら欠伸をかみ殺してティティが言った。
「え、ティティ?もう起きて平気なの?」
「いつ起きた?いや、起きてた?あんな大ケガしたんだから、もっとゆっくり休んで」
「ほぅ、魔法ってのはやっぱりすげぇな」
三人が三様の反応をする。
「・・・・・・ん?おはよう?」
ふと気づいてルゥカが首を傾げる。
「何かおかしかった?もう朝だよ」
言われて、小屋にある窓の外を見てみれば清々しい東雲の空が広がっている。
「その顔は・・・・・・みんな寝てないね?目の下に隈ができてるよ」
指で自分の目元をなぞり、にこやかに笑うがやはりどこか陰りがある。一晩寝ただけでは体力の回復はできないらしい。
「ティティ、ケガは平気なの?疲れてない?」
心配そうにルゥカが尋ねる。
「ちょっと怠いけど大丈夫だよ。これくらい余裕。それよりも迷惑かけてごめんなさい。そして、ありがとう。助けてくれたエクルにもケガの手当てを手伝ってくれたルゥカにも。巻き込んじゃっただけなのにこんないい隠れ家に案内してくれたロドルさんにも。ホントありがとうございました」
姿勢を正し、ティティが頭を下げる。
「いくらあの程度じゃ死なないとはいえ痛いものは痛いからね」
「ティティ、あれはかなり危なかったよ。危うく死ぬところだったからね」
肩に手を置き本当の姉のようにルゥカが諭す。
「死なないよ。あれくらいじゃ、ね」
「どうして?あれは絶対に危なかった。誰が見てもそうだよ。ねっ?」
エクルとロドル氏に同意を求め、それに二人は頷いて肯定の意を示す。
『それは私が共に在るからですよ』
穏やかな淑女の声がした。マチルダだ。
『私の能力は“不老”そして“不死”・・・・・・。大人になることもできず、いくら辛い思いをしても死ぬことのできない。多くの者が望み、多くの者が忌み嫌うもの。それが私です』
マチルダの声に自己嫌悪はない。あるのはただ憂いと哀しさだけだ。
「不老不死・・・・・・」
知らない言葉ではない。魔法使いについて調べていると自然とよく目につく。
しかし、魔法使いは長寿ではあるが不死ではない。現に、魔法使いはすでに死に絶え一千年の永い時を経てやっと一人の魔法使いが現れた。
「そんなマチルダのおかげでわたしは何度助けられたか」
首を振ってため息をつく。仕方ない、とでも言いたげだ。普通に世間話をしているふうである。何だか軽い。
「ところで、この後どうするの?いつまでもここでお世話になるわけにはいかないし、宿に戻る?」
さ、この話はもう終わり、と言うように話題をかえる。
「ううん、すぐにでも地図の場所へ行こう!」
「え?地図の場所が分かったの!?」
行く気満々のルゥカの言葉にティティが驚く。
エクルがこれまでの話を説明すると案の定
「よし、すぐにでも行こうか!」
なんて言い出した。
「ちょっと待った!」
「ちょっと待て」
エクルとロドル氏が制止をかける。
「病み上がりの人が何言ってるの!」
「そうだ。ルゥカだって昨日から一睡もしてねぇだろ。無茶言うなや」
「うっ・・・・・・そうだけど・・・・・・」
地図の場所に着くまでどれだ歩くのか分からないのだ。
ロドル氏がいてくれた良かった。エクル一人ではこの二人を止めるのは至難の業だ。
「そんなこと言って、実はエクルもロドルさんも気になってるんじゃないの?行こうよ、ねっ?」
ねっ?とか言われても・・・・・・。
ロドル氏がチラリとエクルを見て何か訴えてきた。何だろう?
「ティティ、年よりに無理させるなや」
「・・・・・・!そうだよ。僕も何だか疲れたし」
話を合わせてティティを止めようとする。
「疲れてるの?なら任せて!」
パッと顔を輝かせたかと思うと突然にティティが歌いだした。
遠く旅路をゆく者に祝福の歌を贈りましょう
長い旅路をゆく者に祈りの歌を贈りましょう
新たな一歩を踏み出した貴方を主はきっと祝福するでしょう
まだ何も知らぬ貴方を主はどんな時でも見守っているでしょう
貴方の旅は始まったばかり
遠く旅路をゆく者に祝福の歌を贈りましょう
長い旅路をゆく者に祈りの歌を贈りましょう
ゆっくりと歩き始めた貴方を主は啓蒙するでしょう
恐れや不安に立ち向かえる貴方を主は信じているでしょう
貴方の旅はまだ半ば
道は険しく壁は高いけれどきっと貴方は立ち止まらない
幾度の嘆きや苦境を乗り越えるたびにきっと貴方は優しくなる
遠く旅路をゆく者に祝福の歌を贈りましょう
長い旅路をゆく者に祈りの歌を贈りましょう
多くのものを見、知った貴方を主は待っているでしょう
遥かな道のりを経、疲れ果てた貴方を主はきっと受け入れるでしょう
貴方の旅ももう終焉
誰も口を挟む間もなく「よし、どう?」と訊くティティの声に我にかえる。
ティティの魔法の歌だ。ついさっきそのことを教えてもらったばかりなのに失念していた。その手があった・・・・・・。
「すごい!身体が軽い」
「ぐっすり寝て起きた後みてぇだな」
「疲れもとれてる。これがティティの魔法」
「良かった。これで大丈夫だね」
にっこり。
「はぁぁーー。もう一回地図、見せてみろ」
観念したのか特大のため息をついてロドル氏が手を差し出す。
再度エクルがガザゴソと荷物をさばくり中から地図を取り出し手渡す。
「ふっ・・・・・・じゃ、行くぜ?」
無意識に緊張していたのかその言葉を聞いてつてた息を吐く。
「それでどこなの?近い?遠い?」
待ちきれないのかティティが矢継ぎ早に質問する。
「お前さんの顔がちけぇよ」
「あ、つい」
「だがそれと同じくらいちけぇよ。・・・・・・ここだからな」
「「「は?」」」
「だから、この小屋がこの地図に描かれた場所だ。まだゴードが町と呼べるほど広くなかった頃に描かれたものだからな。当時の家が建っていたのは旧領主邸の辺りだけだって前に話しただろ?」
ロドル氏に言う昔が一千年以上も前のことだったなんて・・・・・・。
「昔は両側にも建物があったんだが時代の流れと共に壊されてなくなっちまった。この小屋が残ってたのは小屋の主と領主が知己の仲だったからだ」
そのおかげで今日まで残っていたのか。
「それなら、ここで呪文を唱えればいいんだね」
「そうと分かれば早速唱えてみよう!さ、エクル」
さ、とか言われても・・・・・・。何だかノリが変ですよ。
全員の視線が集まる。
「そんなに見られると緊張するんだけど」
「大丈夫、大丈夫!気にしない、気にしない!」
ティティ、そういう問題じゃないからね。
でも、それは別としても緊張する。この呪文を唱えると何が起きるんだろう?
意を決して記された呪文を唱える。
「 Τ Ρ Α Ν ∑ Φ Ε Ρ Ρ Δ」
瞬間、今までに何度か見たあの光の線が走る。
円を描き、置いてあった木箱や工具、壊れた清掃具を透過して魔法施行の証明となる魔方陣が浮かび上がる。
複雑な魔方陣が完成する頃には小屋の中は光が溢れ、とても目を開けていられなくなった四人は反射的に目を閉じる。
それでもなお眩しい、白い世界でふわりと浮遊感を感じたのは刹那の時間で次の瞬間にはしっかりと足が地についていた。
啓蒙 = 人々に正しい知識を与え、合理的な考え方をするように教え導くこと。(goo辞書より抜粋)
「人物紹介」を更新しました。
閲覧ありがとうございました。
エクルの呪文が読みにくいかと思いますが、ルビを振るとどうしてもああなってしまいます。ご了承ください。




