十五話 <視点・エクル>
【注】今回、不快な表現を含む文章があります。
苦手な方はお戻りください。近々血も流れます。
魔法使いの隠し部屋でとうとう自分の「魔法」を見つけたときはゾクゾクした。とうとう魔法を見つけた。けれど、その肝心の呪文が読めない。そのままを告げるとダ・リーリが自ら教鞭を執ると申し出てくれた。さらに、呪文だけでなく魔法のことについても教えてくれるとまで言ってくれた。
目的地のゴードの町に着くまでに生まれて初めて魔法についての専門的なことを教わった。どれも初めてのことばかりで緊張したが同時に楽しくもあった。
初めて自分で呪文を唱え魔法を使ったときは人知れず感動した。これが魔法なのだと、これが一千年の時を経て甦った魔法なのだと。
ゴードの町に着いて、地図の場所探しは難航し、一向に進まない。
町は相も変わらず人が絶えず行き交い、あちこちの店先で店主と客が値段交渉をする姿が見られる。 普段と変わらぬゴードの日常風景だ。
「全くもって事態は進展しないね」
カラカラと開き直ったティティが笑う。
「ゴードに来てから、えっと・・・・・・」
「イヤー!止めてー。数えないで!」
指を折り日数を数えだすエクルを悲痛な叫びを上げながらルゥカが止める。
「少なくとも半月はいるよね」
「毎日あちこち歩き回るから町には詳しくなったけど」
「そんな残酷な現実に向き合うなんて私にはムリ!」
両手で顔を覆い現実を否定し始める。
「元気出してルゥカ。半月もいるけど飽きるにはまだ早いよ。ゴードは半月で飽きるほど狭くないから大丈夫」
何がどう大丈夫なのか・・・・・・。
別に飽きたから嘆いているわけではない。とうかそれは何のフォローなってないし、元気が出るどころか逆に気が萎える。
ティティは時折、物事の斜め横を突いてくる。
今日は雨天のため三人とも宿にいる。連日町に繰り出していたから今日くらいは休もうという話になったのだが、じっと部屋にこもっているとルゥカほどではないけど消極的な気持ちになってくる。
ここまで来たのに地図の場所が分からずに終わってしまうのではないか。ある日突然正教会が押しかけてくるんじゃないか、等々。考え出せばきりがない。
「そんな暗い顔してたら幸せが逃げてくよ。そうだ!明日気晴らしにロドルさんに会いに旧領主邸に行こうよ」
今晩には雨は上がるみたいだからそれもありだ。
あれから何回か旧領主邸にも行ったのだが時機時が悪くてロドル氏には会えなかった。夕方にいつもの店に行けば会えるのだが、突然行ってロドル氏を驚かせたかったのだ。この前のお返しも兼ねて。だが、一度も成功したことはない。
「どうせ行くなら、ロドルさんが仕事終わる時間にしようか」
「え、何で?」
「その時間に出入口の所で張ってれば会える確率が高いから。それとそのまま店まで一緒に行けるから」
「なるほど!エクル頭いい」
パチンとティティが指を鳴らす。
「ほら、姉さん元気出して。明日また旧領主邸にロドルさんに会いに行こう?」
「旧領主邸?」
ベッドに突っ伏していたルゥカがやおら顔を上げる。
「そうそう。えーと・・・・・・ロドルさんが昔は家が建ってたのは旧領主邸の辺りだけだったって言ってたし」
もう一度よくよく探してみれば何か見つかるかもよ、とにっこり笑って見せる。
「ティティの言う通りだよ。気分転換も兼ねてロドルさんに会いに行こう・・・・・・よし、行こう」
姉の返答を待たずに決めてしまう。問題ない。姉はこのくらいのことは気にしない。
ロドル氏を驚かせるべく三人は旧領主邸を訪れた。
仕事終わりまではまだ少し時間がある。ならばと旧領主邸を再度探索するという名目の元ロドル氏を探し始めた。
前に来たときと変わりない素敵な庭園だ。どこも怪しい所は見当たらない。
「やっぱり何もないね」
「地図に似た所もないよ」
ルゥカとエクルが揃って肩を落とす。
庭園を一回りしてとボトボト歩く背中に声がかかったのはそんな時だった。
「おい、ルゥカ?エクル?それとティティじゃねぇか?」
聞き覚えのあるぶっきらぼうな喋り方はまさしく・・・・・・
「あ、ロドルさん!」
声に振り返ってティティが手を振る。
「驚いたな、どうした。こんな時間に来るたぁ珍しいじゃねぇか。もう閉まる時間だぜ」
驚いたと言うわりには余裕のある人だ。
「今日はね、ロドルさんを驚かせようと思って」
「あまり驚いてもらえなかったみたいだけど」
先に見つかっちゃたし、とエクルが苦笑する。
「いや、ちゃんと驚いたぜ?ちょっとばかし顔に出なかっただけだ」
口角を上げてニヤリと笑う。
「ちょっとっていつもと同じ顔だったじゃない」
「反応が薄い・・・・・・」
沈んでいた気分が少し浮上した。
ロドル氏は場の空気を作るのが巧い。
「ねえ、ロドルさん。あの建物なに?」
一人視線を別の方向に向けていたティティが注意を引くようにロドル氏の袖をクイッと引っ張る。
「ん?あーアレか。アレはな、ただの物置だ」
庭園にある噴水から枝分かれした細い小川の横に佇む水車つきのちょっといい感じの建物だ。
「まぁ、昔は民家として使われていたんだがな。劣化が進んだ今じゃ危なくて誰も近づかねぇんだよ」
「昔って、前にロドルさんが行ってたまだ村だった頃のこと?」
「あぁ、そうだ。その頃の物がまだ残ってんだ。領主殿とそこの家の主とが知己の仲だったからな」
遠い空に一番星が瞬いた。
「すごい!ロドルさん何でも知ってるんだね」
「あ、あぁ。ゴードの事に関しては俺の右に出るヤツはいねぇよ」
「すごい、すごい!あ、でも左に出る人はいるんだ?」
ティティは歓声を上げた後に気がついようにボソッとそう付け足した。
「いや、それは違うと思う」
「どう違うの?右にはいないけど左にはいるんでしょ?」
すでにその解釈自体が違う。どう説明すべきかエクルが悩んでいるとティティがスッと手を上げた。
停止の合図だ。知らずエクルとルゥカの身体が強張り手は無意識に腰へと伸びる。
「「「っ!?」」」
旧領主邸を出て町の中心に向かって歩いている最中だった。
旧領主邸の辺りは暗くなると人通りが減る。日中こそ観光客で賑わっていが日が暮れれば観光客は宿に戻るし別荘の住人たちもあまり外は歩かない。
行き交う人の顔が見えなくなる黄昏時。
「気づいた?囲まれてる」
ティティの囁きがいやに大きく聞こえた。
あちらも気づかれたと分かったのか、ゆらりと建物の影から出てくる。
前の角から二人、左の塀かの上から一人が飛び降りて来て後ろからつけていた二人の内一人が素早く 左側に回り込みあっという間に五人が現れた。
「よう、やっと見つけたぜ。化け物」
張りつめた空気の中最初に口を開いたのは正面に立つ二人の片方だ。
囲んでいる五人の輪が狭まり顔が見える。
「あ、森で会った酷い人たち!」
ティティがなんの遠慮も躊躇もなく指差す。人を指差してはいけません。
彼らはパロの町の近くにある森で出くわした盗賊だった。
「何でこんな所にいるの?」
「何で?愚問だな。追ってきたんだよ。お前らを」
嘲笑うように頭が鼻を鳴らす。
「おい、あいつらお前らの知り合いか?」
ティティと盗賊の頭が会話している声に隠れてロドル氏が小声で訊ねてきた。
「知ってると言えば知ってるかも」
「姉さん・・・・・・。パロの町の近くの森であいつらに襲われたんだ。でも、なんで追ってくるんだ?」
魔法を使ったティティを見てあんなに怖がっていたのにわざわざ追ってくる意味が分からない。
まあ、正確に言えば魔法を使ったのはリーズメルとイヴメルだけど。どちらにしたって分からないことに変わりはない。
「手練れ揃いだな。気が違う」
「ロドルさん巻き込んじゃってごめんなさい」
シュンと項垂れてルゥカが謝る。
「なぁに、気にするな。これも運命だ」
運命ってほど大それたものでもないと思うけど。
「なんでわざわざ追ってきたの?わしたちは用ないんだけど」
困ったようにティティが言う。
「お前らになくてもオレらにはあるんだよ」
そんな面倒なことしなくてもいいのに。あ、そっかあの人たち暇なんだ・・・・・・とティティがもぞもぞ呟く声が聞こえてヒヤリとする。
どうにかしてロドル氏だけでも逃げられないだろうか。悪くしたらケガをするだけではすまないかもしれない。
「なあ知ってるか?お前みたいな化け物でも人様の役に立てるんだぜ」
唐突にそんなことを言い、黒い笑みをその顔に貼り付けて頭は笑う。
悪い予感がする。それ以上は喋るな。彼らはティティが魔法使いであるいことを知っている。そのことがバレてロドル氏の見る目が変わるのが怖い。
誰だって嫌われるよりは好かれていた方がいい。
頼むからそれ以上は喋るな。
「正教会に化け物を連れて行くとな、謝礼金と称して金が貰えるんだよ。それも結構な額がな。国民の平和のために化け物を捕まえてくれてありがとうってやつだな」
エクルの切実な望みは叶わない。
久しぶり、エクル。 そんな気分です。
何時ぞやの盗賊様方、まさかの再登場。
魔法使いの取り締まりを積極的に行っているのは正教会ですから。
閲覧ありがとうございました。
次回あたりで血が流れる予定です。誰のとは言いませが。




