28.歌姫の正論、傲慢を射抜く光
すくみ上がっていた奏の身体から、完全に力が抜けた。
奏はゆっくりと深呼吸をし、震えを止め、そして真っ直ぐに背筋を伸ばした。瞳の奥に、かつてないほど清らかで、力強い歌姫の光が蘇る。
「奏様は悪くない!!」
その時、奏の前にレイルたちが飛び出してきた。
「難癖をつけるな! 奏様は俺たちを助けるために戻ってきてくれたんだ! 悪いのは、お前たち王宮の強欲な連中だ!」
スラムの住人たちが、魔王の威圧を乗り越えた奏の姿を見て、今度は勇者と聖女に向かって一斉に声を上げ始めた。その擁護の声に背中を押され、奏は一歩、前へと踏み出した。
「レオ、エリカ。あなたたちの言うことは、最初から最後まで、ただの身勝手な言い訳です」
奏の声は、スラムの隅々まで、驚くほど透き通って響き渡った。
難癖をつけていた二人が、奏のその堂々とした態度に、一瞬だけ気圧されたように言葉を詰まらせる。
「国防のためと言いながら、ここに住む人たちの家を奪い、食料を奪い、凍え死にさせようとする。それが、神の教えを解く『聖女』のすることですか? 自分の思い通りにならない従者を、鬼のような顔で罵倒することが、正義のすることですか?」
「な、何よ……っ!?」
エリカの顔が、屈辱で真っ赤に染まる。
「そして、レオ。僕が災いの根源だって言ったね。だけど、僕を無能だと切り捨てて王宮から追い出したのは、あなたたちだ。魔王軍が動いているのは、僕が呪いだからじゃない。あなたたちが、都合のいい道具としてしか民を見ず、本当の弱者を救おうとしないから、世界のバランスが崩れているんだ!」
奏は二人を真っ直ぐに指差した。その瞳には、一ミリの恐怖も、曇りもない。
「全てを僕のせいにして、自分たちの無能と残虐さを隠そうとするのは、もうやめてください。僕はもう、あなたたちの都合のいい目隠しにはならない。このスラムの誰一人として、あなたたちの身勝手な正義のために、命を諦めさせたりはしない!」
奏が放った理路整然とした正論と、圧倒的な『本物のアイドルの輝き』の前に、勇者レオと聖女エリカは、ただぐうの音も出ずに激しく歯噛みするしかなかった。
奏の後ろでは、姿を隠したアスモデウスが「正論でクズどもを論破する奏……あまりにも聡明、あまりにも気高い……尊さの極みぃ……ッ!」と、悶絶しながら静かに涙を流していたけれど、今の奏には、王宮の軍勢を完全に圧倒したという確信があった。
トラウマを乗り越え、自らの言葉で敵を射抜いた奏は、今度こそこのスラムを、みんなを守るための本当の戦いへと挑む準備を完了したのだった。




