26.傲慢なる光の到来
スラム街の防衛体制を整え、みんなと作戦を練り始めてから数日後。ついにその時が訪れた。
国境近くから地響きのような軍靴の音が響き渡り、スラムの入り口に、白銀の鎧をまとった王宮の正規軍が整列する。その中央、ひと際豪華な天幕から、まばゆいばかりの光をこれ見よがしに放ちながら、二人の男女が姿を現した。
「ふん、相変わらず酷い悪臭だな。やはりこの不浄の地は、我が聖なる軍勢の砦として作り直すのが正解だったというわけだ」
腰に大剣を帯び、傲慢に不敵な笑みを浮かべているのは、勇者レオ。
そしてその隣で、純白の法衣に身を包み、まるで世界のすべての美徳を体現したかのような聖なる微笑を浮かべているのが、聖女エリカだった。
「ええ、レオ。神の御名において、この穢れた土地を清めることは、私たちの崇高な義務ですから」
王宮という絶対的な後ろ盾をひけらかし、まるで見世物小屋の王族のように、貧民たちを冷酷に見下ろす二人。かつて奏を『無能のゴミ』として王宮から追い出した、奏のトラウマの元凶そのものだった。
二人の登場に、スラムの住人たちは一斉に恐怖に身を震わせ、泥の中に平伏する。だけど、奏と、隠蔽魔術を使って、奏の影に隠れて様子を伺っているアスモデウスだけは、彼らの姿をじっと見据えていた。
「それにしても、この『スラム街壊滅作戦』……エリカ、君の提案は本当に素晴らしい。国防の強化と同時に、この国の癌細胞をまとめて処分できるのだからな」
レオが何気なく放ったその言葉が、奏の耳に届いた瞬間、奏の身体に激しい戦慄が走った。
スラム街壊滅作戦を発案したのは、あの『慈愛の聖女』と呼ばれているエリカ、本人だったのだ。
エリカは、平伏する住人たちに向けて、さらに追い打ちをかけるように、透き通った声で残酷な要求を突きつけ始めた。
「スラムの皆さん、聞きなさい。神聖なる陣地造営のため、今から一時間以内に、この街にあるすべての建物を自らの手で解体し、更地にしなさい。あ、それから、軍の馬たちの餌代として、皆さんが隠し持っている食料と、わずかな貯えもすべて差し出すのです。逆らう者は、神の光によって消滅させます」
あまりにも理不尽で、あまりにも残酷な要求。一時間で家を壊し、食料を奪われれば、この極寒の国境近くでみんな凍え死ぬか餓死するしかない。
「聖女様、それは……それはあまりにもやり過ぎです! 彼らにも生きる権利が――」
エリカの背後に控えていた王宮の若き従者が、見かねて小さな声を上げた。その瞬間だった。
「――黙りなさい」
エリカの顔から、先ほどまでの聖なる微笑が完全に消え失せた。
彼女は振り返ると、人間のものとは思えないほどの、おぞましい鬼の形相で従者を睨みつけた。
「お前、この私に意見する気!? 私の言葉は神の言葉、私の意志は正義です! 泥ネズミどもの味方をする不浄な口など、今すぐ引き裂いてあげましょうか!? 黙って私の足元を舐めながら、命令だけを聞いていればいいのよ、この能無しがぁぁぁーーッ!!」
狂ったような罵詈雑言が、静まり返ったスラム街に響き渡る。
優しく慈悲深い聖女の化けの皮が完全に剥がれ落ち、その本性である醜悪な支配欲と残虐性が、民衆の前にこれでもかと曝け出された瞬間だった。




