25.重なり合う愛の調和
アスモデウスの嫉妬と不安に満ちた瞳を見て、奏の胸の奥の痛みが、すっと引いていくのが分かった。
ああ、そうか。アスモデウスは、奏の心がスラムのみんなに奪われてしまうのが、怖かったんだ。
奏はゆっくりと立ち上がり、泥を払うこともせず、アスモデウスの前へと歩み寄った。そして、アスモデウスの大きくて、今にも暴走しそうな魔力を放つ手を、奏の両手でそっと包み込んだ。
「アスモデウス様。……そして、レイル、みんなも」
奏は振り返り、スラムの住人たちと魔王の両方を、等しく、包み込むような優しい目で見つめた。その瞳には、もはや迷いも苦しみもなかった。あるのは、二つの愛を受け止めた『歌姫』としての、絶対的な包容力だった。
「どちらの愛も、僕にとっては、命に代えても守りたい大切なお支えなんです」
奏は、アスモデウスの手をきゅっと握りしめ、アスモデウスを見上げて微笑んだ。
「レイルたちがくれた愛は、僕がどん底にいた時、僕を『一人の人間』として生かしてくれた、僕の根っこです。そして、アスモデウスがくれた愛は、傷ついて飛べなくなった僕に、もう一度歌う翼と、誰かを救うための力をくれた、僕の未来なんです」
言葉が、スラムの冷たい空気を優しく溶かしていく。
「だから、どちらが上なんてないよ。アスモデウス様、あなたが僕の『最高のファン』なら、僕が大切にしたい家族のことも、一緒に大切にしてください。あなたのその強大な力は、僕を鳥籠に閉じ込めるためじゃなく、僕の愛するみんなを守るためにあるって、僕に証明させて」
奏の、心の底からの説得に、アスモデウスは完全に射抜かれたようだった。
アスモデウスの紅蓮の瞳から完全に覇気が消え去り、顔を真っ赤に染めながら、「あ、あまりにも尊い……! 過去も未来もすべてを肯定し、二つの愛を調和させる奏……もはや聖母、いや、全宇宙の女神……っ!」と、胸を押さえてその場に膝をついた。
「おい、魔王が急に大人しくなったぞ……?」
レイルたちが呆然とする中、奏はアスモデウスの手を引き、立ち上がらせた。
「さあ、みんな。くだらない喧嘩は終わり。僕たちの本当の敵は、もうすぐそこに迫っているんだから」
魔王の嫉妬を解きほぐし、スラムの住人たちの誤解を解いた奏は、今度こそ全員の意志を一つにまとめ上げた。奏の歌と、魔王の力、そしてスラムの絆が重なり合い、王宮への反撃の準備が、今ここに整ったのだった。




