24.引き裂かれる心と魔王の嫉妬
「やめて……二人とも、お願いだからやめて……!」
奏は叫びながら、いがみ合う両者の間に割って入った。
右を見れば、奏を本当の家族のように慕い、王宮の虐殺から生き延びようと必死に爪を立てているレイルたちがいる。
左を見れば、奏に新たな居場所をくれ、奏を傷つけるすべてのものから世界を滅ぼしてでも守ると誓ってくれたアスモデウスがいる。
どちらも、奏にとっては紛れもない本物の「愛」だった。
なのに、どうしてその愛のせいで、奏の大切な人たちが傷つけ合わなければならないんだろう。
「レイル、アスモデウス様は僕を玩具になんてしてない! 僕の歌を、僕という人間を、誰よりも大切にしてくれているんだ!」
「騙されないでください、奏様! そいつは魔王だ。いつかあなたに飽きたら、貪り食うに決まっています!」
「アスモデウス様、これ以上みんなを威圧しないで! この人たちは僕の昔からの家族なんです!」
「奏、なぜそのような無能どもの肩を持つ! 奴らはお前が王宮の道具にされていた時、何もできずにただ見ているだけだったではないか!」
飛び交う怒号が、奏の胸をメッタ刺しにしていく。
奏が良かれと思って泥の輪に入ったのに、結局、奏の存在そのものが、新たな争いの火種になってしまっている。
もがき苦しむような感覚が、奏の喉を締め付ける。人間界の王宮にいた頃の、あの息ができないほどの孤独感が、形を変えて奏の心を侵食していくようだった。奏の存在は、どこに行っても誰かを狂わせ、誰かを傷つける呪いなのだろうか。
「もう……やめてよっ!」
奏は頭を抱え、泥の上に膝をついた。その悲痛な叫びに、一瞬だけ、両者の罵り合いが静まる。
静寂の中、アスモデウスは、泥にまみれて震える奏の姿をじっと見つめていた。
アスモデウスの紅蓮の瞳に、激しい怒りとはまた違う、ドロドロとした暗い感情が陰を落とす。それは、魔王としての傲慢さではなく、一人の『オタク』としての、そして一人の『男』としての、醜い嫉妬だった。
「……奏。なぜお前は、それほどまでにこの人間どもに執着する」
アスモデウスの声が、微かに震えていた。
「お前を最初に見出し、お前の本当の価値を理解し、お前のために世界を敵に回す覚悟があるのは、この俺だ。だが、お前は……この薄汚いスラムの、何の力もない人間どもに、俺に向ける以上の、柔らかく、温かい目を向ける。なぜだ……! 人間どもに、お前の真の美しさなど到底理解できるはずがない! 奴らはただ、お前の優しさに寄生しているだけだというのに……!」
アスモデウスは、奏が過去の絆を大切にすればするほど、自分が奏の特別になれないのではないかと、狂おしいほどの不安に駆られていたのだ。
アスモデウスの愛は強大で、無敵に見える。けれど、その本質は、奏という光を失うことを何よりも恐れる、誰よりも繊細で、臆病なものだった。
レイルたち住人は、アスモデウスのその言葉の裏にある本気の執着に圧倒され、息を呑んだ。魔王が、ただの愛玩物に対するものではない、一人の少年に向けた剥き出しの執着を、その瞳に宿らせていたからだ。




