23.交わらぬ二つの正義
泥だらけの広場に、一触即発の冷たい空気が張り詰めていた。
奏が住人たちの輪に飛び込み、王宮の軍勢を迎え撃つための話し合いを始めようとしたその時、レイルが奏の前に立ちはだかり、背後のアスモデウスを鋭く睨みつけたんだ。
「奏様、そいつから離れてください! どんなに綺麗な言葉を並べ立てても、そいつは残虐な魔族の王だ。奏様を自分の都合のいい玩具にして、無理やり着飾らせて楽しんでいるだけに決まっている!」
レイルの言葉に、周囲の若者たちもクワや木切れを握りしめ、一斉に同調する。
「そうだ! 奏様は俺たちの希望なんだ! 汚い魔王に指一本触れられてたまるか!」
彼らの言葉は、奏を本気で心配しての愛だった。スラムで一緒に飢えをしのぎ、奏の歌を心の支えにしてくれた仲間だからこそ、奏が魔王に利用されているのではないかと命懸けで怒ってくれている。
だが、その言葉を受け止めるアスモデウスの瞳に、冷酷な紅蓮の炎が灯った。
「黙れ、下等生物どもが」
ゴオォッ、と空間が軋むほどの圧倒的な魔力が、アスモデウスを中心に爆発する。アスモデウスは額の角をいやらしく光らせ、地を這うような声でレイルたちを見下ろした。
「お前らのような薄汚い人間に、我が至高の光、奏の何が分かるというのだ。かつて王宮の連中に切り捨てられた奏を、その傷ついた魂を、誰が救い、誰がその唯一無二の歌声を再びこの世界に響かせたと思っている。この俺だ! 奏をただの下働きとして扱おうとしたお前らの矮小な脳髄こそ、万死に値する!」
「なんだと!? 奏様をただのメイドにしたのはお前ら魔族だろうが!」
「違う! 奏様は我が城の神聖なる王妃候補、そして俺の生涯の推しだ! お前らのような泥ネズミどもが、気安くその名を呼ぶことすら不敬と知れ!」
レイルたちの「奏を守りたい」という排他的な義務感。そしてアスモデウスの「奏を完璧に崇めたい」という狂信的な独占欲。
二つの相容れない強烈な愛が、奏の頭上で激しく衝突し、広場は今にも血の海に変わってしまいそうなほどの緊張感に包まれていった。




