21.「操り人形」という名の憐れみ
アスモデウスのその過剰なまでの執着と、奏を完全に我が物顔で囲い込む仕草。そして、奏の腰を抱き、まるで所有物を誇示するような魔王の圧倒的な威圧感。
それを見たスラムの住人たちの目に、徐々に「別の感情」が浮かび上がり始めた。
(……あ。違う。みんな、勘違いしてる……!)
住人たちの顔から、奏が生きて帰ってきたことへの純粋な喜びが、急速に消え失せていく。代わりに彼らの瞳に宿ったのは、痛烈なまでの哀れみと絶望だった。
「そんな……奏様は、あの恐ろしい魔王の……『操り人形』にされてしまったんだ……」
「可哀想に……。逆らうことも許されず、あんな風に、魔王の慰みものとして飼い慣らされて……」
「だから、あんな豪華な服を着せられてるんだ。心まで魔族に奪われて、私たちのことなんて、もう忘れてしまったのね……」
ひそひそと交わされる、住人たちの絶望的な誤解の声が、奏の耳に痛いほど飛び込んできた。
みんなの目には、今の奏は『自らの意志で魔王を連れて故郷を救いにきた英雄』ではなく、『強大な魔王に身も心も支配され、都合のいい愛玩物として調教された、哀れな犠牲者』として映っていたのだ。アスモデウスが奏を大切にすればするほど、エスコートが過激になればなるほど、住人たちにとって奏は『自由を奪われた悲劇の操り人形』としての説得力を増していく。
かつて王宮で、奏は大人たちの都合のいい道具だった。
そして今、故郷のみんなの目にも、奏はまた別の強者の道具として、哀れみの対象にされている。
その事実が、奏の胸を激しく抉った。奏は守られるだけの飾り物じゃないと、自分の存在意義を証明するためにここへ来たのに、アスモデウスの過保護な優しさのせいで、奏はみんなの前でまたしても無力な置物へと引き戻されようとしていた。




