↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/44

15.引き裂かれた願い

 レイルが命懸けで届けてくれた羊皮紙を握りしめ、奏はその足でアスモデウスのいる玉座の間へと向かった。

 豪奢な赤絨毯を踏みしめる奏の足取りは、かつてないほど決然としていた。人間界の王宮による、スラム街壊滅作戦――つまり、奏の大切な故郷の虐殺計画。それを知ってしまった以上、一刻の猶予もない。奏はガラスの棺の中から飛び出し、自分の足で立ち上がらなければならなかった。

 重厚な彫刻が施された大扉を開けると、そこには玉座に深く腰掛け、魔界の政務を執り行っていたアスモデウスの姿があった。


「――奏!? どうしたのだ、そんなに血相を変えて。もしや城の魔物どもが何か無礼を……」


 奏の姿を見るや否や、アスモデウスは玉座から立ち上がり、大股でこちらへと駆け寄ってきた。その瞳には、いつものように奏を盲目的に崇める『オタク』としての熱と、それ以上に奏の異変を察知した『魔王』としての鋭さが混在している。


「アスモデウス様、ひとつお願いがあります」


 奏はアスモデウスの前に立ち、まっすぐにその漆黒の瞳を見つめた。


「僕を……人間界のスラム街に帰らせてください」


 一瞬、玉座の間の空気が完全に凍りついた。

 アスモデウスの動きがピタリと止まる。奏の言葉の意味を脳が拒絶しているかのように、アスモデウスは数秒間、ただ唖然と奏を見つめていた。だが、奏の手にある血に汚れた羊皮紙と、奏の瞳に宿るただならぬ覚悟を見た瞬間、アスモデウスの顔から一切の余裕が消え失せた。


「……今、なんと求めた?」

「スラムのみんなが、王宮の軍勢に殺されそうになっているんです。僕を育ててくれた街が、子供たちが、無かったものにされようとしている。だから、僕をあそこへ帰らせてください。僕の手で、みんなを救いたいんです」


 言葉を紡ぐ奏の声は震えていたけれど、決して弱音ではなかった。しかし、アスモデウスから返ってきたのは、奏の決意を真っ向から打ち砕く、地鳴りのような一言だった。


「――却下だ。絶対に許さん」


 その声は、これまで奏に向けられたどんな言葉よりも低く、冷酷だった。魔王としての圧倒的な威圧感が、広い玉座の間を一瞬で支配していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。