13.命懸けの凶報
自分の存在意義に悩み、美しい鳥籠の違和感に身を焦がしていたその日の午後。張り詰めた奏の迷いを完全に打ち破る、決定的な事件が起きた。
中庭に面した大回廊を歩いていた時、突然、城の表門の方から地鳴りのような怒号と、金属が激しくぶつかり合う音が響いてきたのだ。
「何事だ! 侵入者か!?」
「防衛線を張れ! 下級悪魔ども、前へ出ろ!」
普段は奏を気遣って静まり返っている暗黒騎士たちが、にわかに殺気立って色めき立つ。
不穏な空気に胸騒ぎを覚えた奏は、条例の三メートルルールすら忘れて、騎士たちの静止を振り切り表門へと走った。
「奏様! 行ってはなりません、危険です!」
背後でマルバスの鋭い声が響いたけれど、奏の足は止まらなかった。
巨大な鉄製の表門へと辿り着いた奏の目に飛び込んできたのは、息を呑むような凄惨な光景だった。
数十匹のガーゴイルや下級悪魔たちに囲まれ、地面に組み伏せられている一人の青年がいた。
彼の身にまとっているのは、魔族の豪華な衣服とは程遠い、継ぎはぎだらけの薄汚い布切れ。全身は泥と、そして赤黒い血にまみれており、何十箇所も深い刃物傷や魔術による火傷を負っている。
「がはっ……、離せ、離してくれ……っ! 奏は、奏様に……奏様に会わなきゃいけないんだ……っ!」
その、掠れた、だけど聞き覚えのある声に、奏の心臓が凍りついた。
「――レイル!?」
間違いない。奏が人間界のスラム街で、まるで本当の弟のように可愛がっていた孤児の青年、レイルだった。
奏が声を上げた瞬間、レイルは血に汚れた顔を必死に上げ、虚ろな瞳で奏を見つめた。
「か、なで……様……? ああ、本当に、奏様だ……」
「レイル! どうしてこんなボロボロに……みんな、今すぐその子を離して!」
奏が叫びながら駆け寄ろうとすると、魔物たちは条例を思い出して一斉にパニックになりながらも、レイルを拘束する力を緩めた。
レイルは自由になった途端、這うようにして奏の足元へと進み、血に濡れた手で、懐からボロボロに汚れた一本の筒を取り出した。
「これ、を……っ。スラムの、みんなからの……メッセージ、です……。国境の結界を、命懸けで破って……ここまで、走って……」
「レイル、もう喋っちゃ駄目だ! すぐに手当てを――」
「だめ、です……すぐに、読んで、ください……っ! 時間が、ないんだ……!」
レイルはそれだけ言うと、糸が切れたように意識を失い、冷たい大理石の床へと倒れ込んだ。
奏は震える手で彼が命懸けで届けてくれた筒を受け取り、その中から血痕のついた羊皮紙を引き抜いた。そこに書かれていた文字を目にした瞬間、奏の頭の中は真っ白になった。




