10.引き裂かれる親交と、孤独な静寂
それからの数日間、奏の魔王城での生活は、息が詰まるほどの孤独に染まっていった。
奏は城の魔物たちをもっと知りたいと思っていたし、もっとたくさんお話をして、親交を深めたいと心から願っていた。人間界の王宮では、誰もが奏を『道具』か『不浄な存在』としてしか見てくれなかった。だからこそ、奏の歌を純粋に喜び、奏を一人の人間として、時々怯えながらも受け入れようとしてくれたこの城の魔物たちが、愛おしかったのだ。
昨日までは、ワーウルフのメイドたちと一緒にお皿を洗いながら、魔界の美味しい木の実の隠し味について笑い合えた。暗黒騎士の人たちとも、中庭で今日の薔薇の咲き具合について言葉を交わすことができた。
なのに、今は。
「あ、ワーウルフさん。そこのリネン、僕が運ぶよ」
「ひっ……! い、いえ! 奏様のお手を患わせるなど、滅相もございません! 私めのような毛深い獣が奏様に近づけば、魔王様の【煉獄の劫火】で焼き払われてしまいます! 失礼します!」
奏が手を差し伸べた瞬間、彼女たちは悲鳴を上げて飛び退き、一礼する暇もなく逃げ出していく。
「騎士さん、いつも警備お疲れ様です。これ、冷たいお水――」
「……っ! 奏様からの賜り物など、我が身にはあまりにもったいない! ですが、条例第四条『奏様からの直接の物品授受は、精神崩壊の危険があるため原則禁止』に該当いたします! お気持ちだけ、奈落の底まで持っていきます!」
騎士の人はロボットのような動きで回れ右をして、ガシャガシャと重い音を立てて全力疾走で去っていく。
どこへ行っても、誰も奏と目を合わせようとしない。
奏が廊下を歩けば、前方の魔物たちはモーセの海割りのように一斉に左右に飛び退き、壁に背中をぴったりと貼り付けて息を殺す。奏が通り過ぎるまで、誰もが石像のように硬直しているのだ。
大厨房に行けば、奏のために特注されたという『無菌透明結界』が張られていて、奏は他のメイドたちと同じ空間に立つことすら許されなくなっていた。ガラスのように透明な障壁の向こうで、魔物たちが必死に、けれど怯えたように奏の機嫌を伺っている。
「どうして……どうしてこうなっちゃうの……」
奏の居場所だったはずの厨房は、今や静まり返った実験室のようになっていた。
みんなと笑い合いたい。完璧なメイドとして、みんなと同じ目線で働きたい。そのささやかな願いは、アスモデウスの過保護という名の絶対権力によって、完膚なきまでに叩き潰されていた。
魔物たちがルールに振り回され、奏を腫れ物のように扱うたび、奏の胸には鋭い棘が突き刺さる。誰も奏を嫌っているわけじゃない。むしろ、大切にされすぎている。なのに、どうしてこんなに胸が痛くて、どうしてこんなに寂しいんだろう。
奏が望んでいたのは、こんな風に誰も近づけない『絶対の聖域』に祭り上げられることではなかった。




