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放課後、秘密の部屋

こんにちは、こんばんは。

今回もよろしくお願いします。

 ホームルームが終わり、バッグに手をかける。


「シキシマン!」

「……その呼び方はやめてくれって」


 バッグに伸ばした手を戻して声がした方を見れば、クラスメイトの佐山と道長、日向が立っていた。

 佐山と道長も鬼らしく、日向とは中等部の頃からの仲らしい。俺が日向と幼馴染だということを知って、俺とも仲良くしてくれている。…と言っても、まだ4日目だけど。


「今から1組に行くんだろ?」


 今日の昼、佐山と道長は学食に行っていたから、奏弥寺が来たときのやりとりは知らないはずだ。それにもかかわらず、こんなことを言ってくると言うことは——。

 2人の後ろで不満げな顔をして立っている日向を睨む。日向は俺のその視線に気づいて、首のあたりで手を振り始めた。


「ちがうちがう、オレじゃない。つーか俺がわざわざ話さなくても、すごい噂になってるって!」

「そうそう、よそのクラスの奴も話してたぜ。シキシマンは知らないだろうけど、奏弥寺って呼び出してもその場所に来てくれないことで有名でさぁ。放課後に約束するなんて、オレらからしたらあり得ない話なわけ。それがさ、シキシマンとは嬉しそうに約束してたって話じゃん?そんな話、広がらない方が難しいわけだ」


 佐山が日向をかばう。

 日向を真っ先に疑ったのは悪かったけど、日向の日頃の軽々しさも原因だから謝らないでおくことにした。


「呼び出しても来ないって、当たって砕けてた奴等はどうやって当たってたんだよ」


 大して気になっているわけでもないけど、この機会に乗じて聞いてみることにした。


「そりゃもう、アカウントを知ってたらSNSでとか、わかんなかったら教室に行ってそのままとか、靴箱で待ってとか。まあ、色々あるじゃん」


 口には出さなかったけど、奏弥寺が気の毒だと思った。

 風紀委員の仕事と中庸捕縛隊の役割。それだけでも忙しいだろうに、告白したい奴の相手なんてしていたら、気が休まる時間がない気がする。しかもそれが1人や2人じゃないならなおさらだ。


「オレは全部、教室に押しかけて告白したけどな!」

「そんな、どやることじゃないだろ!」


 日向の言葉に道長が小突きながらツッコむ。

 道長の言う通り、全然どやることじゃないと思う。どうして日向は振られた話をこんなにも堂々と、しかも誇らしげに出来るんだろう。


「…一応言っとくけど、俺はそういうのじゃないから」

「「違うのか⁉」」


 佐山と道長の声が重なる。


「全然ちがう。本当に、全くもって。勘違いはしないでほしい」


 そう言うと、今度こそバッグを持って立ち上がる。


「それじゃあ、俺は行くから。部活頑張れよ」

「おー?え?あ、明日ちゃんと聞かせろよ!」


 佐山の声が追いかけてくるけど、それは無視した。

 日向の友だちなら、佐山も道長も悪い奴じゃないのは分かる。だからと言って俺の秘密を話せるわけがない。時間をかけて関係性を築いたならまだしも、さすがに今の段階では早すぎる。

 明日、どんな言い訳をしようか。偶然捨て猫を一緒に見つけて、その飼い主が見つかったとか、そんなことでいいだろうか。

 佐山と道長にする言い訳の内容を考えながら、長い廊下を歩く。

 高等部の校舎は東棟と西棟、中央棟に分かれている。中央棟は職員室や食堂があり、クラスの教室はない。東棟には1~4組、西棟には5~8組の教室がある。

 4組の教室から1組の教室に行くのでも遠く感じるから、1組から8組に行くんだったら、どれだけ遠いんだろうか。

 そんなことを考えながら歩いていると、1組の教室の前についていた。ホームルームを終えてすぐということもあって、廊下にも教室内にも、生徒がちらほらといる。この状況で奏弥寺を呼べば、やはり目立ってしまうだろう。

 開いた教室のドアから中の様子を覗いて見れば、奏弥寺は教室の真中あたりの席に座っていた。2人の女子と話をしているようだ。

 日向たちの話から、奏弥寺は敬遠されているのかと思っていたけど、そんなことはないらしい。普通に、と言ったらあれかもしれないけど、遠目に見る分にはよそよそしさを感じない関係に見える。

 とりあえず、もう少し人が減るまで廊下で待つことにした。窓際の壁にもたれかかってスマホを見る。時間を潰す時に遊んでいるパズルゲームのアプリを開く。楽しいかと聞かれれば自信を持って楽しいとは答えられないのに、なぜか永遠と遊んでしまうゲームだ。


 ステージを3つクリアしたタイミングで周囲を見る。ここに来た時よりも随分と人が減っていた。

 教室の中をもう一度覗いてみれば、奏弥寺はまだ2人の女子と話をしていた。盛り上がっていそうな雰囲気だから、もう少し待とうと思った時、話をしてる奏弥寺と目が合った。

 奏弥寺がぱっと目を見開く。分かりやすく嬉しそうだ。

 教室のドアから離れて、さっきまで立っていた場所に戻る。するとすぐに、1組の教室から奏弥寺が飛びだしてきた。


「剛君!もしかしてずっと待ってた?」

「……いや、ずっとってほどではないけど」

「え~?すぐに呼んでくれればよかったのに」


 そう言いながらニコニコと笑う奏弥寺。嬉しそうなその顔から、思わず目を逸らす。


「目立つだろ。それじゃあ」


 とは言うものの、今も十分に目立っている。1組の教室には奏弥寺とその友達以外にも生徒はいたし、もちろん廊下も無人になったわけではないから。


「申し訳ないけど、私といる限りそれは避けられないかな~」

「そうみたいだな」


 そうなら、一秒でもこの場を離れる方がいい。そう思って早足で廊下を歩く。後ろからパタパタと軽い音が聞こえてくる。

 2組と3組の間にある東棟の階段には運よく誰もいなかった。誰かが来たらすぐに分かるように、踊り場まで階段を下りる。


「剛君、歩くの早いよ」

「悪い」


 俺が踊り場についてから数秒後、軽い足音が追い付いてきた。


「それで、話したい事って?ここでいいの?」

「いや、ここじゃだめだ。2人になれる場所がいい」

「え⁉」


 分かりやすく期待にあふれた目で見つめられる。


「それで……、鬼化しても大丈夫な場所」


 そこまで言うと、奏弥寺の目が真剣なものに変わった。


「そうだなー……。この時間なら会室は誰か委員の人がいるだろうし。うーん……」

「難しそうか?」


 学園内が難しければ、学園外でもよかったけれど、『鬼化禁止』の校則は学園外にも適用される。そもそも校則は、この学園の生徒としてのルールだから、学園内外が関係ないのは当然のことだ。

 それに、街の至る所には観測カメラが設置されている。昨日の路地のようなところにまでは設置されていないだろうけど、大通りや商業施設には確実にある。

 鬼、人間。どちらが加害者であっても適切に捕まえることができるようにできるようにだとは聞いたことがある。ただ、昨日奏弥寺が言っていた話だと、結局『誰』が『どうやって』相手を傷つけたのかだけが重視されているらしい。

 つまり、昨日のように奏弥寺と2人きりでかつ鬼化できる場所はかなり限られている。俺の家も場所の候補としてはあるが、さすがに色んな意味で良くないから、それは本当に、最悪の最終手段だ。


「そうだな~。剛君の言う2人になれる場所って、誰にも話を聞かれたくないって意味なんだよね?」

「ああ、そうだ」

「だよね。じゃあ……、あの部屋使うかな…」

「あの部屋?」


 そう尋ねれば、奏弥寺はにこりと笑って、人差し指を口に当てた。


「この学園のほとんどの生徒が知らない秘密の部屋」

「いいのか?」

「剛君は特別。あ、でも、絶対誰にも言わないでね?」

「ああ。約束する」


 奏弥寺の言う『秘密の部屋』が、人がほとんど立ち入らない場所にあって、単に知っている人が少ないという意味なのか、限られた人間だけしか知るべきではない部屋のかは分からない。恐らくは前者なんだろうけど、これだけ広い学園だ。幼稚舎から通っていたとしても、全ての部屋を把握するのは難しいように思う。


「剛君、ちょっと電話するから静かにしててね」


 俺は、自分が騒がしいタイプだと思ったことはないが。余計なことは言わずに、ただ頷いた。


「もしもし、尚さん?2日連続で悪いんだけど、お願いがあって。え?全然悪いことなんてしてないよ。品行方正な芳乃ちゃんですよ」


 電話をしながら歩く奏弥寺の後についていく。階段をどんどん下りて行って、奏弥寺が電話を終えるころには2階に着いていた。


「うん、じゃあまた連絡するね」


 電話を終えた奏弥寺が俺の方を振り返る。


「手配完了~」

「センサーか」

「そう!」


 2日連続と言っていたあたりでそんな気がしていた。

 どこかに連絡をしてセンサーを切ってもらっていると言うことは、昨日も俺が気付かないうちに連絡を入れていたんだろう。用意の良い奴だ。


「これで思う存分鬼化してもらって大丈夫だよ」


 そう言って笑う奏弥寺が、昨日も通った渡り廊下を歩き始めた。わざわざ委員会棟に行く生徒は少ないのか、今日も俺たち以外に誰もいない。


「なあ、奏弥寺」

「なあに、剛君」

「怖くないのか」


 そう聞けば、奏弥寺は足を止めて俺を見た。すごく、不思議なものを見る顔で。


「何が怖いの?」

「センサーが機能していない部屋で鬼と2人きりなんて、普通は怖いだろ」


 奏弥寺が普通の人間ではないとしても。それでも、誰にも助けを求めることができない状況に変わりはない。おまけに俺は奏弥寺の能力を知っているのに、奏弥寺は俺の能力を知らない。怖がらない理由はないと思う。


「あはは。まあ、それはそうかも。他の鬼だったら怖いっていうか、かなり警戒はするし、さすがに2人きりっていうのは拒否するかもしれないね。だけど、相手が剛君だから、怖くもないし警戒もしなくていいかなって」


 奏弥寺が嘘をついている風には見えない。だけど、本心で言っているならそれはそれで理解ができない。


「今日で2日だぞ」

「そうだけど、私は昨日、信頼できる人——鬼だなって思ったよ」

「早すぎるだろ」

「えー?そうかなぁ?あ、エレベーターに乗るね」


 そう言う奏弥寺の目の前には、エレベーターの扉があった。奏弥寺がすでに押していたようで、上向きに書かれた三角のボタンが光っている。


「エレベーターあるのか」

「うん。この棟は7階まであるからね。生徒会室はその7階にあるんだけど、さすがにそこまで階段って大変だから設置したみたい。そうそう、実はエレベーターって全校舎に設置されてるんだよ。先生方と、ケガとかで階段が使えない人専用なんだけどね」

「へぇ…」


 エレベーターの中は綺麗だった。真っ白な壁と天井。よく分からないけど、ゆったりとした音楽が流れている。


『5階です』


 音楽を遮って突然アナウンスが流れる。

 奏弥寺がエレベーターから降りるのを確認して後に続く。

 エレベーターを降りて廊下を歩く。無機質な廊下だ。ぽつぽつと教室があるみたいだったが、プレートに何の部屋かは書かれていないし、廊下から中の様子が見えるわけでもない。


「んーっと、この部屋か。私も滅多に来ないから見分けがつかないんだよね」


 そう言って奏弥寺が立ち止まったドアは、廊下に並ぶ他のドアと全く一緒で、確かに見分けがつかなかった。

 一見、俺たちが普段生活をしている教室のドアと同じだが、明らかに違うものがある。それが、扉の横にある端末機械。


『ピー』


 機械音が鳴ると同時にドアが自動で開く。


「……指紋認証」

「半分正解。虹彩認証もあるよ」

「厳重なんだな」


 その機械が認証装置らしい。セキュリティが厳重な部屋に警戒する俺とは対照的に、奏弥寺は何かを気にする様子もなく部屋に入っていく。


「……?」

「拍子抜けでしょ?」


 後ろ手にドアを閉めながら部屋を見回す。けっして広くはない部屋。あるのは大きな机が1つと、4客の椅子だけ。

 拍子抜けするほどシンプルで、セキュリティが厳重なのが逆に気味が悪いくらいの部屋だった。



今回もお読みいただきありがとうございます。

歩くだけでダイエットになりそうな校舎ですね。

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