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奏弥寺の秘密

いつもありがとうございます。

今話もよろしくお願いします!

「なんだこの部屋」

「作戦会議室、みたいなものだと思ってもらえればいいかな。奏弥寺とその関係者しか入れない部屋なんだ。まあ、使うようなことは滅多にないんだけどね」

「それなら、ここに来るまでの他の部屋も?」


 どの部屋のドアにも、この部屋と同じように端末機械が設置されていた。


「うん。誰がどの部屋を使ってるかは知らないけどね」


 奏弥寺が机の上にリュック置いて椅子に座る。


「ここなら、誰も来ないよ」


 安心して、とでも言われているように微笑まれる。俺も奏弥寺に倣ってバッグを机に置いて、椅子に座る。机を挟んで奏弥寺と向かい合う。


「悪いな。忙しいのに色々無茶を言って」

「気にしないで。剛君のお願いなら、大体のことは叶えたいし」

「……」


 腹は括ったつもりだった。だけど、いざその時になると、どうしても怖気づいてしまう。知られたくない。こんな、情けない俺を。


「剛君」


 声をした方を見れば、いつの間にか奏弥寺が俺の真横に立っていた。


「悪い。話す。話すから……」

「ゆっくりでいいよ。昨日、あんなに嫌がってたのにわざわざ見せようとしてくれてるってことは、それだけの何かがあるんでしょう?」


 なんだ。なんなんだ。この、奏弥寺という人間は。

 鬱陶しいくらいにふざけたことばかり言ってくるのに、どうしてこういう時はそんな、そんなに優しい声で話してくるんだ。


「……」


 拳を握る。背中を嫌な汗が伝う。


「笑わないでほしい」

「うん」

「憐れまないでほしい」

「うん」


 椅子から立ち上がって、奏弥寺と向き合う。


「私は、ありのままの剛君を知れたら嬉しいよ」

「……っ!」


 力を解放する。一瞬だけ身体が熱くなって、すぐに戻る。


「……」


 もう、角は出ているはずだ。目の前に立つ奏弥寺はそれを見ているはず。なのに、なにも言わない。俺が色無しなことに驚いて、何も言えないのか。


「……ね」

「え?」

「黒、かっこいいね。似合ってるよ」

「……!」


 何を、ふざけたことを。俺がどれだけ悩んでるかなんて知らないだろう。分からないだろう。だから、そんな呑気なことが言えるんだ。

 怒りのままに奏弥寺に言葉を浴びせようと顔を上げる。


「……っ⁉」

 目に飛び込んできたのは、優しい目で俺の角を見つめる奏弥寺の姿だった。その姿を見て、頭に上っていた血が引いて行くのを感じた。

 大きく息を吸い込んで、心を何とか落ち着かせる。


「……奏弥寺がどこまで鬼の生態に詳しいか知らないけど、普通は13歳までにはこの角に色がつく。だけど、見ての通り、俺はこの歳まで色無しだ」

「……らしいね、一応初等部の時に習ったよ。どこまで正しい内容なのかは知らないけど」

「……驚かないのか?」


 俺の言葉に、奏弥寺は少し悩む素振りを見せた。


「驚く……。うーん……。剛君にとって嫌な言い方になったらごめんだけど、角の色に対しては特に。私はどっちかと言うと、剛君の霊力の高さに驚いてるよ」

「それ、昨日も言ってたな」

「だって、本当のことだから。剛君は気付いてなかったの?自分は他の鬼より強いなーとか思ったことなかった?」


 そんなことを言われても、誰かの前で鬼化なんてしてこなかったから、比較のしようがない。

 生徒が鬼だけだった小・中学生時代。体育の授業は鬼化して受けるのが当たり前だった。走る、泳ぐ、投げる、飛ぶ。体育で行う色んな動作を鬼化した状態で行うことで、力の加減やらを学ぶためらしい。

 最初は普通に、鬼化した状態で授業を受けていた。だけど、周りのみんなが色を発現し始めて、俺にその兆しがないことを察したあたりからは、鬼化せずに生身で授業を受けるようになった。この黒色の角を見られるのが、嫌だったから。


「ずっと他の奴の前では鬼化していなかったから、わからないな。いつまでたっても色無しの俺なんて、能無しでしかないと思っていたし」

「……そっか」


 奏弥寺が黙って何かを考え始めた。俺の告白にどう返すのかを考えているのか、それとも全く別のことなのか。

 本題を切り出しても良かったけど、奏弥寺の言葉を待つことにした。バカにするでもなく、憐れむでもない、俺のためになる何かを考えてくれているような気がしたから。


「……昨日」


 静かな部屋に、奏弥寺の声が小さく響いた。


「剛君を捕まえたじゃない?私の能力で。私たちはあれ、霊糸って呼んでるんだけど」

「ああ。捕まえられたな。見事に」

「あれ、私の全力は出してなかったんだよね。……50%くらいの霊力で作ったと思ってもらえればいいかな」


 こっちが全力で引っ張ってもびくともしなかったあれが、50%。もしかすると、本当はもっと低い可能性すらある。昨日、圧倒的な力の差を感じていたというのに、全力じゃなかったのか。


「すごいな。それを聞いて少し怖くなったぞ」

「うっ……。好きな人に怖がられるのは悲しい…」

「……それは、なんか、悪かったな」


 気まずくなって、頭をかく。


「仕方ないからいいんだけど……。うん。それで、昨日くらいの霊糸なら、剛君が鬼化した状態だったら多分普通に切れたと思うよ」

「……いや、無理だろ。全く切れる気配なかったし」

「試してみる?」


 そう言うと奏弥寺は自分の髪の毛を指で梳き始めた。


「本当は剛君には見せたくなかったんだけど……。でも、剛君も私に角を見せてくれたわけだし……」

「嫌なら後ろ向いとこうか?」


 珍しく歯切れの悪い奏弥寺に提案する。

 そういえば昨日も、能力の発動方法については渋っていたな。


「う————ん」


 奏弥寺は髪を梳く手を止めた。その表情は眉を上げたり下げたり、忙しなくどこかのパーツが動いている。相当悩んでいるようだ。


「好きな人に見られるのは本当に嫌なんだけどなぁ。でも私だけ見せないって言うのはフェアじゃないもんね……」

「いや、フェアとか別に気にしなくても」


 俺のに関しては、俺の目的を果たすために見せた方が早いと考えただけで、別に奏弥寺に強制されたわけではない。

 それに、見られたくないものを見せるのに、勇気と覚悟がいることは身に染みて分かっている。奏弥寺がどうやって能力を発動するのかを見たい気持ちはあるけど、だからといって無理をさせたいわけじゃない。


「……剛君」

「うん」

「何を見ても引かないって約束してくれる?」


 上目遣いでそんなことを言われて、思わず後ずさる。


「ああ……。約束する」


 心臓がうるさい。奏弥寺のさっきの顔が可愛かったから、というわけじゃない。

 これは、そう。奏弥寺の緊張が俺に移っただけだ。


「うぅ……」


 今にも泣きだしそうな顔の奏弥寺を見て、申し訳ない気持ちが強くなってきた。

 奏弥寺はああ言っていたけど、俺が勝手に目をつぶってしまえば——…。


「⁉」


 俺が迷っている間に、奏弥寺はすでに行動を起こしていた。

 さっきまで梳いていた手で、その髪を、1本抜いていた。

 細すぎてよく見なければ分からないけど、その指には確かに1本、髪の毛が摘ままれている。

 突然何を始めたのか分からず、その髪を見つめたまま動けなくなってしまう。すると、見つめていたはずの髪が一瞬で半透明の糸になった。何が起こったのかはわからない。本当に突然変わってしまった。


「……あの糸は、こうやってできてます」


 顔を真っ赤にした奏弥寺が、俺の方を見ることなくそう言った。


「髪の毛……なのか」

「私はね……。人によっては眉毛とか、髭とか……。あぁ……やだぁ」


 奏弥寺は今にも泣きだしそうだ。

 驚きはしたけど、引くようなことじゃなかったと思う。驚きはしたけど。だから、どうしてそこまで奏弥寺が落ち込んでいるのかが分からない。


「俺は、引いてない。き、気にするなよ奏弥寺」


 どう声をかければいいのかわからなくて、変な日本語になってしまう。


「本当?あのね、誤解しないでほしいんだけど、好きで抜いているわけじゃないの。それは分かって!」

「あ、ああ。大丈夫。分かったから」


 奏弥寺がすごい勢いで詰め寄ってきた。必死なのが顔から伝わってくる。それだけ無理をしてくれたってことなんだろう。

 それはいい。それはいんだけど。その右手に捕まれている霊糸が、今にも俺に向かって絡まってきそうで若干怖い。


「はあ……。髪の毛、サラサラの方が可愛いからお手入れ頑張ってるのに。自分で抜かなきゃいけないの、本当に……。もう……。うぅ……」


 声がどんどん小さくなって、最後には聞こえなくなった。

 奏弥寺が近付いてきたせいで、目線を下ろせばすぐそこに奏弥寺の頭がある。本人が言うように、確かに髪はサラサラだし、部屋の電気を受けてキラキラと輝いている。これを容赦なく抜かないといけないのは、確かに辛いのかもしれない。

 髪を抜くのって、地味に痛いし。


「大変なんだな」

「うん、そうなの。従妹のお兄ちゃんなんて、眉毛抜きまくってて生えてこなくなっちゃって……。わ、私も将来、そうなるんじゃないかって…」


 俺を見上げてくる目に涙が溜まっている。女子には深刻な問題なんだろう。


「そ、それは心配だな……」

「うぅ……」


 慰めようとして、奏弥寺の頭を撫でようと手を伸ばす。だけど、頭の上でその手を止めた。さすがにこれは良くないか。セクハラとか言われかねない。しかも、この狭い部屋に2人だ。俺は何も弁明できない状況だ。


「そ、奏弥寺……それより……」


 顔の横を霊糸が漂う。もはやいつ俺の顔に絡まってきてもおかしくない。


「あ……ごめん。そうだった」


 奏弥寺が霊糸の存在を思い出したのか、数歩下がって俺との距離をとる。


「それ、ずっとそのままにできるのか?」

「これだったらそうだね、ずっとできるかも。私たちも鬼と一緒でずっと霊力を纏ってて、これはそれに反応しているだけだから。——そうだ!」


 奏弥寺が右手を俺に差し出してくる。そこにはゆらゆらと揺れる、半透明な糸。


「今くらいなら、簡単に切れると思うよ。鬼化してなくても切れるくらいだと思うし」

「……」


 言われるがまま、霊糸に手を伸ばす。両手で糸を掴んで引っ張ると、それはあっけなく切れた。


「切った感じすらしなかった」

「そうでしょ?じゃあ次。昨日と同じくらいの強さにするね」


 さっき切った霊糸が元々の長さに戻る。見た目はそれ以外には変わらない。よりはっきり見えるようになったとか、太くなったとか、そんな変化は一切ない。

 さっきと同じように両手で霊糸を掴む。少しだけ力を入れて引っ張ると、霊糸は簡単に切れた。


「……これ、本当に昨日のと同じ強さか?」


 昨日はあんなにも、どうにもできなかったのに。


「一緒だよ。ね?簡単に切れたでしょ?ちなみに、昨日あの3人組を捕まえてたのも、さっきのと同じくらいの強さだったよ。身動き一つ取れなくなってたけどね」

「嘘だろ……」


 手のひらに残っている、千切れた霊糸を見る。元々半透明の霊糸は、時間が経つにつれてどんどん薄くなっていき、最後は消えてなくなった。

 信じられない。信じられるわけがない。ずっと自分は落ちこぼれだと思っていた。いや、この瞬間にもそう思っている。


「私が見せられるのはここまで!本当はもっと強いのも試してもらいたいんだけどね」

「ダメなのか?」

「だめだめ!ちょっとくらいミステリアスな方が魅力的でしょ?だから、全部は見せてあげない」


 ミステリアス――とは違うとは思うけど。


「それにしても分からないな~。どうしてこんなに霊力が強いのに、鬼化していないときは全く感じないんだろう?」

「……俺は、単にまだ色無しだから、その霊力ってのが弱いのかと思っていたけど」

「そうじゃないんだよなぁ。だから不思議なんだけど」


 うーんと唸る奏弥寺。

 話の流れ的にも、そろそろ本題を切り出してもいいのかもしれない。


ゴールデンなウイークよ。終わらないでくれ…

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