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夜道の相談

読んでくださってありがとうございます!

頑張れー!とかの気持ちをリアクションしていただけますととても嬉しいです。やる気に満ち溢れます。

なにとぞよろしくお願いいたします。

「ほー!それはそれは、大変だったなぁ剛希」

「大変なんてもんじゃない。まじで疲れた」


 23時。外をぶらぶらと歩きながら、日向に今日の出来事を話していた。

帰宅途中の散歩が不運の始まりだったこと。奏弥寺と出会ったこと。そこで見たこと。そして、風紀委員の会室で起こった出来事を。


「そんで、本当に角は見られてないんだろうな?お前が一番隠したがっていたことは」

「ああ…。多分、大丈夫だと思う」


 奏弥寺はたくさんの鬼と対峙してきているはずだ。それこそ、関わった鬼の数は俺よりも多い可能性がある。

 そんな奏弥寺が、この歳まで色が無い俺を見れば、きっともっと驚いた反応をしていたはずだ。いや、確かに驚いていた気はするけど、それは角の色にという感じではなかった。

 なにより、奏弥寺は確実に後ろを向いていた。それに加えてあの部屋の扉に小窓はついていなかった。だから、仮に目隠しが不十分だったとしても、反射で見えたりはしていないはずだ。


「まあ、奏弥寺ちゃんならバレたとしても、別に変に言いふらしたりはしないと思うけどな。幼稚舎から一緒だけど、奏弥寺ちゃんが他人のことを面白おかしく言っているところは見たことも聞いたこともないし」

「そういう話じゃないんだよ。俺の…プライドの問題だ」


 そう言いながら、手に持っているビニールの袋を揺らす。中には見るも無残に破れてしまったあの制服のズボンが入っている。

 帰宅途中にコインランドリーに寄って放り込んできたズボンを、両親にはコンビニに行ってくると言って取りに来た。日向から電話の誘いがあったのは、ちょうどその帰り道でのことだった。


「このことだって、家族以外だと日向にしか言っていないんだ。他の奴らに知られたらバカにされたり、憐れまれたりするだろうから…」


 恥ずかしい。情けない。この3年間、ずっとそんな気持ちを抱えてきた。

 早い奴は10歳で色が決まる。日向だってそうだ。

 

「安心しろ親友。そんな奴がいたら、俺がぶっ飛ばしてやるよ」

「はっ。楽しみにしてるよ。もちろん俺もぶっ飛ばすから」


 日向のことは信用している。ふざけた奴だけど優しくて、約束を破るようなことはしない。だから、俺がいつまで経っても色無しであることを打ち明けた。14歳の誕生日を迎えてから半年が経った、雪の降る寒い夜だったのを覚えている。

 日向に初めて話した時、日向は別に俺をバカにもしなかったし、慰めもしなかった。ただ、いつものなんでもない会話をしているときにつく相槌と同じ温度で、「そうか」とだけ言ってくれた。それだけで、俺は少し救われた。

 ただ、誰よりも早く色が付いた日向には、俺のこの気持ちは分からない。どうしてもそう思ってしまう。考えれば考えるほど、孤独感と虚しさでいたたまれなくなった。

 日向には口が裂けても言えないけど。


「なあ、剛希」

「うん?」


 珍しく真面目なトーンで俺の名前を呼ぶ声に、袋を揺らす手を止めた。


「お前がそれを秘密にしたいことは、あの時からよく知っているつもりだ。だから、怒らないで聞いてほしいんだけど」

「そんな前振りをされると、怒りたくなるんだけど」

「怒らないで聞いてほしいんだけど!」


 そんな日向の声を聞くことは滅多にないから、少し緊張してしまう。それを誤魔化すように、日向の声を遮ってふざければ、さらに大きな声で止められてしまった。


「奏弥寺ちゃんに話したらどうだ?それ」

「……日向、俺の話聞いてなかったのか?」


 さっき、知られたくないという話をしたばかりだというのに、どうしてこんな意味の分からないことを言うのか。俺には全く理解できなかった。


「説明する。説明するから、声で圧をかけてくるのをやめてくれよ剛希くん」

「ちょうど外にいるから、今からお前の家に行ってもいいんだぞ」

「あ、寮に入れるのは22時までだから、今来ても入れないぞ」

「そっか、この4月から寮だったな」


 今までは家からの通いだった日向だけど、高等部——つまりこの春からは学園の寮で暮らすことにしたらしい。編入が決まった後、日向に一緒に寮に入らないかと誘われたけど、丁重にお断りさせていただいた。それを今、ほんの少しだけ後悔した。


「そ。だからとりあえずは落ち着いてオレの話を聞いてくれ。まずな、奏弥寺ちゃんは沢山の鬼と会っている。しかも、鬼の力を使って悪さをしている奴らと。つまりは、オレらみたいに大人しーくしている鬼じゃなくて、バッチバチに鬼化して、角生やしてる鬼を沢山見ているわけだ」


 それは間違いないだろう。鬼が鬼の力を使って何かの問題を起こしているからこそ、奏弥寺たち中庸捕縛隊が動かなければいけないんだから。


「だったら、もしかすると剛希みたいに色をもたない鬼も見たことがあるかもしれない。そう思わないか?」

「……」


 あり得るのか。その可能性も。

 仮に、俺みたいな色無しが希少ながらもいたとして、奏弥寺がそういう奴とすでに出会っていたとしたら、俺の角を見ても驚かないかもしれない。つまり、今日、風紀委員会室で仮にオレの角の色が見えていても、すでに知っている存在だったから驚かなかったという可能性も考えられるのか。


「可能性は否定できない…とは思う」

「だろう?そうなら、奏弥寺ちゃんに話せば何か協力してくれる可能性もある。オレ達が色々考えるよりも、よっぽど現実的に情報…少なくともヒントか何かは得られると思うんだけど」


 俺は、自分の色が欲しい。他のみんなと同じように、俺の個性と能力を表す色が。一日でも、一分一秒でも早く。

そのために、得られるものがあるかもしれないなら、日向の案に乗るのもアリなのかもしれない。


「だけど、そんな簡単に情報をくれると思うか?」

「はあ⁉本気で言ってるのか⁉」


 突然の大きな声に、思わず耳元からスマホを離す。離したスマホから、何を言っているのかは分からない日向の声が漏れて聞こえる。

 どれだけでかい声なんだ。


「お、おい。声がでかい。耳が壊れるかと思った」

「だってお前なぁ。ふざけたこと言ってるからだろ?奏弥寺ちゃんがあんな…あんな…。くそ!言わせんなよ!」


 さっきとは違う、悲痛な大声が聞こえてきたから、もう一度スマホを耳から離す。イヤホンじゃなくて良かったと心から思った。


「奏弥寺ちゃんは剛希のことが好きなんだろ?なら多分協力してくれるだろ。くそ!羨ましい。オレも奏弥寺ちゃんに好かれてみたかった。こんなに長い時間、共に育っているのに…!」


 スマホを耳から少し離して日向の話を聞く。とんでもなくくだらない内容だったから、マイクに拾われないくらいの小さなため息をついた。

 好意がなんだ。そんなことでは協力してくれるかなんてわからないだろう。だって奏弥寺は政府から直々に要請を受けて動いている中庸捕縛隊の1人なんだから。そんなに簡単に情報を喋ってくれたりなんか…。

 ——思い返せば、割と簡単に色んな話をしてくれた気がする。いや、でもそれは、俺が現場を見てしまったからなんだろうし、やっぱり好意とは別だろう。


「剛希、絶対奏弥寺ちゃんを幸せにしろよ」

「何の話だよ。…ったく。奏弥寺に話すっていうの、日向の言う通り、俺がただ悩んでいるよりも意味のある行動な気はする。だけど…やっぱりなあ」

「まあ、そこは剛希の判断に任せるよ。当然、オレが決められることじゃないし」


 それはそうだ。これは俺自身の問題だ。俺のことで、俺がどうするべきか、どうしたいのかを決める問題。


「多分だけど、明日奏弥寺がこっちの教室に来ると思う」

「え、まじで?」

「多分、明日だと思うけど。まあ、そのうち。その時までに考えておくよ」


 焦って決める必要はないと思う。だけど、行動するなら早い方がいい。絶対に。


「わかった。オレがいた方がいいなら、一緒に話するから」

「ああ。助かる」

「それじゃあ、また明日な。おやすみ~」

「ああ。また明日」


 電話を切る。

 日向の声がなくなって、周囲が静かなことに気付く。

それはそうか。平日の夜。しかも、日付が変わるまで、もう1時間を切っているわけだし。

 周りが静かなことは、今の俺にとって都合が良かった。考え事をするのには、これくらい静かな方が集中できる。


 俺が桜万木学園に編入したのは、より多くの人間や鬼と出会うためだった。俺と同じ色無しじゃなくても、また違った『特例』に出会えるかもしれないと思ったからだ。と言っても、これも日向が勧めてくれたことだったけど。

 仲間を見つけたいわけじゃない。俺はただ、どうして自分に色が発現しないのかを知って、日向たちと同じように、普通になりたいだけだ。だから、似たような状況の鬼の存在を見つけることができれば、何かの糸口になるんじゃないかと。そんな、藁にも縋る思いで編入した。

 そこに立ち返ると、やはり日向が言っていた案——奏弥寺に協力を求めてみるというのは、俺の目的達成の手段の一つとして何も間違っていないと思う。

 ただ、どうしても、俺が色無しであることを話すのは気が引ける。

 しかし、俺が『特例』の鬼について奏弥寺に聞けば、どうしてそれを知りたがるのかという理由を尋ねられるのは簡単に想像できる。誰でもどうしてか、と言うのは気になるところだろう。


「はぁー…」


 そういえばあの時、奏弥寺は気になることを言っていた。


『私が今まで出会ったどの鬼よりも、霊力が強かったから。』


 確かにそう言っていたはずだ。本当にそうなら、いまだに俺の角が黒色なのはおかしい。奏弥寺の霊力を感知できる力がどれほど精密なのかは分からないが、俺の霊力が強いなんて言ってしまうのは、信用できない要素になる。

 ただ、あの糸。奏弥寺の能力は本物だった。一度捕まれば逃げることができない半透明な糸。あれだけで、奏弥寺が多くの鬼と対峙する中庸捕縛隊として活動していることに疑いを持つ余地はなくなる。それほどまでに、圧倒的だった。


「仕方ないか…」


 ここはもう、腹を括るしかない。俺はもうとっくに、なりふり構っていられる状況じゃないんだから。


毎回ここに何を書けばいいのか悩んでいます。何書こうかな。

コインランドリーで洗った洗濯物って、なんだか温かい香りがしますよね。好きです。

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