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秘密

 初等部や中等部といった各区画は、学園内の外壁に沿って分けられている。そして、それぞれの区画に近い場所に正門が作られているらしい。

 高等部の門しか見たこともくぐったこともないが、大きくて荘厳な門だ。これと同じような門があと5つもあると思うと、少し怖さを感じる。


「あ!そうだ!」


 門をくぐったところで奏弥寺が大きな声を出す。

 その声に反応した他の生徒が俺たちを見て驚いた表情をした。最初はどうしてなのか分からなかったが、その生徒の視線を辿るとすぐにその理由が分かった。


「奏弥寺!いい加減に離せ!」


 奏弥寺が気を抜いている間に勢いよく腕を引き抜く。

 ここに来るまで特に抵抗もせず、腕を組まれたままだったから、今俺たちがどういう状態なのかをすっかり忘れていた。


「あ!もう…別にいいじゃん。さっきまで普通にしてくれてたのに」

「いや、よくないだろ。勘違いされる」

「私は勘違いされても良いっていうか、むしろ歓迎っていうか…。いや、もういっそのこと事実にしちゃえばいいんじゃないかな?」


 まるで名案を思いついたかのように、そんなふざけたことを提案してくる奏弥寺。

 ここまでくるとその前向きさに感心すらしてしまう。


「遠慮する」

「だめか~」


 奏弥寺は特に気にする様子もなく、早足で俺の前に出て、そして振り返った。

 その動きに合わせて奏弥寺の髪がなびく。


「ね、ベテラン奏弥寺芳乃がこの学園を案内してあげましょうか⁉生活に必須な場所から穴場スポットまで、剛君になら教えちゃうよ!」


 それは確かにありがたい提案だ。

 広すぎる敷地。色々見て回ろうにも迷子になるのは目に見えている。それに、俺みたいな奴が1人でうろうろしていると、幼稚舎や初等部の生徒を怖がらせてしまうかもしれない。

 そう思ってこの3日間は、1人では学園内を探索する気になれなかった。


「それはありがたい話だけど、先約があるんだ」

「先約…⁉クラスのお友達…?というか、剛君って何組なの?」

「質問が多いな…。オレは4組。友達っていうか…幼馴染がいて、そいつの勧めで編入してきたんだ」


 編入制度があると言っても、幼稚舎からの内部進学が半数以上を占める学園だ。編入説明会で編入者同士が同じクラスになるように分けるとの説明はあったけど、それでもやっぱり不安はあった。

 最終的に編入を決めることが出来たのは、その幼馴染の存在だったと言っても過言ではない。


「幼馴染いるんだ?え、誰だろう…?」

「1年だけで何人いると思ってるんだ…」


 説明会では1学年8クラスあると聞いている。1クラス30人だとすると、ざっと240人くらいいることになるわけで。その中から勘で俺の幼馴染を当てるなんてほぼ不可能だろう。


「さすがの私でも分からないな~。編入組の子じゃないってことは持ち上がりの子たちなんだろうけど…。うーん…」

「…諦めた方がいいと思うけど」

「えー。剛君のことならなんだって知りたいのに」


 奏弥寺は拗ねたように少し口を尖らせた。

 奏弥寺と話していて気が付かなかったけど、学園に着いた時よりも、周りにいる生徒が増えた気がする。もちろん単にこの門を利用しているだけの生徒もいるだろうけど、心なしかこちらを見ている気がする。

 もう、腕を組むなんて目立つことはしていないはずなのに。


「…目立つ奴だから、そのうちわかると思うけど。香遠日向(かえんひなた)って奴」

「え!香遠君⁉」


 奏弥寺は誰だと考える時間もなく、驚いた反応をした。

 日向はやっぱりどこでも目立つんだろう。

 日向は幼稚舎からこの学園に通っていたけど、放課後や休みの日なんかは俺たち近所の奴らを巻き込んで遊んでいた。俺の地元で日向のことを知らない奴も、嫌いな奴も見たことがない。


「なーに、呼んだー?」


 気の抜けた声。反射的にその声の主の方に顔を向ける。それは奏弥寺も同じだったようで、俺たちはほぼ同時に同じ方向に視線を向けていた。


「日向…」


 視線の先には、今まさに話をしている日向が立っていた。

 部活の最中なんだろう。バスケ部の練習着を着て、肩にはタオルをかけている。汗だってかいているんだろうに、そんなことを感じさせない爽やかな笑顔を浮かべている。


「やほー、剛希。いやー、まさか噂になってるのがお前だとは思わなかったわ」

「噂?」

「そ!難攻不落の奏弥寺ちゃんが、男と腕組んで歩いてたって噂になっててさ。どこの誰だと思って慌てて部活を抜け出してきたんだわ。そしたら相手がまさかの剛希だったなんて…。お前、やるなぁ…」


 最悪なことになった。

 そう思って奏弥寺を見ると、俺の絶望感とは対照的に、頬に手を当てて、嬉しそうな顔をしていた。どうしてそんな顔になるんだ。


「俺は何もしてないし。こいつとは…」


 こいつと言った瞬間、目の隅に捉えていた奏弥寺の姿が消えて、服の袖をグイっと掴まれる感覚がした。その力の先を見てみれば、想像通り、奏弥寺が不満そうな顔で俺を見ていた。


「~!奏弥寺と俺は何の関係もない。さっき偶然出会って、用事があってここに戻ってきただけで…」

「オレには隠さなくてもいいだろ。奏弥寺ちゃんの様子を見る感じ、何の関係もないとは思えないし」

「本当に何でもない。奏弥寺、このままだと面倒なことになりそうだから、そっちからもちゃんと否定してくれ」


 俺はこの学園で目立つことなく静かに学園生活を送りたい。もちろん、目立つ日向と一緒にいれば少しの間は目立つかもしれないけど、日向には友達も多いからすぐに俺の存在なんて気にならなくなるはずだと考えていた。

 それなのに、恐らくこっちも学園内でかなり目立つ存在なんであろう奏弥寺と噂にでもなってしまえば、静かな学園生活は程遠くなることは想像しやすかった。

 いや、現段階ですでに騒がれているわけだけど。それでもボヤは早いうちに鎮火しておくに限る。大きく燃え広がる前に。


「んー?私は別に良いって言ってるのに…。まあでも剛君が嫌なら仕方ないか…」

「ご、剛君⁉」


 奏弥寺は日向が俺に対する呼び方に驚いているのを気にも留めず、話を続けた。


「私が剛君に片思いしてて、それで今絶賛アピール中なの」

「おまっ…!なんでそんな余計なこと…!」

「だってそれが事実だもん」


 だもん、ではない。

 これだと鎮火どころか燃料投下にしかならない。燃え広がる一方だ。


「待て待て。待ってくれ。奏弥寺ちゃんが、剛希のことを…?」


 慌てる俺以上に慌てているのは日向だ。

 慌てた日向が俺に向かって突進してきて、肩を組まれてそのまま奏弥寺から距離を取るように引っ張られる。


「ちょ、今はそんなに時間がないから聞けないけど、ちゃんと全部話しろよ!そ、それより、奏弥寺ちゃんは知ってるのか?その…」


 日向の声が小さくなる。


「剛希が鬼だってこと…」

「ああ」

「知ってんのかよ!」


 急な大声に耳が痛む。

 日向から体を離そうとすると、強い力で引き戻される。

 さっきの声量に警戒していると、今度はさっきよりも小さな声が聞こえてきた。


「じゃ、じゃあ…あのことは…?」

「あのこと…?ああ…それはさすがに言ってない。言う必要もないしな。…でも」

「でも…?」


 奏弥寺は、鬼と人間の区別がつくと言っていた。どうやってかは分からないけど、それが事実なら、そのうちどうして俺が鬼と区別がつかないのかを追求される可能性がある。

 俺自身もちゃんと理由が分かっているわけじゃないけど、思いあたるものはある。だから、そこをしつこく聞かれてしまうと、いずれは俺の秘密をしられてしまうかもしれない。


「あの感じだと、近いうちに知られるかもしれない」

「マジかよ…。押し負けるなよ…」

「ねぇねぇ、いつまで仲間外れにする気?」

「「うわぁ!」」


 日向との話に夢中で、奏弥寺が近付いてきていることに全く気が付かなかった。


「だって、幼馴染としては色々気になるわけよ。というか幼馴染じゃなくても気になることだらけなんだよ。だって、ずっとモテてて、数えきれないくらいの生徒が玉砕。オレからの告白も断って、浮いた話一つ聞かないような奏弥寺ちゃんが片思いしてるなんて、簡単に信じられる話じゃないじゃん?」

「奏弥寺ってそんなに人気なのか。……?ていうかお前今、なんかすごいことさらっと言わなかったか⁉」


 今、奏弥寺に告白したって言ったか?それで奏弥寺はその告白を断ったと?


「こんなに可愛いんだぞ?そりゃあモテるだろ。ちなみに俺は幼稚舎、初等部、中等部で1回ずつ告って普通に振られた。高等部になった今、もう一度告ろうと思ってたところだ」

「そんな定期イベントみたいに…。ていうか日向、今彼女いるんじゃ…?」


 日向を嫌いな奴はいない。それに嘘はない。

 だけど、嫌いになる奴は多かった。と言っても、主に女子だけど。

 日向はとにかく女子が好きだ。鬼も人間も関係ない。とりあえず女子で、容姿が日向の好みであれば誰にでも告白するし、誰からの告白でも受けた。それこそ、その時に付き合っている恋人がいてもだ。

 そんな調子だったから女子同士でのトラブルが後を絶たなかった。俺自身も日向の居場所を聞かれたり、日向の悪口を何時間も聞かされたりと最悪な巻き込まれ方をしたこともある。

 日向は陽気で気配りもできて面白い奴だけど、恋愛面においては本当に最低だと思っている。


「剛希に惚れるってのはマジで見る目あるなって感心すらするけど…。でも、大丈夫なのか?奏弥寺が鬼を…なんて」

「あはは。自分は告白してきたのに、不思議なことを言うんだね」

「いやー、それはまあ、だめで元々というかさ…」


 日向が奏弥寺に押されている。珍しい光景を見た。


「それじゃあそろそろいいかな?私たち用事があるんだ。香遠君も部活に戻らなきゃいけないんじゃないの?」

「あ、そうだ!くっ!まだ聞きたいことだらけなのに!剛希、今日電話するから!」


 そう言うと、日向は走って行ってしまった。

 さすが運動部であり鬼だ。あっという間にその背中は小さくなって見えなくなってしまった。


「今って体験入部期間だもんね。確かにそれは忙しくて校内の案内なんてできないか」

「ああ。日向からは来週ならって言われてたから、それまでは下手に歩かないようにしている」

「だから、それなら私が案内するのに」


 これ以上奏弥寺と一緒に行動するわけにはいかない。

 奏弥寺が目立つ存在だということは確定したし、そういう意味で人気なのも分かった。一緒にいるところを見られて、知らないところで恨みを買いたくもない。


「いや、やっぱりいいよ。気持ちだけもらっとく」

「え。私の気持ち、もらってくれるの?」


 それに、ずっとこんな調子で話されるのは疲れる。


「…制服だけ、早く新しいのが欲しいんだけど」

「あー、また無視だ。もう、しょうがないなぁ」


 何がしょうがないのかは分からないけど、歩き始めた奏弥寺の後ろを数歩離れて付いて行く。これ以上変な噂を広められないように、適度な距離を保つ。

 と、思っていたのに。

 奏弥寺は前を向いたまま後ろに下がってきて、あっという間に俺の隣を歩きはじめた。

 どうしてこうなるんだ。


「あ、履き替えてくるね」

「ああ」


 少し歩くと高等部用の昇降口に着いた。クラス別に靴箱が並べられていて、俺たちはそれぞれ自分のクラスの靴箱に向かう。

 奏弥寺が走っていく方向を盗み見ると、1組と2組の靴箱が並んでいる方に向かっているようだった。

 上履きに履き替えて、スニーカーを靴箱の下段に入れる。まだ新品で履きなれない上履きの踵を直しながら廊下まで行けば、奏弥寺が笑顔で待っていた。


「剛君は部活、入らないの?」

「…入らないつもりだ」

「種類も豊富だし、お試しでも入ってみたらいいのに。色んな人とか鬼とか、クラスメイト以外と関わるのも楽しいと思うよ」

「……」


 時間が惜しいから部活動はなしだと思っていたけど、奏弥寺の言うことにも一理ある。というか、俺の目的に合う行動な気がする。


「そういう奏弥寺は、なんか入ってるのか?」

「一応入ってるには入ってるよー?茶道部と新聞部。だけど風紀委員の仕事が忙しくて、全然顔は出せてないんだけどね」

「風紀委員?」


 初めて聞く言葉ではないけど、想像ができない。俺が通っていた学校では、風紀委員なんてものはなかったから。


「うん。この学園内の治安維持を目的に見回りとかしてるんだよ。とは言っても、そもそもここが共生と規律を重んじている学園だから、大きな揉め事とかは起こらないんだけどね」

「ふーん?さっきのも風紀委員の仕事だったのか?」

「あ、さっきのは違うよ。学園内の出来事は風紀委員として対処する。だけど学園外のことは、中庸捕縛隊としての活動なんだ」


 奏弥寺はつまらなさそうに答えた。


「中でも外でも、大変なんだな」

「あ、分かってくれる?やっぱり優しいね、剛君は」


 奏弥寺が嬉しそうに笑う。何も特別なことを言ったつもりはないのに。


「まあでも、仕方ないんだよね。奏弥寺って家に生まれちゃったからには。それにまあ…私、ちょっと特別なんだ」

「特別?」

「知りたい?」


 上目遣いで、少し怪しげに微笑む奏弥寺に見つめられる。

 この目を見続けてはいけないと、俺の身体の中を危険信号が駆けめぐる。

 何度だって言う。俺は容姿の美醜は分からない。世間一般で何がかっこいいとか可愛いとかされているのかはうっすらとは分かるけど、それに俺自身が拘ることはない。…拘ったことはないつもりだ。

 だけど、この奏弥寺という人間は。本人が言っていた通り、自分が可愛いということを自覚した上で、それをフル活用してくる。かなり危険だ。


「…いや、いい…」


 正直、気になるところではあった。

 奏弥寺という、武器を使わず鬼の対処ができる、恐らく人間の中では特別な存在。そんな特別な存在の中の、さらに特別な存在だと言うんだから気にならない訳がない。

 だけど、このまま奏弥寺にリードされるのは良くない。どんどん奏弥寺のペースに乗せられて、そのまま、俺が秘密にしたいことまで引き出されてしまいそうだから。


「えー?剛君なら教えてあげるのに。知りたくなったらいつでも聞いてきてね」

「…ああ。ありがとう」


 そういえば、一番気になっていたことを聞いていなかった。

 どう考えても不自然なあの糸のようなもの。


「それとは違うやつなんだけど、一つ聞いてもいいか?」

「うん!もちろん!ふふっ。剛君に興味を持ってもらえるの嬉しい」


 そう言って、本当に嬉しそうに笑う奏弥寺に調子が狂いそうになる。

 こんなに真っ直ぐ好意と言うか、感情を向けられてた経験があまりないから、どうしていいかがわからない。


「……あの糸みたいなやつ。あれは奏弥寺の家の能力なのか?」

「うん。そうだよ」

「…っ?」


 驚きで言葉がでなかった。

 政府から要請を受けて活動しているような家だ。その能力は国家機密扱いで、そう簡単には教えてくれないものだと思っていた。それなのに、奏弥寺は別に何でもない、今日の天気を答えるみたいな軽い調子で肯定の言葉を返してきた。


「そんな簡単に…。いいのか?」

「まあ、隠すことでもないからね。剛君には実際に見られちゃってるわけだし。あ、でも…」


 奏弥寺が、急に照れたように視線を泳がし始める。


「えっと…。私が能力を発動するところは見てないよね?」


 恥ずかしそうに、顔を赤らめながら見上げてくる。

 そんなに特別な何かをしていたんだろうか。

 

「ああ…。あの黒髪の奴に吹っ飛ばされて、戻ってきたらあの状況だったから見てないな」

「よかった~!」


 奏弥寺は安心したように大きな息を吐いた。

 さっきまでの余裕な表情とはまるで違う様子に、少しいたずら心がわいてくる。

 いや、いたずらというより、今までやられた分をやり返したい気持ちかもしれない。


「どうやって発動するんだ?」

「え?」


 わざと距離を詰めて、奏弥寺の目を見つめて質問する。

 奏弥寺はすぐに俺から目を逸らして、詰めた分の距離を後ずさる。もちろんそれを見逃すはずもなく、奏弥寺が下がった分だけ俺も足を動かす。


「ちょっと…剛君。ち、近い…」

「さっきの奏弥寺の方が近かっただろ」

「いやー…そんなことないと思うけど」


 さっきまで腕を組んでた奴が言うセリフじゃないと心の中でツッコんでおく。口に出すとそこから話を脱線される可能性があるから。今来ている俺の勢いを殺されるわけにはいかない。


「それで、どうやって発動するんだ?俺にならなんでも教えてくれるんじゃなかったのか?」

「なんでもなんて言ったかなぁ…?」


 …言われていないかもしれない。

 しかしそれは些細なことだ。


「教えてくれないのか?」

「うぅ…」


 真っ直ぐにその目を見つめると俯かれてしまった。だけど気にせず奏弥寺を見つめ続ける。数秒経つと奏弥寺が俺の方に視線を戻してきて、もう一度目が合う。


「あのね」

「うん」

「あんまり見られたくないし、知られたくないの」

「うん」


 短く返事をして奏弥寺の言葉を促す。


「難しいことをしてるわけじゃないし、言っちゃえば簡単でここでもできることなんだけど、色んな意味で嫌と言うか…」

「そうか」


 奏弥寺が自分の髪を手で梳きはじめる。

何の引っかかりもなく流れていく指に目を奪われる。俺のとは全然違う髪質なのが見ているだけで分かる。


「だ、だから、今度、使う機会があれば、その時教えるね」


 その使う機会とは、使わなければいけない対象が目の前にいる時ということになる。もう面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだけど、奏弥寺の能力はしっかり見ておきたい気持ちの方が強い。

 別に何をするでもない。本当にただの好奇心だけど。


「わかった。約束だ」

「う、うん。…やだなぁ…」


 しぶしぶでも承諾はしてくれるらしい。

 分かりやすくテンションが下がった奏弥寺が、俺に背を向けてトボトボと歩き始めた。その背中があまりにも情けなく丸まっているもんだから、少し申し訳なさを感じてしまう。


「奏弥寺」

「うん?」


 俺の呼びかけに奏弥寺が振り返る。


「悪かった。本当に嫌なら、無理にとは言わないから」

「……」


 奏弥寺は一瞬驚いた顔をした後、吹き出すように笑い始めた。


「あはは!剛君ってほんとに優しいね!大丈夫だよ、そんなに深刻な話じゃないし。…今のところは」

「そうか?」


 今のところはという言葉が気になるけど、それ以上の追求はしないことにした。

 俺だって聞かれたくないことがあるんだ。奏弥寺ももちろんそういうことの一つや二つはあるだろう。


「あ、購買もうちょっとだよ」


 前を歩く奏弥寺が小走りになる。遅れないように俺も少しだけ歩く速度を上げた。


押しが強い子が押されて弱くなるのっていいですよね。

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