鬼と人間
読みやすくなればと思い、ある程度の字数で章分けさせてもらいました!よろしくです!
「…これを見せられてそれは無理がある」
明らかに普通ではないのに、普通の女子高生を自称するその女子に捕らえられた3人の男たちに目を向ける。遠くからじゃわからなかったけど、近くで見るとその口にも半透明の糸が巻き付けられていた。
やけに静かだと思ったら、そもそも喋れる状態じゃなかったのか。
「桜万木の生徒なのに、私のこと知らないんだ?私もまだまだってことか~」
軽い口調でさして気にしていなさそうなのに、わざとらしく残念そうな顔をする。
真面目に答える気はないようだ。気になることは色々あるけど、これ以上は関わりたくない。
「あー!ちょっと待って!こいつら引き渡したら、ちゃんと話すから。ね?」
俺がその女子に背を向けた瞬間、腕を掴まれた。
「いや、いい。離してくれ」
「だめだめ。その制服も弁償してあげたいし。ちょっと待ってて?」
弁償?なんて聞く隙もなく、その女子はスマホで誰かと通話を始めた。
俺の腕をしっかりつかんだまま。
「そうそう。最近噂になってた奴らだと思うよ。うん。うん。とりあえず、人間に対して鬼の力を使ったから、現行犯逮捕ってことで。他のはじっくりと吐かせていけば…」
ん?
「おい」
自分の腕を引いて、通話中の女子の注意を向ける。
「ちょっと待ってって」
「ちょっと待つのはそっちだ。今の、俺のことか?」
「…?なにが?」
その女子がスマホから顔を離してこちらを見てくる。怪しむような、不思議なものを見るような目だ。
「今の、『人間に対して鬼の力を使った』って。俺に対しての話をしているのか?」
「そうだけど?」
それがどうしたのと言いたいのが伝わってくる顔と声。
「俺も鬼だけど」
「…え⁉」
目を丸くして、俺をじっと見つめてくる。頭の上から、首元まで。
他人にこんなにまじまじと見られることなんてないから、すごく居心地が悪い。
「えー…?」
目の前の女子は一通り俺の頭部を眺めた後、それでも納得が出来なかったのか、眉間にしわを寄せてさらに俺を観察し始める。
「見すぎ。やめてくれ」
居心地の悪さに顔を逸らす。
「…私、一応鬼と人間の区別はつくんだけど。君、鬼の感じが全然しないんだよね…。鬼だっていうんなら、今鬼化してみてくれる?」
「は?」
ふざけたことを言うなと言い返そうと視線を戻すと、真剣な目と目が合う。
さっきまでふざけていた奴だから信用はできないけど、今は真面目に言っているように見えた。
「…無理だ。校則で禁止されている」
「ああ!そうだったね。ごめん」
俺が通う桜万木学園は、日本で唯一鬼と人間が通う共学校だ。
全部の授業が一緒というわけではないが、クラスは鬼と人間が混合になっている。そんな学校が故に、共生のために鬼側にも、人間側にも厳格な校則がしかれている。その一つが、許可場所以外での鬼化の禁止。
「…嘘は言ってなさそうだから、一旦君の言うことを信じておくね」
そう言うと、その女子は再びスマホで通話を始めた。
「ごめんねー。ちょっと状況が変わったぽい。今回は鬼同士のトラブルだったみたいだから、鬼戒に引き渡しておいて。余罪は人間相手のはずだから、もちろんこっちも付いて行ってね。じゃあよろしくー」
通話を終えてスマホを制服にしまうと、その女子は笑顔で俺を見てきた。
「じゃあ行こうか」
「え?」
ぐいぐいと腕を引っ張られる。そんなに強い力じゃないけど、不意打ちだったせいで、引っ張られるがままに重心が動く。
「あいつら良いのか?」
「うん、仲間に場所は伝えたから。そこの角を曲がる頃には回収されてると思うよ」
仲間?どうしてそんなに早く来れる?
聞きたいことは色々あったけど、会話の主導権は完全に向こうにもたれていた。
「お礼がまだだったね。ありがとう。一生懸命守ろうとしてくれて」
「……」
あまり、気持ち良くない。
あの様子だと、きっとこの女子は1人で対処できたんだろう。
それなのに、俺は必死になって、ズボンもボロボロになってしまって。1人で騒いでバカみたいだ。
「私、奏弥寺芳乃。今はこんな制服着てるけど、君と同じ桜万木学園の生徒だよ」
奏弥寺…。聞いたことがある気がするけど、何で聞いたのかは思い出せない。
「君は?」
「…織島」
「下の名前は?」
なんでそこまで教えなきゃいけないんだ。
そう思って無言で対抗する。
「えー、教えてよ!」
「知ってどうするんだよ」
「呼ぶんだよ。ナントカ君って!」
楽しそうに笑う奏弥寺。何が楽しいのか、俺にはさっぱり分からない。
「苗字で呼べばいいだろ」
「下の名前で呼びたいの」
「なんでだよ。苗字でも会話に困らないだろ」
なんで?奏弥寺はそう呟いたあと、パッと目を輝かせた。
「気になるから、君のこと。知りたいの」
俺の目を真っ直ぐ見つめてくる奏弥寺の目が眩しくて、思わず目を細める。
なるほど。俺は人の容姿の美醜は分からないけど、奏弥寺が一般的に見て可愛い部類に入るというのは理解できる気がする。
肩につくぐらいの、少し色素の薄いさらさらの黒髪。ぱっちりと開かれた二重の丸い目。ゆるく弧を描くように端が上がった口。はっきりとした顔立ちだ。
でも、それはそれだ。
「知らなくていい。というか俺は知られたくない」
「こんな美少女が言ってるのに?」
奏弥寺は俺の腕を掴んでいない方の手で、ほっぺに手をあてた。
「自分で言うのか。そういうの」
「可愛いは自覚しておいた方がいいの。そっちの方が色々と楽だから」
何を言っているのか分からなかったけど、聞いたところできっと理解はできないだろうから、それ以上は追及しないことにした。
「それで?あんたは何者なんだ?あの糸みたいなやつはなんだ?」
「芳乃!それに、下の名前を教えてくれないと答えてあげない」
あまりの面倒くささに舌打ちが出そうになるのを、唇を噛んで我慢する。だけどそれだけじゃ抑えがきかなくて、大きく息を吐きだした。
「剛希」
「織島剛希くんか!かっこいい名前だね!じゃあ、剛君だ」
初対面なのに馴れ馴れしすぎないか。
「名前は教えた。だからあんた…奏弥寺が答える番だ」
「芳乃がいいのに…。まぁいいや。そのうち呼んでもらえれば。それにしても、剛君って本当に鬼なの?私の名前にも全然反応しないし」
「……。奏弥寺って名前は聞き覚えがあるけど、何だったかは思い出せない」
正直にそういえば、奏弥寺はキラキラの目をさらに輝かせた。
「ねぇねぇ、剛君。私が何者かーとか、あの糸が何か―とかを教える前に、2つ聞きたいんだけど」
「…あと2つもあるのか」
「いいじゃん、いいじゃん!ね、もし私が何の力もない、本当にただの女子高生だったとして、それでも鬼化せずに守ろうとしてくれた?3人の鬼を相手に?」
奏弥寺はずっと楽しそうだ。というより、なんだか嬉しそうにも見える。
「…俺は校則を破る気はない。だから、守るというよりは奏弥寺を連れて大通りに逃げるつもりだった。鬼だってだけで調子に乗ってる奴は気に食わない。なにより人間が無抵抗に傷つけられるのは気分が悪いから」
「そっか~」
俺の回答の何かに満足したのか、奏弥寺はにっこりと笑って何度も頷く。
「じゃあもう1つね!どうしてあのタイミングで自分が鬼だって言ったの?剛君からすると黙ってても良かったことじゃない?むしろ、鬼がこんなことになっているのを見たら黙っておく鬼の方が多いと思うんだけど」
奏弥寺の言葉を受けて、今も身動き一つ取れなさそうな3人の様子を窺う。
確かに、どうしてこうなっているのかは分からない。この状況で唯一分かることは、奏弥寺が『そうした』ということだけ。
「…鬼対鬼の暴力沙汰より鬼対人間の暴力沙汰の方が処罰が重いと聞いたことがある。奏弥寺から現行犯逮捕って言葉が聞こえたから、多分それ相応の機関に連絡していると思った。俺が人間だと勘違いされたせいであいつらの処罰が重くなるなら、それはそれで気分が悪いと思った。それだけだ」
そう答えると、奏弥寺は元々大きな目をさらに大きくさせた後、ふにゃりと気が抜けた笑顔になった。
「ねぇ、剛君」
「…なんだ」
「私と付き合ってよ」
は?
さっきから理解できないことしかない奏弥寺という人間だけど、ここに来て一番理解できないことを言い始めた。
「…どこに」
理解が出来なさ過ぎて、とりあえず古典的なボケで逃げようとする。
「あはは。そういうボケ方もするんだね。だけど違うよ。私と恋人になってほしいなーって。そういう意味の付き合ってってこと!」
人差し指をピンっと立てながら、得意げな顔でそんなことを言う奏弥寺。
「あんた…大丈夫か」
「ん?頭も体も大丈夫だよ!ばっちり!」
奏弥寺は立てていた人差し指に中指を加え、ピースサインを作る。
「大丈夫ならそれはそれで心配だな…。なに考えてんだ、あんた」
「あんたって呼ぶの禁止!百歩譲って苗字で許すから、ちゃんと名前で呼んで!」
「めんどくさ…」
思わず言葉に出てしまった。
「ひどーい!」
摑まれている腕がぶんぶんと振り回される。
本当に、なんなんだ。
「まあ、さっき会ったばっかりの人に告白されても意味わかんないよね。そりゃあそうだ」
自分で自分の発言に納得しているのか、頭を上下に動かして頷く奏弥寺。
「さっきまでの一連の流れでね、剛君のことかっこいいなー、好きだなーって思ったの。だから、付き合ってほしいって思った。それだけの話」
「……。意味がわからない。…それに、俺に相手がいたらどうするんだ」
「え⁉確かに!」
俺に言われるまで考えもしなかったんだろう。奏弥寺は分かりやすく驚いた後、焦った顔をした。
それはそれで失礼だと思うと同時に、墓穴を掘ってしまったことに気付いた。
「んー…いたとしても簡単には諦めたくないから、頑張るだけ頑張って奪う、かなぁ」
怪しげに笑う奏弥寺の表情を見て、背中に寒気が走る。
その顔がさっきまでと違って大人っぽくて、ほんの少しだけドキドキしてしまったのは本人には死んでも言わないけど。
「まるで女王様だな」
「あはは。あながち間違いでもないかも。そ、それで…、いるの?彼女…」
さっきまでの余裕の表情が嘘のように、今度は悲しそうな顔を俺に向けてくる。
「…はぁー」
頭をガシガシと掻く。
言うんじゃんなかった。余計な事。
「いない。もういいだろ。いい加減奏弥寺の話を聞かせてくれ」
「よかったー!これはこれは大チャンス!」
そんなくだらない、本当にくだらない話をしている間に、俺たちは路地の曲がり角まで来ていた。
体を少し捩って、3人が拘束されていた場所を見る。するとそこには、白い学ランのような服を着た人影が2つあった。
あれが、奏弥寺が言っていた仲間なんだろう。普通の人間には見えない。
「奏弥寺って名前だけで、結構な自己紹介のつもりだったんだけど。私たち、政府からの要請で悪い鬼を捕まえてるの。中庸捕縛隊なんて呼ぶ人もいるけど」
「中庸捕縛隊…。ああ…。通りで聞いたことあったわけだ」
小学生の時、授業でそんなことを習った気がする。
人間同士のいざこざを止めるのが『警察』。
鬼同士のいざこざを止めるのが『鬼戒』。
そして、人間と鬼のいざこざを止めるのが『中庸捕縛隊』。通称『ヨウバク』。
「こっちからすると、鬼が『聞いたことある』なんてレベルなのがびっくりだよ!他の鬼ならすぐに警戒して私と距離を取るのに」
「なんで警戒する必要があるんだ?人間に危害を加えなきゃ、別にどうもされないだろう?」
こっちが悪いことをしなければ、特に関わる必要もない組織だ。警戒する理由がない。
「そういうとこ、ほんと、すっごいかっこいい!この短い時間でもっと好きになっちゃった!」
「やめろ。くっつくな」
摑んでいるだけだった腕に、奏弥寺が抱き着いてくる。
離れるように腕を振るが、ケガをさせるわけにはいかないから、力を入れることができない。その結果、俺はただ愉快に腕を振っただけになってしまった。
「えー?嫌?」
じっと見つめてくる目に気圧される。これが顔の強さなのか。
「…はー…。いいから話を進めてくれ…」
動きにくくはあるけど、嫌だとはっきり言うほど嫌ではなかったし、何よりここで言い返すと話が進まないと思った。
「つれないなぁ。こんな美少女とくっついてるっていうのに。…でね、最近この辺りで人間に危害を加えている鬼がいるって情報があったの。女の子相手なら鬼の力をちらつかせて無理やり連れまわして、男の子相手なら容赦なくボコボコにする。そんなどうしようもない鬼たちの情報がね」
「…あいつら、発言からしても過激派っぽかった。鬼の力で人間を怖がらせて優越感に浸ってたんだろうな」
「だと思う。時代も変わって、人間に危害を加えることは禁止されてるっていうのにね」
鬼と人間の間には、明確な力の差がある。それは筋肉の差。鬼と人間が素手で闘えば、強靭な肉体を持つ鬼が負けることはあり得ない。絶対にだ。
そんな鬼が人間と共生する道を選んだのは、人間の知能と技術力に勝てなかったからだ。人間たちは鬼への対抗手段として、次々に武器を生み出した。鬼はその強靭な肉体を以てしても、人間が生み出した『銃』に勝つことができなかった。
「それで、その噂の鬼を炙り出すために、私が囮になって歩いてたの。思った通り引っかかってくれてよかった」
「…見つけたんだったら、さっさと捕まえればよかったんじゃないか?なんであんなに煽ったり様子を見ていたんだ」
お陰で俺のズボンはビリビリになってしまった。
「さっきも言ったように、私…奏弥寺の人間は鬼と人間を見分けることができる。だけど、その鬼が悪いことをしているかなんてわからない。だから、実際に鬼の力を使うまでは捕まえられないの」
だからってあんなに煽るのもどうかと思う。
「あ。煽ったのも半分は本気だけど半分はあの鬼たちの気質を見るためだよ。あれくらいの煽りですぐ鬼の力を使うようじゃ、そのうち事件を起こすだろうから」
「それはちょっと暴論すぎないか?」
それじゃあ、人間がわざと煽って鬼を挑発させればいいことになってしまう。さっきの奏弥寺みたいに。
「そうかな?鬼側からするとそうなのかもしれないね。だけどさ、残念なことに煽った煽られたって当事者以外には事実かどうかわからないんだよ。仮に録音してても、減刑には繋がるかもしれないけど、煽った人間を罪に問うことはできない。今の法律に煽り罪なんてないからね。これは人間同士でも同じことだけどさ」
確かに、言われてみればそうかと納得した。鬼も人間も同じで、結果だけで善悪の判断がされがちだ。
「それに、鬼が鬼の力を使って人を傷つけたなら、その証拠は残る。可哀想だけど、あれくらいの煽りはうまく受け流せないと、痛い目に合うのは鬼の方なんだよ」
少し、呆気にとられてしまった。
ずっとふざけた様子だった奏弥寺が、真面目な顔をしてそんな話をするから。
「ま、その辺は奏弥寺とか部下たちがしっかり調べて、基本的には注意だけで終わるんだけどね。だから、鬼の煽り耐性を確認することは、鬼たちが本当に犯罪者にならないように食い止める意味もあると思ってる。綺麗ごとかもしれないけど」
「…聞いといてあれだけど、難しいな」
「ね、難しいよね」
奏弥寺はそう言うと、真面目な顔を崩してふわりと笑った。
「ギリギリまで引っ張ったせいで、その…制服ダメにしちゃってごめんね。ちゃんと弁償するから」
「うん。それは正直助かる。まだ着始めて3日とかだし」
「あ、剛君て編入組なんだ⁉通りで学園内で見たことないなーと思ってたんだよね」
桜万木学園は幼稚舎から大学院までの国立一貫校だ。鬼、人間問わず幼稚舎からの持ち上がりの生徒が多いが、外部からの編入制度もある。
編入するためには編入試験に合格する必要がある。俺は運良く合格できたから、この春から晴れて桜万木学園の生徒になることができた。
「じゃあ私のことを知らなくても仕方ない、のかな。でも、もう覚えてくれたよね?」
何の邪気もないキラキラとした目で見つめられる。
奏弥寺はかなりやばい奴だと思う。初対面の俺に告白したり、異常なほど距離が近かったり。だけど、そんな奏弥寺を強く拒めないのは、俺に対して何の悪意も嘘もないのがその目から伝わってくるせいなんだろう。
「さすがに忘れられないな」
逆に、奏弥寺ほど濃いキャラの人間も滅多にいないだろう。
「やったー!嬉しい!」
幼い子供のように喜ぶ奏弥寺。心なしか、さっきまでよりも弾むように歩いている気がする。
「ところで、どこに向かってるんだ?こっちって学園の方だよな?」
「うん。学園内の購買か、最悪職員室に行けば制服を買えるから。だからもうちょっと我慢してね」
「学校で買えるのか…?制服が…?」
制服って、そういう専門の店で買うもんじゃないんだろうか。
そういえば、編入式の時にもらった園内マップに至る所に購買があった気がする。購買が多いと思ったけど、幼稚舎から大学院まである敷地の中なら、数が少ないと困るんだろうと思ってあまり気にしていなかったけど。
「そ!便利だよね。て言っても、全部の購買で買えるわけじゃないんだけどね。あと、制服を買うには店員さんに学生証を提示しなきゃいけないけど」
「購買によって買えるものが違うのか?」
「うん。ほとんど一緒なんだけどね。パンとかお弁当とか、文房具系はどこでも買えるよ。だけど制服とかちょっと特別なものは、6つしかない大きめの購買でしか売ってないの」
6つというと、幼稚舎、初等部、中等部、高等部、大学、大学院と同じ数だ。
頭の中で園内マップを広げる。
同じ敷地内ではあるものの、幼稚舎なら幼稚舎、初等部なら初等部と区分けがされていたはずだ。それなら、奏弥寺のいう大きめの購買と言うのは、それぞれの区画ごとに一つずつあるんだろう。
「て、思うでしょ?」
「⁉…な、にが…」
「6つなら、幼稚舎から大学院まででそれぞれ1つずつあるんだろうな~って考えてるんだろうなって。合ってる?」
怖い。なんで俺が今考えてることが分かるんだ。
「あはは。なんとなく、学園のこと思い出してそうな顔してるなって思っただけだよ」
「……。それで、違うのか?」
「あ、無視だ。てことは図星だったんだね。剛君は分かりやすいね」
そんなこと、生まれて一度も言われたことがなかった。それどころか、分かりにくいと言われる方が多くて、自分でも感情が表にでないと思っているくらいなのに。
奏弥寺の言葉には何も返さず、ただ黙って奏弥寺を見る。お世辞にもカッコいいとも優しいとも言えない顔をしているはずの俺を見て、奏弥寺は笑顔を深めた。
「指定の制服があるのは高等部までだから、大学と大学院の区画では制服は売ってないんだよ」
「それはそうか…。じゃあ残りの2つは?」
「幼稚舎と初等部だよ。幼稚舎は遊ぶのが仕事みたいなものだから、すぐに制服がダメになっちゃうの。初等部はそれプラス、6年もあると制服のサイズが合わなくなるからだね」
なるほど。俺は私服の小学校に通っていたから気にしたこともなかったけど、確かに制服だとその都度買い直す必要があるのか。それならすぐに制服を買える環境があった方がいいのは間違いない。
「奏弥寺は初等部からいるのか?」
「そうだよ。桜万木学園が創立された時から、人間と鬼の両方の見張りを兼ねて奏弥寺の人間の何人かは在籍するようになってるの。だから私ももう10年以上も学園にいるベテランだよ!」
そんな話をしている間に、学園の高等部の門にたどり着いた
かっこいい組織名が全く思い浮かばぬ




