運命の出会い
よろしくお願いします。
鬼。
古来から日本に生息している存在。
かつては人間と争っていたが、時代の変化に合わせるようにその関係も変わっていった。
現代において鬼は、人間と同じように規律を作り、それを守ることによって人間と共生している。
一部の鬼を除いては————。
◇◇◇
どうやら俺は道を間違えたらしい。
学校からの帰り道。まだ見慣れない学校の周辺を、少し散歩してから帰ろうと思っただけなのに。
「君可愛いね。俺たちと遊ばない~?楽しい場所知ってるんだけど」
細い路地で、俺と同い年くらいの3人の男が1人の女子を取り囲んでいる。
一人は黒髪で俺と同じくらいの背丈。あとの奴は黒髪で高身長の細身と、他二人よりも背が低い金髪。
制服じゃなく私服を着ている。大学生かもしれない。
女子の方は制服っぽいのを着ている。だけど、後ろ姿だし、この辺の制服事情に詳しいわけでもないからどこの生徒なのかはわからなかった。
「ん~、どうしようかな~」
俺が立っている位置からは、囲まれている女子の表情は見えない。だけど、聞こえてくる声は満更でもなさそうだ。
男たちに変に絡まれても困る。そう思って今来た道を引き返そうとした時だった。
「あなた達の顔、全然好みじゃないんだよね」
予想していなかった言葉に、思わず振り返ってしまった。
「なっ…!」
予想していなかったのは、囲んでいた男たちも一緒だったんだろう。肩を震わせて、分かりやすく苛立っている。その一方で、囲まれていた女子は何かを気にする素振りも見せず、俺が立っている方に振り返った。
一瞬、目が合った。
「この…!ちょっと見た目が良いからって、調子に乗るなよ!」
「その見た目だけで声をかけてきたのがあなた達じゃん」
後ろからの怒声をものともせず、さらに煽る。
男と女。3対1。正気じゃない。
「クソが!」
その女子が俺の横を通り過ぎる直前、普通の黒髪が走ってきて、女子を殴ろうと拳を勢いよく突き出した。しかも、後頭部目掛けて。
『パシッ』
それはさすがに良くない。
そう思うと同時に、俺はその拳を自分の手で受け止めていた。
「あ?なんだお前」
拳の力を弱めることなく、その男が睨んできた。
「…ただの通行人だけど」
やってしまった。面倒ごとは避けたかったのに。
こうなってしまえば、奴らの怒りの矛先が俺に向くのは間違いない。
「ただの通行人なら引っ込んでろよ!」
男が怒りに任せて大声で威嚇をしてくる。
「なんだなんだ?王子様気取りか?」
「ひゅー、かっこいいねぇお兄さん」
男の後ろから、お仲間の2人が近づいてきた。
口はニタニタといやらしく笑っているが、その目は俺への敵意を分かりやすく滲ませている。
「…そんなんじゃ。じゃあ、俺はこれで」
面倒ごとはごめんだ。俺はただ、呑気に散歩をしていただけなんだから。
「おいおい、つれねぇな。そっちの女が遊んでくれないって言うんで、代わりにあんたが遊んでくれよ」
俺と向き合ったまま、視線を一瞬だけ女子に向ける男。
同性から見てもなかなか迫力のある目だったけど、その女子は全く怯む様子もなく、静かに目の前の男を見つめていた。
「…生憎ですけど、用事があるので。とりあえず手を下ろしてくれませんか」
腕を上げたたままなのはさすがに疲れる。
それに、いつまでこの男と触れ合っていなければいけないんだろうか。
「余裕だねお兄さん。今の状況分かってる?」
細身の黒髪が楽しそうに笑う。
「オレ達のこと、舐めない方がいいよ。だってオレ達はさぁ…」
3人の纏う空気が変わる。肌にピリピリとした刺激を感じる。
これは…。
「おい、あんた!早く逃げろ!」
普通の黒髪の手を掴んで、隣に立つ女子を急かす。
だけどその女子は俺の言葉を無視して、そこに立ったまま男たちを見つめ続けていた。
「あれー?お兄さん、これから何が起こるか分かっちゃった?」
「こいつの制服見てみろよ。桜万木の生徒だろ」
金髪の言葉に、目の前の黒髪が反応する。
「あ~なるほど。じゃあ、学校内で見かけることもあるのかもね」
「つってもあそこは、能力の使用は一定の制限があるって聞いたことがある」
「あはは。じゃあ、ちゃんと教えてやらないとね」
握っている黒髪の男の手が、どんどん重くなっていく。さっきまでの力じゃ抑えることが出来なくて、足に力を込めてもズリズリと後ろに押されていく。
いよいよやばい。
「早く逃げろって!お前!何やってんだよ!」
俺の必死の叫びは完全に無視される。
怖くて動けないならわかる。だけど、隣に立つ女子の顔はそんなんじゃなくて。ただ淡々と、今目の前で起こっていることを観察しているようだった。
「ちっ」
ただ散歩をしていただけなのに、どうしてこんな面倒ごとに巻き込まれなくちゃいけないんだ。
「ちゃーんと覚えろよ。鬼様の怖さを」
目の前の黒髪が、凶悪な顔でにたりと笑った。
その瞬間。一気にそいつの拳が重くなって、気が付いた時には身体が後ろに吹っ飛んでいた。
『ザザザッ』
コンクリートの地面を何メートルか擦って、やっと飛ばされた勢いが落ち着く。
摩擦以外に身体に痛みはない。だけど、新品の制服のズボンがボロボロになってしまった。
「くそっ!」
制服へのダメージがショックだけど、それに落ち込むのは後だ。
今はとにかく、あの女子を連れて人通りの多い場所に逃げなければ。
さっきまでいたところに戻ろうと視線を前に向けた時。俺の目に、信じられない光景が映った。
角を生やした3人の男たちが、半透明の糸のようなものでぐるぐる巻きにされていた。
「なんだ、あれ」
さっき俺を吹っ飛ばした黒髪の男には黄色の角が。細身の男と金髪の男には赤色の角が頭に生えている。
男たちも何が起こったのか分からないのか、角と同じ色に変わった目を大きく見開いて、顔を見合わせていた。
俺が驚いたのはもちろん、男達に角が生えたことじゃない。半透明の糸の方だ。
そして、男たちの隣には、あの女子がさっきまでと変わらない様子で立っていた。
なぜか痛みはなかったが、俺が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。正面にいなかったとはいえ、あの女子が何事もなく立っていられるわけがない。
「…あんた、何者だ?まさか普通の人間…なんてふざけたことは言わないよな?」
警戒しながら近づく。
「え~?普通の女子高生だよ」
その女子が、俺の方に振り返った。
「人よりちょっと可愛くて、人よりちょっと強い、普通の女子高生です」
ピースとウインク付きで。
奏弥寺さんのキャラが自分でも気に入っています。もっと剛希とたくさんふざけ合わせたいです。




