第13話(^ω^)ジンジャーエールのようです
13 名前:以下、名無しにかわりまして日曜日夕がお送りします[sage]:2020/08/26(水) 21:00:00.00 ID:1399336
朝、地下牢で目が覚める。地下牢なのだから、朝の日差しなどという贅沢な光は存在しない。ベッドの下に取り付けた仄暗い間接照明を頼りに起き上がると、シーリングライトに灯りを点す。
外商から仕入れたこのライトは、照度を自在に調節出来る上に、電球色(オレンジっぽい光)と昼白色といった光の色も切り替えられる優れものだ。バーの開店時間でも無いので、とりあえずは昼白色にスイッチを入れる。昼白色というのは太陽に近い、自然な光だそうだ。
冷蔵庫から眠気覚ましのジンジャーエールを取り出して、瓶を傾ける。太陽か。そう言えばこの世界に来てから、人工的な光が照らす城の中で過ごしてきた。本物の太陽光など、もう随分と浴びていないな。外出が禁じられているのだから、仕方のないことだが。
空にした190mlリターナブル瓶をP箱に入れる。空き瓶でいっぱいになったそれは、まるで満員電車みたいだ。電車の場合はワンウェイだが……この皮肉はあまり上等ではないな。自嘲気味に鼻を鳴らすと、腹の虫も目が覚めたようだ。
地下牢を出て、食堂に向かい地上階まで上がる。ようやく窓から差し込む陽の光に触れることができる。それは、シーリングライトが放つ昼白色の光よりも、遥かに温かい、本物の光だ。あの太陽が本物だって、誰も証明など出来ないのだけれど。
■ 魔王城─一階回廊 ■
朝食がてら、溜まった空き瓶を回収してもらう為、ガチャガチャと音を立てながら箱を運んでいると、背中越しから聞き馴染みの声が聞こえてきた。
「よう、おっちゃん。おはようさん」(゜A゜*)
(^ω^)「ん?ああ、おはよ」
(゜A゜*)「なんやその箱?空き瓶?ゴミ捨て場はもっと向こうやで」
(^ω^)「いや、食堂で回収してもらうんだよ。
これリターナブル瓶だから中身詰め替えたらまた使えるし」
(゜A゜*)「へぇ~そういうもんがあるんか。
あ、これ全部ジンジャーエールか?酒でなしに?」
(^ω^)「割材で使うんだよ。あと個人的に好き。のーは?」
(゜A゜*)「ウチ、これダメなんよ。パチパチと辛くって喉が痛うなってな」
(^ω^)「それが良いんだよ」
(゜A゜*)「えぇ……おっちゃんマゾなんか?」
(^ω^)「お前の父ちゃんと一緒にすんなよ……ってアレ?
今日は二人居ないの?いつも朝飯は一緒じゃん」
(゜A゜*)「開発をはりきり過ぎて、お父が腰をいわしてもうてな。
ぎっくりといったらしい。お母はそれの看病や」
(^ω^)「ぎっくり腰は辛いなぁ……それで今日は一人って訳か?」
(゜A゜*)「せや。まぁ、でも丁度おっちゃんが居って良かったわ。
一緒に食べようや」
(^ω^)「うはwwwwwおkkkkwwwwwww幼女キタコレwwww」
(゜A゜*)「なんやそれ」
(^ω^)「持病の発作的な?」
(゜A゜*)「よう分からん持病やな……おっちゃんも、運動せんとアカンで。
お父のぎっくり腰の原因も運動不足らしいからな」
(^ω^)「たしかに俺も運動不足だけど、外には出られないし……」
「ちょっと待ったぁッ!!」(■Д■,)
(*゜A゜)(^ω^)「ん?」
「運動不足とは聞き捨てならねぇなッ!!」(■Д■,)
(^ω^)「……誰?」
「なんだ?俺の事を忘れたのか!?」(■Д■,)
(*゜A゜)「なんやエンちゃん。朝っぱらからサングラスして」
「四天王が一人、健康職人こと炎魔大将軍だッ!」(゜Д゜,)
「……ちょっと姫様、見栄くらいちゃんと切らせてくださいよ」(゜Д゜,;)
(*゜A゜)「知るかいな。まぁ、なんか用があるんやろ?
一緒に朝飯でも食うか?」
「あ、はい。ご一緒します」(゜Д゜,;)
■ 魔王城─総合市民体育館 ■
(,゜Д゜)「第1回! 魔王城の外に出られないようです!
チキチキ! 運動不足をなんとかしよう!
魔界VS異世界 球技対決~~~ッ!」
(^ω^)「一体何が始まろうというのか」
朝食を済ませると、二人は炎魔大将軍に連れられて体育館まで移動する。ロッカーで着替えを済ませ、運動服姿になった三人がホールの中央に集まると、彼は声高らかに宣言した。
(,゜Д゜)「魔王様がぎっくり腰になられたとのことで見舞いにきたのだが、
丁度姫様とお前の会話を聞いてな。運動不足は良くないぞ!」
(*゜A゜)「エンちゃんはアウトドアとか運動が大好きなんや」
(^ω^)「つまり俺達が運動不足だから、無理やり運動させようということか」
(,゜Д゜)「無理やりとは聞こえが悪いな」
(^ω^)「ほう。朝飯食べ終えた後、地下牢に帰ろうとする俺の首根っこを
掴んでここまで連れてきたのは無理やりではないと」
(,゜Д゜)「だが、抵抗してこなかっただろう」
(^ω^)「めっちゃ抵抗してたけど」
(,゜Д゜)「?蚊にでも刺されたと思ったぞ」
(^ω^)「その台詞をこんなところで聞くとは思わなんだわ」
(*゜A゜)「まぁ、おっちゃんもええやろ。エンちゃんかて善意でやってくれてん」
(^ω^)「……ま、久々に運動するのも悪くないけど」
(;^ω^)「と言うか、俺はここに居てもいいのか?魔王城の外に出るなって
言われてるんだけど」
(,゜Д゜)「問題ない。この市民体育館は魔王城に併設されているからな」
(^ω^)「魔王城の概念ガバガバだな」
(*゜A゜)「んで?球技っつっても何をやるんや?」
(^ω^)「3人で体育館で球技っていうと、テニス?バスケ?卓球とか?」
(,゜Д゜)「なんだそれは……?スポーツ……なのか?」
(*゜A゜)「聞いたこともない名前やなぁ……新しいスポーツ?」
(^ω^)「まさかの異世界人ムーブ。今までそんな事なかったじゃん」
(,゜Д゜)「まぁいい。今日やるのは『ゾルゲバブ』だ!」
(^ω^)「脅威の濁音率」
(*゜A゜)「おっゾルゲバブええやん!公園にピクニック行ったときとか、
よくお父とやっとったわ!」
(^ω^)「家族で過ごす休日の午後に潜んでいるのかゾルゲバブ。
一体どういう球技なん?」
(,゜Д゜)「分かった。知らないようだから、俺と姫様で手本を見せてやろう。
まず、使うものはこのラケットとボールだ」
(^ω^)「俺の知ってるテニスとよく似てるな……あ、でもボールはゴム製か。
ソフトテニス的な感じかな?」
(,゜Д゜)「それは知らんが、古代魔界では、このラケットを『ゾ』、
ボールを『ルゲバブ』と呼んだので、この名が付いたらしい」
(^ω^)「魔界の言語、ポケモン並の奇抜な進化遂げてんな」
(,゜Д゜)「まず、ゾルゲバブは縦横14Mのコートで行う。床に黄色いラインが入
っているだろう。これはゾルゲバブのコートを示しているんだ」
(^ω^)「あ、体育館のラインってそういう意味があったんだ」
(,゜Д゜)「次に先行後攻を決める。とりあえず、今回は俺が先行で」
(*゜A゜)「おっけー!しゃあこら!」
(,゜Д゜)「そしたらゲームスタート。俺がこのラケットでボールを打つ。
この時、必ず肩から下でボールを打たないといけない」
(^ω^)「ふむふむ」
(,゜Д゜)「そして、打ったボールは必ず相手の背の高さを超える必要がある。
超えられなかった場合、『ガガディレ』となり、後攻に2点入る。
バウンドせずにコートラインを超えても『ガガディレ』で2点」
(^ω^)「相変わらずの濁音率」
(^ω^)「濁音率ってなんだよ」
(*゜A゜)「んで、先攻が打ったボールを後攻が打ち返す。この時も、相手の
背を超えられなかったり、ラインを超えたら『ガガディレ』。
先攻に点が入るんや」
(^ω^)「ほうほう」
(*゜A゜)「こっからが大事や。後攻は打つ時、ボールを2回までバウンド
させても良いんよ」
(^ω^)「え?それじゃあバウンドさせたほうが良くない?
狙って打ちやすいし」
(,゜Д゜)「そこがミソだ。バウンドさせた回数によって、その攻撃時に自分が
『ガガディレ』した時に相手が得る点数が変わる。
バウンドさせなかった場合は1点。1回バウンドさせた場合は2点。
空振り、もしくは2回バウンドさせても『ガガディレ』だった場合は
なんと3点も相手に渡ってしまう」
(^ω^)「……覚えられるかなぁ?」
(*゜A゜)「んで、最初の持ち点が16点で、先に0点になった方の負けや」
(^ω^)「まさかの減点方式」
(,゜Д゜)「まぁ、他にも『ジャボ』、『ゴヂ5』、『ダガジグダガジグ』とか
細かいルールはあるんだけど、とりあえずやってみようか。
俺が審判やるから、プレイヤーは転生者と姫様で」
(*゜A゜)「おう!(意気揚々)」
(^ω^)「おう!(思考放棄)」
こうして、謎の球技『ゾルゲバブ』をプレイすることになった。ルールは訳が分からなかったが、やってみると存外面白い。しかし、というより予定調和か、(*゜A゜)と5ゲームを行い5ゲーム全てに負けてしまった。
最終ゲームを終え、ヘトヘトになりながら体育館の冷たい床に腰を下ろした自分。しかし、(*゜A゜)はまだまだ元気が余っているのだろう、休憩を取ることもなく、すぐに(,゜Д゜)と新しいゲームを始めた。二階の窓から差し込む日を下で、スポーツに興じる二人。息切れした頭でそれを眺めながら、ふと思った。
自分の敗北を運動不足の一言で片付けてしまうことは容易いが、彼女と自分の勝敗を分けたのは、それではなかった……「ひたむきさ」だ。ラケットがボールに届くかどうかの所で、諦めるか否か。相手がどの方向に打ってくるのか、よく観察して次の手を考える集中力。そう言った一途さが、彼女と比べて自分には決定的に足りなかったのだと思う。いや、かつては持っていたのだ。偽物の光の中で生きていく内に失っただけ。
喉が乾いた。あの辛いジンジャーエールが飲みたい。一気に飲み干してしまいたい。
■ 魔王城─食堂 ■
(^ω^)「いやぁ、久しぶりに白熱した戦いでしたね」
(*゜A゜)「おっちゃん全然動けてなかったけど……運動不足じゃしょうがないか」
(,゜Д゜)「はっはっは!運動は良いぞ!体力や筋肉はつくし、ストレスは減る。
健康にとって良いことしか無い!」
(^ω^)「腹は減るけどね」
(,゜Д゜)「その分飯は旨くなる!」
結局、交代しながら昼過ぎまでスポーツを楽しんだ三人は、軽くシャワーを浴びて、ランチの為に食堂へと来ていた。
(*゜A゜)「あ!今日の日替わりFランチ番茄炒蛋やん!ウチこれ好き!」
(^ω^)「へぇー魔王と同じやん」
「あ、アンタ!丁度良いところに!」J('ー`)し
(^ω^)「お。食堂のおばちゃんじゃん。どうしたん?」
「さっき業者さんがジンジャーエール持ってきたんだよ!
今、冷蔵庫で冷やしてるから、後で持ってって!」J('ー`)し
(^ω^)「おー、ありがとう!あ、今2本貰っていい?喉乾いてて」
「いいわよ。グラス要る?」J('ー`)し
(^ω^)「いや、瓶だけでいいや」
食堂のおばちゃんからジンジャーエールを受け取ると、(^ω^)は慣れた手付きで栓を抜いて、1本を(,゜Д゜)へ手渡す。
(^ω^)「ほい。運動の後はジンジャーエールだ」
(,゜Д゜)「いいのか?これってお前の店用なんだろ?」
(^ω^)「新しいスポーツもらったお礼だお」
(,゜Д゜)「お、そうか。ならばこちらもありがたく頂戴するとしよう」
すると、そのやり取りを眺めていた(*゜A゜)が、恨めしそうに目を吊り上げて訊ねてきた。
(*゜A゜)「……なんでウチの分が無いん?」
(^ω^)「いや。今朝ジンジャーエール苦手って言ってたじゃん。
無理やり飲ませたりしないって」
(*゜A゜)「……おばちゃーん!」
「なんだい?のーちゃん?」J('ー`)し
(*゜A゜)「ジンジャーエール!二人と同じの!」
「えぇっ……大丈夫かい?炭酸は苦手なんでしょ?」J('ー`;)し
(,゜Д゜)「姫様、ご無理は為されないほうが……」
(#゜A゜)「大丈夫!運動後の今のウチは、何でも美味しく頂ける腹になっとる!」
彼女は栓の抜かれた瓶を受け取ると、小さな注ぎ口から漂う白い気を見ながら、ゴクリと喉を鳴らす。
(*゜A゜)「それじゃ、飲むで……」
そう言うと、彼女は目を閉じて一息に瓶を傾ける!
(*゜A゜)「……」ゴクゴク、ゴ……
(;^ω^)「……」
(;゜Д゜)「……」
(*゜A゜)「……辛ッ!辛ッ!舌が、喉が焼けるッ!!」
(;^ω^)「言わんこっちゃない」
(;゜Д゜)「そもそも辛さを感じるのは腹じゃなくて口じゃないか?」
(*゜A゜)「それを先に言わんかい!」
→つづく
久しぶりの運動でQOLを上げた(^ω^)と、やっぱり炭酸は苦手だった(*゜A゜)!
しかし(^ω^)は気付いていなかった。運動不足の成人が急に運動をした翌日に訪れる、悪魔の存在に……ッ!
次回、(^ω^)「地味キャラは地味キャラというキャラ付けが為されている場合
真の意味での『地味』では無い」




