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40 王太子06

 40 王太子06




 能登には、各地の農民軍とくノ一部隊から選ばれた精鋭が移民してきた。

 表向きは、伯爵領は周王国の飛び地であるから、移民で間違いはない。

 まあ、建前は大事である。

 彼らは面識があるのかないのか、普通に一緒になって畑を作り、村々を作っていった。

 農民であり、大工であり、夫であり、妻であり、そして精鋭部隊であった。

 女たちは子供たちを連れてきているが、以前に一緒に暮らしていた男たちははどうしたんだろうか?

 良くわからなかったが、皆、新婚さんみたいで仲が良さそうだった。


 言い忘れていたが、越では商人も職人も、普通は村に所属する農民である。

 製造や輸送や販売も村長の指揮で行い、物売りなどは隠居の仕事にもなっている。

 それに、村の産物を販売するなら、仕入れる村に所属していないと商売にならない。

 直江津の繁華街は王府だから特別であり、どこの村でも地方税を払わずに店を出し商売ができるので、各村が名産品の店を出し、一方で他の村の名産品を購入している。

 お好み焼きの伯爵亭は黒部村のものだし、料理屋小鴨は鴨の産地である吉川村の所属である。


 ただし、丸越印の商館はすべて国営であり従業員は公務員である。

 扱うのは米などの穀物や酒、塩や醤油と味噌、油や缶詰、農機具やブーツなど国民の必需品ばかり、多岐にわたる。


 ブーツはひとり1足だけ国庫から支払われて無料である。

 越の風土病が破傷風?らしく、脚の怪我での死亡率が高かったので、ブーツだけは支給品とした。

 お陰で越の領民の死亡率が下がった。

 子供たちはサイズが合わなくなれば、各村々に修理した中古品のお下がりを用意してある。

 大人は履き潰した頃には新品を買えるだけの収入は得られる。

 生産は国策であり代官が各村に割り振っているが、当然、売上げに応じて金貨銀貨に換算して各村に還元する。


 市場は誰でもが売り買いでき、普通は村全体で売り買いするが、個人的にも販売可能だった。

 余剰穀物や野菜、スルメや切り干し大根や漬け物などの加工食品、手作りの日用品(竹細工とか木工品)などを売っている。

 薪や炭も市場で売られる。


 金儲けに関しての越領民の意識は次のとおりである。


『儲かれば新たな村が開拓できます。それで新たな移民たちを受け入れられます。仲間が増えると生産力が安定し、喜びも増えます』


 つまり、奴隷の亜人たちを助け、受け入れたいのだ。

 職人や商人としての才能は、村の宝でもあるが、同時に恵まれない移民たちの希望となっているのだった。

 彼らの殆どは、意識が奴隷から農奴へとシフトしただけだった。

 しかし、幸せそうである。


 勿論、例外もある。

 芝居小屋経営、びびん軒のようなレストラン、豆腐屋、クーリャの私営繊維工場や直江津ガラスなどの経営者は『独立商人』と呼ばれ、外国人と同じで治部の領事館の許可を受けて商売している。

 村と言う組織に縛られないからである。

 法人格と考えればいいだろう。

 特に貿易は、食料は当たり前だが、他の越の商品も戦略物資になり得るから注意が必要だ。

 国内では、売上げに応じて税がかかる。

 しかし、外国での売上げまでは調査できない。

 そこで、港から持ち出す越の物産に『関税』がかかる。

 但し、越国内での売上げには税がかからない。

 そこで、越国内で行商人をしながら金を貯めて、様々な産物を仕入れる外国人(主に獣人)も多く存在する。


 そうなると、ギイ王は直江津でラブホを経営している独立商人でもあるなあ。

 クーリャも独立商人に入るが、ちょっと規模が違いすぎる。

 布製品は商売と言うよりは産業であり、かなり特別だった。

 直江津を訪れた外国人が発する台詞セリフの第一位は『タオルはどこで売っているのか』という問いである。

 実は売ってないし、店もない。

 商品が届いたその場で売り切れてしまうので、店舗の必要がないのだ。

 今は、治部の領事館が注文を受け付けていて、少ない量でも1年(90日)待ちの状態である。

 予約しても独立商人の船一艘分(20石、約3トン)ぐらいだろう。

 高騰しないよう措置した結果であるが、国内需要もあるからである。

 仕入れて外国に持ち込めば、誰でも儲けることができるのだが、国内需要すらまかなえていないのが現状だった。

 縮緬えっちり、ベロアカーペット、ウールのセーター、女性用ストッキングなども、全然需要を満たしていない。

 しかし、金貨・銀貨を製造している俺を除けば、クーリャは既に世界一のお金持ちになっている。


「伯爵様のアイデアでしょう? 天竺木綿も豆満江羊毛も伯爵様が買い付けてきたのだから、儲けは全部、伯爵様のものよ」(クーリャ)

「作っているのはクーリャたちじゃないか」(俺)

「はあ、越王が一番貧乏だなんて信じてもらえないだろうな」(ギイ)

「ギイだって大工仕事の指導(設計)で儲けているではないですか」(吉川)

「世界一裕福な村々の代官だったやつが言うなよ」(ギイ)

「まあまあ、どうせ個人資産なんか使ってる暇は、誰にもないんですから、越銀の資本と思いましょうよ。亜人のための資金ですよ?」(マツ)

「そうなんだけどねえ」(ギイ)

「そうですね」(吉川)

「それもそうね」(クーリャ)

「頑張って働こう!」(俺)

「何となく、あなたには言われたくないね(わ)」(俺以外)


 そんな、心が通い合う会話が、以前の王宮でなされたこともあった。




 氷見には村長がいたが、能登開発のために吉川の幹部がひとり代官として派遣されてきて、七尾に代官所を開いた。(能登防衛司令部でもある)

 氷見村長は七尾代官の下に置かれ、一から指導されることになってしまい、困惑して年齢を理由に引退し、息子のひとりが後を継ぐことになった。

 今は、何故かひとりで刀削麺ダオシャオミエンの店を経営している。

 流石は、周国人の末裔であろうか。

 トッピングを工夫させたら、随分と儲かりそうだ。


 ちなみに、七尾代官はイナとイサの父親である。

 越軍では数少ない大佐だいすけであり、くノ一部隊の将軍が選ばれるまで、能登軍の司令官を兼務することになる。

 普通、大佐の下には少佐しょうすけが5人配置されるが、今はいない。

 各村が大きくなっていく過程で、良さそうな人物を推薦していくことだろう。

 精鋭を集めたから競争率は高いだろうが、嬉しい悲鳴だと思う。

 代官は、今は部下たちと一緒に木樵をやっている。

 周水軍が上陸してきてもいいように、防衛体制を築いているのだった。


 越海軍は、リーメが完成させた鋼鉄艦『のと』を試験航海させている。

 総排水量1万2千トン(約8万石)の巨大艦は、2基の蒸気タービンエンジンで15ノット近くを出し、改良された蒸気カタパルト砲6門は、銛以外にも好きなものを打ち出せる。

 カタパルト砲は船外に飛び出したクレーンみたいに見えるが、実際にはレールガンに近い感じである。

 根元の方の装填器には色々とオプションがあり、投擲機にも、銛撃ち機にも、射出機にもなるが、徹甲弾は作らずに、主に芥子玉を使用することにした。

 新型砲弾も作らせているが、小麦玉(粉じん爆発)、炭団たどん玉(焼夷弾の一種かな)、油玉(ナパーム、凶悪な代物である)など、どれも殺傷力が高すぎるので、脅し用にしか使えない。

 今、俺のアイデアで作っている新型弾は、多分、海戦でお目見えすることだろう。


 しかし、約2千年後の19世紀でないと作れないような代物ばかりだが、鋼鉄艦自体は大食らいなので、石炭を見つけないと燃料が大変なことになる。

 まあ、戦闘時以外はマストに帆を張って進む、どん亀になる。

 勿論、ボイラーに火を入れないとカタパルトも使えない。

 俺がリーメに言い忘れたせいで、蒸気を水に戻す復水器がないのも致命的で、真水を沢山消費する。

 今のところ、補給艦が随伴しても戦闘継続時間は2時間がいいところだろう。

 戦闘艦としては欠陥品である。

 ただし、失敗ではない。

 ある意味で実験艦であり、鋼鉄艦としては支障はないし、蒸気タービンも改良の余地があるとは言え、初期型としては大成功である。。

 その両方を、両立させようと焦った俺が悪いのである。


 あと、ギアボックスが上手く作れない。

 オートマとか、誰か原理を知らないかな?

 技術の積み重ねとは凄いものである。

 知ったかぶりでは、まねはできない。

 わかっていたけどね。


 しかし、2時間戦えるだけで、恐ろしい結果を出すだろう。

 2時間後は、他の小型艦艇を護衛艦として使い、港に戻ればいいと思う。


 準備が整うまでの間、王太子は大人しく酒を飲んで過ごしている。

 冬になる前に『えっちゅう』で厦門あもいに出発するが、それまでは暇なのだ。


『正直に言うと、ここに来るまで亜人は奴隷以外は知らなかったんだ。実際、奴隷らしい奴隷しか見たことなかったよ。でも、ここに来て驚いた。同じ人間と言うより、周の国民より魅力的だし、活気もある。周もこうした国にしたいね』

『もっと、本音っぽく語りしょうか』

『ああ、そうだね。酒は美味いし、食べ物は驚くほど美味で珍味で多様多彩だね。こうした環境だと、女の子も美味しくなるよねー、つんつん』

『きゃー!』


 ハギが被害に遭い、逃げていった。

 すでに、紋章ツンツンまで会得していた。

 しかも、王太子は『おっぱいツンツン』まで開発していた。

 下半身丸出しの世界では、盲点だった。

 全然、大人しくしてないじゃないか!

 クズでは敵わないと、正直に思った。


 まあ、王太子の言うとおりなのかもしれない。

 亜人たちは健康的だし、奴隷時代よりおっぱいは大きくなっている。

 正直、周に戻って戦争なんかしたくはないだろう。


 女たちは、どちらの陣営(王太子側も)も忙しくしている。

 氷見別邸も拡張工事が始まった。

 能登の開発資金は俺の資産で賄われる。

 毎年製造される金貨銀貨は、俺の個人資産と言うことになっているから、莫大な資産を持っているのだ。

 だが、吉川に言わせれば、越国全体が俺の個人資産なのだから、越の発展のためにもドンドン金銀を使わなくてはならないのだそうだ。


 まあ、派手に使っている。


 道路はすべて軍用道路だし、氷見と七尾には軍港としての需要を満たす最新の港を建設している。

 別邸は半分は石造りになり、新湊の鉄鋼産業地帯にはサッシを注文し、直江津ガラスには窓ガラスを注文した。


 モモには実家の陶磁器とは別に、レンガとタイルを焼く新会社を黒部に作らせて、外壁と水回り(特に風呂場だ)のタイル作りを始めさせた。

 釉薬うわぐすりの研究を続けさせるためにである。

 モモは不満そうだが。


 漆原には新たな接着剤の開発を頼んだ。

 妻を6人も独り占めして、漆器屋でぼんやりと過ごしていると聞きつけたからだ。

 漆の栽培も採取も、漆器作りも、妻たちの一族に任せきりらしい。

 羨ましいから、嫌がらせでもある。


 燕国の領事館長であるアシにも資金を送り、スパイを増やして情報収集をさせていた。

 燕王が遼東半島に夢中なので、釜山近郊は実質はアシが国王のようらしい。

 半島では古い歴史ある人間の部族「たつ人」とも接触していた。

 噂だが、辰人の族長の娘(17歳で処女?)をビビンバで釣り上げたらしい。

 気位が高く、高慢で贅沢なお姫様だったが、そのせいでお腹がパンパンに膨れて今にも死にそうだったが、アシの懐柔策により水を出してすっかり元気になったらしい。

 お腹は、その後ビビンバの食べ過ぎでパンパンに戻ったらしい。

 まあ、噂である。

 アシは越でも貴重な少佐しょうすけクラスの亜人3名(狸人、狐人、犬人)を諜報員として派遣し、穢狛わいはく鮮卑せんぴに賄賂を贈っている。

 亜人を越や豆満国に移民させるためである。

 釜山の代官は案外と食えない人物で、既に自分の一族と財産を長春辺りに送り込んで余国と遊牧民(主に鮮卑と烏桓)相手に商売を始めていた。

 国内だと燕王の一族とバッティングするから避けたのだろう。

 ちなみに、越ではウールの輸入先が長春である。


 ともかく、能登と越中には特需ができ、仕事を待っている新規移民たちが沢山来て働いている。

 最先端の仕事を覚えられるのでやる気が違うのだった。

 活気もあるし、子供たちにも仕事があるので、嬉しそうだった。

 各村から、開発特需を当て込んで出店も沢山出ていて、凄く賑やかでもある。

 氷見は、第三の直江津になるだろう、と噂されている。

 第二は、豆満江である。

 民需だが、釜山より派手に商売しているから、開発する亜人も増加する一方である。


 しかも、ギイはついに射水川に橋を架けることにして基礎工事を始めたから、能登、加賀、越中までが特需体勢に入ってしまった。

 基礎が全部石造りなので、山の村には石切場が幾つもできている。


 とは言え、人生は楽しいことばかりではない。

 ある日、黒部が現れて這いつくばった。


「何があったんだい?」

「それが…… ターチャ様がいなくなりました」

「いなくなった? 行方不明なの? 失踪なの?」

「昨日、捜索中の村のものから連絡が入りまして。実は…… 独立商人の船に乗り、どうやら豆満国に渡ってしまわれたそうです。誠に申し訳ありません」


 黒部はターチャの置き手紙を渡すと、そのまま這いつくばっていた。

 ターチャの置き手紙は、予想以上に美しい文字で書かれていた。



『お世話になっていながら、お礼も申し上げないで去ってしまうご無礼を、どうぞお許しください。


 ターチャは伯爵様のお世話に値する奴隷ではございません。

 けれど、幸せなお時間をいただいておりますと、こんな女でも日々、想いが募って参ります。

 薄汚い、薄汚れた奴隷の分際でと言い聞かせても、ターチャの女の部分は我が儘になるばかりです。

 せめて、息子イーゴリがいなかったらと、虚しい想いを抱く浅はかな女なのです。

 この上、伯爵様に恥とご迷惑をおかけしたくありませんので、ターチャは故郷に戻ることにいたしました。

 今、出て行かねば、二度とはできないでしょう。

 それほど、幸せな日々でございました。


 カーチャとミーチャは身内ではありませんが同族ですので可愛がっていただきますよう。


 それから、望まれなかった息子イーゴリではございますが、いつか伯爵様のお役に立てると思います。

 浅はかな女の勝手な思い込みかもしれませんが、祈るような気持ちで伯爵様に委ねます。

 この先のターチャの人生に付き合わせたくないと言う打算もございます。


 生まれて初めて言葉をお伝えしました。

 どうぞ、ご理解いただけますように。

 いつか、生まれ変わってお仕えいたします。



 命の恩人にして唯一のご主人様へ


      恩知らずの奴隷女 ターチャ』 



 一行一行、時には1フレーズで一日がかりのような筆づかいなのがわかった。

 性奴隷だったとは言え、狩猟民族出身で遊牧民に攫われた身分であり、奴隷商人が買い上げたわけでもないので、ターチャには教養などなかった。

 声を発することもできないのだ。

 それでも、これを残せたのは、カーチャやミーチャの勉強を見て、学んでいたからだろう。


 この世界の裏の設定を知っている俺には、ターチャが何をしようとしているのかが理解できた。

 女にはわかるものなのだろうか?


「黒部、いい加減、頭を上げろよ」

「ははぁ、責任を果たせず、申し訳ございません」

「別に軟禁しろと命令はしなかったよ。責任も何もないさ。それよりイーゴリは?」

「間もなく、村の者たちと一緒にご到着いたします。カーチャ様とミーチャ様もご一緒です」


 黒部はイーゴリくんが俺の息子だと思っているからなあ。

 いや、俺の息子だろう。

 命がけで恩返しをしようとターチャが考えているなら、そのことの是非はともかくとして、俺はイーゴリを守っていこうと思った。


「黒部、イーゴリたちを迎えに行こう」

「ははっ、ご一緒させていただきます」

「それから、別邸は完成させて、きちんと使えるようにしておいてくれよ」

「イーゴリ様が住まわれると?」

「いや、暫くはよそに移す。空き屋になるけど管理しておいてくれ」

「ははっ?」

「いつか、全員が戻ることになると思うよ。ターチャも、いつか戻って来るといいなあ」

「わ、わかりました。お任せください!」

「ターチャが幸せになることを、一緒に祈ろう」

「勿論でございます」


 黒部はその後、毎日のように別邸前で祈るようになったと言う。


 氷見邸前の広場は半分以上が資材置き場になっていた。

 木材や石材が所狭しと並べられている。

 港からの道路は基礎ができていて、既に馬車は走れる状態だった。

 付近は見渡す限りの範囲で、建築工事、土木工事、土壌改造工事が行われていて、越独特のタワー型クレーンがあちこちに立ち並び、村と言うよりは街を造っているように見えた。


 工事現場と建築資材の隙間で、何となく邸の門らしく見える場所に王太子がいた。

 イーゴリくんを高い高いして喜ばせている。


 まったく、体力がないくせに神出鬼没である。


「やあ、伯爵、遅いよ」

「飛んできたのですが」

「僕は早かったと言うより、早まったかもしれないね。君にこんな美形の子供たちがいるなら、もう少し待つべきだったかもね」

「イーゴリは息子ですからね」

「いやあ、美しさの前では、男女の差など些細なものに過ぎないような気がするよ」

「しかし、ひ弱な優男では、金と力は得られないかもしれないんですよ」

「いや、伯爵が与えてしまうだろうね」

「いえ、厳しく育てようかと」

「親ばか丸出しでかい?」


 王太子は苦笑すると、再びイーゴリを高い高いした。

 俺もつられて苦笑するしかなかった。


「お兄ちゃん」

「カーチャ、面倒をかけたね。うぉ」


 カーチャが抱きついてきたのだが、既に180センチを越える身長なので、俺が抱きかかえられるかのようだった。


「お兄ちゃん、カーチャたちはお兄ちゃんの側にいていいの?」

「勿論だよ、俺たちは家族なんだ」

「ミーチャもでしょうか、お兄様?」

「当たり前だよ」

「嬉しいです」


 ミーチャも、また背が伸びていた。

 ターチャはいなくなってしまったが、家族は残っている気がした。

 クズの家族にしては、美形揃いだったが……

 まあ、いいか。




 秋の終わりの月、つまり下の月の中旬に王太子主催の儀式があった。

 あちらで言うところの『結婚式』である。

 何しろ相手が周王国の姫であり、王太子の養女とは言え歴とした王族であるから、形式的にだが婚礼の儀が必要なのだった。

 俺も正式には周王国の伯爵だから、ウノとサララは伯爵妃になる。

 本当は俺も妃も王族だから『公爵』になるのだが、倭国領は『伯爵領』なので、役職名としては問題はなかった。

 王族以外なら気にするのだろうが、放逐されても領地を持っていれば『王子』であることには違いないのだ。

 むしろ、公爵となれば王族としては最高位で、王にはなれないことを意味している。

 まあ、普通は伯爵でも王にはなれないが、王子を伯爵とすると言うのは、仕事を与えたと言う意味でもあり、呼び戻す可能性もあるのだった。

 勿論、倭国に放逐された者が、生きて帰るとは誰も思っていないだけである。


 しかし、ユキナとモルは怒るだろうなあ。

 周王国の慣習しきたりでは、亜人や獣人が妃や夫人、そして最高位の皇后になることはできない。

 えちの記録ではユキナが皇后、モルが中宮であるが、周王国の正式記録では、個人奴隷と性奴隷にしかならないと思う。

 史書とか家系図に『女』とも書かれない。

 ウノとサララが伯爵妃であり、俺がえち公、えち王に昇格すると二人が公爵妃や王妃になる。

 仮に周王朝が滅んで、次の王朝が史書を編纂したときでも、ウノとサララしか実名は期されないだろう。


 だが、これは本当に周王国を倒すための政略結婚である。

 何しろ、王太子が反乱クーデター軍の首魁なのだ。

 一見、パッと見には継承権争いかもしれないが、勝てば周王朝ではなくなるだろう。

 俺が娘婿になって手助けするのだが、実際には越国の支援である。

 それに大呉いいくれ国も巻き込むのだし、何にせよ、亜人が参加するのだ。

 歴史の転換期になると思う。

 王太子がどこまで行けるかわからないが、もし仮に馬鹿勝ちして王になっても。亜人差別をなくしてくれればそれで十分だし、途中で斃れたり、限界が来たら更に梃子入れすればいい。

 今のところは、(金はかかるが)お互いにウインウインの関係である。


 新築の大ホールでは壇上に祭壇のようなものが設えてあり、その前で王太子が待っていた。

 観客は伯爵領の領民たちと越から来ている工事関係者や商人たちだった。

 越のVIPたちは、うるさいので呼んではいない。

 それでも観客はホールには入りきれずに、外にも大勢いた。


「倭国伯爵領、クズ伯爵様~」


 呼び出しの声を受け、俺は純白の羽織袴で王太子の前に進んだ。


「周王国王女ウノ姫様~、同じくサララ姫様~」


 ウノとサララが真っ赤の長衣に真っ赤の打掛に角隠し姿で現れると、観客から響めきがあがった。

 摺箔や縫箔の金模様の衣裳など、始めて見るからだろう。

 そう言えば、周は刺繍に優れた国である。

 王太子は媒酌人を兼ねているらしく、簡単な杯事を行った。


「越国姫、キリ様、ハギ様、ススキ様、ボタン様~」


 再び呼び出しの声があがり、純白の打掛に角隠しの4人が現れた。

 これも摺箔や縫箔の見事な衣裳だったが、打掛の前は大きく開き、そこから純白の短衣と上気した下半身がのぞいていた。

 こちらも見事なものだった。


 そうか、このせいでキリたちの機嫌が良かったんだな。

 やはり、女の子は結婚式が大好きな生き物だった。

 それも、国民で初となれば、嬉しいに決まっている。

(いや、本当にユキナたちを呼ばなくて正解だった)

 ウノとサララは俺の後ろに下がり、今度はキリたちと杯事をすることになった。

 キリたちは、越人としては、結婚式を挙げる初めての女になった。

 結婚制度はかなり曖昧な世界だったが、クズの紋章があるのだから、妻には違いなかった。

(これから、流行るのかな? 結婚式場を作ると儲かるかな?)

 俺は花嫁が知ったらどやされるようなことを考えていたが、花嫁たちは緊張していて、それどころではないようだった。


 しかし、主催者は王太子であり、そんな王太子のやることだから、その後は大宴会になり、俺たちは壇上の雛というか、酒の肴になっていた。

 王太子は観客の中を泳ぎ回り、酒を注いだり注がれたりしながら、主に人妻の下半身を触りまくりながら、結婚式の説明をしてまわっていた。

 これから次婚を迎える女たちが喜んでいた。

 うーん、男どもは金がかかることになりそうだ。


 宴もたけなわの頃、王太子が壇上に戻ってきて、俺は再び王太子の前に立たされることになった。

 いや、王太子に立たされるのは、ちょっと嫌だ。

 王太子は一度、緞帳の陰に引っ込むと金の輪を持って出てきた。

 観客から再び響めきがあがった。

 金の輪には、細い金鎖が繋がっていて、その先には金の首輪に繋がれた全裸美女がいたのだ。

 金の鎖は全部で5本。

 それぞれの先には、チュリさん、タミ、クミ、ユミ、スミの5人がいた。

 全員が全裸で、全員が鎖に繋がれ、全員が美しく色っぽかった。


「ええっ、王太子、これはっ?」


 王太子は俺にと言うよりは、観客に説明した。


「伯爵は、周王国の美女を5人購入した。何とあたいは一人金貨1千枚のだよ! 美女が5人で金貨5千枚だ!」

「うおおおー」

「良い領民の皆さんは、まねしないでね」

「うおおおおー」


 それから、5人とも杯事をして、俺の後ろには長衣と短衣と全裸の美女が並ぶことになった。


 花嫁は花嫁なんだろうな。

 しかし、儀式後は5人とも『奴隷紋』に変わった。

 これは次婚の時と同じ現象である。

 ただし、俺には紋章を変える能力スキルがあるから、暫くするとクズの紋章に変化するだろう。

 奴隷紋の最中に、浮気しなければなのだが……


 領民たちは何故か大喜びで、宴会はたけなわの中のたけなわに突入した。

 そんな表現があればだが。

 こんな時だったが、花嫁は誰もが美しかった。

 複数に対応する言葉がないのが、残念なくらいだった。


 王太子は満足すると、


「周が良い国になったら、みんなも遊びに来てくれ」


 などと言って出て行った。


 俺は慌てて、キリを臨時の花嫁長(そんな役職もないだろうが)に任命し、花嫁たちを邸に戻した。

 宴会は勝手に続いていくが、俺がいなくても続いていった。


 王太子は初めて会った時の丘の上で待っていた。

 侍女たちは脇の方に並んでいる。


「王太子、出発するんですか」

「うん、雪が降る前にと思ってね」

「途中で死んだりしませんよね」

「人生は、先のことなど誰にもわからないものだよ。でも、来た時より、今は遙かに生き残る確率が高くなった。伯爵のお陰だね」

「で、彼女たちはあれでいいのですか? 奴隷推奨みたいで困るんですが」

「君は解放者だろう? 好きにすればいいさ。ただ、後宮でしか生きて来れなかった者たちだから、相応の待遇は必要だと思うよ」

「彼女たちは王太子にとって、何だったんですか?」

「難しいね。愛人、友人、奴隷、実験体と何でも当てはまるし、どれでもないとも言える。ただ、もう彼女たちの口を封じる必要はなくなった」

「何故です?」

「致命的な欠陥の話をしたよね。実は彼女たちのしていたネックレスには毒薬が仕込まれていて、秘密を吐かされそうになったり、吐いたりしたら、その毒薬で死ぬ約束だったんだよ」

「彼女たちの命よりも重要なことだったんですか?」

「以前はそうだった」


 王太子は一瞬だが、顔をしかめた。


「実は、僕は子種がないんだ」

「確かなんですか?」

「うん、あの5人で実験した。チュリは一度奴隷にして貴族に預けた」


 妊娠するか試したのか!

 馬鹿げているが、周王国の王位継承権第1位じゃ、どんなことをしても確かめなければならなかったのだろう。

 それとも、諦めきれなかったのか?


「君には以前、どうして女は美しくなるのかと尋ねたよね」

「はい」

「答えは単純なんだ。子を産みたいからだよ。そして、産みたくても産めなければ更に美しくなる。やがては鬼になるのだろうねえ」


 王太子は傾き始めた日射しの中で、寒そうに身体をさすった。

 もう、本当にお別れなのだ。


「今では、恨まれてすらいる。君が子を授けて、女にしてあげてくれ。これはお願いではなく命令だよ。王族の子孫が沢山必要なんだ」


 確かに、叔父上が王になってから、王族は減るばかりである。

 そこに子種がない王太子では洒落にならないかもしれない。

 多分だが、王太子はあの5人を殺すつもりだったのだ。

 厩の王子は、そこを攻撃してくるだろうからだ。

 でも、気が変わったのだろう。


「僕には婿ができたし、戦いも見えてきた。もう、絶望する必要はないだろう。後を任せるものがいるのだから……」

「できることはやりますよ」

「それで十分だよ。婿殿、世話になった」


 王太子は侍女を連れて去って行った。

 最初と最後だけは王族のイケメンらしかった。




「さあ、奴隷は奴隷らしくしましょう」


 チュリさんが爽やかな笑顔でそんなことを言い出した。

 ここは俺の部屋の中だが、まだ、金の首輪をして金の鎖を下げている。

 暫くはこのままでいたいと言ったのは、こういうことなのかもしれない。

 ちなみに全裸である。


「でも、奴隷なんて、どうすれば良いのかしら?」

「そうね。まずは恥ずかしがり屋のユミは、ベッドの上で開脚のポーズよ。伯爵様がいる時はいつでもそうしていて」

「ふえっ?」

「タミは伯爵様のトイレのお世話担当ね。手と口でご奉仕してね。タオルで拭くなんて絶対に駄目よ」

「ええっ!」

「クミはテーブルの下で、伯爵様の足置きね」

「ひえっ!」

「スミは文句ばかり言うから、しゃべる時は必ず伯爵様のものを口に入れなさい」

「うひっ!」

「奴隷経験者の私の言うことは絶対よ! さあ、始めましょう」


 チュリさんはパンパンと手を叩くと、みんなをそれぞれのポジションに向かわせた。


「あのう、チュリさんはどうするんです?」


 俺が尋ねたのは、好奇心と言うよりは、怖いもの見たさみたいなものだった。


「勿論、伯爵様が出したくなったら受ける係です」

「ずるいわ」

「ずるい~」

「ずるいわよ」

「ふっふいはぁ」


 それでも、みんなチュリさんに従っていた。




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