息抜話 『山葡萄の味』
息抜話 『山葡萄の味』
黒部に本拠を構えてすぐの頃、俺は混乱していたせいか、本拠地の安全性が心配になり周辺地域を見回ることにした。
黒部邸はほぼ完成しているようだが、立地条件を知らない俺には、自然災害などが心配だったのだ。
特に黒部川上流地域の自然を知っておかないと、水害などが怖かったのが一番の理由である。
俺はリュックに詰め込めるだけの食料を詰め込み、毛皮のシュラフを上に載せ、鍋と水筒をぶら下げて黒部川の上流に向かった。
随行者は誰もいなくて一人きりの山登りに近かった。
出不精で引き籠もりの俺には珍しいことだった。
みんな忙しかったし、警護官などは選ばれていなかったから、どんな蛮行もまだ許されていたのかもしれない。
予想に反して、黒部川沿いの道路は途中で川から離れていき、分岐する度に荒れた山道になっていった。
道に迷い始めたのだった。
ただ、方向感覚は失わず、昼間は太陽の方向から、自分の位置のだいたいの見当がついた。
しかし、黒部川沿いに向かう道がなかった。
それでも、引き返すのは体力と相談しながらと考えて、山の獣道のように変貌した道なき道を進めるだけ進んできた。
もう、分岐点すらなかった。
どうやら鋲ケ岳らしき山であり、山の北側中腹が俺の体力の限界であり、折り返し地点に達した気がした。
それも、無人の地域に入って迷走してから、3日目のことである。
朝から歩き続けて、水筒の水が切れてしまったのだが、そこでやっときれいな沢を見つけた。
沢は両脇が岩場であり、滝と言うほどの傾斜はなかった。
幅は1メートルぐらいだろうか。
慎重に水を飲んでから、朝に作っておいた握り飯を食べて、手頃な岩を見つけて休息を取った。
米はまだ大量に残っていたが、帰り着くことを考えると、やはり体力が残っているここから引き返そうと思った。
期待していた農産物にも新たな収穫はなかった。
山葵は見つけたが、既に吉川が山葵田を作って増産しているので、ありがたみという意味ではそれほどありがたみはなかった。
実は握り飯と一緒に囓ってみて、野性の山葵にひいひい言ってしまった。
今度は醤油漬けにでもしてみよう。
充分に休憩してから、やはり帰ることにして、水筒に沢の水を補充した。
コポコポと時間がかかる竹筒を、沢の流れを利用して何本か満たしていると、目と鼻の先にある上流のへなちょこな一本杉の木陰に少女が現れた。
高低差は1メートルもなかった。
この世界では女はひと目でわかる。
それが例えペッタンコの少女でも、ひと目見ればわかる。
丸出しだからだ。
少女はこんなところに人がいるとは思っていなかったようだ。
全然、俺に気づいていない。
こんな人里から離れた山奥で、丸出しの法律を守る必要があるのかどうかわからなかったが、彼女は色白の羊人だったから移民である。
もし、現地人なら猿人だっただろう。
まあ、移民なら法律は守るかもしれない。
しかし、問題は少女の丸出しではなかった。
少女はへなちょこの木陰にしゃがむと、鼻歌を歌いながら沢に向かって排泄し始めたのだ。
いや、排泄も法律違反ではないし、問題ではない。
勿論、下から見上げる俺から丸見えなのも、一応、問題ではあるが問題はない。
そう、問題になるのは、俺が水筒を補充中だと言うことなのだ。
少しぐらい少女の排泄物が混ざっても平気な人は平気かもしれないが、俺は少女の水には敏感な方なので、排泄物はかなり気になる方である。
例え、それが処女のそれでもだ。
本当だぞ!
彼女の名誉のために一言添えて置くが、開脚はしていない。
してはいないが、下からは良く見える。
「おい!」
「うきゃーー」
誰もいないと信じていたのだろう、少女はもの凄く驚いて尻もちをついた。
驚いて一度は止まったのだが、少女は俺の顔を見ると、閉じた脚の間から再び流し始めた。
「いやぁ、見ないでぇー」
「いや、見てないから」
明らかに嘘だが、礼儀である。
衣食足りて冷静に見るである。
衣裳が足りなくて、良く見えるである。
本当はなんだっけ?
「あっち行ってー」
「しかしなあ」
「少しだけでいいから、あっち行ってて。お願い」
少女が泣き出したので、俺は3本目の水筒を放置して、暫く少女の前から消えることにした。
岩場を離れると森に近い林であり、暇つぶしにキノコなどを探してみたが、ベニテングダケ?のようなものしか見つからなかった。
しかし、少しだけって言ったのに、随分と長い時間待たされた。
既に逃走した後かもしれない。
まあ、こんな山奥で男と遭遇したら、女の子は逃げの一手だろう。
最悪、3本目の水筒を取り返せればいいのだが、3本目は少女の排泄物が染みこんでいるような気がして仕方がないだろうな。
いや、別に嬉しいわけではなく、気になるだけだ。
このような時は、知らない少女の場合と知っている少女の場合のどちらがいいのだろうか?
いや、どちらが興奮するかではなく、どちらがより抵抗が少ないかの話である。
本当だから、信じて!
「お、お待たせしました」
「おおっ、いや、別に待ってないぞ」
「そうですか?」
少女は、全身水浴びしてきれいにしてきたことがわかった。
髪まできれいにして、むさい感じを払拭している。
明るい茶髪で、瞳も同じ色だった。
肌は純白である。
両腕を後ろ手で組んで片足に体重をかけ、片足は軽く内股にして、可愛いポーズをとっていた。
勿論、紋章などない。
きっと恥ずかしくて無意識にポージングしているのだろう。
頬は染めているが、あざとさは一欠片もなかった。
8歳ぐらいに見えるが、山の中にしては口調は丁寧であり、品性や教養があるように思えた。
何よりも、美少女である。
5年後、いや、3年後には、きっとほれぼれするような美少女になっていることだろう。
今でも、これほどなんだから。
これは俺の趣味ではなく、客観的な意見である。
俺の主観なら『超絶美少女』になるだろうとしか言いようがない。
多分、女中の中に入れても、目立つに違いない。
短めの貫頭衣とブーツは支給品の旧式である。
貧しい移民の娘なのだろう。
でも、貧しさに負けていない感じがする。
義理堅く、勇気もあるのかもしれない。
得体の知れない男に誠意を見せてくれている。
「実はキノコを探していたんだ。毒キノコらしきものしか見つからなかったけど」
「この辺りでは期待できませんね。あったなら私が先に採ってしまいます」
「ここは、君の縄張りかい?」
「いいえ、越はどこでも伯爵様の所有地です。でも、きっとこんな山奥なら、少しぐらい勝手をしても伯爵様は許してくれますよ。お優しい方ですから」
「伯爵ねえ」
「伯爵様です! 山奥でも敬意は払ってください」
叱られてしまった。
「はいはい、お許しください、伯爵様ー」
「心がこもっていませんよ、いい加減な人っぽいですね!」
「わかったよ。あんまり怒らないでくれよ」
「べ、別に怒っているわけではありません。伯爵様への最低限の礼儀です」
「そうか、君は伯爵様の知り合いなんだな」
「も、勿論です」
少女はちょっと胸を張った。
胸は全くなかったが、この年齢なら仕方がないだろう。
「へえ、凄いんだね」
「普通ですよ、普通。領民なんですから、ブーツも着物もいただきました」
「ケチくさい伯爵だな……」
「何か言いましたか?」
「そ、そうだね、凄いよね。ところで君の名前を聞いてもいいかい?」
「はい、チグサと申します」
「えっ、チブサ?」
「チブサ?」
少女は自分の胸を両手で揉むようにしてから、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「チ、チグサです!」
「おお、チグサだな」
「そうです、チグサです」
「ああ、チグサな。いい名前だね」
「もう、あなたはエッチですね」
「いや、俺の名前はエッチではない」
「じゃあ、何なんですか?」
「俺はク、いや、エッチかも」
名前を正直に名乗れなくなっていた。
クズでも拙いだろうな。
罵倒語だとしても、越では有名すぎる!
「そんな名前で恥ずかしくないんですか?」
「チブサだって充分に恥ずかしいだろ!」
「だから、私の名前はチグサです! 馬鹿! エッチ! 変態!」
確かに俺は馬鹿でエッチで変態だった。
思わず、吹き出してしまった。
「もう、子供だと思って馬鹿にしてるんですね! チグサはこれでも11歳なんですよ」
「11歳?」
「そうです。もう大人ですよ。驚いたでしょ?」
「ああ、ちょっと驚いた。胸が…… うほん、立派なレディだな」
「レディですか?」
「大人の女性のことをそう呼ぶんだ」
「そ、そうですよ。チグサはレディです」
「うん、チグサは麗しいレディだな」
「麗しい?」
「ああ、きれいな人って意味だな」
「き、きれい?」
チグサは真っ赤に染め上がった。
きれい、きれい、などとつぶやいている。
何か暫く帰ってきそうになかったので、俺は水筒を取りに戻ることにした。
チグサは後ろをふらふらしながらもついてきた。
俺がリュックを確認してから、沢で水筒を引き上げて確認してると、チグサに横取りされた。
「何するんだよ」
「こ、これは、まだ駄目です」
チグサは水筒をしきりに嗅いでいた。
沢に浸かっていたんだから、ニオイが残っているわけないだろう?
でも、女の子はいやなのかもしれない。
チグサは流れの強いところで水筒を空けると、念入りに洗い流していた。
「はい、これで大丈夫です」
「ありがとう」
俺はちょっと顔に近づけてみた。
「だ、駄目、嗅いじゃだめ!」
「いや、一口飲もうと思ってさ」
「の、飲んじゃ駄目!」
「これは水筒だぞ」
「で、でも、今はいや! ほら、他の水筒があるじゃないですか。それで飲んでください」
チグサが涙目で訴えてくるので、理不尽な話だが、今は従うことにした。
俺は4本目と5本目の水筒を沢で満たしてから、のどを潤した。
「そ、それで、あなたは誰なんですか?」
「気になるか?」
「はい。だって、人間族は珍しいですよね。越では普通は貴族様ですよ」
確かに、人間族は吉川の一族だけで、まあ、みんな重役だった。
優秀だからだけどな。
「着物は薄汚れているけど4枚重ねですよね」
「上の一枚は羽織といって、直江津の商人の間で流行っている上着なんだよ」
「では、商人なのですか? もしかして周王国人?」
チグサは焦って股間を隠した。
周王国では、亜人は奴隷扱いだからな。
最悪は奴隷商人である。
いや、最悪は首切り王である。
「ちがうから安心しろ! 俺は越の関係者だよ」
「で、でも……」
「柏崎にモトという人間族がいるだろ、それの友達でく、いや、クーと言う者だ。新しい農産物を探しているんだ」
「吉川のモト様ですか!」
「ああ、そうだ」
「あの、モト様の、お友達?」
チグサは這いつくばろうとしたので、腕を掴んでやめさせた。
「俺は別に偉い人ではない」
「で、でも、そんな!」
俺は既にチグサに三つも嘘をついていた。
伯爵だし、戸籍上は周王国人である。
しかも、名前はクズである。
いや、中身もクズなんだが、チグサも伯爵と知り合いみたいな嘘をついているから、この辺までは仕方がないだろう。
「俺はチグサとも友達なんだから、モトだってチグサと同じ立場だよ。普通でいいんだ、普通で」
「お友達? チグサが?」
「ああ、いやかい?」
「い、いいえ、お友達。いいですね、素敵です。チグサはクーさんのお友達ですね」
「もし、モトに会ったら、黒部のクーさんの友達だと言えば通じるからな」
「本当ですか!」
「本当だよ、友達に嘘はつかないさ」
「ああ、なんて素敵な出逢いなんでしょう! これもきっと伯爵様のお陰です」
「いや、伯爵関係ないからな」
「また、もう、伯爵様です!」
「ああ、伯爵様な」
「あぁ、いつかモト様にも会えるでしょうか?」
チグサはちょっとミーハーなのかもしれない。
だが、こんな山奥で暮らしていれば、多少はそうなることだろう。
「だけど、モトはエッチだぞ。チグサみたいな美人は会わない方がいいかもしれないなあ」
「び、美人ですか?」
「危ない危ない」
「も、モト様みたいな偉い人がチグサなんか欲しがりませんよ。それよりクーさんはどうなんですか」
「えっ、何の話だ?」
「だから、クーさんは、その、チグサみたいなのは……」
「おっぱいが大きくなるまでは、お友達かな」
「もう! 子供扱いして!」
チグサはプンプン怒っていたが、俺がリュックからサバイバル用の薄荷味と肉桂味と橙味の飴を取り出して渡すとご機嫌になった。
やはり、子供だった。
混ぜて食べて、美味しいのか?
それから暫く、この辺りの産物の話をして、その流れでチグサの家や家族の話になった。
チグサの両親は移民後に農家の研修を待たずに山に入って炭焼きを始めた。
炭は需要があったし、黒部の開発地から奥に入れば無人の山ばかりで、原材料は無尽蔵だった。
無認可だが、村に所属してない場所だから問題はない。
アイデアとしては悪くないのだが、市場に遠いというのは思ったより効率が悪かった。
片道二日をかけて人力で炭を売りに行っても、稼ぎには限界があった。
山に作った小さな畑では食べる分がやっとで、特に高級な米や油などを市場で手に入れると炭の売上げは僅かしか残らないと思う。
それでも、毎年黒部地域が拡張していくので、炭の需要は常にあったため、商売替えは考えられなかったのだろう。
食っていけないほど貧乏ではなかったが、商売としては大儲けできるほどの資金力はできなかった。
「折角、伯爵様に奴隷から解放していただいたのに、元奴隷では商売は難しいのでしょうか?」
「問題は道路だな」
「そうでしょうか?」
「馬車道があれば、今の10倍は儲かるだろうな」
「でも、馬車道なんて作るのに何十年もかかりますよ」
はあーと、チグサは大きなため息をついた。
意外と聡明な少女である。
「母様は奴隷でなくなり、毎日食べていければ充分に幸せだと言ってますが」
「チグサは不満なのか?」
「そうですね、文句を言ったら伯爵様に叱られそうですが、やはり人がいないのは少し寂しいです。こんな山奥ですからお客さんも来ないし、父様は炭焼きと売りに行くので殆ど家に帰ってこないし。そうだ、クーさんがお客さんとして家に来てください。母様も喜びます」
「えっ、でも迷惑だろ」
「そんなことありません。絶対に喜びます!」
俺は少し抵抗があったが、帰りの道と水の補給場所が教えてもらえるので、すぐに屈服した。
最低でも一日や二日は短縮して帰れるのはありがたかったのだ。
俺はチグサに手を引かれるようにして沢を渡り、1時間近くかけて獣道のような道未満の道を歩いて行った。
やがて、チグサの家の近くに来たようだった。
「家に帰る前に、おやつを一緒に採りましょう」
チグサの後についていくと、山裾の南西側に出たことがわかった。
俺が到達したのは鋲ケ岳の北側の山陰だったが、ここは西日が山肌に、直接、降り注いでいた。
「見てください。いっぱいあるでしょう?」
真っ白な肌のチグサが一面の紫色に取り囲まれていて、それは見事な光景だった。
ひょっとしたらだが、青春を演出できるのは少女だけで、男はそれを堪能できるかどうかだけなのかもしれない。
堪能ではなく官能か?
チグサが14歳とかだったら、速攻で……
ごほん、内緒である。
「これ、全部、山葡萄か?」
「そうです。珍しいでしょう? 食べきれないほどのおやつになるんですが、毎日では少し飽きてきました。市場で売れるといいのにな」
「何故、売れないんだ?」
「ええと、父様の話では、市場に着く頃にはしおれたり腐ったりして、半分も売り物にならないそうです」
炭のついでに担いでいくだけじゃ、量もたかがしれている。
樽に詰めても、担いで売りに行くのは大変だろうな。
しかし、はぁ、その樽詰めにして、ここの山葡萄の収穫量は何千か、何万樽になるのか?
「お前の父様はアホだ!」
「な、何でですか! 父様の悪口は許しませんよ!」
「この山葡萄の量は、商売ではなく産業と言うんだ。お前たちは既に大金持ちなんだよ」
「ふえっ?」
「すぐに、アホ父様とかを呼んでこい!」
「で、でも、父様は市場に炭を売りに行って3日ぐらいは帰りません。それにアホじゃありません!」
「なら、アホ母様でもいい。すぐに呼んでこい!」
「母様もアホではありません!」
「そんなことはどうでもいい!」
「で、でも……」
「いいから早く呼んでこい!」
「は、はいっ! クーさん」
俺の剣幕に驚いて、チグサは母親を呼びに行った。
それから3日間は、チグサとチグサの母親のヒャクが泣きを入れるほど山葡萄を採りまくり、干し葡萄を作りまくった。
ヒャクが面倒をみていた小さな畑も、全部干し場に変わっていった。
地面に落ちて虫がつかなければ、何でも利用して干した。
本当は種を除きたかったが、そんな手間も惜しかった。
夕食後は、ヒャクと山葡萄を使ったソース作りに明け暮れ、チグサとはすり潰したジュース作りを始めた。
俺の衣服までを裂いて、漉し器にしたり、雨の日の干し葡萄の取り込み袋にしたりした。
勿論、昼間は干し葡萄の世話と山葡萄の採取でつぶれていく。
毎日働き続け、夜も眠くなるまで続け、それから泥のように眠った。
山小屋のような家の一間での雑魚寝でも、屋根があると快適に眠れた。
母様のヒャクは、リュックから出した紙袋で2キロ入りの黒部米を幾つも渡すと大層喜び、ついでにスルメも束で渡すと泣いて喜んだ。
黒部では山葡萄の方が珍しいが、こちらではスルメの方が貴重なのだ。
大根は畑で作れるが、スルメは海がないと難しいのだ。
柿崎などではスルメと切り干し大根が両方干してあるので、つい忘れてしまう。
しかし、貿易や地場産業の基本要件のような話だった。
チグサは喜ぶヒャクをみて喜んでいたが、夜は俺にべったりと張り付いて、ヒャクを警戒するように眠っていた。
ヒャクは30代前半の次婚で、風呂もない山暮らしのせいか少し肌が衰えかかって見えたが、チグサの女レーダーに引っ掛かるようだった。
チグサは疲れているのに毎晩水浴びをし、俺の身体を拭ってくれた。
「お友達だから遠慮する」
「何か拘ってますか? それに、一応、お客様でしょう?」
随分と働かされているけどな。
とは言え、疲れていて口論したくないし、くっついて寝るのに汗臭いのもなんだし、まあ、助かってはいる。
少しずつ、チグサも俺も、山葡萄の匂いがするようになった。
疲れ切った俺には、何故か心地良かった。
4日後、父様のオトヤが帰ってくると、俺は黒部村長宛に手紙を書き、ヒャクとの逢瀬もろくすっぽ認めずに、半生のレーズンを山ほど担がせて、黒部にUターンさせた。
イケメンだったからだ。
半生でも、干してあればかなり日持ちするのだ。
アホ父様め。
売上げで驚くがいい!
しかし、若いよなアホ父様。
ヒャクは姉さん女房だった。
手紙はモトの友達のクーさんからの指示にしてあるが、黒部村長なら人間族のクーさんなる者がどんな人物かわかるはずだった。
今後、必要になる材料と人材なども頼んでおいた。
理由は干し葡萄で十分すぎるだろう。
黒部はアホではないからだ。
ついでに嘉例沢までの道路建設と、直江津のガラス工場にブドウジュース用と山葡萄酒用のビン作りまで頼んでしまった。
他にもあれやこれやと色々と頼んでおいた。
更に4日後、オトヤが疲れて帰ってきた時には、俺たちは更に疲れているように見えた。
しかし、俺が考えた商品の基本はヒャクとチグサにすり込まれていて、オトヤが買い求めてきた原料を使って実現できそうだった。
その夜は4人で山葡萄ソースを使ったステーキを試食し、鶏肉に一番合うんではないかという結論が出た。
その後は、まるで二組の夫婦のように自然と眠ったが、疲れすぎていて誰からも疑問の声はあがらなかった。
ただ、チグサだけは迫り来る何かを感じているようだった。
いつもよりも強く抱きついていたからだ。
翌日、黒部村長が酒造りと樽作りを希望する移民たちを連れて現れ、その後すぐに吉川代官が部下を連れて現れると、オトヤもヒャクもチグサも仰天した。
「二人とも、年だ、年だと愚痴ってる割に気が早いじゃないか?」
「年のせいで、気が急くんですよ」
「僅か7日で一つの村と、一つの産業を作り出してしまうクーさんには言われたくありませんな」
俺たちは一頻り笑うと、すぐに仕事に取りかかった。
吉川代官はオトヤと視察に出かけ、黒部村長は村の中核と、酒造、樽作りの工房の縄張り、俺はまだ立ち直っていないヒャクとチグサを使い、商品サンプル作りである。
「クーさんって、やっぱり偉い人?」
「それより、飴を煮込むからザラメを用意してくれ」
「んもう!」
「味の基本はチグサが決めるんだぞ」
「わ、わかってますよ」
まあ、しかし、ある種の正念場である。
チグサもそれはわかっているようだ。
だが、山葡萄を摘んで干して、こうして飴を煮込む人間が代官よりも偉く見えないのも確かだった。
当日、仕上がったサンプルは次のとおりである。
①山葡萄(生)
②干し葡萄(未完成の半生)
③山葡萄ジュース
④山葡萄ソース
⑤山葡萄飴(果実入りと果汁のみの2品)
⑥山葡萄餡
⑦山葡萄ジャム
これらは、樽詰めにして出荷することになる。
後に瓶詰めも用意して、鉄が手に入ったら缶詰も作れるだろう。
缶入りのドロップスも可能かもしれない。
これから、ここで唐黍を栽培し、ザラメを作る。
穀物デンプンから飴を作る。
原材料も地元の畑ですべて生産するのが大事である。
後に、山葡萄酒ができれば、更に発展するだろう。
それは2年後か3年後か?
まだ内緒だが、若いチグサには直江津の店舗を手配した。
直販の小売店は凄い売上げが可能である。
俺には、目に見えるようである。
やがて、視察と縄張りを終えた代官と村長が来て、幹部と試食した。
絶賛である。
チグサの嬉しそうな顔は、最高だった。
頑張って良かったと思った。
吉川は嘉例沢村を宣言し、黒部村長には村づくりと、更なる移民の手配を頼んだ。
勿論、オトヤは嘉例沢村長に任命されて、肝煎の黒部の傘下に入った。
目を白黒させているがな。
アホ父様から村長に昇格したオトヤは、早速、移民の職人たちと木樵を始めた。
本業は炭焼きだから、木樵も得意だ。
それで丸太小屋を作り、丸太が乾いた頃には、黒部から大工と、今は置いてきている移民の子供たちが来ることになる。
ヒャクとチグサは職人の妻たちとブドウ摘みである。
季節のものだから、早いところ摘まなければならないのだった。
それを見届けて、吉川も黒部も帰っていった。
勿論、俺にはいつでも会えるので、挨拶などしなかった。
色々と余計なことは言っていたが。
俺は飯を炊いて握り飯を作り、軽くなったリュックを担いで嘉例沢村を後にした。
帰り道は教わっていて、だいたい頭に入っていた。
今夜、嘉例沢親子3人が夢のような未来を頭に描いて眠る頃には、俺は行程の半分まではいけないだろうが、この辺りのことを寂しく思い出しながら眠るかもしれない。
多分、大半がチグサのことになるだろう。
『嘉例沢は宝の山みたいですね。でも、一番の宝はチグサかもしれませんよ。クーさん』
吉川は面白そうに俺を見ながら、そうコメントしていた。
実は俺もそう思った。
だが、今更伯爵ですとも言えないだろう。
成長して再会して、そうなったとしても伯爵紋ができてしまうのだ。
それは俺の嘘とワガママであり、チグサのためになるとは思えなかった。
『やせ我慢も、チグサのためになるとは思えませんな』
黒部も面白そうに俺を見ながら、そうコメントした。
俺も、そう思わないでもなかった。
だがなあ。
その日は頑張って歩いたが、行程の半分の半分辺りで夜になり、俺は焚火をして野営した。
握り飯を食べて、特別な水筒でのどを潤した。
特別なニオイなど何もしなかったが、チグサがムキになって洗っている姿を思い出して笑い、それから寂しくて泣き笑いした。
それで、毛皮のシュラフをかぶって寝てしまった。
隣にチグサの温もりはなかったが、夢の中で大人になりかけたチグサの匂いを嗅いだような気がした。
早朝に起きると、目の前にチグサの顔があった。
夢かと思ったが、現実だった。
「ち、チグサ、どうしてここにいるんだ!」
チグサは何も答えず、ただ俺の顔だけ見ていた。
目を外したら消えてしまうのではないかという、一途な少女の見つめ方だった
それにしても、なんて美しい顔なのだろう。
俺は戦慄する。
「チグサ?」
チグサは美しい瞳から、美しい涙を流し始めた。
俺は声もなく、それを見続けていた。
「おっぱいですか?」
「えっ?」
「エッチなクーさんだから、おっぱいがないと女にはしてくれないんですか?」
うーん、おっぱいがないのに女にするのは流石に拙いだろうなあ。
聡明でも、両親がアホだとやはり天然なんだろうか?
とは言え、それ以外、チグサを拒む理由などないだろう?
頭の方は、これから勉強すれば、すぐに俺なんか追い抜いていくだろう。
だから、おっぱいぐらいしか欠点は見つからなかった。
本当か?
「お、お友達だろう?」
「やっぱり、子供扱いするんですね。11歳だって言ったのに……」
いや、11歳は子供だからね。
駄目、絶対だからね。
「このままお別れしたら、チグサは15歳で死にますよ」
「いや、村ができて、人も多くなるからさ」
「でも、チグサは子宮を破裂させて死ぬでしょう」
そんなことはない。
ないと思う。
「暫くしたら、チグサには直江津の店に行ってもらうことになる。そこで山葡萄製品を販売するんだ」
「そんな! 私にできるでしょうか?」
「できるさ。村の発展には必要なことだからね。君は店で村の産物である山葡萄を売り、新製品を開発して更に儲けて、恵まれない移民たちを沢山に雇うことになる」
「クーさんは手伝ってくれないのですか?」
「俺は色々なところに行って、農産物を探すのが仕事だからね」
「でも、時々は黒部に戻ってくるのでしょう?」
「多分ね」
「なら、黒部に会いに行ってもいいですか?」
「お、お店が忙しくなれば、それどころじゃなくなると思うよ」
「いいえ! いいえ! クーさんじゃないとチグサは死んでしまいます。例え、直江津に何万人いても、クーさん一人だけなんです、チグサはっ!」
チグサは抱きついて泣いた。
しかし、俺には木陰で見守るオトヤの姿が見えた。
夜中に娘にせがまれて、ここまで連れてきたのだろう。
父親は大変だな。
「チグサ。君が死んだりしないように魔法をかけておこう」
チグサは涙を流しながら、不思議そうな顔をした。
俺はチグサに優しくキスをした。
チグサは意味がわからないらしく、戸惑うばかりだった。
俺はチグサの唇に割って入り、舌を絡めた。
「ふぁ、あぁぁーん」
チグサは少しだけ水を流して気絶した。
チグサは山葡萄の味がした。
草の上に優しく寝かせて、女の子の部分に新品の手拭いをかけて、出発準備をして、オトヤに手を振ってから、出発した。
「お兄ちゃん、これ凄く美味しいね」
「本当、美味しいわ」
ターチャは微笑むだけだったが、カーチャとミーチャは夢中になっている。
黒部が『届けられたばかりです』と言って置いて行った、お菓子である。
直江津の山ぶどう屋の新商品で、高級だが人気のあるお菓子だった。
『恋ぶどう』
山ぶどう寒天である。
越では玉子料理が人気があって、『べっこう』と言う名前の、玉子を寒天を使って固める料理がある。
甘いのと、生姜味が人気である。
生姜味は違う名前だったかな?
それを応用したのか、ジュースではなく山葡萄をすり潰したものに半生の干し葡萄の欠片を混ぜて寒天で固めたものである。
ザラメと、僅かに塩を使って味は調節してある。
氷室の雪を使って作る贅沢なお菓子だから値は張るが、冷たくて爽やかで美味しい。
越の人々なら一度は食べてみたいと思うだろう、憧れのお菓子である。
木箱の上が二重底?になっていて、そこに雪に塩をまぶした保冷剤が入っている。
木箱の内側にはコルク材を張ってあるから、いかにも高級品である。
まあ、これは贈答用で、店に直接行けば、もっと安い値段で食べられる。
「まったく、チグサもよく考えるな」
「伯爵様、山ぶどう屋の千草様をご存じなんですか?」
「いや、良くは知らないよ、ヒオウギ」
「あやしいです」
「本当だって、ノハナ。黒部村長が肝煎で仲良くしているから、噂を聞いているだけだよ」
山ぶどう屋の『恋ぶどう』と聞きつけて、警護官たちも警護を放り出して部屋に上がり込み、ご相伴にあずかっている。
「でも、凄い美人でお金持ちで、その上、移民たちにとても優しいって噂ですよ」
「そうか、それは是非とも会ってみたいな」
「どうせ駄目ですよ、伯爵様」
「どうして?」
「だって、千草様は15歳なのに処女だと言う噂です」
「凄い美人なのに、紋章もなく、男の噂がないんだそうです」
「身持ちが良すぎて、処女のまま死んじゃうんじゃないかと心配してる人もいますね」
「そう、心配だから言い寄って、断られる人が続出なんだそうですよ。お堅い人なんです」
「両親は心配していないのか、何故か縁談はみんなお断りしているそうです」
「そうなると、子宮に決めた誰かがいるんですね」
「そう、だから伯爵様みたいにエッチでいい加減な人は見向きもされませんよ」
「ねえ、ミーチャ、伯爵様ってエッチなの?」
「エッチよ、カーチャ」
こらこら、姉に変なことを教えるな、ミーチャ。
「ノハナお姉ちゃん、エッチって嫌われるの?」
「そうですねえ? 場合によるかな?」
「場合って?」
「ノハナにエッチなのは許せるけど、他の女にエッチなのは許せませんね」
「では、お兄様はノハナお姉様の好みではありませんね」
「ええっ、どうしてでしょう、ミーチャ様?」
「だって、お兄様はみんなにエッチですから」
「でも、そこが伯爵様のいいとこだしさ」
「そう、特技ですね。だからミーチャも順番を待っていればいいのだと安心できます」
「いいなあ、ミーチャは美人だから安心できて。ノハナは結構厳しい状況なんです……」
「ならさ、意外と伯爵様ならお堅い千草様もペロリと平らげてしまうかも?」
「お兄様ならあり得ますね」
「うおっほん。ペロリと平らげているのはヒオウギだろう。それ3つ目だぞ、少しは遠慮しろよ」
「だって、美味しいんだもん」
「だからって、遠慮しなさいよ、ヒオウギ」
「ノハナお姉ちゃんも3つ目だよね~」
「カーチャ様、お願いだから内緒にして!」
嘉例沢村は黒部以外の人にはあまり知られていないが、直江津の『山ぶどう屋』は大人気の有名店である。
黒部から嘉例沢に繋がる街道も『チグサ街道』と呼ばれているが、直江津の山ぶどう屋との関係は殆どの人は知らない。
チグサの両親も世間が鬱陶しいのか、直江津の店に行っても黒部の農民としか言ってない。
まあ、嘘ではない。
ただの農民ではないだけだ。
山葡萄酒は直江津の山ぶどう屋でしか販売していないから、嘉例沢村はせいぜい契約農家ぐらいにしか見られていないようだ。
本当は嘉例沢村でも飲めるだが、山ぶどう屋のラベルを貼ったビンを使用しているので、気にする人はあまりいないらしい。
嘉例沢村の人口は既に500人を超えていて、唐黍や蕎麦の生産も盛んである。
アケビやキノコも黒部産として有名だった。
今では、富山南部方面の開拓拠点にもなり始めている。
しかし、これからでもある。
実は時々、チグサは黒部村長のところに顔を出し、『クーさん』の消息を尋ねている。
まあ、その度に『越前に行った』とか『佐渡にいるそうです』とかいい加減なことを言って誤魔化している。
先日は、柏崎のモトの所(海軍工廠)に乗り込んで、モトを慌てさせた。
モトは『豆満江に渡ったのではないか』などと更にいい加減なことを言ったらしいのだが、原因は俺にあるから文句も言えなかった。
まあ、近々アヤメとカキツバタを豆満国の将軍として派遣する計画があるから、まるっきりの嘘ではないのだが。
とは言え、今の俺は黒部の別邸(愛人宅)にいて、こうしてチグサの新商品を食べたりしている。
黒部は嘉例沢の後ろ盾だし、チグサはそれは疎かには扱わない。
商人としての基本は忘れたりしないのだ。
季節ごとにお菓子や葡萄酒が届けられている。
それを黒部村長は、今日みたいに本邸や別邸にも回してくれるのだった。
お陰でチグサの情報はいくらでも集まった。
あれから、ヒャクは頑張ってチグサの弟と妹を産んだらしい。
チグサはその兄妹を可愛がり、よく村に遊びに行くので村の子供たちに大人気である。
まあ、黒部が本人や山ぶどう屋のお使いの者から聞き出して、俺にあれこれ言ってくるのだ。
俺も黒部には嘉例沢の件では散々世話になっている。
特に街道整備は優先させてしまった。
黒部は儲かって喜んでいるのだけど。
『もう、いい加減、いいんじゃないですか?』
などと言う小言も回してくる。
まあ、チグサのことも嘉例沢のことも上手くやってくれてんだから、文句などないけどね。
何となく、伯爵と知られるのが恥ずかしいから、表だっては援助していないのだ。
チグサはひとりで、よく頑張っていると思う。
「じゃあ、また来るよ」
俺は唇を葡萄色に染めたイーゴリくんの頭を撫でると、ターチャ邸を辞した。
相変わらず、ターチャは良くわからない。
夕暮れ近くの、黒部村を歩いて伯爵邸に向かった。
仕事を終えた村人たちがちらほらと歩いていた。
豊かな村だから、農民だけでなく物売りや職人も多い。
農機具は鉄製のものばかりになっている。
さて、鉄がいつまで手に入るだろうか?
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声がかけられた。
「クーさん!」
振り返ると、そこには別れた時のままのチグサが立っていた。
いや、背は伸びたし、質素な短衣の下の下半身は豊かになっているが、おっぱいは母親と同じで残念なままだった。
うーん、きれいになったと言うよりは、貫禄がついたというのだろうか?
元々きれいだったしなあ。
サラサラの茶髪もおかっぱのままなんだな。
泣きたくなるじゃないか!
両脇には『山ぶどう屋』の羽織を着た見るからに強そうな女が二人いた。
チグサも警護の者がついているのだった。
裏切りやがったな、黒部。
まったく、お節介なジジイだ。
黒部村長は水菓子が届けられた、と言っていた。
チグサが届けに来たとは言わなかったはずである。
そして、忙しいチグサが、この時間に、この道を歩いているのは偶然ではないだろう。
チグサは偶然だと思っているだろうけど。
しかし、何を勘違いしたのか、ヒオウギとノハナがバチを抜いて前に出ると、向こうの警護の者たちもバチを抜いて前に出て、お互いに一礼すると凄まじい試合を始めてしまった。
野次馬も集まり始める。
ただ、チグサはあの時のように俺だけを見つめていた。
やがて、美しい瞳には涙が盛り上がり、よろけながら近づいてきて、ついには俺に抱きついて、慣れない様子でキスをした。
チグサは、山葡萄の味がした。
またしても、彼女は流し始めた。
「二勝一敗かな」
ヒオウギは偉そうに言っているが、ウメに手当を受けていた。
人生は二勝一敗という作品が何処かにあったような気がする。
「私は三勝一分かな」
ノハナは更に偉そうなことを言ってるが、ヒナゲシが手当している場所は、ヒオウギより多い。
まあ、人生は三勝一分の方が良いけどねえ。
チグサの警護の者たちもザクロとフジに手当を受けている。
まあ、悲惨な怪我はしていないようだった。
ちなみに、ここは伯爵邸の大食堂である。
廊下の奥にいる怨念のような黒っぽい存在はモモだろうから、無視しとこう。
「伯爵様だったなんて、クーさんの嘘つき!」
「チグサだって、伯爵と知り合いだって言ってたじゃないか!」
チグサは俺の隣に座って、腕を取り、ついでに頭も寄りかからせていた。
二度と放さないぞ、という感じである。
「嘘つき」
「嘘つきはお前だ」
「でも、クーさんが伯爵様で少し嬉しいかも」
「そうか、俺は少し残念だ」
「どうして?」
「だって、もう少し自由に生きられそうじゃないか」
「どうせ、あの時みたいに好き勝手しているのでしょう?」
「好き勝手にはしてないぞ」
「そう? 出会ったその日からやりたい放題だったような?」
「いや、麗しいレディのことを大事にしたんだ」
「まあ!」
チグサは自分が見守られていたことに気づいたようだ。
色々と思い当たることがあるようだった。
しかし、出会わなければ、あのまま山奥の生活を続けていただろうか?
そうは思えないけどな。
男どもが群がってくるのは、成功したからではないのだ。
「そ、それでチグサ街道と?」
「まあ、どうかな」
「ずっと、見ていらしたんですね」
「直接は見てないよ」
「気にはしていたと?」
「どうかなあ? お友達だからな」
「もう、嘘つき! お友達はとっくに卒業してます!」
少し、嬉しそうだな。
女として自信を持たれると、やりづらいんだよな。
「お返しできないほどお世話になってたんですね」
「経済的には、こちらがお礼を言うべきかな」
「でも、女心はわからない唐変木ですよね」
そんなことはない、とは言えないよな。
「今度はこちらがお礼しないとですね」
「お手やわらかに頼むよ」
「うふふふ」
「ははは」
『山ぶどう屋の女主人が伯爵様の別邸様(愛人)になった』
数日後、越には大スクープが流れた。
まあ、紋章があるからなあ。
何故か、それから銘菓『恋ぶどう』は、女から男への贈り物となった。
最後通牒かもしれないが……
END
※本作品は、本編とは直接の関係はありません。




