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37 王太子03

 37 王太子03




「しかし、なんでモモとウメはここにいるんだい?」

「それは……」

「そのぅ……」


 モモもウメも、氷見村に連れて行かないと言うと、ストライキに入ってしまい、顔も見せなかったのだ。

 それが何だって氷見村のしかも風呂場にいるんだ?


「休暇を取って三ケ村に遊びに来たら、偶然、たまたま、野菜を運ぶアルバイトがありましたので、ウメと一緒にリヤカーを引くことにしました」

「あい、あ、あくまでも休暇ですぅ」


 俺とモモとウメは、風呂場に桶や椅子などをセットしながら内緒話のように会話した。

 王太子たちは、少しだけ待たせることになった。

 脱衣所から興味深そうに見ているが、大人しく待っている。


「休暇ねえ……」

「あくまでも休暇中です」

「あい、それに、ぐ、偶然です」


 モモとウメは顔を赤くして作業していた。

 何故か、誤魔化すのに一生懸命で全裸の方は忘れているようだった。

 

 まあ、態々休暇を取ってまで駆け付けてくれたのは嬉しいけどね。

 でも、リヤカーを押して忍んで様子を見に来て、王太子にセクハラされた挙げ句に風呂の世話をすることになるって、黒部に置いてきた意味ないじゃないか。

 野菜をぶちまけたのは君たちだよねえ。

 ピンポイントで二人を引き当てるって、やっぱり王太子の能力なのか?


 侘しい領地で、見窄らしい恰好をして、貧しい食事が待っている。

 更に他国の大使の接待で、もしも望まれたら、夜伽まですることになるのではないかと心配して二人は居残りにしたのにさ、無謀なことしてどうすんだ。


 しかし、好きな女の子と一緒にお風呂だというのに、このお仕事というのか、接待の感覚ばかりになってしまうのはとても残念だった。


 いや、好きな女の子って、女好きって意味だからね。

 ドキドキする女の子って意味じゃないからね!

 ドキドキはしてるけど、きっとおっぱいにだからね!


 俺、やっぱり、ウメとモモが好きなのだろうか?

 この二人を嫌いな男はいないだろうから、好きでいいのだけれど、何となく釈然としない。

 そもそも女の子が大好きな男の『好き』って何か意味あるのだろうか?


 仮に超リアルなギャルゲー世界で育ち、物心がつく頃からどんな女の子ともエッチできる世界に住んでいて、エッチしまくっていたら、特定の女の子を好きと言えるのだろうか?

 やりたい時に、やりたい人と、やりたいだけできる世界。

 そんな世界があったら、男は、いや、俺は、どうなってしまうのだろうか?


 今とあまり変わらない?

 そうか、そうだよな。

 やっぱり、深く考えずにやりまくった方が自然だよな。

 向こうもやりたいと言ってくる世界で、謙譲の美徳などないだろう。


 食べたい時が美味しい時なのだ。

 けれど、好きなものから食べ始める人が羨ましい。

 俺は何故か好きなものを最後に取っておく派なのだ。

 しかし、これからは好きなものだけ食べる派に改宗しよう。


「モモ、ウメ、今夜しような」

「お戯れは嫌でございます!」

「いいえ、今はそれどころではありません!」


 あれえ?

 ここはギャルゲーとは違う世界なの?

 ウメにまで『空気を読め』と言う顔をされてしまった。


 俺は少しがっかりしながら、王太子たちの風呂の準備をするのだった。

 二人とも、本当は頑なで朴念仁なんじゃないだろうか?

 水は溜まらないのだろうか?

 待てよ、ギャルゲーって誰とでもできる世界じゃないよな。

 攻略対象を攻略していくゲームだよな。

 すると、モモとウメは何か攻略方法が間違っているのか?

 ルートを間違えていて、実は攻略できないとか?

 うーん、でも可能性はあるかも?

 でも、既に可能性はないかも?

 誰かに嫁入りしたりするのだろうか?

 まさか、このまま王太子に取られるイベントなのか!

 寝取られるかな?


 俺がクズなことを考えている間に準備が整い、予想は悪い方が当たって、王太子の世話をするのがモモとウメであり、俺の世話をするのがウノ姫とサララ姫に決められてしまった。

 何故かチュリさんはお手伝いの名目で残っていた。


 俺としてはこれから輝こうとしているモモとウメを、相手が王太子とは言え、譲りたくはなかった。

 それで、様子が気になって仕方がない。

 しかし、こっちのお姫様を無視するわけにもいかないのだった。


わらわは今まで、蒸し風呂しか入ったことはないぞ」


 全裸で、ない胸を張って威張るウノ姫は、そういうキャラとしては年相応で可愛かった。


「伯爵様、で、できればあまり見ないで……」


 消え入りそうな声で恥ずかしがるサララ姫も年相応で可愛い。

 身体はお子様だが、多感なお年頃であるらしく、父親のパンツを一緒に洗濯するのも気になるぐらいだろうか。

 自信たっぷりのウノ姫より、自信なさそうなサララ姫の方が年齢は少しだけ上なのだそうだ。


 二人ともアキノ姫の孫であり、草の王子に粛正された王子たちの娘らしい。

 しかも、サララ姫はアサツキ姫の娘だという。

 二人とも王家の血筋としては俺より上だった。

 王子の家としては断絶したので、王太子の妹か養女という立場らしい。

 王太子は若いし息子はいなかったから、これからということもあり、王太子に預けられた時点で貧乏王族から、次期王妃候補にのし上がったのだった。

 厩の王子というライバルがいるとしても、今のところ周王家の血筋としては最上級だろう。

 それで、チュリさんがお手伝いなのかもしれない。


「これが石鹸か。チュリは見たことあるのか?」

「越に来てから知りました、ウノ姫様。ですが、原料は周王国の湖で採れるとかですよ」

「そうなのか、伯爵?」

「アルカリ湖という珍しい湖の泥が原材料なんですが、越にはありませんので」

「ほえー、ヌルヌルしてるー」


 サララ姫は羞恥心を忘れて石鹸で遊んでいる。


「食べちゃ駄目だよ、サララ姫」

「た、食べたりしないもん!」


 しかし、俺はモモとウメの様子ばかりを気にしていた。

 そのせいで、タオルを使わずに手のひらでサララ姫を洗い始めてしまった。


「ひゃうん、うぁんん」


 年齢の割に色っぽい声を出された。


 がきん! がきん!


「ぐわっ!」

「伯爵様! お戯れはいけません!」

「タオルを忘れてます!」


 涙目のモモとウメに石鹸を投げつけられてしまった。

 新品の硬いやつだ。

 いや、モモが投げたのは洗濯用の大きくて硬いやつだった。

 もう、大きくて硬いなんてモモったら!


 がきん!


 追加の石鹸が投げられた。

 申し訳ありませんでした! 痛いです。

 しかし、モモもウメもこっちを気にしてるんだなあ。

 自分たちの方が大変なんだぞ。


 洗い場は水やお湯が出るわけではないので、浴槽から直接お湯を汲んで身体を流す。

 大きな浴槽が満杯になっているから、大人数で使ってもそうそうはなくならない。

 王太子は俺の左側を湯船の前に座っていて、気持ち良さげにモモとウメに手桶で両肩にお湯をかけられていた。

 だが、モモは腰が引けたままだった。

 おっかなビックリ接しているのがわかる。


 やがて、王太子にお尻でも触られたのだろう。


「きゃーー!」


 ざばー、がこん、がこん、こん、こん。


 モモがモモらしい、いつもの悲鳴を上げると、手桶は宙を舞い、王太子に頭からお湯を浴びせてから、王太子の頭に落っこちて転がった。


「つつー」


 王太子は頭を抱えた。

 良い音がしたから、痛かっただろうな。


 モモはそのまま頭から湯船に落っこちて、盛大な飛沫を飛ばしまくった。

 俺は湯船で溺れかけてるモモを救出することになった。

 湯船で抱え上げるとジタバタ暴れたが、俺だとわかると急に大人しくなって腕の中でジッと俯いていた。


 熱い肌や赤い顔に関係なく、俺はモモが愛おしかった。

 着やせするおっぱいもほんわかと漂ってくるモモ自身の匂いも関係なく、本当に愛しかった。

 やっぱり、これは恋だろうか?

 今夜したいな。


 おほん!


 今は、それどころではない。

 これから、今夜だけでなく毎晩したいのだ。

 きっと、これが愛なのだろう。


 おほん!

 違うんだ!


 文明というのは『したい』と言う言葉を遠回しにすることで発展して来たに違いない。

 好きだ、愛してる、今夜は帰さない、結婚しよう、など言い換えに過ぎない。

 原始時代は『したい』と言う前に襲いかかったのだろう。

 違うかな?

 違うよね?


「お、お戯れは…… こほっ、ぃ、やで、ございますぅ…… こほ」


 流石のモモちゃんも恥ずかしいらしい。

 流石にちょっとズキリと来るものがある。


 いや、やはりそれどころではないのだ。


 折角のモモの柔肌だったが少し水(お湯)を飲んでいたので、洗い場の隅に座らせて暫く落ち着かせていると、今度はウメの番だった。

 ウメはテンパっても一生懸命仕事をこなそうと努力してしまう。

 平常心なら何でもそつなくこなすのだが、テンパっている時は別である。

 一生懸命さが、返って変なことになるのだ。


「むお、うほう、うほう、ぐうぅ」


 ウメは王太子の背中を全力でゴシゴシしていた。

 タオルに石鹸をつけるのも忘れているようだ。

 どちらかと言えば華奢な体格である王太子は、上半身がシーソーのように振れていた。

 両腕を湯船の縁に突っ張って堪えているのだが、ウメが情け容赦なく背中を押してくるので踏ん張りが効かず、上部を押される時に前屈みになり、下部を押される時に椅子ごと持って行かれないように両脚で身体を押さえつけている。

 新手の拷問か?


 変な声を出して必死に堪えている王太子だった。

 俺は王太子の背中の皮が剥がれる前に、助け出さなくてはならなかった。


「ウメ? ウメ!」

「ふーふー」

「ウメ、ここはもういいよ。向こうに行ってウノ姫とサララ姫に石鹸の使い方を教えてあげてくれるかい?」

「ふー、ふー」


 ウメは汗だくである。

 涙目でもあった。


「落ち着けよ、ウメ」

「あっ、あいっ、伯爵様ぁ」


 ウメは一度縋り付いてから、俯いて赤くなり、王女たちの所に行った。

 緊張が解けていくようだった。


「さて、王太子。私がお世話しましょう」

「いや、僕は身体がひ弱だからさ。もう、この風呂とか言う暴力的なものはちょっと遠慮したいな」


 涙目で、ちょっと怯えていた。

 しかし、ここは暴力風呂ではない。

 暴力風呂って何だろう?


「プライベート空間はリラクゼーション空間でもあります。知らないで緊張する相手よりも、男同士、女同士の方が上手く行く時もあります」

「君は時々難しい言葉を使うねえ」

「まあ、気楽な相手とのんびりと過ごすってことですよ。酒の相手のようなものです。安心して任せてください」

「緊張しまくった美女とはあまり美味しく飲めないのと同じか。良くわかったよ。よろしく頼む」


 俺は王太子のサラサラで長い髪を丁寧に洗ってから、石鹸とタオルを使って身体を優しく洗った。

 絹製のタオルというのは初めて使ったが、ゴシゴシと洗い流す感じがなくて、俺には物足りない感じだった。

 だが、王太子は暴力的なものでないとわかると、リラックスして気持ちよさそうだった。

 股間は勿論、自分で洗わせた。

 手先、足先まで洗ってやるのが限界だった。

 長い髪はタオルで頭の上に包んだ。

 女たちがよくやっているやつだ。

 俺がやると剣道っぽかったが。


 王太子は、喜んでいるようだった。

 別に悪い人ではないんだと思う。

 エッチな人ではあるけれど。


 俺は先に王太子を湯船に入れて、脇で自分の身体をザッと洗った。

 右側では女たちがちゃんと世話をし、世話をされていて、和気藹々と過ごしていた。

 チュリさんも色々と教わっているようだ。

 フローラルなシャンプーとか、初体験だろう。


「いやあ、風呂って良いもんだねえ」

「全身を伸ばして入ると最高ですよ」

「こうかい、うあー、これはいいね、最高だ」

「そうでしょう」

「うーん、侍女が側にいないというのは初めてだが、これはこれでいいものだね。実を言うと、蒸し風呂で世話されてもあまり楽しめなかったんだ。葉っぱの付いた木の枝でビシバシ叩かれるんだが、子供の頃は苦痛でしかなかったよ。健康にいい葉っぱとか言われていたが、迷信だろうねえ」


 王太子は、子供の頃から暴力風呂を経験していらっしゃったのだった。

 本当にあるんだ、暴力風呂。

 北欧では『白樺の枝』で叩くとマッサージ効果があるって言われていたから、迷信ってわけではないだろう。


「ひとりにしろと命令できなかったのですか?」


 俺は王太子の横に入って首まで浸かった。


「健康管理は侍女の仕事とかで、強制的だったなあ。実はトイレでも侍女がいるとすっきりしないんだ」

「私はトイレでの世話は断っています」

「そうなのかい?」

「ええ、すっきりしませんからね」

「やっぱりかー」


 王太子は笑いながらも、風呂を堪能していた。

 色白の横顔は、どちらかというと病弱な感じだった。

 長衣を脱いだ手脚も健康的な男とは思えなかった。

 何か持病でもあるのではないかと心配だった。

 

「ひとりの侍女に前を掴まれて、もうひとりに後ろから玉を揉まれると、出したくても出ないことを発見したけどね」


 だからー、そういう変態ネタはいりません!

 変態あるあるネタで盛り上がることは、まあ、この先、王太子と以外はないだろう、と思う。

 いや、王太子ともやらない。

 女たちが静かになっているじゃないか!


「君は、女はどうして綺麗になるのだと思う?」

「うーん、男に選んで欲しいからでしょうか」

「なのに、羞恥心で隠してしまうのは?」

「沢山の注目は集めたいけど、沢山の相手にはできないからでしょうか」

「色々な男に見てもらいたいとは思わない。男は自分で選びたいってことだろうか?」

「そう見えますよね。他の女より自分にということかもしれません」

「以前、蛇の交尾を観察する機会があって、それは凄かったよ」

「どんなんですか?」

「雌一匹に対して、雄が何百と集まってくるんだ」

「そ、それは無理なんじゃないでしょうか?」

「途中で雌は逃げ出したね。雌の方が体格が遙かに上だったこともあって無事だった。でも、雄を集めたのは雌なのだと思う。蛙なんかはもっと悲惨だったね。雄が集まってるところに、雌が入り込んでくると奪い合いなんだよ。ひどい時は、雌が引きちぎられてしまう」


 生存競争って、何処も厳しいものなのか?


「雌を前にして雄が戦うのは良くあることですが」

「知能が高くなるほど、そういう傾向があるね。名乗りを上げたものに、挑戦者が現れるみたいにね」

「人間も、やはり強い男が魅力的でしょうか」

「それが違うんだよ。女が強い男を自主的に呼びつけて争わせることはない。自分から追いかけていくことはあるけどねえ」

「部族長なんかは好き勝手にしてるようですけど」

「それも、奴隷に対してだけだよ。しかも、好きにしても部下に分け与えてしまう」

「すると、動物の雌が持つ権利すら人間の女たちは持っていないと言うことでしょうか?」


 いくら何でも、動物以下ってことはないだろう。

 いや、奴隷はそうなのか?


「それはさっきの、女は自分で男を選びたいってのに矛盾すると思うよ。ま、男に勝手に名乗りを上げられて、勝手に戦い、勝手にものにされても困るからだろう。多分だけど、人間の女には動物のような発情期がないのが、すべての原因なんだろうと思うんだ」


 確かに、勝手に雄が集まって、雌がその戦いのトロフィーになるのは嫌だろう。

 発情期があると、自分で選べなくなるのか?

 しかし、祭りの夜に選んだ男に遭遇する確率はどうなんだ?

 いや、違うのだ。

 何人か男を試して、自分の好みの男に出会うまで待っていればいいのだ。

 それまでは同じ女の集団に隠れているのだろう。

 そうすれば、強い男に独り占めされないようにはできる。


「しかし、それでは綺麗になるというのが意味なくなりませんか?」


 いつか、出会えるのであれば、今、綺麗になる必要はない。


「続きは酒でも飲みながら、ゆっくり話そうか。いやあ、君みたいに真剣に女のことを話せる同族にはなかなか出会えるもんじゃないからな」


 王太子は少しのぼせ気味だろうか、ザーと湯船から立ち上がるとふらついた。

 俺は女たちに『そのまま』という手振りをして王太子に続いていった。


 しかし、王太子と同族って、親戚という意味だろうか?

 それとも、女好きのスケベ野郎という意味だろうか?

 両方か?


 論語読みの論語知らず、と言うから、俺は『女好きの女知らず』の類いに入ると思う。

 だから、もっと知りたい。

 色々な部分ところを…… もっと。

 それはともかく、俺たちは長衣を着込んでから宴会場に向かった。


 宴会場は二間を両方とも使用する。

 上座は囲炉裏がある方(奥の間と呼ぶ)だが、囲炉裏は練炭(正確には練炭風の炭団たどんだが、石炭がまだ手に入らない)を使用して調理するので、囲炉裏端から少し奥に貴賓席が設えてあり、そこに王太子と俺の席があった。

 キリたちは酒と料理を出すのと作るので忙しくしていたので、待ちきれない王太子には、取りあえずビールはなかったから、冷やした小麦酒エールと枝豆で凌いでもらった。


 何故か、風呂上がりの女たちは全裸で会場入りしてくる。

 最初はウノ姫とサララ姫、次はモモとウメ、それから王太子の妻が4人と少し遅れてからチュリさん。

 その後も王太子の侍女たちが全裸で現れては、次の間に座り始めた。

 風呂の順番みたいなものがあって、基本的にはお客さんが優先だが、風呂の使い方がわからないから、こちらから世話役が付くか、経験者が教えたりしているのだろうと思う。


 大体揃った辺りから料理を出していった。

 料理は貧乏さを払拭することにした。

 作りたてをドンドンと出していく。

 上座のものがつまんで食べきれないものは、下座の侍女たちに回されていくから無駄にはならない。


 車エビの天ぷら。

 鯛の切り身の天ぷら。

 東坡肉。

 麻婆豆腐。

 鶏団子スープ。

 蟹ご飯。

 大根の漬け物。

 山葡萄の寒天。


 大雑把には、こんなメニューである。

 途中、口直しに細かいものもまわっていくが、刺身のつまみたいに考えていいだろう。

 酒は越の濁り酒の他にも、黄酒ホアンチュウ、キビ焼酎の果実割などがある。


 キリたち4人は料理の師範代みたいなものだから、指示しなくても殆どできる。


 天ぷらは新鮮で、誰も声にならない美味さだったようだ。

 車エビはともかく、鯛は偶然届けられたものである。

 最近、投網漁でかかるようになった。

 他にサバブリもあったが、鯛には敵わないので、使わなかった。

 今年は鯖が豊漁で、国営工場ではサバ缶を作って保存している。

 鮭缶より単価が安いので、販売は止めているのだ。

 越国も豆満国も鮭缶を売ることが優先なのだった。

 さばき時を考え中である、サバだけに。


 鯖が捕れる国は?

 サバタニア。

 鰤が捕れる国は?

 ブリタニア。

 では、鯛が捕れる国は?

 タイタニア!

 ブー、タイタニアは宇宙にあるので捕れません!


 などと言うジョークを交わせる相手がいなくて、少しだけ寂しかった。

 亜人の流入と金貨、それに豆満国の件もあって、管理AIは忙しいのだと思う。

 戦争も視野に入れてるのかも?


 そう言えば、ブリタニアってブリテン島、つまりイギリスのことだが、ローマ人が名付けたので、この世界ではどうなっているのか調べていない。

 欧州には、浪漫帝国というのがあって、人間族の国らしい。

 ちなみにエジプトはジャッカル族の国らしい。

 アヌビスだっけな?

 クレオパトラってどんな感じなんだろう?


 東坡肉はシロナの少し青くなった部分を巻いて食べると美味しい。

 王太子の妻たちが女の子座りして、沢山お替わりしていた。

 王太子は葉っぱは巻かずに酒で食べていたが、気に入ったようだ。

 柔らかさはあつものに近いからだろう。


 麻婆豆腐は唐辛子がないので甘辛にして、好みで粉山椒をふりかけて食べる。

 王太子の酒が暫く止まるくらいには美味かったようだ。




 宴会に余興はつきものだが、宴会で裸踊りをするのは、普通は酔っ払った男である。

 しかし、ここでは違った。

 王太子の妻たちが全裸で踊りを披露してくれたのだった。

 タミとクミが日舞のような舞を披露すると、ユミとスミが天女のような舞を披露してくれた。

 いや、天女そのものだった。

 竜宮城だって、こんなに豪華じゃないだろう。

 

 侍女たちも裏に来て、お囃子というのか、弦楽器と横笛などで盛り上げていた。


 しかし、やはり凄まじい美女軍団である。

 24歳ぐらいの色気を17歳ぐらいで持ってしまうとこんな感じかもしれない。

 勿論、経歴も年齢も不詳である。

 4人とも同じような年齢に思えるが、同じではないのかもしれない。


 タミは高貴な女という雰囲気である。

 ツンとすましているわけではなく、性格と美貌がいいところのお嬢様という雰囲気で、俺のようなものが半径10m以内に入ることは、偶然であってもあり得ないような気がする。

 極上というのは、もうこれ以上はないだろうと思われる表現だが、タミの高貴さはきつくなく極上である。

 身体つきも極上だった。

 彼女が家で待っているとしたら、サラリーマンなら残業も寄り道もしないだろう。


 クミは純真と表現できる女である。

 人妻で純真はおかしいと思われるかもしれないが、世の中には清楚な人妻というのも存在する。

 何度も何度も飽きるほど抱いても、好奇心が強い面白がるような不思議がるような輝く瞳は、いつまでも処女のように純真に見える。

 そんな感じである。

 彼女が家で待っているとしたら、企業の重役でも接待など放棄して帰るだろう。


 ユミは可憐である。

 恥ずかしがり屋なのに、全部を見せるという矛盾した存在でもある。

 何故そうなのか上手く説明できないのだが、多分、彼女は男の視線に敏感なのだと思う。

 視線を的確に察知して、自然と隠したがるのだ。

 それでもここでは全裸なのだから、ちょっぴりと見られてしまうのは避けられない。

 それで見られた分だけ恥ずかしがるのだと思う。

 どうしろというのか! という感想を男に持たせるから矛盾した存在なのだろう。

 しかし、彼女が家で待っているとしたら、愛人がいる社長でもまっすぐに帰ることだろう。


 スミは気が強い女である。

 気が強すぎて、世の中の大抵の男は男として認識されないだろうと思う。

 そして、スミにとって俺みたいな男は、格下なのである。

 その格下に全部見られてしまうと言う悔しさみたいなものが、彼女の怒りというのか悔しさみたいな心を燃え続けさせているのだ。

 彼女が家で待っているとしたら、内閣総理大臣になっても国民や政策などどうでも良くなって早く家に帰り、彼女に格下の無能扱いされて、喜ぶことだろう。


 それら4人が、全裸で踊ってくれるのだ。

 人によっては『殺せ! いっその事、殺してくれ』と懇願するかもしれない。

 神も仏もないのか、と言う台詞が月並みであるがよく似合う環境だと思う。


 外交の場では『喧嘩売ってんのか!』となり、最後通牒が出て、最悪は即時開戦でもおかしくないだろう。

 それぐらい、男にとって気持ちのやり場のない相手であり、状況である。

 嬉しいことが、つらいことなのだ。


 ところがチュリさんの存在が癒やしになるのだった。

 怒りまくりそうな感情が、チュリさんが5人目にいることによって、素直に甘えて愚痴りたくなる。

 実際にそうして宥められ、励まされてしまった。

 いつの間にか、チュリさんを味方として認識してしまうのだった。

 これは素直に『王太子は恐ろしい存在』、でいいのだろう。


 だが、その王太子は酒ばかり飲んでいる。

 濁り酒の冷酒が気に入ったようで、ぐいぐいと飲んでいる。

 別に陰気ではないし、絡むわけでもないが、酒量は恐ろしいほどである。

 妻たちや侍女たちは慣れているのだろうか、普通に接している。

 まあ、料理も喜んで食べているから、まだ大丈夫だろう。

 つまみもいらない、と言う酒飲みは危ないのだ。

 しかし、食べる方はスープまでで満足したのか、そこから先は酒ばかりだった。

 本当に健康を害するレベルだと思う。


「さて、伯爵。今宵は誰が一番美しく舞えたかな?」


 俺が咎めるような顔をしてたからだろうか、王太子はそんなことを言い出した。


「伯爵が一番と褒めたものには、ご褒美を出そうか」

「私に出せるものなら良いのですが」

「そうだな、伯爵をなめても良いことにしよう。それなら出せるだろう?」


 妻たち4人は驚愕し、箸を取り落とす者までいた。

 だが、一番驚愕したのは俺だと思う。


 ブー!


 ご褒美と、ご奉仕は違うと思うんです。


「きゃー」


 囲炉裏端で調理をしていたキリに被害が及んだが、タオルは一杯用意してあるので大丈夫だった。

 しかも、酔っ払ってきたので、山葡萄のジュースに切り替えていたから、アルコールのせいで「火を吐くマジック」にならないで済んだ。

 余興としては、火を吐いた方が良かったかもしれないのだが。


「紋章があっても、それぐらいのことはできないわけじゃないよ?」


 まったく、この軽いノリの王太子ってのは、とんでもない人物ではないだろうか?

 酔っ払ってるだけかもしれないけど。


 タミたち4人は更に赤い顔をして俯いてしまい、頼みのチュリさんは既に逃走していた。


 少しは嫌がってよね。

 俺は嫌では…… できれば…… そのう……

 ノーコメントでお願いします。


 勿論、遠くに座っているモモたちには事態は伝わってなかった。


 上座で授与式を行う、とか王太子が言い出す前に、俺は何か対策を考えなければならなかった。

 それも、大至急にだ。




38へ

こんな話ばかりで申し訳ありません。

少しだけですが、後悔しています。

次こそは…… 無理か。

その次は…… やっぱり無理だろうなあ。

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