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36 王太子02

 36 王太子02




 案の定、氷見伯爵邸は大騒ぎになった。


 『お尻を触られた』

 『股間を覗かれた』

 『おっぱいを揉まれた』

 『紋章をツンツンされた』


 などと言う被害というか、報告というか、苦情というのか、次々にご注進が来るようになり、今でも廊下をドタバタ駆け回る音や悲鳴が聞こえてくるのだった。


 まさか、王太子を殴りつけるわけにもいかないし、文句を言って聞いてくれる人でもないと思う。

 しかも、全然捕まらないのだ。


「きゃー」

「ひぃぃー」

「ひぇー」


 悲鳴を聞きつけて現場に急行するのだが、既に王太子の姿は何処にもなかった。

 何度か繰り返すうちに、疲れて、捕まえるのは諦めてしまった。

 しかし、被害は続いている。


「ビックリして鍋を引っ繰り返してしまいました」

「襖を破いてしまいました」

「酒瓶を割ってしまいました」

「湯船に落ちてしまいました」

「新鮮な卵が全部……」

「リヤカーの野菜をぶちまけてしまいました」


 などと言う実害も出始めて、先程など三ケ村からの緊急援助物資(肉類、野菜類、海産物、酒、衣類、タオル等の日用品)を運んでいたものまで被害にあったらしく、その行動力には呆れるというか、素直に驚かされた。


 経験豊富な?フィティまで涙目で訴えてくるし、まったく王太子は化け物かもしれない。


「だって、羽織一枚だけで、ブラブラさせながら、廊下の向こうから走ってくるのよ。あんなの見たことなかった。もう、怖くてひとりでトイレに行けない」


 それは変態のお約束だ。

 いや、変態はコートだっけ?

 とにかく、凄い悲鳴を上げてたよね。


 しかし、確かにトイレに出没されたら怖いかもしれない。

 下半身丸出しでも、羞恥心はちゃんとあるからだ。


 その、途中で、止められるのだろうか?

 出しながら悲鳴を上げるのだろうか?

 と、途中で立ち上がったら、どうなるのだろう?


 ばかん!


「今は、そんなこと想像している時じゃないでしょ!」

「いや、そうだけど、ちょっと興味が……」

「クズなんだから!」 


 何故、俺の考えていることがわかったのだろうか?

 当てずっぽうじゃないよね?

 だが、流石にトイレで被害にあった話は来なかった。

 非常識の中にも、常識を持っているのかもしれない。

 線引きできるのか、王太子!

 いやあ、変態に常識も何もないかな。


「紋章があるから大丈夫だと言って、両脚を広げようとしたの」


 これは泣き顔のハギである。


「それで、広げたのか?」

「は、半分くらいですよ!」


 半分広げるとどうなるのか想像できなかった。


「ひょっとして、これぐらいか」

「もうちょっとだったかしら?」


 俺がハギの脚を広げて見せると、ハギは自分の両脚の感覚を確かめながらもう少し広げようとした。


「もう、伯爵様のエッチ!」


 ばきい!


 やっぱり、俺は殴られるのか?

 ハギが迂闊なんだと思うよ。


 ばん!


「伯爵様! もう、我慢できません!」


 キリが両手で襖を開けて怒鳴ってきた。

 かなり、怒っている顔だった。

 だが、それもすぐに可愛い悲鳴に変わった。


「ひぃぁぁー!」

「キリちゃん格好いいね。お尻もいいね」


 王太子がそう言って、親指を挙げてから逃げていった。

 怒鳴り込んできたキリの廊下側の無防備なお尻を触ったのだ。

 サムズアップと言うのだっけ?

 ウインク付きだった。


 これだけ大騒ぎになっているのに、王太子の姿を目撃できたのは、その時だけだった。

 短い時間なのに、キリは名前まで覚えられている。

 お尻の感触も覚えられただろうなあ。

 羨ましい能力かも?


 キリはそのまま暫く部屋の入り口で正座して俯いていたが、次の悲鳴が響き渡ると慌てて立ち上がり、俺の胸に飛び込んできた。


「伯爵様、何とかしてください。このままじゃ私……」


 涙目だったから、何が言いたいのかわかった。

 お化け屋敷って、お化けが出るとわかっていても怖いもんね。

 最悪、ちびってしまうかもしれないしね。


 しかし、あの人、宮廷でもこんなことしてたんだろうか?

 王様に何かを報告中の女官が、突然、悲鳴を上げて書類を放り出したりしたら、あの王様じゃなくても追放ぐらいしそうである。

 それとも、宮廷を出たからこんなことを始めたのだろうか?


 でも、あの人は俺より偉いんだよな。

 止めることなんかできるのだろうか?

 特殊な接待として諦めるか?


 そう言えば昔は、おじさんたちがお店や会社で若い女の子のお尻を平気で触っていたという。


「○○ちゃん、彼氏でもできた?」

「きゃあ」

「○○ちゃんの彼氏は幸せだねえ」

「もう、すーさんったら」


 などと言いながら、お尻を撫でる輩がいたという。

 俺もおじさんになればできるのだろうかと、淡い期待をして想像したこともあるが、現実にはセクハラとかで厳しく取り締まれる世の中になってしまった。

 本当に世の中は良くなっているのだろうか?

 

 しかし、ここでは強姦罪どころかわいせつ罪すら聞いたことがない。

 取り締まれるのだろうか?


 お尻を触れる居酒屋とか、喫茶店は人気が出るだろうか?

 風俗扱いになるのだろうな、きっと。

 ノーパン喫茶とか、昔はあったらしいのだが、何故かなくなってしまったらしい。

 原因はなんなのだろう?

 リア充は行かないからだとかだろうか?


「伯爵様?」

「ああ、わかった。暫くは止められると思うから、その間にトイレに行ってきて」

「ち、違います! 仕事が進まないのです」

「おう、わかった。わかった」

「だから、違います!」


 拳を握って振り回すキリというのも、何だか可愛かった。

 だが、次の悲鳴が上がると、キリは再びしがみついてきた。

 柔らかくて、いい匂いがした。

 後ろ髪を引かれるとは、こういう思いなのだろうけど、仕方がないから頑張ってみよう。


 渡り廊下を渡って、王太子の部屋に行く。


「王太子殿下、いらっしゃいますか? 入りますよ」

「はーい」


 しつこいくらいに声をかけて注意を促してから、可愛い返事を確かめて襖を開けた。

 そこには全裸の美女が2人!

 タミとスミが、タオルを干していらっしゃった。


「し、失礼しました!」


 つい、襖を閉めてしまった。

 しかし、あの人たち外でもずっと全裸だった。

 俺、悪くない。


「すみません、王太子殿下。御用事があるのですが」

「はーい」


 襖を開けてみると、今度は全裸美女が3人!

 増えたのはユミだろうか?

 それも、お尻を向けて少しだけ開脚していた!


「し、失礼しました!」


 やはり、襖を閉めてしまった。

 長年染みついた習慣というのは恐ろしい。

 しかし、これでは無限ループになりかねない。

 悩んでいると、内側から襖が開けられて、チュリさんが赤い顔を出した。

 勿論、全裸である。


「すみません、王太子殿下に用事で」

「御用事なら、ちゃんと入ってきてくださいね」

「しかし……」

「ああ、そういう方も時々おられますが、遠慮していたら永遠に入れません。太子はそういうところ意地悪ですから……」


 確かにそうだ。

 宮廷でも、さぞかし迷惑をかけたのだろう。

 だが、遠慮しとかないと、つまらない用事を作っては入り浸ってしまいそうで怖いのである。

 部屋を覗くと、3美女はさっきと違うポーズを取っていたが、覗かれるのはわかっていたようだ。

 髪を下ろしていたり、梳いていたりする。

 色気が半端ない。


 そして、奥の部屋の間仕切りが開けられていたので、そこでクミの膝枕で耳掃除をしてもらっている王太子の姿が見えた。

 さっきまで邸中で暴れ回っていたのに、気配も感じられない。

 流石は王太子か?


 それで、勇気を出して部屋に入った。

 しかし、艶めかしい部屋の中では足がすくむ思いだった。

 全裸の人妻空間に入り込むなど、普通は経験することなどないんじゃないだろうか?

 チュリさんが励ますように手を引いてくれたが、彼女も全裸の人妻だった。

 3人は、目を向けると唯でさえ色っぽいポーズなのだが、目を離すと開脚してるような気がする。

 気のせいだと思うことにする。

 顔が赤いから無理しているのがわかる。

 しなきゃいいのになどとは言えない。

 王太子の支配空間だからだ。

 僅か数メートルが遠かった。


 奥の部屋には侍女たちもいて、何となく仕事を中断して眺めているような雰囲気があった。

 それで、王太子の策だと気づいた。

 さっきまでは、侍女たちが手前の部屋にいたのだ。

 それが普通である。

 ところが、俺が来たことを知って、全裸美女と入れ替えたのだ。

 それで、最初は二人だったのだろう。


 俺は手前の部屋で這いつくばった。

 邸に来る途中、王太子は堅苦しい関係はやめよう、お互いに『カル』と『クズ』と呼び合おうとか言っていたが、そう簡単にはいかないものである。

 まだ、交渉は始まってもいないのだから。


「王太子殿下、よろしければお風呂をご一緒させてくださいませ」


 流石の王太子も、風呂に入ってからは悪さはしづらいだろうし、宴会までの時間も稼げるだろう。

 それに、この人は酒好きなのだと聞いている。

 風呂上がりに一杯飲んだら、もう落ち着くだろう。

 俺なりにいい策だと思っていた。


 王太子が『風呂』と聞いてピクリと動くと、それを察したクミは耳掃除をやめた。

 ピンクの乳首がひどく気になった。

 背中を向けていた王太子はクミの膝から起き上がると、クルリと回ってこっちを向いた。


「さっき覗いたんだけど、ここの風呂はデカいよねえ。檜風呂だったかな」

「はい、複数で入れるように大きめになっておりますから、ご一緒させていただいても大丈夫かと思いました」

「蒸し風呂と違って、直接お湯に入るんだって?」

「そのとおりです」

「よし、入ろう」

「はい」

「で、世話係はどっちから出す?」


 王太子は。悪戯を思い付いたぞ、と言うような顔をしていた。

 だが、確かに難問だった。


 ①世話係なし。

 ②こちらから出す。

 ③王太子側が出す。

 ④両方から出す。


 多分、この4択だろう。


 ①は王太子が望まないから却下だった。


 ②は、誰を出せばいいんだ?

 フィティに頭を下げて頼むのか?

 だが、俺もフィティも無茶な要求を拒めるかはわからないし、フィティがエッチなことをされるのを黙って見ているのは面白くない。

 それに、もう一人必要だろう。


 すると、③か?

 だけど、常識的なチュリさんを出してくれればいいが、ユミとかスミを出されると俺の精神が崩壊する恐れがあるのではないだろうか?

 いや、それはタミでもクミでも同じだ。


 そうなると、無難なのは④である。

 お互いが世話して欲しい相手を選べば良いのだから、解決だろう?


 俺は短い時間を使って高速演算をし、シミュレートをすませた。

 最悪、経験値の高いフィティに嫌なことを少しだけ我慢してもらえばいいだろう。

 借りは高くつくかもしれないが、誠心誠意、フィティのために頑張れば許してもらえるだろう。

 迷惑をかけたなら、償いをすべきであるし、お礼も何かできるだろう。


 俺は多分ここに来てから最高の演算速度を記録するくらい頭を働かせた。

 フリーズすることなく計算し尽くした。

 これでいいはずだった。

 しかし、そもそも人妻をどうこうする前提が間違っていたのである。


「お互いに出すことにしましょう」

「そうか、なら、お互いに紋章持ちが4人ずついるのだから、それでいこうか」


 4人ずつ、4人ずつ……

 それでいこう、それでいこう……


 俺の頭の中でフレーズが反響していた。

 暫く、何を言われているのかわからなかったが、チュリさんが涙目になっているのに気づいて、我に返った。


 待て待て待て待て、待てばカイロに温湿布。

 低温火傷は避けられないな。


 俺と王太子は、一見、女好きであり、親族であり、お互いに女しか連れていないところなど、似ているように見えるけど、実際は全然違うのだ。

 王太子は、記憶力も経験値も計算高さも策謀もエッチ度も俺より遙かな高みにいて、あらゆるところが俺を凌駕しているのだ。


 例えばチュリさんもそうである。

 たった一言『抱いてもいいよ』と王太子が勝手に言っただけで、俺は既に心の交流があるかのような親近感を抱いているが、彼女は紋章の種類が異なるだけで、タミやクミと同じ人妻である。

 奴隷紋でも王太子の妻である人を、どうこうできるわけなどないのである。

 それなのに、王太子の策謀に乗ってしまっている。


 親戚というのもそうだ。

 たまたま周王の血筋だと言うことで、周王を中心に考えて親戚だとかになっているけど、母系で見ればまったく関係のない他人同士である。

 通い婚だとか夜這いなら、まったく繋がりのない他家である。

 容姿もくやしいことに似ていない。


 大体、利害関係も反対なのだ。

 王太子は周国の法によって罰しようとしているのに、俺はそれから逃れようとしているのだ。

 つまり、一見友好的な関係に見えるが、お互い信用などこれっぽっちもないはずなのである。


 では、これをどう切り返すか?


「王太子殿下、うちの紋章持ちは宴の支度の責任者たちです。世話係には選べません」

「うーん、そうか困ったなあ」

「奴隷紋でも良いのではないでしょうか?」


 チュリさんの目が輝いたが、それって勘違いですからね。

 お互いの主人に仕えるだけですからね。


「しかし、僕には奴隷紋はひとりしかいないから選べないし、第一ひとりだけじゃつまらないよ」


 いや、世話係はひとりでも充分ですって。


「こうしよう。お互いに無紋が二人ずついるから、それを出そう。決まりだ」

「ええっ?」


 王太子は笑顔でウインクしてくるが、こっちには無紋(処女)などいないのだ。


「では、風呂場で会おう」


 王太子がそういうと、部屋の中が動きだしてしまい、居づらい所が更に居づらくなってしまったので、退散するしかなかった。




 一応、念のため、部屋で宴会の準備をしているキリに尋ねた。


「この邸に紋章のない処女がいるかな?」

「昨日の今日で、もう処女が欲しいのですか? 4人も紋章持ちにしたばかりじゃないですか! まだ……」


「まだ?」


「ヒリヒリするし、中に何かが入ってるような違和感が……」


 キリは内股になって、モジモジした。

 可愛い……

 もう一度してもいいかな?


「そうじゃなくてさ。王太子が風呂の世話係に処女を二人出せって言うからさあ」

「いない者は出せませんよ。ない袖は振れないと言うんでしたっけ? 王太子の勘違いでしょう」

「そうかな」

「今は忙しいので、後で詳しく聞きますから」

「いや、いいんだ。気にしないでくれ」


 そうは言ったものの気になるので、土間で見つけたススキに尋ねてみたが、同じような答えだった。

 内股になってモジモジも同じだった。

 ハギは見つからなかったが、ボタンも同じようにモジモジだった。

 仕方がないので、風呂の準備をして風呂場へ行き、そこで王太子に謝ってフィティか、駄目ならシアも呼ぶことにしようと思っていた。

 何しろ、他に頼めるような人がいないのである。

 手伝いはみんな人妻で、奴隷紋だから確かめるまでもないのだ。


 6人は多いのでは? と思ったのは昨晩のことなのに、今日はもう人材不足に陥っていた。

 そして、この人材不足は人妻では補えないのだった。

 まあ、普通は人妻を駆り出したりはできないものだが……

 フィティやシアならいいのかな?

 いいわけないよな。

 言い訳もできないよな。


 向こうには妹候補の少女が二人いるのは事前情報でわかっていた。

 多分、その二人を使って、王太子が金貨を融通してもらおうと考えている所まで読んで、氷見に来たのだ。

 お預かりして、金貨2千枚とかになるだろうけど、これはもう仕方がないと考えていた。

 本当は、その二人を、ちゃんと見て確認したかったのだが、美しい妻たちと王太子の言動に振り回されて、疎かになってしまった。

 だが、ここで王太子はこのカードを切ってきたから、振り出しというのか、一応は想定内である。

 後は、相手がどう話を持っていくのかを待つだけだった。

 しかし、昨日だったら処女が4人もいたのだけれど、何とも間の悪いというか、いや、ラッキーと言うべきなのだろうが、何とも恥ずかしい事態になってしまった。

 暫くは黒部に帰れないな。

 ストライキを起こした、モモとかウメに合わせる顔がない。


 がらり。


 風呂場の入り口を引き、俺はフリーズした。

 幻覚だろうか?

 それとも、夢にまで見るようになったとか?


「伯爵様?」

「伯爵様?」


 脱衣所にいたのは、チュリさんに連れて来られたのであろう、全裸のモモとウメだった。




 長い長いフリーズを抜けると、そこは天国だった。

 ウメには見せてもらったことはあるが、モモの全裸は初めてである。


 おかしい。

 長い間、ボッチで童貞だった俺は知っている。

 現実に見たことがないものは、夢の中でも見ることができないのだ。


 例えば、中学2年の時に同じクラスになった学校一の美少女が、夢の中でパンツを脱いでくれても、現実に見たことがないと夢の中でも見ることはできないのである。

 ぼかしだったり、マネキン人形みたいになるのがいいところである。

 そう言えば、彼女はモモみたいなタイプだった。

 1年間、1度もしゃべった記憶がない。

 勿論、話しかけられても、何も言えなかったと思う。


 中学3年の時の同じクラスの美少女が夢の中でポロリをしてくれたのは、偶然ではあるが、現実でもポロリをしてくれたからである。

 夏期施設のフリータイムの時に、何人かはビキニ姿を披露してくれて、その時に神の悪戯か、波の悪戯か、運命の悪戯があったのだ。

 その瞬間、俺の世界は静寂に包まれていたし、目撃した他のクラスメートも顔を背けて何も言わなかったが、勿論、俺も何も言わなかった。

 普通の出来事ならみんな騒ぐし、俺も騒ぐかもしれない。

 しかし、みんな脳内保存を優先したのだろう。

 その夜は無事に過ぎたが、翌日に家に帰り着いた男連中の部屋ではカーニバルが続いたことだと思う。

 俺んちなど、1ヶ月は続いた。

 変なグラビアで上書きしないように気をつけたものだった。


 そう言えば、彼女はウメみたいなタイプだった。

 おっぱいはそれほど大きくなかったし、お尻は想像以上に大きかった。

 俺は暫くの間、彼女に告白しようかと随分と悩んだものだった。

 それくらい、衝撃的な出来事だった。

 若気の至りであり、勘違いだったけれど。

 エア恋人とでも呼ぶのだろうか?

 今では顔も覚えていないし、当時も忘れないほど見ていたわけではなかった。

 ポロリやパンチラは少年を狂わすのだ。

 まあ、告白など、機会と手段に恵まれなかったが、それ以前に度胸に恵まれていなかった。

 クラスの男どもが3人ほど玉砕していた。


 説明が長くなってしまったが、そういうわけで俺の脳内にはモモの全裸を完成させるだけのピースは揃っていないのだった。

 それなのに、目の前のモモは全裸で、全部を見ることができる。

 勿論、夢の中でも好きなポーズをさせられるわけではない。

 ないのだが、ここまでリアルに詳細を見ることができる夢を、俺は見ることはできないはずなのだった。


 ならば、現実なのだ!

 俺はフリーズを解いた。


「モモー!」


 びたん!


「お戯れは嫌でございます!」


 俺は抱きつこうとして、右手でビンタされた。

 左手が股間を隠していくのが悲しかった。


 現実はいつだって厳しいものだ。


 しくしくしく。


 俺が現実に打ちひしがれて泣いていると、チュリさんが抱きしめてくれた。


「伯爵様、私で良ければ何処でもお見せしますから」

「チュリさーん」

「あらあら、甘えんぼさんですねえ」


 俺はチュリさんの優しさにつけ込んで、腕に抱かれて、むせるような肌の匂いとおっぱいの柔らかさを堪能してしまった。


「伯爵様!」

「伯爵様ー」

「いー、いたた」


 モモとウメに両側から耳を引張れて、引き剥がされた。

 チュリさんは笑ってみている。


「まったく、黒部を出て、まだ2日目ですよ!」


 モモが美しい目をつり上げて言う。


「このためにウメを置いて行ったのでしょうか?」


 ウメが垂れ目気味の瞳を濡らして言う。


 うーん、こうしてみると、ウメも美人さんだな。

 つり目のモモちゃんの方が華やかで俺の趣味だと言うだけで、ウメも優しそうな美人だから、現実の人気は二分されそうだ。

 それに、二人とも身体つきが大人っぽくなってきている。

 いつもは隠されている上半身と、いつも丸出しの下半身を繋げてみると、以前よりもラインが柔らかいのに曲がりが大きい気がする。

 おっぱいはモモの勝ち、お尻はウメの勝ちだな。


「伯爵様、比較なされるならチュリも混ぜていただかなくては」


 チュリさんがそう言うと、ウメの隣に並んだ。

 途端に、モモもウメも股間だけでなく、おっぱいも覆い隠して「ううぅ」と唸った。

 恨めしそうな顔をする。

 流石に色気ではチュリさんの勝ちだが、清楚さでは二人のが上だった。

 どちらが好きかと言えば、両方とも好きだ。


 考えてみれば、誰かを選ぶために誰かを諦めるなんてできるのだろうか?

 仮に誰かを選ぶとしたら、その基準は何なんだろう?


 ① 美人

 ② スタイル

 ③ 性格

 ④ 匂い

 ⑤ 抱き心地

 ⑥ 反応

 ⑦ 飽きの来ない味付け

 ⑧ にじみ出す色気

 ⑨ 料理上手

 ⑩ 床上手


 こうした項目は数えだしたらきりがないだろう。

 人によっては、姑との相性とか、跡継ぎの男の子を産むことなどという、無理難題まである。

 商売柄、社交性が必要とかの条件もあるかもしれない。

 家柄や財産とかも。


 とは言え、目の前の3人の中から一人だけ選んで結婚するとしたら、ひとりずつ3ヶ月ぐらい一緒に暮らす、お試し期間が必要である。

 待たせるわけにいかないのならば、3人と一緒に暮らすしかないかもしれない。

 毎晩、毎晩、比べるのだ。

 本当か?


 だが、そこまでしても選べなかったら(俺は選べない自信がある)、どうすれば良いのだろうか?


 例えば、美人と結婚しても料理が壊滅的だったら、その後は何十年も不味いメシを食わなければならない。

 刑務所か?


 例えば、性格が良くても抱き心地や反応が悪いマグロだったら、何十年も暗い生活になるだろう。

 匂いが好みじゃなければ、絶対にいい匂いの女と浮気することになるだろう。

 床上手でも性格が悪かったら楽しくないと思う。


 しかし、そもそもそうした長い比較項目チェックリストを埋めていく行為が可能なのだろうか?

 いや、比較できるだけの女の子を集められるだろうか?

 大体、女の子を選べる立場か?

 選んでも、選んでもらえないだろう?

 みんな、どうやって選んだのだろうか?


 個人的には、多少不細工でもスタイルがいい人がいいかな?

 美人じゃなくても料理上手で、毎晩手作りの美味しいメシを食わせてもらえる方が嬉しいかな?

 匂いと肌の感触だけは譲れないかもしれない。

 毎晩、反応してくれるといいかな?

 時々は上になって……

 ごほん。

 いやあ、結構注文が多いなあ。


 そんな選べないクズには、やはりハーレムエンドしかないだろう?


 そうか、現実世界ではキモいボッチではなく、選べないだけだったんだな。


ーー感想は個人の思い込みですーー


 がらり!


「やあ、盛り上がってるね」

「きゃー!」

「ひゃー!」

「ひうっ」


 王太子が入ってくると、モモとウメはしゃがんで素肌を隠し、何故かチュリさんまで悲鳴を上げておっぱいと股間を隠していた。


 うーん、こうした妻の方がいいかも?


 王太子は全然気にせず、少女二人を紹介してくれた。


「こちらが、ウノ姫」

「初めまして、ウノじゃ」

「こちらが、サララ姫」

「は、じめまして、さ、サララなの」


 二人とも将来は凄い美人になるだろうけど、今はまだ、ペッタンコのスッポンだった。

 始めから全裸できているので、紋章がないのは良くわかった。


 モモとウメとじゃ、不公平じゃないか?


 そう頭の片隅で感じていたのだが、問題なのは彼女たちの名前だった。

 二人合わせれば『鸕野讚良うののさらら』になるのだ。

 これは、非常に拙いフラグになるのではないだろうか?


 王太子は上機嫌であり、イケメン度が増しているように見えた。




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