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35 王太子01

 35 王太子01




 翌日、赤い顔をして俺から目を背ける手伝いの女たちをできるだけ無視して、畑仕事の続きを始めた。

 鍬を振るい、硬い地面を掘り返す。

 考えると恥ずかしいので、考えないように畑を耕すことに集中する。

 しかし、手が止まる度に、昨夜のあれこれが思い出されてきて自動再生されてしまう。

 4人の美少女と2人の美女。

 一度にと言うわけではないだろうが、一晩に6人も攻略して、しかも俺は至った。

 相手も何度も至ったと思うけど、俺は最後には至ったのだ。

 何に至ったのかは、人それぞれ個人の感想にお任せしよう。

 世の中には俺よりも至っている人はいるだろうし、そういう意味では俺なんかまだまだではないかと思うけれど、まあ、一応は満足な結果だし、ひょっとしたら今夜も望まれるかもしれないではないか?

 望まれなかったりして?

 いやいや、ここは悲観的になる場面ではないだろう。

 素直に、喜んでいいのだと思う。


 しかし、どっちも良かったな。

 全部いいよな。

 ウヒョーだな。

 うへへだな。

 どうして女の子って、ご馳走みたいなんだろう?

 砂糖でできているって、何処かで聞いたような気がする。


 少し、頭が腐っているかもしれない。


 6人は、「二日酔い」を理由に寝込んでいた。

 俺は身体を動かしている方が、変なことを考えずに過ごせるからいいようだ。

 他の手伝いたちは、やはり目をそらしたりして挙動不審なので、ひとりで畑にいる。

 まあ、昼飯ぐらいは誰かが作ってくれるだろう。


 畝は作らずに、耕した所に種を蒔いて、土をかぶせていった。

 単純な肉体労働を続けていると、何となく昨夜の痴態も忘れていられる。


「でへへへへ」


 まあ、時々思い出し笑いもするが、誰もいないので気持ち悪がられたりしないだろう。


「でへへへへ」

「伯爵様ぁ」

「ひぇ!」

「失礼ですね。私ですよ」


 振り返ると、美女がいた。

 ショートの髪が綺麗なストレートであり、昨夜よりもちゃんと手入れしてある。

 笑顔もほんのりと薄化粧してあって、昨夜よりもずっと清楚な感じではある。

 別人のようであった。

 脚にはブーツを履いているものの、その上は丸出しで、おっぱいの部分だけ手拭い(タオル)を巻いて縛ってある艶めかしい姿だった。

 全裸ではなく、着衣でもなくアンバランスな感じである。

 でも、美人はそんなんでも様になるから困るのだ。

 身体が芸術品に思えるからだろうか。

 エッチ寄りの芸術だったが。


 たれ耳に薄い褐色の肌は、多分、フィティだと思う。

 多分というのは「18歳」とか言われても信じてしまいそうな容姿だからだが、匂い立つような色気は「二十歳以上」で間違いないだろうから、間違いないだろう。

 奴隷紋は赤く色づいていて、その下の丸出しの部分まで俺は昨夜に堪能したのかと思うと、つい、元気になってしまいそうだった。

 しかし、誰かに似ている気がするのだ。

 誰だろう?


「あのー、お弁当、お持ちしました」

「おっ、ありがとう。じゃ、休憩にしようか」

「はいっ!」


 何だかご機嫌である。

 俺もだが。

 畑の脇にある木陰に筵を広げて二人で座る。

 フィティの座る場所には高級品であるバスタオルを2枚ほど敷いてやる。


「ふふふ、紳士ですねえ、伯爵様は」

「へたれだけどな」

「やだなあ、根に持っちゃってますぅ?」


 やっぱり誰だ、この可愛い人。


「昼間は随分と雰囲気が変わるんだな、夜の支配者さん」

「やっぱり、根に持ってる~。でも、伯爵様の好みに合わせようと思って~」


 そう言って、長い睫毛をパサパサしている。

 あんまり作りすぎると、あざとく感じるからね。

 可愛いけど。


「誰が好みだって?」

「また、可愛くないなあ、昨日3度も出したくせに」

「うっ、そ、それは、に、2度だからね」

「あの感じは3度の気がしたけどな~」


 男の子には秘密があるのです。

 まあ、3度目は『2段突き』だったのだから、正しい推測だけど、やっぱり秘密にしておく。

 ベテランなら慣れてるだろうし、きつめにしてもいいかと思ったのが本音だったけどね。

 実際に、凄く良かったしな。

 とても我慢できなかった。

 どんなに激しく動いても、腰がピッタリと離れない感じで……

 いやあ、これも内緒。


 フィティは、暫く俺の顔を見つめて返事を待つようだったが、俺が応えなかったので諦めて弁当を広げ始めた。

 下半身は丸出しだが、きちんと正座して弁当の準備をしている姿は美しく、様になっていた。

 とても魅力的であり、上品にすら見えた。

 美女って、お得だよなあ。

 まあ、そのせいで性奴隷にされるってのも不幸なのだけれども。

 いけない、いけない。

 わかったような気になるのは、人には不愉快だよな。


 弁当は、塩むすびに手羽先の唐揚げ、それに玉子スープだった。

 野菜がないのは、俺のせいだ。

 季節の野菜ぐらい氷見にもあるだろうと思っていたから持ってこなかったのだ。

 当ては見事にハズレだった。

 勿論、三ケ(さんが)村長に発注済みである。


 驚いたことに弁当の味は極上で、玉子スープは態々酒瓶(昨夜飲んだ黄酒の空き瓶・陶磁器)を再利用して詰めてあり、まだ温かかった。


「うーん、料理得意なのか?」

「料理だけじゃないよ。芸事っていうのかな。読み書きそろばん、歌と踊りも仕込まれてるからね」


 そうか、仕込まれるって、舞妓さんのようなものだったのか。

 それとも、花魁みたいなものだろうか?

 良くは知らないのだけれど、手間ひまかけて金かけて仕込まれるのだろう。


「勿論、一番得意なのはエッチなことよ」

「それは、態々、言わなくていいからね」

「もう、したから?」

「ち、違うって!」

「もう、出したから?」

「だから、違うって! 言い換えるな!」

「じゃあ、エッチな女は嫌いなの?」

「それも違う!」

「時々いるのよね。処女じゃないと嫌だとか言う変な男がね」


 チラ見するなよ。

 俺は違うからね。

 いや、処女も少女も好きだけれど、成熟した女も好きだ。

 美人なら何でも好きだ。

 多分、40歳以下ならいいのだと思う。

 流石に年上だとかは…… いや、そんな、ちょっとゾクゾクしてしまった。

 45歳とか?

 50歳とか?

 俺はやっぱりクズなのだろうか?


「それとも、若くないと嫌なの?」

「お、俺は、その、若くなくても…… 上手な…… 女は…… 結構……」

「上手がなあに?」

「だ、だから、美人で上手な女は大好きだー!」

「きゃあ、嬉しいっ!」

「ひっつくな。スープがこぼれる!」


 本当だぞ。

 嬉しいとかは、少ししか思ってないんだからね。


「ね、なめてあげようか?」


 ブー!


「きゃあ、吹かないでよ!」

「しょ、食事中に変なこと言うからだ!」

「ええっ? 食事中も結構いいのよ?」

「意外そうな顔をして、からかうな」

「じゃあ、食事が終わったらね」


 ブブー!


「もう、食事もちゃんとできないなんて」

「お前のせいだ!」

「私がちゃんと世話してあげないと駄目な人なのかしら?」


 いや、結構、駄目人間だけどさ……


「ぐわっ、何故、握るんだ!」

「だから、世話してあげようかと……」

「それは世話じゃない!」

「嬉しいくせに!」

「ちゃんと、メシ食わせろー」

「ひも稼業は禁止です」

「だから、そう言う意味じゃない!」

「はい、スープのお替わり。もう、こぼさないでね」

「うううー」


 なんか、こいつ苦手かも?

 からかわれているだけなんだろうけど、何でこんなに絡まれていいるのだろうか?

 それから、握るのはやめて。


「ねえ、お弁当美味しい?」

「美味いよ、本当に美味い」

「そう、良かった~」


 嬉しそうな顔は、それでも美人に見えた。

 2個目の塩むすびを渡されて、それも食べる。

 何の具材もないから、シンプルに美味しいのがわかる。

 手羽先は骨っぽくて食べづらいが、ここではそれなりに贅沢だし、醤油味は越国では一般的だが、海外では高級品である。

 しかも、これも美味い。

 そして、スープも上品な味で美味い。

 かなりの腕前なのだろう。


「これだけの腕なら、女中より上かもしれないな」

「エッチはそうかな?」

「そっちの話じゃない!」

「でも、本当でしょ?」

「わかった、わかった」


 だから、ベタベタするな。

 握るな。

 笑顔を見せるな。


 いや、待てよ。

 フィティと俺の関係は何なんだろう?

 勢いで抱いてしまったが、何かしら責任はあるのではないだろうか?

 待てよ、相手は人妻だろう?

 グループ婚とは言え、人妻に対する責任なんて取れるのだろうか?


「フィティはこれからどうするんだ?」

「取りあえず、なめたいかな」

「だから、そう言う話じゃない!」

「じゃあ、どういう話?」

「うーんと、今後どうしていくかとか」

「伯爵様の世話をする~」

「女中がするからいらない」

「えー、私の方が絶対にぃ気持ちいいよ~」

「だから、そう言う世話じゃない!」

「もう、他に女中がすることなんかないじゃない」


 そうなのか?

 モモちゃんとかも、そう思っているかな?


『伯爵様、今夜のお戯れは私が担当いたします』

『モモ、お盆で隠さなくていいのか?』

『隠したら、お戯れになりません!』

『じゃ、脚開いてもいい?』

『もう、少しだけですよ』


 なんて、なんて、ことは起こらないだろう。

 はあー。


「まったくもう、他の女のこと考えてる~」

「ち、違うから握るな、痛い!」

「つねってるの!」

「痛い、本気で痛いから」

「じゃあ、私だけ見て!」

「はいはい」

「ちゃんと見て」

「はい、見てます」

「どう?」

「どうって?」

「あのね、私のこと、好き?」


 フィティは一度顔を伏せると、頬を染めて上目遣いで聞いてきた。

 かなり、ドキリとした。

 女の子は、経験でも年齢でもない。

 では、何なのだろう?


「今更だけどさ、フィティは魅力的だし大好きだよ」

「ほんと!」

「本当だよ」

「じゃあ、なめてもいい?」

「な、何だってそんなに拘るんだよ」

「だってえ、昨日は私ばかり感じちゃったから…… お・か・え・し?」

「そ、そんなことはないぞ、俺だって……」

「俺だって、なぁに?」

「いや、何でもない」

「もう、ずるぃい!」

「だから、握るな!」


 俺もかなりエッチだが、エッチなお姉さんと一緒になると、これは永遠に続きそうだった。

 俺も反撃することにした。

 下半身ツンツン攻撃したり、おっぱいもみ攻撃を繰り出すと、フィティは身を捩って嫌がるが、喜んだ。

 タオルが外れて、全裸状態になっていく。

 おっぱいがぷるぷるであり、お尻がプリプリである。


「そこまでよ!」


 二人してキャーキャーやっていると、頭上から声が降ってきた。

 ビクリとして見上げると(俺がフィティを押し倒していた)、胸にタオルを巻いただけのシアが仁王立ちしていた。

 白い肌が眩しく、白い裸が眩しかった。

 茶髪はひとつに纏められて、後ろになびいていた。

 ふくらんでいる部分と、引っ込んでいる部分のギャップが、少女では獲得できない魅力的なラインを描いている。

 そして、少しお怒りモードか?

 修羅場か?


「あれえ、シア、もう復活したの?」

「抜け駆けなんてずるいわよ、フィティ」

「抜け駆けじゃないもん。早い者勝ちだもん」

「そんなことは許さないわ」

「どうするの?」

「私も参加する~」

「ちょ、ちょっと待て!」

「じゃあ、どっちが長くなめられるか競争する?」

「どっちが喜んでもらえるかでしょ」

「それじゃ、勝負にならないわ。私のが上手だもの」

「も、もう、なめたの?」

「ううん、まだだけど」

「なら、勝負はこれからよ」

「俺の意見も聞け!」

「きゃー、伯爵様が本気になった!」

「きゃー、お尻はだめ、弱いのー」


 予想に反して、エッチ度とキャーキャー度が2倍になっただけで、なにも解決しなかった。

 おっぱいがぷるぷるぷるであり、お尻がプリプリプリであった。

 真っ昼間の屋外で何をやっているのかと思われるかもしれないが、真っ昼間の屋外で艶めかしい全裸の女二人と戯れることができるのは、クズだろうが、歓喜に近かった。

 いや、歓喜そのものだった。

 その後も、歓喜が何度も続いた。




「ごほん、失礼します。閣下」


 再び声が降ってきた時、俺は右手にフィティの左おっぱい、左手にシアの右おっぱいを掴んで、残りのおっぱいに交互に吸い付いている最中だった。

 吸い付くから、スイーツって言うのだろう。

 嘘です。


「きゃっ」

「きゃわっ」


 下にいたから、二人には来客の顔が見えたのだと思う。

 こんなことをしていても、羞恥心はあるのだった。

 やっぱり、女って可愛いよね。

 それどころじゃないのだが。


「やあ、船長じゃないか。何年ぶりかな?」


 俺は見窄らしい貫頭衣をズリ下げながらも、何とか普通に振る舞って挨拶した。

 俺のパンツは見当たらなかったが。

 来客は、青島チンタオ村(俺命名)の村長であり、第1次移民団をえちに運んでくれた船長だった。

 まあ、横を向いて立っていた。

 いや、立っているかはわからないが、立っていた。


「いえ、伯爵様が相変わらずで安心しました。私はかなり年を感じてしまいましたが」


 ええっ、俺ってあの頃からエロガキだったかな?

 まあ、今はそれどころではないな。


「あちらで、周王国大使であり、王太子であられる軽の王子様がお待ちでございます」

「あの、見られてないよね」

「おほん、何をでしょうかな?」


 船長はとぼけるが、見られたのは船長だけのようだった。

 フィティとシアは、真っ赤になってお互いにタオルブラをつけ合っている。

 結構、仲が良いようだ。


「シア、フィティ。目立たないように帰って、キリたちにお出迎えの準備をさせてくれ。申し訳ないが、ここからは仕事だよ」

「はい、わかりました」

「はい、頑張ります」


 二人とも真剣な顔をしているから大丈夫だろう。

 優秀な人材だと思う。

 エッチ方面も優秀だし。

 バスタオルを肩に羽織っている姿はちょっとアレだったが、ブラだけよりはマシだろう。

 それで、俺は後を二人に任せて、先を行く船長を追いかけた。


「船長が元気で嬉しいよ。まだ、現役かい?」

「ご冗談を。今は引退して息子が山東の代官をしております。あっちは現役のつもりですが、どうにも……」


 俺はちょっと驚いたが、あっちのことではない。


「ええっ、前の代官は?」

「私腹を肥やして、王に処刑されました」


 船長の顔は苦いものを飲み干したようだった。

 周王国と直接取引があったのは、船長を介しての山東の代官との密貿易のようなものだけである。

 越国か伯爵領かで意見が分かれそうな、グレーゾーン貿易である。

 だが、それが拙かったのなら、船長も連座しているはずである。


「表向きは、周王が伯爵様に渡した金貨を、代官が5枚ほど隠し持っていたからですが……」


 船長は空を見上げてため息をついた。


「実際は、越の金貨を100枚近く貯め込んでいたからでしょうね。それほど儲かるなら報告すべきだと言うことでしょう。見せしめと言えるかもしれません」

「船長は大丈夫だったのかい?」

「こっちは大半が食料になってましたから周囲を救う余力もあって、ケチをつけられるどころか、表向きですが褒められて大夫(騎士爵)に昇格して、息子は代官に抜擢されました……」


 前の代官を裏切って出世したかのように見えることだろう。

 しかも息子は、代官という名前の人質か?

 それで、船長自身が王太子の道案内なのか?


「それは申し訳ないことをした」

「いいえ、この数年、山東は餓死者を出していません。難民もいなくなり、以前よりも豊かに暮らしています。伯爵様を恨むものはおりませんよ。ただ……」

「首切り王か」

「はい。越王と燕王を恨んでいるご様子です」

「こっちは何もしていないのだけど、無理だよなあ」

「寛容な方でしたら、首切り王などになっていないでしょうな」

「それで、王太子は?」

「ハッキリ言って、何もわかりません。一体何をお考えなのか」

「平和、ならいいのだけど」

「金貨は賭けませんよ」

「でも、金貨で済むなら安いもんだろう?」

「あれは、権力者を少々狂わせるようですな」


 確かに金貨をめぐって戦争が起こるなんて、本末転倒のような気がする。

 だけど、奴隷制度を廃止するための第一歩なのだ。

 奴隷が生きられる分だけ、誰かが死ぬのかもしれない。

 だが、奴隷だけが死ぬ世の中よりはいいだろう。


 どちらにせよ、船長の境遇だか待遇を見る限り、今回の氷見でのお芝居はバレている。

 王太子が無為に過ごしていたのは、情報収集なのだ。

 俺と何かを取り引きしたかったからだろう。

 何か、確信を得るまでは、俺に会うわけにはいかなかったのだ。

 やっぱり、腹の探り合いから始めなければならないようだった。

 唯の遊び人ならいいのだけど、あまり期待はできない。

 ボロを着てくる意味はなかったかな。


「王太子殿下。倭のクズ伯爵をお連れしました」


 林を抜けた先の丘に、スラリとした二十歳ぐらいのイケメンが立っていた。

 長衣の上に越国の商人たちの間で流行っている藍染めの羽織を着て、長い髪は結わずに後ろで無造作に束ねていた。

 束ねきれなかった前髪が風に揺れていて、映画のワンシーンのようだった。

 イケメンは絵になる。


「初めまして、伯爵」


 にこやかに、フレンドリーに挨拶されてしまい、一瞬、フリーズしてしまったが、俺はすぐに立て直して這いつくばった。


「お初にお目にかかります、王太子殿下。倭の伯爵領のクズでございます」


 みんなが俺にしていることだから、俺にだってできる。

 見窄らしい恰好をした、見窄らしい伯爵である。

 這いつくばっても構わないだろう。


 だが、その後、すぐには声が掛からなかった。

 1分、2分と長い時間が過ぎていった。

 後頭部に鋭い視線が来ているような気がしたので、俺はそのまま動かなかった。

 きっと、頭を上げる方が無礼になるだろう。


 やがて王太子が口を開いたが、俺にではなかった。


「船長、予定どおり帰っていいよ」

「しかし……」

「ついでに護衛も連れて周に帰還していいからね」

「そんなわけには参りませんです」

「いいんだ、伯爵領には兵もいないし平和そうだ。それに、僕に何かあったら伯爵が困るだろう」

「ですが、その後は」

厦門アモイかい? 伯爵に手配してもらうよ。あんな船じゃあ、潮流を渡れずに死ぬかもしれないからね。それに比べて、越の船は頑丈そうじゃないか」

「他国の船でございますぞ」

「親戚の船だよ。大丈夫だろう?」


 暫く、沈黙があったが、俺は這いつくばったままにした。

 しかし、軽の王子というのは名前だけじゃないようだ。

 口調も、決断も軽いノリでしているように感じる。

 だが、俺を這いつくばらせたままにしているのは、様子を窺っているのだろう。

 決して馬鹿ではないようだ。

 妹たちがいたら、この辺りでキレていただろう。

 ユキナとか、結構子供っぽいところがあるからなあ。

 けれど、誰も飛び出しては来ない。


「ああ、女の子たちは置いていってね。船長」

「はい、承りました。王太子殿下」

「よろしくー」

「では、伯爵様。お任せしましたぞ」


 すぐに船長が立ち去る靴音がして遠ざかり、複数の足音がゆっくりと近づいてきた。


 それから暫くして、やっと声がかけられた。


「伯爵、すまなかったね。もう立っていいよ」


 俺はおずおずとゆっくり立ち上がったが、視界には全裸美女が複数入ってきて、驚いた。

 美女軍団は王太子の紋章を持っていた。

 それも凄い美女ばかりで、オーラまで出ている。

 しかも、全員が人間族である。


「立ったかい?」


 王太子が耳元で面白そうに囁いた。

 俺は、突っ込みそうになるのを何とか自重した。

 立ちまくりで、立ちくらみしそうだった。


「早速、紹介しよう。タミ!」

「タミです。よろしく伯爵様」


 タミは一歩前に出ると軽く会釈をした。

 上気して、全裸で、凄い美女で、エレガントで、琥珀らしきネックレスだけを身につけていた。


 どないせいちゅうんや!

 目のやり場が困りすぎだろう。


「く、クズ伯爵で、です」

「しっかり、立ったかい?」


 王太子が再び囁いた。

 俺は我慢しているからではなく、本当に対応に困っていた。

 何処から突っ込んでいいのかもわからないし、そもそも突っ込んで欲しいのかもわからないからだ。


 だいたい、これ、本当に現実なのか?

 色気がありすぎるだろう?

 俺の両目はハート型に飛び出しているかもしれない。


「次は、クミ!」

「クミです。よろしくね、伯爵様」


 クミも軽く会釈をした。

 上気して、全裸で、可愛くて、美人で、やはりネックレスをしていた。

 紫水晶アメジストだと思う。


「クズ伯爵です。よろしく」

「うふふ」

「立ったようだね」

「うふふ」


 いちいちうるせえぞ!

 粗末な衣装だから、見ればわかるだろう。

 残念ながらパンツもなくしてしまったし。

 男としては正常な反応だよ!

 それから、女の子に聞こえるように言わないでね、お願いします。

 だが、俺は何も言えなかった。


「それじゃ、ユミ!」

「ゆ、ユミですぅ、よ、よろしく……」


 ユミは恥ずかしそうに会釈した。

 上気して、全裸で、美人で、しなを作るようで、ネックレスだけをしている。

 オパールだっけな? 青いやつだ。


「クズ伯爵です。よろしく」

「は、はい、こちらこそ」


 お願い、モジモジしないで!


「どうだい、立ち方は?」


 もう、無視するしかないな。

 変な汗が出まくりである。


「では、スミ!」

「スミです。よろしく、伯爵」


 スミも会釈した。

 ぶっきらぼうな言い方だが、上気していて、美人で、目が泳いでいて、くやしそうな感じだった。

 ネックレスは、真っ赤なルビーだった。


「つらいかい?」


 つらいに決まってるだろ!

 何故こんな凄い美女ばかりなんだ?

 しかも、全裸とかあり得ないし。


「はい、い、いいえ!」

「もう! きちんとしなさいよ!」

「はい」


 初対面なのに、何故かスミに叱られてしまった。

 こういうのがいい人には、たまらないかも?

 少しだけど、わかります。


「最後のこれは、チュリだ」

「チュリと申します。よろしくお願いします」

「クズ伯爵です。よろしく」


 チュリは普通の美女だった。

 だが、普通だったから、前の4人が異常なのではないかと思い付いた。

 チュリは黒いオニキスのネックレスをしていた。

 ここまで綺麗な石はありきたりの品ではない。

 している方もありきたりではないのだけど。


「君は立ち直りが早いね」


 そうかな?

 褒められたのか?

 少しだけ、体勢を立て直せそうだった。


「チュリは抱いてもいいよ」


 再び囁かれて、俺は愕然とした。

 立て直せなかった。

 何故か、チュリだけは奴隷紋である。

 チュリは真っ赤になり、他の4人にからかわれていた。

 しかし、5人とも恥ずかしそうに太股をタオルで拭い始めると、俺も感情が引き摺られていった。

 流石は王太子の女たちと言うべきなのだろうか?

 流石は王太子と素直に褒めるべきなのだろうか?

 とにかく、レベル高ぇな、おい!


「うん、うん、好感度も高いね」


 王太子は微笑みながらみんなの様子を眺めて、勝手に納得していたが、沖に向かう船長のボートが出て行くのもちゃんと確認していた。

 懐かしい移民船が沖合に停泊していた。


 しかし、王太子は俺なんかより、ずっとしっかりしている。

 心の余裕とかが違うのだろうな。


「残りは侍女たちとかだよ」


 その侍女たちとかは、ちゃんと長衣を着ていた。

 奴隷などひとりもいないのだ。

 幼い少女がふたり混ざって、ぞろぞろと20人ぐらいいる。

 多分、美女しかいないのは賭けてもいい。

 それが目立たないって、何か凄いよね。

 しかし、妻たちだけ全裸とか、何なんだろう、この人?

 

「さあ、女を抱く前に、祝杯を挙げようじゃないか」


 俺は背中を叩かれて、案内をさせられた。

 チュリが『いやん』と言いながら顔を隠してしゃがみ込むのまで見てしまった。

 見なければ良かった。


 会ったばかりなのに、もう既に王太子ペースで、10戦全敗ぐらいだろうか?

 嫌みも皮肉も、突っ込みもできなかった。

 敗北感が半端ない。

 俺は打たれ弱く、アドリブも下手だし、ポーカーフェイスも全然できないのだった。


 伯爵邸まではすぐだったが、疲労すら感じていた。

 女たちの前を歩けて助かったよ。

 王太子を迎え入れた伯爵邸は、お約束というのか、すぐに大騒ぎになった。

 しかし、ある意味では平和だった。

 頭は痛かったが。




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