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33 氷見村へ

 33 氷見村へ




 秋に入るとモモが少し大人っぽくなった。

 ちょっぴりつり上がり気味の眉は細くなり、憂いを含んだ瞳が秋の空のように澄んで深みを増し、きついが整った顔つきによく似合っていた。

 トレードマークのお下げ髪も艶めいてきて、背中の肩甲骨ぐらいの長さだったのが、今では腰近くで揺れている。


 性格のきついお嬢様風である。

 少女として完成形になりつつあるのだと思う。


 幼少期の曖昧さが薄れていき、美少女としての魅力が浮き彫りになっていくような感じである。

 清楚さというのか、ある種の峻厳さというのか、スタートラインに立ったような雰囲気が容貌に現れている。


 しかし、ブロックの強さは相変わらずで、前はお盆でしっかりと隠しているし、女中一の美しいお尻も(俺調べ)なかなか全体像を把握させてはくれない。

 ちっともスタートラインに立ってないんじゃないか?

 それに、何のスタートなんだか。


 これでも現実に比べれば色々と見えている方だが、モモの下半身だけは俺の脳内パズルが未完成であり、幾つかのピースを必要とするから、如何にモモのブロックが強いのかがわかってもらえるだろう。

 最も、丸出しの下半身には出会えないのが普通なのだから、女の子の下半身パズルなど未完成が当たり前である。

 しかし、ハギとかサクラとかウメとかのパズルが完成していくなかで、モモだけが未完成なのは怠慢のような気がする。


 そう言えば、ウメは上半身までピースが埋まってしまった。

 先日『おっぱい見せて』と頼んだら、あっさりと全裸になってすべてを見せてくれたのだ。

 女の子としてどうかと思ったが、男の子としては異論があるわけではなく、お尻に比べて小さめのおっぱいを脳内に保存してしまった。

 多分、ウメは嫌がらないのだと思う。

 顔を見ると、赤くなっているから羞恥心がないわけではないのだが、何でも『あい』と言って素直に言うことを聞いてくれる。

 ある意味で男の理想のような女の子だが、ちょっぴり怖いと思うのは、俺が正常な証拠かもしれない。

 ちなみに、ウメのおっぱいは小さめである。

 お尻は一番大きいのだが、おっぱいは小さい方である。

 だからといって、ウメの魅力が損なわれるわけではない。


 とは言え、俺もいつもエッチなことをしてるばかりではないのだ。

 何しろ、真面目に接するというのも、実は美少女を満喫する醍醐味なのだ。

 大ゴミではないぞ。

 クズだけど。


 いや、エッチな時間もいいのだけれども、そればかりではねえ。

 真面目になときにしか味わえない美少女というのもあるのだ。

 負け惜しみじゃないぞ。

 でも、モモちゃんとエッチな時間とか、あまりないよね。

 ちょっと悲しいかも。


「どうぞ、伯爵様」


 モモがお茶を出してくれる。

 相変わらず隠すのが上手だ。

 背が伸びて、テーブルの上に股上があるのに、しかも丸出しなのに、気付くとお盆で隠されている。

 そう言えば、みんな脚が長いよな。

 ブーツにヒールが付いているせいだろうか?


「これはミントティーか? おお、美味いな」

「はい、色々と工夫してこんな感じにしてみました」


 こうした時の自然な笑顔がやはり好印象である。

 きつい顔をした美人の笑顔は付加価値があるような気がして、男たちは騙されやすいのである。

 いや、騙されたいのかも?


 東インド航路が確立しつつあり、ミントなどのハーブやスパイスも何種類か入りつつあった。

 周王国では漢方薬?に使われるものである。

 カレーなど、薬膳と言っていいだろう。

 唐辛子が南米産なので再現できないのが残念だった。


「カップも随分と薄手になってきたなあ。色も白くなってきたし、良い感じだよ」


 黒部の陶磁器製造所、つまり窯元の幾つかはモモと繋がりがあって、モモの意見は良く聞いてくれる。

 と言うか、最近ではモモの親族が運営しているところが多くなり、この伯爵様の知恵をモモが持ってくるから、女中という地位もあってか大歓迎されている。

 女中というのは地位が高いのだが、モモは元々地位が高いようだ。

 本当にお嬢様なのかもしれない。


 モモは時間が許す範囲で黒部の窯元を廻ったり、ナカと一緒にハーブを栽培したりしている。

 木器、竹、漆器、金属器と他にも素材はあるけれど、食器は何千年過ぎても陶磁器が主流であるから、陶磁器に拘るモモの考え方は正しい。

 お茶も上流の趣味だし、今後も廃れることはないだろう。

 ハーブティーにはガラス器という手もあるけど、耐熱ガラスは暫く作れそうにもない。

 口が広がった、この白磁のティーカップが、今のところはベストだと思う。


 周王国には優れた白磁があり、モモはそれを参考にしてティーカップを模索しているようだ。

 白磁はケイ酸とアルミニウムの含有量が高い粘土から作られる。

 まずは、長石や橄欖石を良くすり潰すことだろう。

 現状ではボーキサイトまでは難しいが、アルミを含有する土は結構ありふれているので、長石を混ぜた粘土で試行錯誤を繰り返せば、適切な土を選び出せると思う。

 そうした相談に乗ると、モモの機嫌がいいのも確かだ。

 共通の話題というやつだろうか?


 やがて、コーヒーやココアが発見されれば、更に陶磁器は発達し、需要も増えることだろう。

 ちなみにコーヒーはアフリカ原産、ココアというかカカオは南米が原産である。

 酒とお茶だけは、いつの時代、どんな文化でも必要とされるから、廃れることはない。


 ああ、ス○バのコーヒーが飲みたい。

 せめて、コンビニがあればなあ。

 自販機の缶コーヒーでもいいや。


 別に芸術品の茶器が欲しいわけではなく、実用的であれば充分なので、色々と材料を試しているところだった。


「今回のは少し自信があったんです。口当たりを良くするために縁を少し広げてみました」


 モモは自然な仕草で俺の隣に座ってきて、あれこれ上機嫌にカップの工夫した部分を説明してくれた。

 自信作なのだろう。

 2千年後もティーカップはこんな形をしているような気がする。

 俺の目にも良いものに見えた。


 勿論、モモちゃんも良いものに見える。

 笑顔はちょっと幼さを残しているけど、モモは顔の造作が何処を取っても整っているので、どの年齢でも美人さんだろう。


 これが、全年齢版というものなのか?

 楽しいからか、目が美しいだけでなく、目線までもが美しいぞ。

 美しいと、こっちも楽しい。


「長石から透明な釉薬うわぐすりを作り出すことも上手くできそうです」

「砕いたのを水で分離したのかな?」

「はい。伯爵様の言うとおり、良く砕いてからかき混ぜて、沈殿した重たい部分を取り除きました。鉄分が残ると上手くいかないというのが良くわかりました」


 多分、原始的な水ガラスなんだろうと思う。

 水ガラスは陶磁器の硬度を変えたりもできる。

 陶磁器は硬いばかりが取り柄ではないのだ。


「水晶も試してみましたが、砕いてすり潰すのは大変です。勿体ない気もしますし……」

「大きな結晶ではなく、小さいものや混ざり物が多くても構わないよ。どうせ粉にしてしまうんだからさ」


 石英であれば水晶でなくても良いのだが、確実性がまだ低いのだろうか?


「それが…… 直江津のガラス工房にお願いしたら、良いものばかり送られてきて……」


 そりゃ、モモが頼んだら『宝石用』だと勘違いするわなあ。

 最高級のものばかり送ってきたに違いない。

 態々、宝石商から仕入れたのかもしれないぞ。


 陶磁器職人たちも驚いただろう。

 カップを作るのに、カップ何百か何千個も買えるような原材料が届いて、それをすり潰せなんて言われたら普通は困惑すると思うよ。

 

「そ、それで、すり潰したの?」

「さ、最初の幾つかですよ……」


 モモちゃんは頬を染めて、そっぽを向く。

 幾つかは潰したんだー!

 そのうちに恐ろしい額の請求書が来るに違いない。

 踏み倒さないように注意しておこう。


「ま、まあ、研究用だから仕方がないかな」

「す、すみません」


 うーん、可愛いから赦す。

 こんな顔をされたら、水晶どころかダイアモンドをねだられても断れないだろう?

 甘い?

 いや、隣でこの顔されて赦さないのは、きっと男ではないと思うんですよ。

 何でも赦すから、何でも許してね!

 おっぱいとか、お尻とかも。

 いや、そうじゃないな。


「ガラス工房で思い出したけど、良い感じの粘土ができたら、骨粉を混ぜるのもありかもしれない」

「骨粉って、肥料に使うものですか?」

「ああ、そうだ。ウシやウマの骨を粉にして粘土に混ぜると白い磁器が出来上がる時があるんだ」

「焼いたら黒くなりそうですけど?」

「それが違うんだよ。確か2度焼くのだったかな?灰は白くなるだろう?」


 真っ白な灰、かな?

 カルシウムなんだからと思ったが、磁器にはリン酸の方が重要なのだった。

 肥料もリン酸が重要なのだけどね。

 カルシウムだけなら石灰でも貝殻でもいいのだ。


「確か、2度目は低温焼成だったと思うよ」

「割れそうで怖いです」

「それが、失敗しても砕いて粘土に戻すと、再び焼くことができるんだよ」


 ガラス屑は、ガラスの原料になる。

 そこから、ボーンチャイナを思い出したのだ。

 確か、再焼成可能だったと思う。

 ボーンチャイナはボーンチャイナの原料になる。


「ほ、本当ですか!」


 モモちゃんは、テーブルに手をついて立ち上がって驚いている。

 俺も驚いた。

 丁度、テーブルの上にモモちゃんの女の子の大事な部分が露出し、俺の位置からはそこだけでなく、柔らかで丸いお尻のラインまでが見える。

 綺麗だった。

 水晶なんか問題にならないくらい美しかった。

 ダイアモンド以上である。

 前から後ろまで、途中を脳内が勝手に補完して全部が見て取れるようだった。

 ピースが埋まっていく。

 見蕩れるか、見惚れるかかもしれないが、今はそれどころではないだろう。


 俺は驚いたまま目線を上下に、いや、左右にも動かし続けてしまった。


「きゃっ」


 それで気づいたのか、モモちゃんは慌ててテーブルの上のお盆を取り、そこを隠そうとしたが、その拍子に傑作のティーカップを引っ掛けてしまった。

 ティーカップは何故か空中を舞った。


「きゃわ!」

「うああ」


 俺は横っ飛びで空中のティーカップを掴むと、そのまま床に倒れ込んだ。


 ずでん!

 がごん!


 俺はカップを胸に抱いて守り切ったが、壁に頭を思いっきりぶつけてしまった。

 お陰で重要なピースが吹っ飛んでしまった。


「は、伯爵様、大丈夫ですか?」

「ああ、何とかカップは無事みたいだよ、いてて」


 流石にモモも、お盆を置いて寄ってきた。


「もう、無茶しないでください!」

「それは、モモが悪いんじゃないか…… ひぇ!」


 俺は文句を言おうとしたのだが、モモが剥き出しの太股の上に俺の頭を抱き上げてくれた。


 柔らかく、温かく、いい匂いがした。

 甘酸っぱさのうちの、甘みが増しているような気がした。

 甘さ増量なのだろうか?

 いつもは甘さ控え目なのに?


 ああ、モモちゃんが大人になってしまう。

 おーんおん。

 でも、嬉しい!


「い、痛いですか?」


 違うんだ。

 太股がいい匂いで気持ちよすぎるんだよ~!

 言えないけど。


 忘れていたが、モモはドジッなので、事故はつきものなのだった。

 陶磁器が趣味でいいのだろうか?


「伯爵様の方がずっと大事です」


 こんな事故ならありかもと思った。

 モモちゃんの涙目の顔は、俺にはご褒美だった。

 下半身は、ご馳走なんだろうけど……

 少しスリスリしても、今日は怒られなかった。


 調子に乗ってお尻に手を回すと、


「や、やっぱりエッチなのは無理ですー!」


 がこん!


 と頭を落とされて、モモは涙目で逃げていった。

 いたいよ、モモちゃん。

 手触りという新ピースも脳内から逃げていった。


 どん、がらがらがっしゃん!


「きゃー」

「んきゃー」

「また、モモなのー」


 いつものとおり、廊下が騒がしくなった。

 そう言えば、涙をふりまきながら走って行く女の子って、前は見えていないよね?




 黒部に凶報が届いた。

 予想はしていたのに、現実になると何となく驚いてしまった。


 周王国からの使者は越国の首府(直江津)に現れ、越王ギイに面会して、その後、饗応を受けて上機嫌だということだった。

 越王がギイだったことに驚いたらしいが、友好的に接待してもらえることも意外だったらしい。

 喜んで接待され、連日馬鹿騒ぎしているらしい。

 流石はクズの従兄弟?殿である。


 とは言え、もし越王が俺だったらどうなったのかまではわからないという。


 単純に王を名乗ったということで反逆罪だろうな。

 逆らうには、本当に反逆するしかない。

 現在の国力では、周王国に勝つ手立てがない。

 こちらからは攻め込めないから、いくら勝っても終わらせることができないのだ。

 戦争は、三年や五年は有利に進められるかもしれないが、それ以降はわからないし、奴隷の亜人が相手となれば意地もあるだろうから、泥沼の戦争となれば双方の被害は最終的にはえちの人口(推定で50万人)を上回ることだろう。

 それでは勝っても負けても傷が大きすぎて、双方の国家が滅びるだけである。

 下手すると人間族と亜人の双方が衰退し、奴隷解放など夢のまた夢ということになりかねない。


 ちなみに周王国の推定3千万近い人口は、一枚岩なら世界最強と言えるだろう。

 戦争自体は戦闘部族となる遊牧民の方が強いのだが、それはこの時代に国家総力戦という概念がないからだ。

 上層部だけの戦いなら、遊牧民の方が強い。

 常に奇襲をかけられることも大きな要因だろう。

 先手が取れるし、戦場も勝手に決められるからだ。

 ただ、戦後に支配層として遊牧民は定着しないことが多い。

 略奪するだけだったり、凶作の時だけ居座ったりするのだ。

 それでも、統治・占領が長くなると国が分裂してしまうことが起こり得る。

 多分、凶国と周王国が戦えば、周王国の7公爵が独立し、五胡十六国時代になってしまうだろう。

 それは周と越の戦争でも、長引けば同じことかもしれない。


 ただし、えちは亜人の国である。

 他国との戦争は人種差別が前面に出てきて総力戦になりかねない。

 更に言えば、越が三年ほど周と戦争していると、漁夫の利狙いで周辺国が参戦してきて越の富を奪おうとするだろう。


「正確には従兄弟ではなく、甥になるのかしら?」

「確かに王太子ではなく、王太孫かな?」

「王太子のクサの王子は既にお亡くなりになり、カルの王子が継承権第1位です。草の王子はライバルの王子を皆、追放してしまいましたが、ご自分が王位に就く前に亡くなるとは思っていなかったでしょうな」


 緊急事態を知らせに来たのは王佐のヨシである。

 それで、妊娠中のユキナも久しぶりに奥の院から出てきて、今は3人で最高会議である。

 ギイは勿論、王宮を抜けられないが。

 モルも奥の院である。

 クーリャは別邸だ。

 もう、最初の移民たちが全員集まる日はないのかもしれない。


 女中たちも心配そうだが、遠巻きにして窺っている。

 こちらも窺っているのだ。

 特に下半身を念入りに、うふふ。


「それで、軽の王子は、どんなタイプなんですか?」

「王族らしい王族ですな。権力大好き、宴会大好き、お金大好き、女大好き……」

「おほん、それは男ならみんなそうだよ」

「もう、クズ兄様! 女中たちが聞いてますよ」


 ユキナが眉をひそめる。

 俺の世話をする女中たちが怯えると困るのだ。


「いやいや、伯爵様とは大違いですな。毎日酒を浴びるほど飲んで、次婚の女たちを侍らして遊んで過ごしています。それも他国の宮殿でですよ」

「簡単には追い出せないのか……」

「接待しても、こちらには何の見返りもなく、利益もないですから困りものですな。ギイのそれとない嫌みも何度か聞いているのに平気で過ごしていますから、大物ですな」

「度胸があるとか?」

「馬鹿なのかも?」


 俺を見ないようにね、ユキナ。


「まあ、少々面の皮が厚いようですな。どうやら、追い払うのには金貨が必要なようです。連れてきた女たちからそれとなく聞き出したんですが、それにも金がかかりました。まったく、王族らしいですな。悪い意味でですが……」

「要求は、お金だけなのですか?」

「燕国のアシの報告では、異母弟であるウマヤの王子の方が大海王に気に入られているとか? 跡継ぎなのに越への使者に選ばれたと言うことは、そう言うことなのかもしれません」


 失脚寸前なのか?

 追い出されたのか、越で功績を挙げて挽回したかったのだろうか?

 それとも、越に居着くつもりか?

 越を乗っ取れないとなれば、金を持って帰るしかないのかな?

 軍資金か、賄賂だろうな。

 贅沢したいだけかも?

 とにかく、金が欲しいのだろう。

 それも、自分の地位のためで、越に対して含むところはないようだ。


「各国の有力者の、金貨の保有数はどれくらいになった?」

「燕王が600枚。周王は300枚もないでしょうな。公爵領でも多くて100枚ってところでしょうか。後は大呉国に200枚、釜山の代官が300、穢狛の部族長が50枚前後ですな」


 どこも、食料の支出が多くて貯めきれないらしい。

 銅貨の値下がりも響いているのだろう。

 大呉国の儲けは、木綿の豊作で越に一方的な売りがあったからだが、これから食料の買いが入ってくると、資金は出て行くばかりだろう。

 領民を抱えていない独立商人の方が金は貯まりそうだった。

 今のところ商人には銀貨の方が使い勝手が良いみたいで、あまり金貨を貯め込まない。

 更に言うなら、乾物や缶詰の方が価値がある。

 最も、金貨・銀貨を放出する国は、戦争の準備に取りかかったという見方もできる。


「7公爵は、特に王太子支持というわけではないようですな」


 周では7公爵は王族である。

 跡継ぎ問題に意見ぐらいは言える立場にある。


「ならば、7公爵に金貨100枚ずつ渡して寝返らせるとか?」

「4公爵か5公爵で済むのではないでしょうかな」

「それなら、金貨千枚も渡せば帰りそうかしら」

「平和的に帰ってくれるなら、千枚でも二千枚でも渡すけど、名目がないよね」

「絹貿易の支度金とかでは?」

「それは、周が越の冊封にならないと無理だよ」


 アジア開発銀行でもあるならともかく、所謂、貿易のための準備資金を出すなど、上の国による下の国に対する温情処置である。

 ODAみたいなものだ。

 もらったもん勝ちの部分はあるが、メンツは捨てなくてはならない。


「それより、貧乏な伯爵様では金貨など用意できないのではないですかな?」


 表向きは能登だけが伯爵領であり、今のところ開発の手を入れていない。

 お陰で領民がみんな出て行ってしまっている。


「能登の開発に着手しますか?」


 ユキナも面白そうに尋ねてくるが、まだ開発しないことは承知しているのだ。


 周王国と戦争になった時、海戦なら釜山経由で来るだろうから奇襲にはならないし、海流から考えると直江津方面に流されて来るから、まず大丈夫である。

 ところが、海戦を囮にして(海軍を犠牲にして)上陸してくるとしたら、上陸地の第一候補は能登半島である。

 そうなると、敵は最終的に氷見に集結する可能性が高くなるのだった。

 その場合、最終防衛ラインは射水川ということになるだろう。

 そんな場所を、態々開発して美味しそうな場所にしておくことはないだろう。

 焦土作戦ではないが、敵に楽をさせる必要は無いのである。

 本当に敵と射水川で対峙することになれば、海軍力を活かしてこちらが氷見に逆上陸する手もあるのだ。


 勿論、若狭とかに上陸してくる可能性もあるが、その時は海軍力を駆使して補給路を断ってしまえば簡単である。

 陸上で充分に敵の気を惹いておいて、海軍が暴れることになるだろう。

 山陰とか九州とかに上陸して攻めてくるのは、上策とは思えないので、周王は採用しないと思う。

 兵站から考えると、能登上陸作戦以外は難しいだろう。


 ちなみにこちらが一番楽なのは、直江津上陸作戦である。

 海軍力で圧倒して敵の戦闘艦を潰し、敵の上陸部隊は海岸線でまるっと拿捕できる。


 まあ、今後どうなるにせよ、能登の開発は周王国と友好が結べてからになる。

 それまでは、能登を美味しい餌にするわけにはいかないのだ。


 しかし、金貨と食料をばらまいている越国に対して、周王が面白く思うことはない。

 あの、人に頭を下げるのが嫌いな大海叔父上が王である内は、友好関係を築くことは絶対にないだろうと思う。

 俺だったら、越王はギイなのだから、友好使節団を送って頭を下げて、燕国の利益を横取りしてやるのだが、叔父上は絶対にしないだろう。

 五分五分の関係でも嫌なのだと思う。

 相手から頭を下げてこない限りは、絶対に和解などしない人なのである。

 そして、頭を下げてくれば無理難題を押しつけるに決まっている。

 まあ、越王など格下の倭の五王のひとりにしか思えないからだろう。


 となれば、大海王の選択は、


 ①越国と海戦

 ②燕国と陸戦

 ③交易の拒否

 ④伯爵を処分


 の、4つの可能性が高くなる。


 ①は問題ないし、③はこちらには痛くも痒くもない。

 ②が一番厄介で、暫く戦乱が続くだろう。

 だが、最終的には食料が多く、周囲を味方にできる越国の方が有利である。


 ④は、こちらの様子を見てからだろう。

 まあ、その先触れが今回の使者である。

 いきなり殺されたり、捕らわれることはあるまい。

 そもそも、島流しが目的だったのだからな。


 ところが、伯爵領と越国が別のものだと知れば、伯爵を処分しても何にも変わらないのだ。

 ちょっとばかり、王様の気分は晴れるかもしれないが、外交的にも内政的にも得るものは何もなく、部下の貴族たちの不安と不満が募るだけだと思う。

 北部の貴族たちは、金貨と食料の流入を歓迎してるし、南部の貴族たちは、木綿の売上げの伸びと価格の高騰が、大層、気に入っているのだ。


 それに、今まで貧乏の代名詞だった大豆が、味噌、醤油、豆腐、油と商品化することによって儲かることを覚えたので、貴族たちは研究開発している最中なのだ。

 大豆かすが家畜の餌になり、肥料になると知れれば、更に喜ぶだろう。

 既に、鶏缶ぐらいはまねをしたいと思っているかもしれない。


 貴族と株式会社は、最終的な責任を負わないで済む所が良く似ていて、その責任を負わないところで儲けるのが旨味である。


 まあ、その分、明日をも知れないろくでなしの商売であることを自覚しているのだと思う。

 株式会社の方が、記者会見を開いて頭を下げる分だけ、貴族よりはマシなのか、哀れなのかは、見る人によって見解が異なるだろう。


 それで、同じ貴族である、ろくでなしの身分の俺としては、今回は命がかかっているので頑張らなくてはならない。


「予定どおり氷見に行くことにする。王太子が氷見村を見て、何を言うかで大体わかると思うよ。どうやって金をせびる気かも報告書で読み取れた」

「では、ユキナもご一緒に……」


 ユキナも立ち上がる。


「いや、妹は連れて行かない」

「紋章があれば、万が一でも大丈夫でしょう?」

「妊婦じゃないか」


 ユキナのお尻を撫でる。

 ちなみに妊娠中は性欲が全くないらしい。

 嫉妬心も起こらないのだ。

 エッチな気分にもならない。


「んもう!」


 やはり、単純に怒られたようだった。

 ユキナは妊娠中だから、腰を布で覆っている。

 ニットのタイトスカートみたいに見えるが、腹帯である。

 紋章を隠すのだが妊娠中は仕方がないので、腹帯のようなものは奴隷でも認められているのだった。


 しかし、身体にピッチリであり、丸出しよりもエッチな気がした。




 氷見に出かける途中、ターチャ邸に立ち寄った。

 暫く留守にしていて心配かけたことがあり、今度も心配するかもしれないからである。(主に村長たちが、なのだが)

 下働きを何人か黒部村を中心に出してもらうから、迎えも兼ねていた。


 ターチャは、息子であるイーゴリの世話をしていた。

 相変わらず、絶世の美女である。

 子供の世話をしていても、ため息が出そうだった。

 その、イーゴリくんは、もう離乳食だった。

 邪魔するつもりはなかったので、一緒の部屋にいたカーチャと話をする。

 ミーチャは出かけているのだろうか?


 カーチャは日々成長を続けていて、元々デカかった身長が、今では180センチ近くある。

 髪は金髪で、手脚が長く、このままここにいたら、村人たち(特に男ども)の精神衛生上良くないような気がする。

 某有名女子テニスプレーヤーを彷彿させる容貌に成長しているのである。

 いや、別に直接は見たことはないし、勿論、会ったこともないのだが、そんな感じである。

 17歳でグランドスラムできそうな雰囲気である。

 見上げるような体格だった。

 しかも、えらい美人である。

 ちょっと眠そうな瞳も、元々が切れ長の瞳だから凄みがあるくらいだった。

 ダークブルーなのだろうか?


 スレンダーに見えるが、バランス的には長身のせいでパーツはしっかりと存在感がある。

 今は部屋着なのか、ボタン留めのタンクトップのようなものを着ているが、下半身は丸出しである。

 見た目は小さなお尻も、身長があるから実際には結構大きいのだった。

 これから更にメリハリがついていくのかと思うと、ちょっと怖いくらいである。

 本当は、ターチャの娘ではないのかもしれない。

 ターチャは170センチぐらいだからだ。

 何となく系統の違う美人のような感じがする。

 妹のミーチャの方が、ターチャに似ていると思う。


「お兄ちゃん、また、出かけるの?」

「今度は、それほど長くならないと思うよ」

「ふーん、寂しくない?」

「大丈夫だよ」

「でも、カーチャは寂しいの」

「す、少しの我慢だよ」


 カーチャは以前から精神年齢の方が外見より低い感じである。

 特にデカい身体だから余計にそう感じる。

 勉強ができないわけじゃないのだが、妹のミーチャが理屈っぽく大人っぽいので、何となく幼い感じがする。


「じゃあ、カーチャにキスしてくれる?」

「ど、どうしたんだよ、急に」

「だって、カーチャお腹が痛いの」

「何だって?」

「お腹痛いの。お兄ちゃんにキスしてもらわないと治らないのよ」

「で、でも……」


 思わずターチャをみるが、彼女は何も気にしてないようだった。

 イーゴリくんに離乳食を与えている。

 耳はちゃんと聞こえるはずなのだが。


「さ、お兄ちゃん」

「なっ、ちょっ」


 カーチャはタンクトップのような短衣(背が高いから本当に短衣だ)をサッと脱いで全裸になると、大きくはないがツンとしたおっぱいごと抱きついてきた。

 がばっと抱きしめられ、無理矢理に近い感じでカーチャに唇を奪われた。

 いや、舌を絡め取られた。

 俺はつま先立ちになりそうになった。

 いや、つま先が、つまさきがー、立ったー。

 他にも、立ったりしそうで怖いな。

 何、この大逆転?


「あっ、あっ、あぁー」


 カーチャは俺を解放すると、自分の胸を抱きしめながら水を流し始めた。

 いつの間にかミーチャが手拭いを持って現れ、後始末を始めた。

 いたのかよ!

 ていうか、たきつけたのはミーチャじゃないのか?


 そのミーチャも、160センチ以上の美少女に成長していた。

 しかし、俺は文句を言うどころではなく、崩れ落ちるカーチャを支えて、そっと寝かさねばならなかった。


「お兄ちゃん!」

「は、はい!」

「帰ってきたら、ミーチャの番だからね!」

「はっ、はいぃ」


 ミーチャに睨み付けられ、思わず返事をしてしまった。

 美人に睨まれると、絶対に逆らえないような気がする。


 何だろう、俺は手続きを間違えたような気がする。

 この家に男を近づけないようにするのは間違っていたのだと思う。

 多少の危険はあっても、子供のうちから男に免疫を持たせるようにすべきだったのだ。

 美人過ぎるのだから、絶対に身につけるべきスキルがあったのかもしれない。

 隔離ではなく、せいぜい監視役を頼むべきだったのだ。

 選択肢を与えることは、大事なことでもある。

 選ぶこと、選ばれることは、恋愛には非常に重大な要素だと思う。

 お兄ちゃんしかいないのは、異常だよね、きっと。

 もう手遅れだろうか?


「こ、これ、遅くなったけど、約束の金貨なんだ」


 俺は動揺を誤魔化すために、思い出したかのようにターチャ、ミーチャとイーゴリくんに金貨を1枚ずつ手渡した。

 カーチャの分はテーブルに置く。

 越元年の金貨である。

 ターチャは不思議そうな顔をして、喜ぶイーゴリくんと金貨を眺めていた。

 すぐにイーゴリくんは金貨を両手に持って遊び始めた。

 ミーチャは初めて見るのだろうが、何だかはわかっている。

 以前に見たいと言い出したのはミーチャだからである。


「とても綺麗。ありがとう、お兄ちゃん」

「ど、どういたしまして」


 それで、俺はターチャの腕の中のイーゴリくんの頭を軽く撫でて、居心地の悪いターチャ邸を飛び出した。

 振り返ると、ミーチャが手を振っていた。

 笑顔が怖く感じるのは、何故なのだろうか?


 イーゴリくんは母親に良く似ていた。

 将来は、アポロニウスと呼ばれるような超絶二枚目に育つだろう。

 俺は勝手ながら自分の息子だと思っている。

 誰も、絶対に、俺を父親だとは思わないだろうが、そんなことはどうでもいいのだ。

 将来、イーゴリくんにふさわしくないほどの権力を与えて、国のひとつやふたつは滅びるかもしれない経験をしても全然構わないと今から考えているぐらいだから、重症だという自覚だけは持っている。

 男の子は何歳ぐらいまで可愛いのだろうか?



 馬車の前には、いつの間にか黒部村長と女たちが集まっていた。

 みんな以前よりも景気と血色が良くなっている。

 ターチャ邸の世話をするだけで、自分たちも越の産物のお裾分けがもらえるからかもしれない。

 ターチャ邸こそが、真の愛人宅(別邸)なのだろう。

 他の別邸様は、みんな仕事をしているし、重要な産業に係わっているからである。

 とは言え、ターチャ邸の誰も俺の愛人ではないのだ。

 まあ、そんなことを村長たちに言っても仕方がないだろう。

 さっき、キスして(されて?)しまったしなあ。

 あれだけの美女だと、逆に普通に村人としては暮らせないような気もする。


「また、お出かけになるのですか、伯爵様」

「ああ、また村長たちには面倒をかけるけど、よろしく」

「はい、うけたまわりました。お任せください」


 そう言えば、ターチャ邸も既に一部は塀で囲まれて、風呂場なども豪華に改装されている。

 他の別邸の情報を仕入れているのだろう。

 何処よりも豪華になりつつあった。

 費用は伯爵持ちだから、村にとっては金のなる木だなあ。


 これじゃあ、男の子を解禁しても、誰も寄りつかないだろうな。

 村人に殺されかねない。


 村の水準は、絶対にターチャ邸の効果によって上げられているに違いないようだった。

 本宅もあるのだけど、そちらは近隣の村々にも同じような御利益があるわけだし。


 黒部には、現在では23か村が所属している。

 黒部村長が肝煎である。

 本邸と別邸の需要に応えるため、直江津や吉川、新湊からの産品を優先的に仕入れられ、学舎の研究発表会や天覧試合の時には外からの旅行客を受け入れているし、本邸の見物客も結構訪れてくる。

 ターチャ邸も警備上、工事しなくてはならないだろう。

 黒部は首府ではないのに、首府の持つ自然な豊かさがあるのだった。


 ターチャの応対を見ていると、俺に対しては平均気温以下という感じなので、我慢していればそのうちに何とかなるかもしれない。

 次婚とかで、誰かに嫁ぐかもしれないしな。

 そうなっても、俺はイーゴリくんと、父親とまでは認識されなくても、話のわかる叔父さんぐらいのポジションではいられると思う。

 多分。


 その後、馬車で三ケ村から新湊へ行き、船で氷見村へ渡った。

 射水川は上流はともかく下流は手強くて橋も架けられないので、仕方がないのである。


 氷見村は逃散して5家しか残っていない、寂れた村だった。




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