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31 引き抜き(後編)

 31 引き抜き(後編)




 海辺の側の見晴らしの良い高台に登り、二人で夕日が沈むのを眺めながら手を握ると、とてもドキドキした。


「こんなに楽しかったのは生まれて初めてです」

「そうか、良かった」

「はい。ありがとうございました」

「うん、こちらこそ……」

「伯爵様、どうかしましたか?」

「キショウブ、君の本当の名前を聞かせてくれないか?」

「キショウブです。伯爵様にいただいた、大事な名前です」


 キショウブは目を閉じると、胸に手を持っていき、包み込むような仕草をした。


 いや、違うんだ。

 警護官をアヤメ科の花の名前で統一した時に、髪が一房だけ黄色いからキショウブと安易に名付けただけなんだ。

 涙が出そうになった。


「それでも、俺は知っておきたい」

「噂では、伯爵様から名前をいただいたものは、永遠の命をもらえると言われてますが」

「そんなことはない。俺はそんなに偉くないよ。神様じゃないし」

「そうなのですか? でも、伯爵様の命が本物で、他は偽物なのだって言われています。だって、伯爵様だけ年を取らないでしょう? 伯爵様に名前をいただくと若返ったりもしますよね?」


 確かに俺はプレイヤー特権で12倍の時間の中、一人だけの都合で生きている。

 そのせいで、周囲の女の子に変なことも起こったりする。

 若返ったり、処女に戻ったりする。

 1年が僅か30日の世界の不思議である。

 うん? 何か違和感があるような気がする。


「俺の予想なんだけど、聞いてくれるかい?」

「はい」

「多分、キショウブたちが永遠に生きる存在なんだと思う。俺は多分、ずっと前に死んでしまうよ。君たちが愛を獲得すれば、君たちの存在はとても大事な、貴重なものになると思う。救いになるんだ」


 誰かの救いになる。

 誰かはわからないが、そう思う。


「伯爵様には?」

「あぁ、そうだな。キショウブは俺の救いになっているよ。今日はそれがわかった」


 この笑顔が救いである。

 昨夜の失敗がなければ、更に良かったのに。

 だけど、失敗のせいで仲良くなれたのかもしれない。


「レィナです」

「レイナ?」

「レィナ」

「レーナ?」

「レィナですよ」

「うーん、上手く発音できないよ」

「普段はキショウブだから構いません」


 しかし、レィナだって!

 俺が名付けたキショウブより、ずっと美しい名前だった。

 俺は抱き寄せてキスしたかった。

 自然なことに思われた。

 昨日までより、ずっと美しく、ずっと大人びて見えたのだ。

 名前が違うから、別人にも思える。

 それほど美形ではない、などとは信じられない。

 俺の趣味では十分可愛かったし、好きだった。

 この子は、特別な女の子になってしまった。


「レイナ」

「いけません!」

「どうして?」

「み、水が出てしまいます……」

「いいじゃないか」

「それでは、永遠に子宮こころにトゲが刺さったままみたいで嫌です」


 頬を染めて俯いている。

 昨夜のことを、ちゃんと覚えているのだ。


「わだかまり、みたいなものかな?」

「やっぱり、忘れられないと思います」

「酔っ払って可愛かったけどね」

「そ、それは忘れてください!」

「いいや、忘れられないと思う」

「もう、台無しです」

「ごめん」


 ツンと横を向く所も、何だか可愛い。

 あばたもえくぼとはよく言ったものである。


「キショウブの予想も聞いてください」

「はい、聞きましょう」

「多分、み、水が出るのは、は、伯爵様に好きだと思われている、その実感が湧くからだと思います」

「キスすると、実感が湧くの?」

「自分がえっちだと言うことを伯爵様に知られてしまうからですね。諦めるしかない状態でしょうか? キスされるのが、上でも、し、下でも、きっとおんなじです」

「普通はえっちなんだよね?」

「だから、そうでも知られたくないんです! 女なんですから…… まったく、そうした所はクズなんだから!」

「ごめん。つまり、自分がえっちでも、俺が好きにならないとえっちしたくないってこと? それで、キスされるまでは濡れないと?」

「ま、まあ、そう言った所で…… 」

「レイナ?」

「い、一度だけですから!」

「はあ?」

「だから、しょ、証明はできませんが見るだけなら…… そこで、動かないで見ててください!」

「レイナ?」


 キショウブは岩陰に隠れると、俺の目の前の岩の上に現れた。

 俺の頭ぐらいの位置にキショウブの足がある。

 もっと上には下半身がある。

 いや、何言ってるのかわからないな。


「伯爵様、見るだけですよ」


 キショウブは、俺が触ったりできないように高い所に上ったのだろうか?


 しゃがむと、両脚を開こうとした。

 俺はかなり動転していたが、フリーズもしていた。

 見るだけじゃ水は出ないから、何の証明にはならないんじゃないのか?


「は、伯爵様ぁ、やっぱり恥ずかしいですぅ」


 涙目で頑張ったが、開脚は無理そうだった。


「無理するなよ、危ないぞ」

「で、でもぅ」

「いいから、降りて来いよ」

「はぁい。はぁ、折角の決心が……」

「気持ちは充分に受け取ったよ」

「やだ、真面目に言われると、とっても恥ずかしいですぅ。何だかキショウブは、お馬鹿な子みたいですぅ」


 岩の上でいやいやしている。

 気持ちはわからないでもないが、俺のために無理しているのだから、笑ったりはできない。

 ところが、岩は砂岩であり、見た目より脆かった。

 足下が少し壊れると、キショウブは足を滑らせ、身体ごと落ちてきた。


「きゃぁあー」

「キショウブ!」


 どんがらどどん!


 気づくと、俺はキショウブの股間に顔を埋めていた。

 いや、キショウブの股間が俺の顔に乗っかっていたのだった。


「ひひょうふ、はいちょうふかぁ」

「動いちゃ、だ、だめー! うぁぁん、ひぃーんんん」


 キショウブは腰を引いたが間に合わず、俺の胸の上にペタリと座り込んだまま濡れ始めた。

 何となく、最近何処かで見たような光景だったが、思い出せなかった。


「あぁぁ、見ないでください。お願い…… あぁーん、だめぇ!」


 それは、ちょっと無理かも?

 キショウブは両手で顔を隠して、いやんいやんしていて、下半身は丸出しなのだ。

 しかも、俺の上に乗ったままなのである。

 すぐに、俺は彼女の甘酸っぱい匂いに包まれて、幸せな気分に浸ってしまった。 


 しかし、彼女の予想は正しく、証明されたのだった。

 臭いってことじゃないぞ!

 俺は手拭いを探した。


「すると、やはり、キスされるまで我慢しているということに……」

「もう、クズなんだから、それ以上は考えないこと!」


 くんくん。


「だめー! 手拭いの匂いはだめー!」


 手拭いは取り上げられた。


「でも、胸にも匂いが残って……」

「だめー! 嗅いじゃだめー!」


 キショウブは必死になって俺の胸を擦るが、擦ってる手拭いに匂いがついているから、匂い物質が活性化されるだけだった。


「ほんとにもう、今後はちゃんと、く、口にキスして、相手に恥ずかしい思いをさせてはいけません。うっ!」


 俺はキショウブに抱きついてキスした。

 キショウブは更に濡れて、崩れ落ちた。


 結局、見るだけで、または触るだけで水が出るのかは、良くわからなかった。

 だが、キスをすると出るのは、キショウブによって証明された。


 俺はキショウブを柔らかい草の上に寝かせて、手拭いをかけておいた。

 守ってやりたくなるような幼い寝顔をしていた。

 下半身は大人っぽかったが。

 何度か、ぴらっとやってしまったのは内緒である。

 ふんわりとした、神の描いた曲線が魅力的だったからである。

 何処かでもしてなかったか?

 いや、何も思い出せなかった。

 何か、パンツに関わりがあるのだろうか?


 それで、やはり、えちごパンツの開発は必要なのではないだろうか?

 今後はキショウブも、俺を想うだけで濡れてしまうのである。

 何度も目にしたら、俺は我慢できそうもないだろう。


 やはり、キショウブには純白のパンツがいいかな?


 でも、もう少しだけ、処女であるキショウブとの時間を続けたかった。


 レィナ・キショウブ。

 彼女との時間は、まだ、始まったばかりだと思う。


 しかし、俺は間違っていた。




 今年の金は豊作で、1反当たり300キロの収穫になった。

 10反で30グラムの金貨が10万枚である。

 去年が6万6千枚だったから、凄い収穫だと言える。

 銀の方は穂が多く、実も大きくなり、収穫量は金の70倍近くになった。

 1反当たりでも23倍である。

 ただ、これは去年と同じような数字であり、金が豊作で、銀は平年並みということらしい。


 去年の収穫時はどうしていたんだっけな?

 今年も、クーリャ邸で過ごしていて、そのまま確認もせずに年を越してしまったようだった。

 何だか長い時間をクーリャ邸で過ごしていながら、長い時間を留守にしていたような気がする。

 気づくと工房の建設と布地の開発に追われていた。


 勿論、クーリャと女工たちとの夢のような時間も過ごしていた。

 みんな良かったが、オードリーとマレーネとエリザベスは奴隷のようにするのが好きで、説明不可能だった。

 キャサリーンとグレタは受け身で、何でも言うなりなので、説明不可能である。

 ソフィアとグレースとブリジットは情熱的で、恋人同士のようにするのが説明不可能になった。

 イングリットは結構特殊で説明不可能に分類された。

 特筆すべきヴィヴィアンは小柄なのに上に乗るのが好きで、力が尽きるまで動くので説明不可能になった。

 ナスターシャとは凄く良かったが、秘密なので説明不可能なのだった。


 何というのか、15歳の少女と、30歳の女性と、どちらを選ぶかなど、以前は考えるまでもなかったが、今は考えるまでもないだろう。

 正座して懐石料理を食べるのと、大型草食獣を襲って内臓ごとむさぼり食うぐらいの違いがあって、比べられないかもしれない。


 そう、今なら30歳の母と15歳の娘を両方……

 うおっほん!


 学校帰りに豚骨ラーメンを食って、家で夕食までにおやつを食べてつなぎながら、夕食に大盛りカレーとハンバーグを平気で平らげてしまうような年齢の男に、ひと皿のフォアグラ・トリュフソースを食わせるのが勿体ないと大人が思うような気持ちが少しだけ理解できた。

 底なしの胃袋に高級料理を流し込むような勿体なさである。

 だが、美味いものは美味いのだ。

 むさぼり食って、何処が悪い!


 その、何だ、どうも、世界が弄くられて、俺は最近の記憶を失っていた。

 クズ頭が更にクズ化しているようだ。

 行動は更にクズ化していて、積極的な下働きの娘と朝チューまでしてしまった。

 多分、キャサリーンの娘だと思う。

 

 頭の一部にブラインドがかけられたような感じで、大事な何かを思い出せないでいた。

 頭の中には、ヴァージョンアップという警告が何度か流れた記憶がある。

 まあ、いいか。

 などと、軽いノリで過ごしていた。

 その間も、世界はドンドン進んでいった。

 他人事のようだった。


 燕国の鉄は5トンあたり金貨2枚であり、日本円に換算すれば1トン6万円だから非常に高いのだが、技術的にはそれでも限界に近いようだった。

 燕国の鉄鉱人足は奴隷の亜人から領民たちに変わりつつあり、鉄の景気が如何に凄いかがわかる。

 最も、燕国王にすれば、遼東半島の採掘権を周王国に取られたくない処置であるし、鉄の生産地は直轄領にし、亜人は輸出に回している。

 一舟(約300トン)で金貨100枚以上と、燕国はもの凄い売上げを記録しているが、越に対する貿易はそれでも赤字が続いていた。

 何しろ、鉄と亜人を輸出しても、輸入品が多すぎてとても黒字にはならないのだ。


 越の輸出品は、絹織物、タオル、乾物、缶詰(鮭缶、鶏缶、桃缶)、小麦粉、米、醤油、油、酒、農機具、漆器、ガラス器、陶磁器と多岐にわたり、燕国は自国の船ではとても買い付けができないので丸越商船(直江津)や丸越貨物(新湊)に頼りきりであり、釜山に越銀、領事館、商店までが作られる有様である。

 釜山の代官は越との交易の儲けで今では親越派の代表になっているが、燕国王は鉄がもたらす金貨・銀貨に夢中であるから、代官を交替させる気はないようだった。

 鉄と銅を掘り、亜人を売りつけていれば、燕国は飢えることなく、王家は金貨が貯まっていくのだ。

 逆に越の商品を一族で他国(主に周王国と凶国)に転売し、中間貿易で黒字を出し、大商人化し始めている。

 一門には奴隷商人もいる。

 勿論、周王国の木綿や絹、亜鉛や錫も越に転売するから、更に儲けている。

 周王国の幾つかの公爵領には金貨銀貨が流れているようだった。


 お陰で不本意ながら銅貨は値下がりし、金貨1枚に対して銅貨1万2千枚だったのが、すぐに3万6千枚と3分の一まで値下がりしたので、造幣寮で銅貨の改鋳を行っている。

 新10銭はニッケル入りの白銅貨で銀貨の100分の1とし、1銭は亜鉛の黄銅貨とした。

 これで更に周国の銅貨が値下がりしていく。

 現在は周銭1枚で2銭である。

 12・5円が3円まで下がった。

 これ以上は改鋳費用の方がかかってしまうが、1枚1銭にすると燕国が周銭の製造を止めてしまうので、通貨安定のためやむを得ない処置である。

 ちなみにニッケルはわい国産らしく、燕国は更に儲けているらしいが、越の金銀の売れ具合からすれば、可愛いものだった。 


 初代の駐燕国領事館館長は吉川の長男アシで、燕国だけでなく隣の狛国はくこくとの貿易や外交、諜報活動を行ったが、狛国は意外と部族たちがのんびりしているらしく、豆満江とまんこう西岸の亜人集落にターゲットを切り替えて、越人の開発部隊を送り込んだ。

 農地や牧草地を避けて、山林を切り開いて村を作ったが、遊牧民たちは文句を言ってこなかった。


 やがて、豆満江に港ができ、越の店がポツポツと並び始めると、逆に目敏い狛国人や濊国人の商人たちが集まりだして、既得権を持ってしまったので、豆満国とまんこくができつつあった。

 独立商人たちは、相手が亜人であるかなど気にしなかった。

 越の農民が来ると更に生産力が上がり、儲かるので、大歓迎のようだった。

 アシは直江津時代から独立商人たちに人気があったから無自覚であるが、独立商人たちは自然とアシのスパイになっていった。

 最も、アシはそれ以上に女たちに人気があり、あちこちに女スパイを派遣しているようだった。

 独立商人の妻たちにも、アシのスパイは沢山いた。

 釜山に店を持ち始めているからだ。

 羨ましいが、大変だろうな。

 そのうち、刺されて死ぬぞ!


 残念ながら、この世界には嫉妬はあまりないようだ。

 次婚の妻たちの権利は、庶民ではかなり強いのである。

 成功した男たちは、仕事と初婚の妻たちで精一杯になりがちであるからだろう。

 店の方は、どうしても経験豊富な次婚の妻たちに任せることになる。


 豆満江東岸の粛国人たちは、売るものが毛皮ぐらいしかない貧しい部族ばかりだったが、俺たちは毛皮をすべて買い上げて、金を握らせた。

 それで、缶詰(鶏缶)と缶入りの小麦粉や醤油を買っていくようである。


 やっぱり、トナカイは不味いんじゃないのか?

 実はマヨネーズも大人気だった。


 缶詰は賞味期限が24ヶ月なので、こちらでは8年である。

 お陰で、商人たちは越暦を使うようになった。


 越では、大量の毛皮が出回り、ブーツやコートが充実していった。

 冬場は、外では丸出しの女は少なくなった。

 屋内は凄いままだけどなあ。


 ギイ王のところへは、シュンガ王朝からお祝いの使節団が来た。

 現在のインドは西側がモルの故郷のミリ国であり、東側がシュンガ王朝である。

 そのシュンガ朝は牛人の国で、まあ、ギイの故郷であり良質の木綿を生産するので、ギイ王は交易を承認した。

 帆布の開発が必要であるからだ。

 シュンガ朝のシュン王あてに、金貨を100枚贈呈した。


 ギイは使節団が連れてきた獣人の妾は受け取らず、亜人の性奴隷を3人もらい受けて解放し、直江津に住まわせた。

 ギイの本気度は、俺だけでなく越国全体にも伝わったようである。

 しかし、シュンガ朝との交易は、木綿だけではなく、紅茶、サトウキビ、シナモン、ミント、ニンジン、キャベツなどをもたらしたので、マハとビクが交替で『えっちゅう』によりシュンガ朝に出向くことになった。

 彼らは王子であるから、海図を作成すれば、航路が開発されていくのである。

 大越国ベトナムかな大南国マレーかビルマだろうの様子もわかるだろう。

 爪哇ジャワとか汶萊ブルネイとかの国もあるらしい。


 海軍工廠は装甲艦『かが』を完成させ、本土の防衛に当たらせている。

 2番艦『えちぜん』は、訓練中である。

 艦長はメアとミアである。

 海軍の本拠地は新湊に決まり、柏崎には練習艦『かしわ』だけが残ることになった。

 『えちご』は越の日本海側全般を哨戒し、佐渡には独自の沿岸警備艇が哨戒をしている。

 今のところ、何の問題はない。


 鋼鉄艦『のと』の建造は、国家機密だが始まっている。

 装甲艦には蒸気ボイラーが搭載され、蒸気滑空砲が備えられたが、徹甲弾の実験で2キロ先の300トン級の弁財船が一発で轟沈してしまったので、今では芥子玉に換装された。

 鋼鉄艦『のと』には蒸気カタパルトが備えられ、鯨を撃つような銛が3連装3基9門も装備され、敵艦は拿捕できるように改造される予定である。

 練炭を使用する蒸気ボイラーは扱いが難しく、現在は砲術士官を蒸気士官と言う名称にして訓練中である。

 越海軍軍人は、燕国や豆満国にも出かけられるので大人気である。

 商船や輸送船も、よく訓練された海軍から人員が選ばれる。

 給料が良いから、退役して自分の交易船を持ちたがるものが続出している。


 そして、国家最高機密は、蒸気タービンである。

 金貨が落ち着いたら、北海道に越国独自の鉄鋼産業を切り開く予定である。

 そして、鉄とコークスが手に入ったら、蒸気船を建造してアメリカ大陸を開発する予定である。

 本当だぞ。


 レシプロエンジンだったが、蒸気機関による航空機開発はあっちのアメリカでの試験結果があり、200キログラムのエンジンで150馬力が出たという記録が残っていたと思う。

 こちらは4倍の出力が出るはずだから、単純計算でも600馬力である。


 多分だが、50ノットの速度が出る原子力潜水艦が作れるなら、それは翼をつければ空中を音速で飛べるようなことになるだろう。

 水の補給が必要なので現実的ではないが、理論上は音速で空中を飛び、1年以上も活動ができる潜水艦など、本当にSFである。

 蒸気ミサイルどころか、蒸気ロケットで宇宙開発すら可能かもしれない。

 勿論、タービンが成功したら電力が先かもしれないが、毛皮をどうするかは狸を獲ってからと言うことになるだろう。


 まあ、夢物語はともかく、こうした歴史は、最初こそ大変だが、焦らずに続けていると、日常になってしまうものだった。

 銀貨が足りないとアシが散々にせっついてきたが、毎月きちんと送り出せば、安定していくものだった。

 焦って両替するものが少なくなるからだ。

 流石に金貨1枚に対して周銭5万枚などとなってくると、損してるのではないかと不安になってくるものだ。

 鮭缶だって手作りだから、量産と言うには恥ずかしい生産力だったが、毎月同じ数を作っていれば需要を満たすものである。

 最も、鮭缶も桃缶も季節のものだから、鶏缶が開発されたのだった。

 現在は三ケ村と新湊にブリキ工場が集中して作られ、缶詰工場も集中している。


 だが、俺は何故か、何もやる気が起きなかった。

 一時期の暴走が、スローダウンした結果なのかもしれない。

 反動だろうか?


「伯爵様、クロッチ幅は大きいと、その、股のところが痛くなります」

「そうなのか、キリ?」

「はい、キリには10センチは少し大きいようです」

「伯爵様、クロッチ幅が小さいと、その、股のところに食い込みます」

「そうなのか、ハギ?」

「はい、ハギには3センチというのは小さいようです」


 ふーむ。

 などと真面目に悩んでる振りをしながら、キリとハギの股間を並べて眺めていた。

 男からすると、パンツというのは限りなく三角形に見えてしまい、股間など幅を取る必要など無いようにも思えるのだが、やはり股間が存在する限り幅があるようで、その幅はお尻の大きさには関係無いようだった。

 大体、俺は女の子のパンツの構造など何も知らないのだ。

 今まで見たこともないし、こっちには存在しないし、試行錯誤あるのみである。

 クロッチ幅など知っている男がいたら、きっと変態だと思う。

 しかし、パンツが必要だという記憶だけは消えずに残っている。

 何故か、パンツを完成させたいのだった。


 クーリャ邸で、毎日誰かと過ごしながらも、その思いだけは消えなかった。

 それで、シャガとイチハツを連れて、黒部に帰ってきてしまったのだ。

 しかし、結構、難航していた。


「ススキとボタンはどうだ?」

「はい、少し硬いのではないかと思います」

「ボタンも同じです」


 この4人は本来なら女中を卒業して1年以上が過ぎているはずなのだが、水が出せるようになったので、まだ女中として働いている。

 今は、女中頭という称号がついて、出世したことになる。

 下働きが3人ほどついて、時々、直江津の王城に俺のお使いで連絡に行くが、王に賓客として扱われるから直江津の港や村々でもVIP扱いであり、ちょっとした有名人である。


 特に王妃たちが新しい料理を教わりたくて先生扱いするから、城下の飲食店が意見を聞こうと手ぐすね引いて待っている。

 ビビン軒、お好み焼きの伯爵亭に並ぶ名店、料理屋『小鴨』の鴨ステーキ・蜜柑ソースは、ススキが教えたものである。

 越王ギイが初めて食べて唸ったと言われていて、外国人たちは必ず食べに来て、自国の部族長に伝えているらしい。


 ボタンは豆腐屋を作らせて、それから油揚を教えるという念の入れようで、きつねうどんと稲荷寿司の2品は、今では狛国人の大好物になっていて、越の豆腐屋だけではなく豆満江の豆腐屋でもボタンは神様のように崇められている。

 厚揚げ、飛竜頭を追加で教えて、更に全国に波紋を広げている。


 キリは味噌田楽の屋台を指導し、ハギはハンバーグを教えたと噂されている。

 どういうわけか、ハンバーグは「つみれ」になったり、はんべ(薩摩揚げ)になったりもしている。


 まあ、そんな4人だが、俺の部屋ではえちごパンツ開発要員であり、お針子である。

 何しろ、外に出る時に手拭い(最近はタオルだ)だけでは心細いとぼやいたのは、この4人なのだ。


「そうか、ちょっと計ってみようか?」


「ええっ?」

「ふえっ?」

「うえっ?」

「ほえっ?」


 4人は驚いて股間を両手で押さえて、顔を赤くした。


「伯爵様、む、無理です」

「み、水が出てしまいますぅ」

「紋章ができてしまいます」

「恥ずかしい……」


 俺はメジャーを振りかざして、4人とキャーキャーやっていた。

 まあ、本気ではない。

 本気ではないが、開脚させたかったのは本心でもある。

 キリたちは大人びたベテランとは言え、15か16歳の女の子であるから、高校の同級生の可愛い子を4人集めて、ちょっとえっちな(ちょっとじゃないかな?)じゃれ合いをしているような気分になれるのだ。

 大胆なポーズをさせたりできたら、最高じゃないか?

 本気で嫌がっていないし。

 経験から、少しはわかるようになった。

 誰との経験だったろう?


 実は、本当に大事なのはクロッチ幅ではなく、紋章と女の子の部分の間にパンツライン(ビキニライン?)を作ることなのである。

 紋章を隠さず、女の子の部分は隠す。

 これが、周王国の法に背かずにパンツを穿かせる唯一の方法なのである。

 こんなことを真剣に考える日が来るとは思わなかったが、普通のパンツでは反逆罪に問われるのだ。

 奴隷制度の弊害である。

 奴隷紋を隠してはならない、というのが周王朝の制度であった。

 クズ紋も、俺の立場からすると微妙である。

 亜人はユキナの例を見ればわかるとおり、隠したらアウトだから、越では皆アウトである。

 奴隷が自主的にパンツなど穿くはずがないから、当然、伯爵の罪になるだろう。

 俺は真剣なのだ。

 少しは。

 きゃほーい。


「ごほん! 伯爵様、お茶が入りました」


 ハギの太股を押さえながら、ギギギといった感じで振り向くと、股間をお盆で隠して立つ、モモちゃんがいた。

 顔が赤いのは、恥ずかしさではなくお怒りモードのようである。


「やあ、モモ、ありがとう。丁度、一息入れようと思っていたんだよ」

「へえ、お戯れのお邪魔ではなかったのでしょうか?」

「いや、真面目に仕事をしていたよ」

「どうでしょうか?」


 俺は頭をかきながら、モモちゃんの側の席に着くと、モモちゃんはスッとテーブルの反対側に移動してしまった。

 前もお尻も絶対に見せないという意思表示である。

 キリたち4人は、顔を赤くさせて逃げるように出て行ってしまった。


 クーリャ邸では、俺の部屋に女が来ることはなく、俺が女の部屋に『お渡り』する形式になっていた。

 当然、毎晩のように嬌態を演じたが、眠る時には自分の部屋に帰って眠っていた。

 何故か、誰かが俺の部屋で待っているような気がしたからである。

 女たちも余韻に浸ってズルズルと朝まで引き摺ると次に影響するのがわかっていたから、また明日と送り出してくれた。

 それで、毎晩、一人で眠っていたが、とうとう寂しくなり黒部に帰ってきてしまった。


 ところが、こっちでも妹たちと過ごしているのに、やはり寂しい。

 何というクズっぷりだろうか。

 そして、妹たちも自分の部屋を持ち、今では『お渡り』方式を採用しているのだった。

 それで毎晩、自分の部屋に戻ってきてしまった。

 だから、理解できない気持ちをパンツの制作で誤魔化している。


「伯爵様? 気持ち悪い顔をしていると、お茶が冷めますが?」


 おっと、フリーズしていたらしい。


「モモも、計らしてくれないか?」

「お戯れは嫌でございます」

「まあ、そう言わずに、ちょっと計るだけだからさ」

「嫌でございます!」

「ちょっとだけだから」

「嘘です。目が本気です」

「本当にちょっとだけ……」

「や、やぁ」


 モモは後ずさり、尻もちをついてしまった。

 どうやら、本気で嫌がっているようだった。


「やぁです。無理です。見ないでください!」


 俺は座り込んで股間を隠そうとするモモを見て、衝撃を受け、涙が止まらなくなった。


 レィナ……


 彼女の美しい名前を思い出したのだ。

 この世界では誰も思い出さない、大事な少女の名前である。


 俺はモモじゃなければいいやと、彼女の引き抜きを了承していた。

 それなのに、それを忘れてデートしたのだ。


 そして、隣で手を繋いで眠る彼女が、朝に消えてしまっていても思い出さなかった。

 彼女がその後、どうなるのかも確認しなかったのだ。

 やっと、思い出した。

 彼女はどんな思いをしたのだろう?

 

「伯爵様?」

「モモ、俺はクズだ。クズだった」

「伯爵様?」


 泣き続ける俺を、モモはずっと支えてくれた。

 3日間も、側を離れることなく、介抱してくれた。


 それから、俺がやっとの思いで、彼女のことを洗いざらい知っているだけ話すと、モモも一緒になって泣いてくれた。

 消えたのは、モモだったかもしれないのである。


「神様が呼んだのなら、また会えます」

「そうかな?」

「絶対にそうなります。だから、悲しんでいては駄目です。モモだったら、そう言います」


 それから、モモは俺が寂しいと言うと、時々は手を繋いで隣で寝てくれるようになった。

 夢の中ではレイナだったり、モモだったりした。




 後日、ユキナが「オリジナルを失いたくないならコピーを作れ」との天啓を受けたが、俺は暫くの間、処女のモモと一緒に過ごしていたかった。

 理由はわからなかったが、そうしたいと思った。


 オリジナルとコピーは同じではない、と思う。

 どちらが価値があるとかではなく、別の人格としてである。

 もし、同じなら、俺のコピーも作ればいいじゃないか!


 クズねえ。


 そんな声が聞こえたような気がした。

 季節は晩夏で、夏の年の下月しものつきの中旬(真ん中の10日間)である。


 モモは女中としては3年生になり、領民たちに『処女姫様』と呼ばれるようになって、妹以外ではご寵愛ナンバーワンと噂されるようになった。


 いや、ほっといてくれよ。


 邸の外には、モモの姿をひと目見ようと、領民ばかりではなく、外国人までが来るようになった。

 だが、邸内では相変わらずの女中っぷりだった。




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