23 風花
23 風花
アヤメ部隊は少し先に進んでから、斜面を登り始めた。
崖と湖に挟まれたような一本道で敵に出会ったら拙いという、アヤメの判断だった。
カキツバタとシャガが少し右側に離れて、お互いが広く索敵できて、カバーもできるように進んでいく。
やがて丘の上に達してから、少し段になっている場所を降りていくと、海岸線が見通せる絶好の場所に出た。
疎らになっていく松林の先は砂浜で、その先が波打ち際である。
その砂浜に、2艘の小舟が乗り上げていた。
独立商人の帆船よりも小さく、作りも粗いカヌーのようなボートであり、小さいがマストが1本で、多分、竹製のジャンク帆があった。
4人も乗れば一杯だろうと思われた。
だが、問題はそこではなかった。
砂浜の中央付近にひとりの若い女が立たされていて、鹿族の獣人に後ろから、うーん、どうやら脚を広げさせられて弄くり回されている。
それだけではない。
他にも仲間が二人いて、こっちは少女と言うよりは幼女に見える女の子の足首を持って、逆さに持ち上げて、その、広げてお互いに股間を見せ合って喜んでいる。
俺は背筋が凍り付くような思いを味わった。
先ほど、男がひとり死んだのを見たが、直接殺される場面を見たわけではないので、ショックは少しばかり軽減されていたが、こちらはもの凄い場面である。
女たちがまったく抵抗していないのが、余計に暴力的に見えた。
「ひどいわね。獣人ていうのは、人が見てないと思うと、いっつも、やりたい放題なんだから」
アヤメが恐ろしい目つきで睨み付けながら吐き捨てるように言うが、『獣人』の部分には本当は『男』という単語が入るのに、入れ替えて使っているのだと感じた。
それでも、そう、俺にはこんな場面をアヤメが見慣れているようで、とてもいやだった。
「もしかして、アヤメも……」
「もしかして、何です?」
「いや、その嫌だなと思って」
「あら、ありがとうございます。しかし、今はそれどころではありませんね。カキツバタ、他に敵はいそう?」
「いるとしたら、食料を探しているんでしょう」
「その可能性はあるわね」
獣人たちの悦楽の顔を見て、男の色欲まみれの顔つきは別物なのだと思った。
猟で獲物を獲った時の喜びの顔つきとは毛色が異なるのだ。
満腹の時とも違う。
いやらしいと、女が言うのも良くわかる。
いや、本当は良くわかっていなかった。
いやらしいと言われても、照れる程度の恥ずかしい経験しかしていないのだ。
だが、これは違う。
そう、アダルトコンテンツなどとも違う。
女たちが無表情になって、なすがままの感じなのだ。
拒絶とかの感情すら持っていないように見える。
泣きわめくこともないのだ。
「あいつらは、粛国(粛慎)人です」
「亜人の女を解放したりしませんよ」
シャガが怯えて震えるように言う。
イチハツも心なしか蒼い顔をしている。
亜人で奴隷だったのだから、二人も嫌な思いのひとつやふたつはあるのだろう。
それで、何となくだが、ジッとしていられなくなった。
「暫く様子を見て、敵が他にいなければ、あいつらが始めた頃に制圧しましょう」
「そうですね。隙がつけると思います」
始めた頃?
隙を突く?
嫌だ、嫌だ、手遅れかもしれないけれど、手遅れじゃないかもしれないじゃないか!
「アヤメ、俺は止めに行く!」
「まだ、駄目です。敵の全戦力が、あれだけと確認したわけじゃありません」
「でも、嫌なんだ!」
「女たちは亜人です。こんなことぐらい、これから何度でもあります!」
「それでも、俺は嫌なんだ!」
「伯爵様は今までに、亜人の女を何万人も助けてきたじゃないですか! 亜人の国を作ったでしょう? 全員感謝してますよ。誰でもOKしますよ」
だ、誰でも?
いや、今はそんな場合じゃないな。
「でも、嫌なんだ!」
「伯爵様が死んだらアヤメたちの責任です。私たちも死んでしまいますよ。それは嫌じゃないんですか?」
「嫌だけど、こんなのは嫌なんだー!」
俺は涙目の4人から目をそらして、ダッシュした。
緩やかな斜面を駆け下りて、自分でも驚くほどに上手く松林を抜けて、そして、浜辺に駆け出した。
それから、砂浜に足を取られて無様に『ベシャ』と倒れた。
ちくしょう!
竹カゴから飛び出した「おんたま」が転がり出て散らばったが、砂浜の上だったのでどれも割れてないようだ。
いや、ひとつだけ俺の腹の下で割れていた。
白濁液は砂の上に流れ出ている。
いや、俺の下腹部にもデロリと付着していた。
シミ以上に、ちょっと恥ずかしい気がする。
それで、と言うわけではないだろうが、獣人たちに見つかった。
俺の姿に驚いてはいるが、女たちを手放す気はないようだった。
女たちは俺を気にする様子はなく、って、幼女たちは既に気絶している。
俺が口の中の砂を吐き捨てて立ち上がると、獣人たちはそれぞれの女を俺に見せびらかすようにし、へらへら笑っていた。
わざと女たちの脚を開いて挑発する。
俺の下腹部を見て笑いこけている。
くそう!
鹿のくせに、猿かこいつら!
白濁液は違うんだってば!
誤解なんだよ。
そこへ、アヤメたちが到着した。
俺を取り囲み、数の上では獣人たちを逆転する。
勿論、女の数でもだ。
俺ひとりで4人もだぞ!
無駄に白濁液を漏らしたりするもんか!
(そう言う張り合いじゃないでしょ! クズ)
そうだった。
「アヤメ、ここはひとつ、お前が脚をひらい……」
「お断りします、クズ!」
「じゃあ、カキツバタ?」
「臭いますよ、クズ!」
「シャガ?」
「ちょっと見直して、損しましたー」
「イチハツ?」
「まったく、見損なったー」
おお、イチハツが棒読みだ。
レアである。
しかし、誰も俺の女だと証明してくれなかった。
形だけでも、見栄を張りたい年頃なんですぅ。
(クズね! そもそも誰にも紋章がないじゃない)
そうだった。
「アヤメ、殺すなよ」
「わかっています」
結局、俺は女たちに戦闘を任せて、「おんたま」を拾い集めた。
まあ、一種の適材適所である。
しかし、男の風上にも置けないクズであった。
(風上に置いたら臭いでしょうね)
おんたまは美味しいんだぞ!
それで獣人たちは女を放り出し、周王国でも旧式の鉾を取り上げて構えたが、結果は見えていた。
敵のリーダー格は、アヤメの一撃で砂に沈んだ。
カキツバタは、敵の鉾を盾で弾き、左小手を入れた。
それでも相手は頑張って再びカキツバタに対峙して、今度は右小手を決められ、三度対峙したが、結局はいいところもないまま退治された。
残るひとりは、狂ったように鉾を振り回していたが、シャガもイチハツも軽く躱してはバチで殴りつけていた。
最後は鉾を落として、タコ殴りされていた。
毎日、戦闘訓練を欠かさない武芸者4人相手では、どうにもならない。
カキツバタは暴れる相手の頭を踏みつけ、砂に埋もれさせていた。
アヤメも獣人の両腕を背中に捻り上げ、砂浜に突っ伏させている。
くぐもったのと喧しいのと、両方の悲鳴が上がっている。
二人とも、獣人に対する憎しみか恨みが少し出ているような気がした。
まあ、こんなチャンスはそうそうないだろう。
シャガとイチハツの相手は、既に気絶している。
けれども、得意になっているアヤメの傍にちょっとした岩があって、その陰から獣人の少年が鉾を持ってアヤメの背中に突撃した。
小柄だから隠れられたのだろう。
子供か童貞かで、差別されたのだろうか。
女の数が足りなかったからだろうか?
アヤメは相手が少年だからか、復讐心か嗜虐心かで本当に油断していたからか、少し対応が遅れた。
俺は「おんたま」を投げた。
バシッとペチャとヒェェを合わせたような音が少年の顔面で上がり、白濁液により勢いを殺された少年は、白濁液を本気で嫌がるアヤメの右脚蹴りを腹に受けると、砂浜を転がっていった。
いや、黄身の方が目立っていたけれども、臭いが嫌だったのかもしれない。
「その、臭くて汚らしいものにも、使い道があったんですね」
助けてもらって皮肉を言うのは、憎まれ口なんだぞ、アヤメ。
今度、ツンデレを教えてやろうか?
先にポニーテールかな?
しかしである。
アヤメの言っている『臭くて汚らしい』ものとは、「おんたま」のことだろうか、それとも俺のことだろうか?
(両方じゃない?)
そんな気がする。
上手いことを言うじゃないか!
いつか白濁液で攻撃してやる。
(一生、無理よね)
粛慎は、豆満江、または図們江の河口付近から東は日本海沿岸、北はアムール川河口辺りを勢力圏とする遊牧民族で、ツングース系であり、後の女真族や契丹だろうから、満州族の先祖と言っても良いだろう。
(とまんこう とまんこう とまんこうととまんこう)
ナフタ、そんな字幕は流すな。
ヤバいだろうが。
多分、アルタイ地方かバイカル地方に住んでいた部族がティルク(丁零)、モンゴル(匈奴や鮮卑)、ツングース(粛慎)になっていったのだろうが、ツングースは一端、北シベリアに行ってから南下してきたのかもしれない。
あっちの歴史では、なのだが。
まあ、一部は日本人の先祖になったのだろう。
こっちでは粛国人は鹿人であり、トナカイを放牧しているらしい。
トナカイなんて、食べられるのだろうか?
クリスマスに焼いて食べるとか?
(それは、七面鳥でしょ!)
何故、七面鳥なのだろう?
メーカーの陰謀なのだろうか?
ケンターキー州の名物だったとか?
(ケンタッキー州でしょう。チキンとしなさい!)
きちんと、だろ!
まあ、トナカイは鹿の仲間だし、ヘラジカすら食べたことがある人もいるから、偏見なのかもしれない。
越人たちは、ニワトリが手に入った今でもアヒルの玉子焼きの方が好きだしなあ。
最も、あっちの北シベリアにはティルクも多く住んでいる。
ティルクは後のトルコや回鶻の先祖だったと思う。
韃靼人かな?
現在は凶国(匈奴)の勢力が強く、北方の丁零はカザフからトルコ方面に押しやられ、鮮卑や烏桓も東に押しやられ、月氏も南西に押しやられてしまっている。
ユキナの猫族の国は月氏で、2つに別れて、一方は周王国の西に居住し、一方はペルシア方面で暮らしているようだ。
そして、遊牧民たちの生活圏の北にはロシア・シベリアの大地があり、狩猟民族が生活している。
こちらでは熊族(白熊なのだろうか?)が、貧しい狩猟生活をしているようである。
勿論、国などなく、部族どころか家族単位で纏まって暮らしているらしい。
今回の被害者は、その熊族の亜人たちだった。
一人は、年齢が二十歳前後の美人である。
もう一人は、9か10歳ぐらいの美人である。
残りの一人は、7か8歳ぐらいの美人である。
(特徴を年齢の他に、美人としか言ってないわよ)
一人は、二十歳前後の金髪美人だった。
一人は、9、10歳の金髪美人だった。
一人は、7、8歳くらいの金髪美人だった。
(もっと他に、言うことはないの? 三島由紀夫じゃないんだから)
一人は、二十歳前後の金髪で、スレンダーだがおっぱいは多少大きめで、抜けるような白い肌で、海のような青い目で、清楚で、上品で、ピンク色で、キュッとしていて、ハート型で、柔らかそうで……
(はい、そこまでで、もういいわ。クズ調は!)
二十歳前後の女は、高貴な輝きを持つ黄金細工を思わせる髪を持ち、まるで良質の象牙から彫り出したる様な白き透き通った柔肌は、熾熱燈に照らし出された最高級の繻子か綸子を思わせる。
匂い立つような女の艶やかさに頗る、頗る、頗るとき、頗るれば、頗るっていた。
(はいはい、わかったわかった。ステイよ! クズ)
ハアハア、ハアハア、劇画調は疲れる。
(えーと、熾熱燈は森鴎外、劇画調はえー、えーえー、みなもと太郎からのパクりね。ホモホモ7かしらね。検索に負荷がかかるからやめてよね!)
鱶がかかろうが鮫がかかろうが知るものか。
シー・イズ・ベリーベリー・プリティ。
ソー・キュート。
ナイス・バディ・アンド・ナイス・ハーフナー。
(ハーフナーは、ハーフな人って意味じゃないわよ)
ソー・キュート・ハーフナー。
(蒼穹のファフナーね。努力は認めましょう)
がっくり。
俺はここにいます、多分。
しかし、AIを降参させることはできないのだろうか?
知らないとか、わからないとか言わせたい。
(語呂合わせは、人間よりもAIの方が得意なのよ。熾熱燈の方が難しいわ。本物はどんなの?)
ただのアーク灯だろ、アークエンジェルとか言うじゃないか。
(アークエンジェルは大天使で、熾天使はセラフかセラフィムよ)
そうだったのか!
森鴎外が勘違いしていたのかも?
色々と勉強になる話だねえ。
(こら! ちょっとメタっているわよ)
勝手に造語を増やすな!
(あー、それでパツキンのねーちゃんがどうしたって? ああ?)
ちょっと怒ったぐらいで、ヤサグレるなよな。
怖いじゃねえか。
とは言え、金髪のねーちゃん、じゃないや、金髪のえーと、奴隷紋があるから奥様? マダム?
怯えているのか、口を利いてくれないんだよな。
危ないところをお助けいただき、ありがとうございます、とか。
私も愛しています、とか。
(危ないのは、あんたの方よ! 何よ、その急展開!)
いえいえ、あんなことはどうってことありません。
それより、愛したのは俺の方が先です。
いいえ、私が先なのです。
そんなことはあり得ません。
あなたの美しさにまいってしまいました。
では、私たち?
ええ、お互いに。
ああ、嬉しい~。
(おーい、ちょっと気味悪いぞ~)
気味悪くない。
白身もあるんだ。
(白濁液ね!)
違うってば!
(それより、鹿族を先に追い返した方がいいんじゃない?)
うーん、そうだろうな。
彼女たちは、絶対に嫌がっているよな。
パンを夢中で食べているけど。
捕虜にも食わせるのが癪に障る。
俺はアヤメに言って、鹿族たちを二艘の小船に押し込んだ。
実は、少年以外はまだ気絶している。
「あ、あのう。ひょ、食料がないのれふが……」
慌てて、パンを頬張りながら言うな!
「これを分けてやろう」
俺は竹カゴを渡した。
少年は、おんたまの臭いに引き気味だった。
「これは、おんたまと言う、それはありがたい非常用食料である。一日ひとつを服用すれば、それで燕国に着くまでは体力を失うことはないであろう」
「あ、あの、粛国に帰りたいのですが」
「一度北西の燕国に行き、それから沿岸を東に行くが良いぞ。さすれば神のご加護があるであろう」
実際は、高速航路に乗れれば早く着くのだ。
「あの、あなた様は?」
「周国の先の王子である」
「何故? 周国の王子様がこんなところに?」
「訳あって、ここ越国の食客なのだ。越は亜人の国。亜人を殺した獣人は、奴隷にされるかもしれぬぞ。早く出立するが良い」
「そ、そ、そうですか」
「ほら、この醤油差しと食器もオマケにつけて進ぜよう。おんたまが更に引き立つであろうぞ」
「そ、いえ、ありがとうございます」
少年は鹿族とは言え、かなり育ちが良さそうだった。
族長の息子なのだろう。
「あの女たちは、何か罪を犯したのか?」
「えーと、実はテテ(死んだ亜人)が何処からか攫って来たのですが、亜人は奴隷を持てませんので、族長のものになったのです。しかし、それが気に入らなかったらしく船を奪って逃げ出して……」
攫って来た女たちにご執心だったのか。
あれだけ美人では、仕方がないよね。
誰でも命を張りそうである。
女たちは、攫われて、族長の奴隷にされて、また攫われてここにいるらしい。
「女たちに罪はないのだな」
「はい、自分の意思で逃げ出したわけじゃないと思います。テテのことも嫌っているようでした」
少年は顔を赤くして俯いてしまった。
えっちなシーンを目撃してきたのだろう。
まあ、テテにすれば、苦労して攫ったのに、族長に奪われるのは我慢できなかったのだろうな。
それで我慢せずに、やりまくりだったのだと思う。
栄養失調になるほどやらなくてもいいのに。
(それは、話が別でしょう、クズ)
「君の名前は?」
「はい。トュルと言います」
「勇者っぽい名前だな」
「ありふれた名前です」
「では、周ではなく、越領に用事がある時はトゥルイと名乗るが良い。及ばずながら私が力になろう」
「ティルイですか?」
「トゥルイだ」
「はい、トゥルイですね」
「では、今は逃げろ」
「しかし……」
「あれを見てみろ」
俺が指先で沖を指すと、そこには巨大な帆船が現れていた。
佐渡を周回中の『えちご』だった。
俺が両津に行くと聞いて、佐渡を回って警戒しているのだ。
忠誠心は嬉しいのだが、金はかかるよね。
(クズ発言だわ)
「捕まれば、君たちは亜人の奴隷となり、一生、越で働かされるであろう」
まあ、金山を見たわけじゃないから大丈夫だろうが、亜人を殺したとなると、住民感情が良くないだろう。
逃走したことにしておこう。
「あわわ、叔父さん! 起きてください、大変なんです。叔父さん!」
「ああ、トュル、腹が減ったな」
「ああ、頭も痛いぞ」
「今は、それどころではありません!」
「必ず、燕国を目指すのだぞ。さもないと死ぬぞ」
実は、海流がウラジオストック辺りから佐渡まで流れているので、来るのは良くても、帰るのは大変なのである。
風に恵まれなければ、粛には帰り着けないだろう。
だが、燕国コースで日本海を渡ってしまえば、後は沿岸沿いに進めるのである。
「最後に、あの女たちの名前は?」
「実は、来たばかりで攫われて、誰も知らないのです」
「そうか。さらばである」
俺は二艘の船を、アヤメたちと一緒に海に押し出した。
「うわああー、叔父さんたち、パンなど食ってないで漕いでくださいー」
トゥルイは八面六臂?の活躍で、二艘の船と3人の叔父さんを使って『えちご』とは反対の北の方角へ逃げていった。
まだ、12か13歳ぐらいなのに、しっかりしている。
あいつが、女たちに悪戯していなくて、本当に良かったと思う。
(リア充で、不自由してないのかも?)
うわー、捕らえて殴ってやれば良かった!
(まったく、クズなんだから)
ミアがボートの舳先に勇ましく立ち上がったまま波間を渡り、上陸してきた。
勇ましいのはいいのだけど、下半身丸出しで立ち上がるのはどうかと思うぞ。
ボートを漕いでいる船員たちは後ろ向きだから良かったけどさ。
「伯爵様! ご無事ですか?」
「ありがとう、無事だよ」
「よかったあ」
「こら、抱きつくな! みんなが見てるだろ」
だが、船員たちは金髪美女たちに夢中で、誰も見ちゃあいなかった。
気持ちは良くわかる。
俺もかなり長い間フリーズして、流石にアヤメたちがおかしいと思うまで戻ってこなかったからである。
船員たちの3割ぐらいは女なのだが、男たちと一緒になってポカンと口を開けて驚いている。
しかし、少し気温が下がってきている。
紅葉しているぐらいだから、寒くなってもおかしくはないのだが、風が少し冷たい。
このまま『えちご』で帰りたかったが、ひとつだけやり残したことがあった。
シャガとイチハツに幼女二人を預け、俺たちは金髪美女を連れて、来た道を引き返した。
船員5人をミアが率いてついてくる。
すぐに、テテと呼ばれた亜人の死亡場所にたどり着いた。
テテは無事にというか、獣に食べられたりせずに、あの時のままで待っていた。
俺はアヤメとカキツバタに金髪美女を連れてきてもらった。
「テテ、だよ。死んだんだ」
事情が何もわからない俺には、それ以外に言うことがなかった。
無表情だった彼女の顔に、少しだけ困ったような感じが表れたような気がしたが、すぐに『それで』という、無関心の質問を目線でされた。
美女限定の効果がある行為だった。
ちなみに俺の下腹部は、白濁液が乾いてゴワゴワになりかけている。
(それ、何からの連想なの?)
何となく、気になったのだ。
船員たちに墓穴を掘ってもらい、俺は丸太に『テテ』と刻んで墓標とした。
テテを埋葬し、墓標を立てた。
全員が神妙な顔で、静かに見送った。
こんな時は、何かを言うべきだろうか。
土は土に、灰は灰に、塵は塵にか?
(クズはクズ籠に)
茶化すなよ。
(亜人は獣人の国では殆ど回収されないので、私がコアを回収します。個人的な記憶は破棄されますけど、基本的な人格は残りますよ。生まれ変わると言うことで納得してね)
ありがとう、ナフタ。
(どういたしまして)
金髪美女は暫く墓標を見つめていたが、突然、奴隷紋の辺りを押さえると、林に詰め寄って吐いた。
「伯爵様。あれはひょっとしたら?」
「食料がなかったから、変なものを食べたのかもしれないよ」
「カキツバタ。憶測はやめて、介抱してあげましょう。伯爵様は船員を連れてウマを回収してきてください」
「了解、アヤメ隊長殿!」
「もう!」
アヤメは眉を寄せてから、金髪美女を連れて行った。
空は晴れているのに、佐渡の北の山々から雪が届けられた。
風花と言うんだっけな。
墓標に飾る花が見つからなかったんだけど、神様からの贈り物と言うことで勘弁してもらおう。
テテ、鹿族亜人。
金髪美女を攫い、金髪美女とやりまくってから死亡。
享年、不明。
我が生涯に一片の悔いなし!
もういっぺん、したくなかったのかな?
最後の言葉になった『助けて』は、自分だったのか、それとも金髪美女だったのだろうか?
ナフタは忙しいようで、突っ込みはなかった。
それから俺たちは『えちご』に乗り込み、小木に寄ってから、黒部に帰った。
金髪美女は、つわりで苦しんでいたが、何故か「おんたま」かけご飯は喜んで食べた。
「食わず嫌いはやっぱり駄目だな、アヤメ」
「つわりは臭いが駄目なのではなく、味覚、嗅覚に異常が現れるからつらいのです。普段のものが気持ち悪く感じられるのですよ」
「はいはい、アヤメはツンデレの素質があるな」
「ツンデレですか?」
「まあ、アヤメがつわりの時には、おんたまを持って行ってやるよ」
「ええっ、それって……」
アヤメは真っ赤になって、暫く可愛く大人しい女に変貌した。
ツンデレではなく、ツンツンしたかった。
しかし、「おんたま」のお陰で、金髪美幼女から、ターチャ、カーチャ、ミーチャという名前だけは聞くことができたのだった。
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