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22 おんたまげーしょん!

 22 おんたまげーしょん!




 金貨のデザインが決まり、リーメたち金属学者と呼び寄せられた鍛冶職人たちは型枠を量産している。

 燕国の鋳鉄を炭で焼いて融かしてから砂鉄を混ぜて鍛えたはがねで、材料のはがねを削り出して作っていく。


 最初は融かした金を流し込んで均一の板状にし、丸い型枠で抜いて粗く金貨を作り、次の型枠で潰して良く叩き、余分が上下の溝に飛び出るようにする。

 その飛び出た分を切り取って最後の型枠に入れて、上下から錬鉄の刻印で挟んで打ち付けると、綺麗な金貨が出来上がった。

 重さも均一だから、どこからも文句は出ないだろう。


 銀貨も同じように作っている。

 銀貨の表は24で、これも純銀24グラムを表している。

 銀貨の裏のデザインは、色々なアイデアがあったが、結局、スルメにした。

 勿論、干したスルメではなく、泳いでいるようなスルメイカである。

 こうしたデザインは、変なものほど記憶には残りやすい。

 金貨の麦穂が綺麗だから、余計に変なものの方が良いのである。


 今、俺の目の前にあるのは、貴重な種麦を鋳つぶして作った、貴重な金銀貨幣サンプルであった。


 ちなみに、リーメの下半身をデザインとする俺の案は、早々に却下されている。


「伯爵様は、えっち過ぎます」


 リーメは真っ赤になって拒否してきた。

 えっちなのは事実だから反論できなかった。

 それで、スルメ案が通ったのかもしれない。


 勿論、みんな最初はスルメを見て変な顔をするが、見慣れていくうちに、結構いいかも、と思い直すようになるのだ。

 越の重要な産物だしな。

 ブサメンも、慣れると大丈夫なのと同じである。

 女の子も、付き合っているうちにそれほどひどくはないと思うようになっていく。


 ブスも三日で慣れる?


 いいえ、この世にはブスなどおりません。

 下半身ばかり見ていればわかるはずである。

 ひとつひとつが、ごほん、ひとりひとりが奇跡のようにありがたいものである。


「ありがたやー、ありがたやー」

「伯爵様、下半身を拝むのはやめてください。恥ずかしすぎますぅ」


 あれ? いつの間にかシャガに変わっている。

 リーメちゃんは?

 でも、イチハツも来て、2倍にありがたいからいいよね。

 しかし、本当に女の子の下半身って神デザインだよなあ。

 ぐへへへへ。


(この、クズは~。見ている方が恥ずかしいわ)


「伯爵様、どうして銀貨は24なんですかー?」

「イチハツも知りたいです」

「うーん、二人とも暗算はできるのか?」

「できますよ、難しくなければー」

「少しなら、大丈夫です、きっと」


 こうしたところは、シャガもイチハツも普通の少女である。

 精神年齢は、綺麗どころとそんなに変わらない感じだ。

 外見年齢に精神年齢が馴致されていくようだった。

 戦闘時には変わってしまうけどね。

 今は、好奇心でキラキラしていたり、自信がなさそうにおっかなビックリだったりして可愛い。

 時々、下半身など露出してはいけないのではないかと思うんです。

 いや、そっちに年齢は関係無いかな?


「伯爵様ー」

「それでー」

「うん、金は銀の75倍ぐらい価値があるんだ。だけど、同じにすると金貨の方が沢山なくなってしまうんだよ」

「そう、かなー?」

「だって、同じ価値だったら、いっぱい持っているより、小さくて軽く済む方が楽だよね」

「そうかな?」

「じゃあ、銅貨20銭はお米3キロになるけど、持っていけと言われたら、どっちを持っていく?」


 二人は暫く考えていた。


「越なら銅貨かな? 他の国ではお米にする」


 何という現実主義者なんだ、シャガさん。

 イチハツは、まだ、悩んでいる。


「じゃあ、銅貨120枚とお米18キロだったら?」

「18キロは重たい。持って行けない」

「馬車を使えば?」

「馬車代がかかるぞ」

「そうか、それは大変」

「銅貨120枚なら持って行けるね」

「ところが、銀貨1枚でお米18キロになるんだよ。丁度1年分のお米だな」

「へえ、丁度そうなるように24にしたの?」


 俺は周王国の金貨を並べた。


「それは、これのせいなんだ」

「周王国の金貨?」

「何か、ボロいよね」

「この金貨には数字はないが、入れるとしたら大体が10になる。そして、この金貨1枚が銅貨4千枚と決めたのは周王国なんだよ。ところが、うちの金貨は30だから、価値は3倍になる。金貨30は銅貨何枚になるかな、イチハツ?」

「うー、4千の3倍は繰り上がるから、1万2千枚かなあ」

「そうだ、良くできたな、イチハツ」


 学舎の者たちならどうってことはないのだが、そっちが苦手でくノ一軍団に加わったイチハツだから、馬鹿ではないが計算は苦手である。

 日常の金銭なら問題ないが、金貨並みの数字となると現実感がなくなってしまうだろう。

 それでも、褒められると嬉しいものである。

 シャガが『その程度で』と見下したりせず、素直に羨ましそうにしているところが、高ポイントだが。


「それでだ、さっき言ったとおり金は銀の75倍の価値があるが、同じでは軽くて価値がある金貨がなくなるばかりだ。だから、交換レートは80倍にした」

「それだと、更に金の価値が上がるんじゃないかなー」

「まあ、それは今度教えよう。先に金貨30グラムを銀貨を30グラムだとして交換すると何枚になる?」

「80倍だから、80枚」

「その通り。だが、それだと金貨1枚が銀貨80枚になり、更に銅貨1万2千枚だから計算も管理も面倒になる。だから、金貨1枚を銀貨100枚にする。すると計算が簡単になる」

「それで24なの?」

「ああ、そうだ。金貨1枚は30グラム。銀はその80倍だから30×80で2400グラムだな」

「うーん、そうだね」

「合ってまーす」

「ならば、銀貨24を100枚にすると何グラムだろう」

「うーんと、ゼロがふたつだから2400!」

「そうだ。金貨30は銀貨に直すと80倍で2400、銀貨24は100枚で2400。ほら、これで金貨1枚が銀貨100枚と同じになる」

「へえー」

「うへー」

「そうなれば、金貨1枚は銀貨100枚で銅貨1万2千枚になる。銀貨1枚なら銅貨120枚だな」

「はい、そうですねー」

「うーんと、そうかな」

「じゃあ、周の金貨10は、銀貨何枚になる?」

「33枚と3分の一。銅貨が40枚かな。確かに面倒くさーい」


 流石にシャガは暗算が速い。

 イチハツは指を折っているが、上手く計算できないようだ。


「越では、ひとりが一日に生きていくのに、大体、4銭必要なんだ。それで、1年は30日だから4銭が30日分で120銭。銀貨1枚は銅銭何枚だった、シャガ?」

「120枚。あれ? やっぱり1年は銀貨1枚分だ」

「そう、銀貨1枚で1年(30日)食べていける」

「わかりやすいー、銀貨24凄いー」

「越の一家は、大体、家族5人だから1年で銀貨5枚。100枚なら20年だが、この20年は春夏秋冬の4季なら5回になる。つまり、一家5人で食べていくなら、金貨1枚で5回の冬を越せることになるんだ」

「凄いです」

「そう聞いちゃうと、ますます金貨が大事になりそー」

「だけど、そんなに大きな金貨じゃ遣いづらいよ」


 確かに一般的には使えない。

 銀貨がなければ使いづらいし、庶民にはあまり縁がないだろう。


「でも、くノ一部隊に、給料じゃわからないか、毎年お小遣いを渡しているよね。家族がいる者が多いし、大体、毎年120銭を渡している。それが黒部には200人もいるんだから、毎回2万4千枚も用意するのは大変というか面倒なんだ。金貨なら2枚で済むし、銀貨ならひとりに1枚で済む。お前たちだって部隊長なんだから、毎年、部下に小遣いを渡す時は大変だろう?」

「倭銭とかも欲しがるから、面倒ですねー」

「イチハツはリン(部下)に任せちゃった」


 まったく、イチハツにはかなわないな。

 今後、金貨銀貨が流通すれば、お金のありがたみもわかるようになるだろう。


 倭銭は混ざり物の多いクズ銅貨で、銅の含有量は半分くらいであり、残りは鉛、亜鉛、錫、鉄などが含まれているが、品質は安定していない。

 しかし、周の銅銭1枚を、倭銭5枚で取引している。

 庶民には銅貨も高額の貨幣なのだ。


 それに、時には、ニッケルとかコバルトを含んでいる倭銭もあり、学舎の連中は研究用に使っている。

 お陰で越にも錫や亜鉛が見つかった。


 ちなみに、倭銭1枚でリンゴ飴が1つ買える。

 イカ焼きは3枚、ゲソ焼きが2枚。

 燻製のさきイカを乗せたイカチヂミは倭銭2枚で買えるので、大人気である。

 これらの屋台は越前方面に多く進出して、やはり人気を博しているが、殆どが吉川とモルの指示による警戒班やスパイである。



 西三川村が村の体裁を整えてくると、暇になった。

 リーメたちは逆に忙しく、綺麗どころたちは温泉の管理者になってしまい、今では大工たちに旅館を建ててもらっている。

 多分、金の麦畑はそのうちに観光地になるだろうし、温泉旅館があれば更に客が来る可能性が高いから、特別に許可した。

 但し、混浴や身体を洗うサービスは禁止した。


「ちゃんとした男ができたら許す」

「伯爵様は、ちゃんとしてないから駄目ですね」

「まったく、ちゃんとしてないんだから」

「早く、ちゃんとしてください」

「すみません。頑張ります」


 何だか、良くわからないが怒られてしまった。


「待ってますからね」

「頼まれた品物はできていますから、持っていってくださいね」


 俺は竹カゴ2つの品物を受け取って、少しウキウキとした気分になった。


 畑の方は、夏までは収穫がなさそうで、ジッと観察していても日々の変化などそんなにはなかった。

 イチハツをからかうのも飽きてきたし、山の一部が紅葉を始めたので、紅葉狩りでもしながら、両津港でも見に行くか?


 アヤメに提案すると、佐渡の人口は500人を越えたし、防衛体制も佐渡代官がきちんと計画して指示しているので、警護官が4人ともついてくることになった。

 念のため、『えちご』か『えっちゅう』が見回りしてくれるらしい。

 何かあったら、狼煙を上げることになっていた。


 道のりは斥候隊が地図と道に記号を残してくれていたので、歩きではあったがそれほど大変ではなかった。

 佐渡の中央部が、なだらかだったからだろう。

 やがては見渡す限りの農地になりそうだ。

 無人島なのが勿体ない。

 今までは、人が死に絶えるほど農業力が低かったのだ。

 ウシやブタを飼うほどの余裕もないのだろう。


 この時代、最強の匈国(匈奴)は、北方のヒツジ飼いである。

 部族単位でヒツジの餌場を回るのだが、人が食べても栄養にならない草を食べさせて食料を生産する。

 勿論、移動の足には馬を使い、それが戦力にもなっている。


 農耕民族は、ヒツジよりもウシがいいようだ。

 ニワトリとブタも、余裕があれば飼うが、畑労働の補助にはならない。

 ウシやウマは力があるから農耕にも使えるのだ。。


 旅は無理はせずにゆっくりと移動し、両津に行く途中で1泊する。

 桃や栗などの果物や、キノコや竹や湧き水などもポイントしながら歩いたからだ。

 詳細な地図を作り、道を表示するのは、後々のためになる。

 荷物は1頭の馬の背に載せている。

 途中の草原ではウサギを見つけたりした。


 ウサギは魚鳥以外の肉食を禁じられた江戸時代に、魚鳥枠に入れられて食用にされたくらいポピュラーな食材だったが、俺は食べたことはなかった。

 1羽、2羽と数えるのはその時代の名残だろうが、味も鶏肉に近いのかもしれない。


 そう言えば、アメリカでは鳩も食べるんだったよな。


 何となく、俺は領内のスズメで懲りていた。

 スズメの害が作物に及ぶので、時々スズメ退治を行うのだが、退治したスズメは、勿論、食べてしまう。

 羽を毟ってから叩いて骨を砕き、丸焼きにして食べるのだが、ちっとも美味しくなかった。

 俺は骨を砕かない奴を火で炙って羽の残りをなくしてから油で揚げてみた。

 それでも骨ばかりで食べるところはなかったが、領民たちは喜んで食べていた。


 アヒルやガチョウやニワトリがいるのに、何故、こんなものを食べるのだろうと思った。

 肉でも魚でも、骨付きが当たり前の時代なので、ステーキや切り身と思ってる俺の方がおかしいのだろうけど。

 小骨が多い魚のなども、俺は食べないしなあ。

 時々、秋刀魚サンマが食べたくなるくらいだった。


 現在の漁業力では、マグロまでは捕れない。

 鮭鱒、鱈に鯛ぐらいである。

 大物過ぎると、網が破れ、ボートがひっくり返るのだった。

 鯨など、命を捨てろと言ってるのと同じなので、挑戦するのも禁止している。


 アヤメたちは完全武装体勢だったから、急ぎでない旅は歓迎だったようである。

 勿論、俺は前を歩く警護官のお尻を眺めるのが主な仕事だったが、カキツバタだけは俺の前を歩いてはくれなかった。

 嫌われたのだと少し落ち込んでいたら、アヤメの配慮だろうが、野宿で眠る時はカキツバタが隣にいて抱っこしてくれた。

 悪夢は見ないでぐっすりと眠れた。


(年上の方が、相性はいいんじゃないの?)


 確かに甘えられるって楽なんだよね。

 最も、俺には年上属性も年下属性もない。

 そもそも、女に縁がなかったからだ。

 何か悪いことをしたわけではないのだが、相手にしてもらえなかった。


 中学までは、俺が好きになると女子に迷惑をかけるだけなので、誰も好きにならないように努力までしたのだった。

 でも、ちょっと優しくされたりすると、暫くはその娘ばかり見ていた。

 まあ、それがいけなかったとは思うのだが、仕方がないではないか。


 先輩や後輩とも縁がなかった。

 部活動など考えられなかったし、委員会など流石に押しつけられることはなかった。

 小学校の時に花に水をやる係があったが、『花が枯れる』とか、ひどいことを言われた。


(好感度が低いというか、嫌われ度が高いというか)


 好感の対義語は悪感か反感だろうけど、何となく違うよね。

 不快感と言うのが正しいような気がする。


(クズ! と罵られる方が、同じ土俵にいる感じがする?)


 愛情の反対は無関心だと言うけど、無関心でいてもくれない。

 かといって関心があるから突っかかるでもない。

 イジメに近いのだろうけど、いじめられっ子ほど監視されてるわけでもない。


(子供の頃って、問題への対応能力である認識力や状況分析力、交渉能力が低いから、想定外のことが起きた時には、冷静に物事を考えることができる人に、人気が集まるって聞いたわ)


 誰かが何とかしてくれるだろうってのは?


(他力は大人社会でも信用されないわねえ)


 まあ、危機対応能力が高い人が船長とかの方が安心だよね。

 俺はただの通りすがりの一般人でいいや。


(伯爵でしょ! 越領の船長じゃないの?)


 吉川がやってくれてる~。


(やっぱり、クズだわ)


 イジメと言えば、朝食の時にひどいことがあった。

 俺が綺麗どころたちに頼んで作ってもらった温泉卵を披露したのだが、『臭い』と決めつけられてしまったのだ。

 折角、人が美味しい「おんたま」で楽しい朝食にしようと考えたのに、あんまりだ。


「生卵とも、ゆで卵とも違って、結構美味いんだよ」

「臭いからすると、腐ってます」

「お腹を壊しますよ」

「食べられませんよ」

「やめた方がいいんじゃ」


 俺は器に割ってみた。

 白身も黄身も、一応、半熟に仕上がっていた。

 ちょっと、白身が柔らかすぎるだろうか。

 少しだけ湯の温度が低かったか、時間が短かったのだろう。

 とは言え、生とは違うからまあまあだと思う。


「中身は硫黄臭くないよ。大丈夫だ」

「臭いです」

「腐ってます」

白濁にごってる」

「変態です」

「そんなことないって、美味いんだから」


 早速、醤油を垂らしてほかほかご飯にかけて、温玉かけご飯にする。


「うん、美味いよ。お前たちも食べてみろって」

「そんな白濁液を口にしろだなんて!」

「気持ち悪いです」

「妊娠しそうです」

「絶対に変態行為だって」


 結局、警護官たちは「おんたま」の良さを認めず、七輪で鶏肉に甘醤油を塗りながら焼いたものを作ってやることになった。


 俺の作るものは、大体、喜んで食べるのだが、この「おんたま」は失敗だったようだ。

 亜人たちは玉子焼きが好きだし、ゆで卵もよく食べるし、目玉焼きだって大好物なのに。


 食わず嫌いじゃないのか?


 どうであれ、「おんたま」による楽しい時間は潰えることになった。

 女たち4人との、「おんたまレクリエーション」か、「おんたまコミュニケーション」は失敗に終わったのだった。

 おんたまげーしょんかな?


 出発する時に、残った「おんたま」は全部、俺が持っていくことになった。

 誰も食べないから、竹カゴに山盛りである。

 入りきらない一部は、ウマの背の荷物にそっと隠しておくことにした。


「臭いから、離れて歩いてください」


 みんな、冷たくないか?

 俺にも、おんたまにもさ。

 食べてもみないで、嫌いすぎだと思うぞ。


 そりゃあ、白濁液が好きな処女というのも変だけどさ。

 でも、きっと好きになると思うよ。


(白濁液を無理強いするのは、強姦ですよ)


 だから、違うって!

 白濁液って言うなよ!

 黄身だってあるんだからさ!

 キョウワイじゃないや、軽犯罪ぐらいだろう?



 小高い丘の上から眺めると、両津湾だと思っていたのは、湖のようだった。

 海沿いだから汽水湖かもしれない。

 汽水湖って、シジミが捕れるんだっけ?


 俺たちは湖沿いを両津湾に向けて歩いて行った。

 右側が丘や崖で、左側が湖である。

 何処かで両津湾に向かう場所があるだろう。

 なければ、湖と海に挟まれた場所まで行くしかない。

 都会に住んでいると、自然というのは意外と高低差があるものだと言うことを忘れてしまう。

 平野といえども、かなりの丘や谷は普通に存在するものだ。

 平らにして住宅地にしたり、道路を通したりすると、ちょっとした坂になってしまうが、本来は上り下りが大変であり、しかも歩きやすいところは結構曲がりくねっているものである。


「おんたま~、おんたま~、おんおん美味しい、おんおんおんたま~。おんたま~、おんたま~、おんおんたまたま、おんたまたま~」


 俺が即興で「おんたまの唄」を歌っていると、シャガがイチハツに何かを言って吹き出し、イチハツは顔を真っ赤にさせていたが、何を話しているのかはわからなかった。

 アヤメが顔をしかめて、更に先に行く。

 折角の4つのお尻だったが、離れててあまり楽しめなかった。

 ウマのお尻ばかりが見えている。


 その時、右側の斜面から林の木々を縫うようにして、人影が落ちてきた。


「シャガ! イチハツ! 気をつけろ!」


 まあ、俺が叫ぶより早く、4人は戦闘態勢に入っていた。

 だが、落ちてきた人影は、地面に突っ伏したまま動かない。

 どうやら、大怪我をしているようである。

 血だらけだった。


 仰天した。

 おんたまげーしょんである。

 いや、それどころではないな。


 アヤメとカキツバタは周囲を警戒している。

 他に人がいないか、気配を探っているようだった。

 シャガとイチハツが怪我人から離れて様子を窺っている。

 だが、俺には瀕死に見えた。

 叫び声がなかったからだ。

 人影は鹿族亜人の男で、背中に幾つか刺し傷があり、深さによっては致命傷だと思う。

 ただ、林を縫うように斜面を降りてきたと言うことは、まだ息があるのだ。


「おい、どうした。大丈夫か?」

「伯爵様、危険です」

「危ないですよ」


 しかし、俺には危険には見えなかった。

 仰向けにすると、男は口から血を吐いた。


「た、助けて……」


 それだけ言うと、男は息を引き取った。


(絶命したわ)


 男は栄養状態も悪く、遭難者にも見える。

 しかし、背中の刺し傷は、他人にやられたものである。

 野性の猪とかではなかった。

 アヤメが斜面から降りてきた。

 誰も見つからなかったようである。


「しかし、人殺しを平気でするような者がそうそういるものか?」

「多分、獣人でしょう。掟を破った亜人を殺すことはあります」

「逃亡奴隷とかかな?」

「逃亡する時には、大抵は盗みも同時に働いてしまいますから」

「食料かな?」

「無人だった佐渡にいると言うことは、船も盗んだのでしょう」


 船は貴重だから、大罪になるかもしれない。


「しかし、大陸からはかなり距離があるぞ。直江津航路を使ったとしても、ここはかなり離れている」

「それは今考えることではありません。敵は複数いて、武装しています。そして、飢えていることは間違いありません」


(照合できないから、他国の亜人に違いないわ)


 ナフタは亜人を管理しているが、越領だけである。

 獣人の国では、専用のAIたちが管理しているらしい。

 国家ごとか、人種ごとに管理していると思って良いだろう。


 まあ、どこから来たにせよ、追われている方が栄養失調なのに、追う方が食料をたっぷり持っているとは思えない。

 それだけ佐渡は遠いのである。

 大きな船で逃げ出したなら、ひとりにならないだろうし、大きな船から逃亡したのなら、栄養状態が悪すぎる。

 船の中で罪人になっていれば、ここまで逃げてこられないだろう。

 罪人では上陸させてもらえないし、追放するなら殺されたりしないと思うのだ。


「船を目撃したという報告はありませんでしたから、最近着いたのでしょう。独立商人が使うような小型の帆船が一番確率が高いです。問題は何艘で来ているかですね」

「偵察してきましょうか?」


 カキツバタの提案に、アヤメは首を振る。


「全員で行動した方が、逃げるにせよ、戦うにせよ、有利だわ。ウマをここに置いて、全員で偵察に行きましょう。伯爵様もひとりにする方が危険よ」

「では、開けたところまで移動して様子を見るのですね」

「弓矢が怖いので全員、盾装備で行きます」


 敵の情報がないから、俺もアヤメ隊長の言うとおりにした。

 そもそも、敵かどうかもわからないのだ。

 船の数と規模を確認すれば、おおよその見当はつけられるだろう。

 危なければ戻って狼煙を焚けば、半日ぐらいで『えちご』が両津湾に駆け付けてくる。

 そうなれば、敵が千石船でも蹴散らせる。


 4人が完全武装で歩いて行く後ろを、俺は非武装でついていった。

 持っているのは、「おんたま」の入った竹カゴだけである。

 まあ、武装しても、クズは役に立たないのだ。


 敵が「おんたま」を喜んでくれるなら嬉しいのだが。


(敵視されるかも?)


 男たちも、白濁液は嫌いかもしれないなあ。

 美味しいのだけど……

 おんたまげーしょんは、きっと通じないだろうな。




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