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20 砂金山

 20 砂金山




「伯爵様、次は板だ、板。2間(2m)を30枚ほど頼んますよ」

「その次は、柱にカンナがけをよろしく」

「漆喰を練っておくように頼みやしたよね? 伯爵様」

「昼飯は何でしょう? 昨日は肉だったから、今日は魚がいいですねえ、伯爵様」

「こっちを地ならししておくんなさいよ、伯爵様なんでしょう」


 俺は働き詰めである。


 大工連中がこき使うのである。

 何となく段々と扱いがぞんざいになっている気がする。


「何言ってるんです? 俺たちのあねさんを囲っておきながら、あっちでもこっちでも女に手を出して」

「そうそう、昨日もイチハツの嬢ちゃんが夜に泣いていやしたよ」

「いやいや、リーメちゃんが先やのに、妹のメアちゃんを呼びつけたそうや」

「まあ、何にせよ、姉さんにご注進されたくなかったら、心を入れ替えて真面目に働くこってすな」

「そうそう、1日中きちんと働けば、夜はよこしまなことを考えずによく眠れるってもんです」


 考えてみれば、こいつら大工はギイの弟子だった。

 つまり、クーリャには散々世話になってきた身内の連中なのである。

 彼女は冷たく怖そうに見えて、きちんと世話するタイプだからなあ。

 優秀な弟子だったこいつらは、結構、可愛がられたのかもしれない。


 こいつらはこいつらで、憧れのあねさんとか、素敵なねえさんとか言ってるから、随分と入れ込んでいたのだろう。

 そこを横から来た俺が、かっ攫っていったように見えるのかもしれないけど、実際は、まあ、かっ攫っていた。

 あの、性格に似合わない華奢な身体は、俺があんなことやこんなことをしてもしても許されるのだ。

 うへへへへ。


 申し訳ない。


 とは言え、獣人で純血主義者のクーリャが亜人と契るわけがなく、こいつらの『岡惚れ?』なんだろうが、純粋に崇拝していたのかもしれない。

 親衛隊か?

 ファンクラブか!


 獣人に惚れ込むのは、まあ珍しいけどね。

 人種差別撤廃に向けて、喜ぶべき兆候きざしだと思う。


 但し、クーリャは獣人でも古いタイプなんだよなあ。

 何処かで亜人たちを下に見ている。

 今では神様(本人はそう思っているが、実は管理AIのナフタである)が自分の中に現れるようになったから、更に特別な人間と思っているかもしれない。

 でも、このままだと子供は亜人になるからいいか。

 むふふふ。


 しかし、これは大工によるイジメではないのか?

 なんで、伯爵がこんなに働かなくちゃならないんだ。


 何となく面白くない気持ちは理解できるけど……

 まだ、やった訳じゃないのに!


 ごほっ。


 お前らのところにだって、村の女や船員の女たちが既に何人か忍んできていることを、俺は知っているんだぞ。


 大工は越の職人の中でも花形である。


 最近は少し仕事が分化し始めているが、土木・建築の専門職である。

 左官、石工、井戸掘り、指物なども大工仕事に含まれている。

 用水や貯水池の工事も、村人の差配を行う。

 大きな仕事がない時には、箪笥や机、長持ながもちなども作っている。

 働き者で収入もいいし、女たちが放っておくわけがない。


 ただ、彼等の魂とも言える『大工道具』を作っているのはリーメの工房で、流石に金属学者たちには頭が上がらない。

 より正確に言うと、リーメたち金属学者は直江津大学(学舎)の教授であり、外には幾つか工房があって、金属機械・金属部品を作っている。

 生徒たちは鍛造と鋳造に別れていて、鍛造は男の割合が多く、鋳造には女が多い。

 鋳造の勉強をした女は、村で『鋳掛け屋』をしていたりする。

 農機具や台所用品の修理である。


 鍛造の男たちは(女もいるけど)、国家機密であり、今は越中の奥地に隔離されて仕事している。

 一応、表向きは『刃つけ』をしていることになってる。


 リーメは機械部品を作るための機械が専門で、旋盤などを製作している。

 最近、直江津に『ボタン屋』が開業したが、あれもリーメの作ったボタン製造器を譲り受けた愛弟子のひとりが始めたのだ。

 貝殻や木片、時には真鍮を専用の旋盤で加工して円形にし、細いドリルで穴を開ける。

 木片のボタンは漆原(屋号でもある)で漆塗りの様々なボタンに仕上げられて、大人気商品である。


 こうした金属加工技術は、多くが越の秘匿技術であり、その元はクズ頭から出てきたものを、リーメがまめに記録していたから可能となっている。

 だから、越ではリーメは金の卵を産む鳥である。

 本人は財産に興味はないが、必要な予算とか材料は、吉川がいくらでも出してくれている。


 だから、大工たちは余計に面白くないのだろう。


 最近わかってきたのだが、子供を産んだことのある女には権利があるのだ。

 義務なのかも? と思ったが違うようだ。

 あっちで言うところの『浮気』とか『不倫』とかなのだが、そもそも婚姻ではないので、そうした理屈にはならない。

 実際に、女の方が押しかけてくる割合が高いのだ。

 通い婚の女バージョンとでも呼ぶべきだろうか。

 そして、自分が妊娠している時や授乳期には夫?が他の女の世話になるのだから、自分もそうしようと思うそうだ。

 必然的に雑婚状態になっていくようである。


 まあ、野生馬の群れを見て、誰と誰が夫婦かなどと推測するのが無駄なのと同じなので、あんまり詳しくはしらない。


 とは言え、奴隷時代なら主人の言うままに家畜のように繁殖計画に組み込まれたり、主人の伽をさせられたりであるから、少なくとも最初の子供を産むまで自分が選んだ男と一緒に過ごせるのは、男女ともに嬉しいようである。

 その辺りは、周りも空気を読むようだ。

 それに家畜より、野生馬の方が自由な感じがする。


 特に移民は、妹連れが半数以下と少なく、逆に娘連れの割合が多くて未亡人もいたりするので、男不足であるために、ほぼ女が相手を選んで男どもは言いなりである。

 逆じゃないかって?

 いいえ、女不足だと男どもが取り合いをするが、女余りだと待っていれば女たちの方が来てくれるのだから、男としては楽なのである。

 女たちは男をあぶれさせたりはしないようである。

 それで、大体みんな仲が良い。

 失楽園もみんなですれば楽園なのかもしれない。

 そもそも奴隷には、所有権がないのだ。

 だから、みんなはみんなでなのである。

 そうしないと生き残れなかったのかもしれない。


 俺も混ざっていい?


 しかし、考えてみると極めて重要な命題がある。


『性行為は1対1の対応を示す』


 ということである。


 これは、男と女が一対いっついになると言う意味ではなく、男が1回する時には、女も必ず1回していると言うことである。

 つまり、男が100回していれば、女も100回しているのだ。


 これは感覚的にはかなりおかしい。

 何故なら、需要と供給が一致しているかのような事実は男の方からは確認できないからだ。


 実際に処女は少なく、童貞は多いではないか。

 特に、俺にはまわってこないぞ! と思っている男は多い。


 けれども、現実には対を為している。

 実際に男が1回している時には女も1回しているのだから、回数は同じになる。


 それでも、自分の経験数が少ないと感じる男が多い。


 これは、


『勘定合って銭足らず』


 の現象に酷似している。


 給料は毎月もらっているし、計画的に使っているのに、毎月足りなくなる。

 まるで、自分の財布に『天使の取り分』があるかのようだ。


 けれど、妻の取り分というのは存在し、夫が100回したいと思っても妻は90回しかOKしない。

 妻によっては80回とか60回とか、下手すると20回とかもあるかもしれない。

 これは愛情の問題だと勘違いしている人も多いが、単純に『拒否権』を持っているところが強いと言う、どちらかといえば政治的な問題である。

 政治的な問題となれば、交渉技術もしくは外交技術が必要であり、それは婚前交渉でも同じことである。



 つまり、処女には『拒否権』があるのだ!

 本当か?


(選ぶ権利でしょう?)


 そうとも言うな。


(選ぶと偉いは発音が似ているから、語源は同じかもね?)


 つまり、偉い人が選ばれると?


(そうかも?)


 うーん、それはえらいこっちゃ!


 話がそれたな。

 それでも、モテキ大工たちが言うには、


『最初は貴重だ』


 ということである。

 これも、処女設定の弊害である。

 俺のせいではない。

 そもそも、処女設定される前から、クーリャはともかく、リーメは俺のもんだ!

 多分。


(違うけどねぇ)


「ええっ! 違ったの?」


(設定前の記憶は?)


 そう言えば、リーメは……

 いや、そもそも、妻たちがみんな処女ってことは、俺って?


(やーい、童貞!)


 そうなのか?

 そんな気がしてた。

 下半身を見て興奮するのは童貞だからか?


(それは違うわよ!)

 

 木造建築は生木を乾燥してから加工しないと問題が起こるそうで、最初は丸太に近いものでログハウスみたいなものを沢山作って、自然乾燥を促進するために火を焚いて生活してもらい、乾いてきたところから解体して加工して、新たな家を造るという面倒なことをしなければならなかった。

 勿論、小木村の中では自然乾燥させている材木も山積みされているが、時間がかかりそうだ。

 伐採したところは、ドンドン畑になっていく。

 暫くは、このサイクルを繰り返してきているのだった。


 しかし、毎日こう働かされていると、癒やしが欲しくなる。


 船員たちは半舷上陸とかで交替で休んでいるが、俺はそのために毎晩メアかミアの来訪があり、リーメがそれを邪魔に思うせいか、阻止するためか、毎日姉妹喧嘩騒ぎに発展し、騒ぎが始まると綺麗どころたちが怯えて逃げ出し、それでアヤメの介入というかお叱りを俺が受けることになり、更には雨乞いならぬ嵐乞いを行うイチハツを止めることまでしなければならないのだった。


 どうして、よそみたいにみんなで仲良くできないのだろう?

 その上、この重労働だろう?

 俺はそもそも、ガテン系ではなく引き籠もり系なのだ。


 ああ、伯爵邸でモモちゃんをからかいながら過ごしたい。

 俺は新しい材木をカンナがけしながら、モモの妄想をした。

 

『モモ。お茶を寝台ベッドまで運んできてよ』

『お戯れは、嫌でございます』

『ここで飲みたいんだけど』

『で、でも、それだと…… 隠せませんから、とても恥ずかしいです』


 前を隠す、お盆の手に力が入ったりして。

 最近は意識しまくりである。


『何が隠せないの?』

『そ、それは、ゴニョゴニョ、で、ございます』

『良く聞こえなかったな』

『もう、お戯れが過ぎますぅー』


 などと言いながらも、結局は言いなりなのだ。

 それは、とても恥ずかしそうで…… 顔だけではなく、下半身まで薄赤く染まるのだ。

 モモのようにな。

 きゃふふふ。


(恥ずかしいのは、あなたの頭よ! 気持ち悪いパフォーマンスをしてないで、キリキリ働きなさい!)


 ちぇ、少しぐらい癒やしの時間があってもいいじゃないか。


(癒やしの時間じゃなく、いやらしい時間でしょ!)


 何か、怒ってないか?


(クーリャ邸が完成したのよ。明日は引っ越しだわ)


 良かったじゃないか。


(でも、あんたはこんなところで愚図愚図しているでしょ。クーリャが待っているのに)


 仕方がないだろ、佐渡金山は戦略の要なんだから、慎重にことを運んで失敗しないようにしないといけないんだ。

 ある意味、女どころではない。


(偉そうに言っても、女のことばかり考えているじゃない!)


 まあ、そうなんだけどね。

 今は佐渡金山より、モモちゃんの癒やしが欲しい。


(だから、モモじゃなくて、クーリャのことを考えなさいよ、クズ! 童貞!)


 どど、童貞の何処が悪い。


(臭そうだわ)


 ほっとけ!

 泣くぞ!


 そう言えば、風呂を作ってもらわないとそろそろ限界だった。

 女たちが気にしているのだ。

 秋風が吹いてきているしな。


「さあさあ、皆さん。お茶が入りましたので、一休みしてくださいね」


 その後、リーメが学舎の仲間とお茶菓子付きでやってきた。

 太股を触らせるという大胆な行動もするリーメだったが、基本は恥ずかしがり屋であり、毎晩、俺と一緒にいても急造のログハウスのせいか、姉妹が悪いのか、あまり色っぽい展開にはなってない。

 昼間は初々しい新妻みたいで可愛いけどね。


 風呂がないからかも?


 綺麗どころたちも良く懐いて、何となくユキナと女中たちの関係に似てきている。


 処女というのは、きちんとしたプライベート空間がなければ積極的になれないのだろう。

 女奴隷は、仕事以外でも屋内にいるのが普通らしいし。

 今、建設中なのは、そのプライベート空間なのだが、完成したらどうなるのだろうか?


 毎晩、キャッキャうふふかも?


(クズ!)


 大工たちの機嫌が悪いのも、原因のひとつはそこにある。

 リーメの大工たちに対するサービスがいいのもそこにあるのかもしれない。


「皆さん、お茶が入りましたよ。一休みしてください」


「おお、これはすみません、リーメお嬢ちゃん」

「いつもありがとう、リーメさん」

「おありがとうごぜいますだ、リーメ様」

「ありがとさん、リーメちゃん」

「あっしらにまで、ほんまにいい子や」

「オマケだって自覚はあるんだねえ」

「あたぼうよ」


 大工どもは、すっ飛んで休憩に入っている。

 ヘルプの船大工たちも、建設中の長屋の方で学舎の仲間たちに、お茶を振る舞われている。


 しかし、俺は漆喰を練り始めたばかりで手を止められない。

 少なくとも均一になるまで練っておかないと、出来が悪くなり使えなくなるのだ。

 漆喰は自然石や砕いた大石を混ぜて、家の基礎に使うのだ。

 これをちゃんと作らないと、水はけとか、暖房とか、家の寿命にも影響が出てしまう。


 リーメは愛想良く大工たちの世話をしているが、やはり俺のことが気になるようだ。

 大工たちも最初の内はいい気味だとか思っていたのかもしれないが、段々と居たたまれない空気になっていく。


「ええい! 伯爵様、俺らが代わりにやっとくから、休憩してくんなさい」

「いいのか?」

「面白くはないが、仕方ねえでしょう。お嬢ちゃんを悲しませる方がつれえや」

「いい奴だな、お前ら」

「当たり前でさあ」


 何となく、江戸っ子ぽいのは、大工だからだろうか?

 大工文化が江戸に根付いたのかもしれない。

 まあ、職人気質とは、元来そうしたものなのだろう。

 気持ちよく仕事した方が出来がいい、そう思っているのだ。


 勿論、俺は気持ちよくリーメに甘えに行って、イチャイチャして過ごした。


「甘いのは、茶菓子だけで沢山だ」


 などと、大工たちに嫌みを言われたが、全然気にならなかった。


(そういうところは大物よね、クズ)



 村づくりにウンザリとしてきた頃、前線指揮を執っていたカキツバタとシャガが帰ってきた。

 半舷上陸の船員たちも遊んでいたわけではなく、斥候・偵察、道路整備と頑張っていたのである。

 季節は完全に秋に入った感じである。


「川に砂金が見つかりました」

「やったぞ、カキツバタ!」


 俺は嬉しさのあまり、カキツバタを抱きしめてグルグル回り、ほっぺにキスしてしまった。

 それも何度も。


「あっ!」

「まっ!」

「ななっ!」

「もうっ!」


 当然、色々な反応があったが、それどころではなかった。


「シャガも頑張りましたよ!」

「ああ、ありがとう。良く頑張ってくれたな、シャガ!」

「では、シャガはこれで……」


 がしぃ!


 シャガは俺を抱きしめると、唇にチュっとされてしまった。

 体格では互角だが、体力では完全に負けていた。


「ああっ!」

「ななっ!」

「まあっ!」

「んもう!」


 大騒ぎになったが、シャガが自分でしておきながら真っ赤になって恥じらっている姿に、何となくだが1年が30日で過ぎていく世界の、その懸命さというか、喜びや悲しみも凝縮されている人生の片鱗を見てしまったような気がした。


(格好つけるな、クズ!)


 俺はビクに頼んで『えっちゅう』を柏崎に戻してもらい、第2次移民団と補給物資を運ぶように頼んだ。

 吉川にも、息子のモト経由で『佐渡代官』を推薦するように伝えてもらった。

 足踏みしている自覚はないが、世界は留まってはくれないのだ。

 佐渡なら、亜人の代官でも問題ないだろう。

 暫くは世界中に極秘なのだから。



 砂金の見つかった川は、俺の乏しい知識の隅に『西三川』と残された場所の上流だった。

 ならば鶴子銀山も湾の向こう側にあるだろうと思い、更に斥候隊を出した。

 何故か、銀山の方が思い出せる。


 理由は思い出せないが、ひょっとしたら現役の鉱山だからかもしれない。

 逆に名所旧跡になっているのかな?

 名前が珍しいからかもしれない。

 まあ、芋づるの何処かに引っ掛かったのだろう。


 以前、『西東』という名前の人を見つけた時に、どうしても読めなかった。

 東雲しののめとか東風こち西表いりおもてとか西風ならいを考えてしまうではないか?

 『さいとう』と読むと聞いて呆気にとられたものだ。

 簡単過ぎてか、当たり前すぎてか、それとも斉藤さんという常識に囚われていたせいだろうか?

 クズ頭のなせるワザである。

 盲点を突かれたというのか、クズには盲点が普通の人より沢山あるのだ。

 毛乳頭は少ないのだが……

 毛乳頭って、毛の生えた乳首ではないんだよ!

 知ってた?

 いや、想像はしないでね。


 えー、それでだ。

 俺たちは砂金の川に行き、そのまま川の上流に向かい、埋蔵量を調べていった。

 しかし、砂金は見つかるのだが、粒が小さく、量も少ないのだ。

 この程度では世界有数とは呼べない感じだった。


 しょぼいのである。


 リーメが潰して調べてくれて、ほぼ純金とお墨付きをくれたのだが、どうにも納得できなかった。


「大判、小判がザックザクとは言わないけどさ」

「麦粒みたいなのが時々見つかる程度ですね」

「上流に来てもあまり変わらないなあ」

「後は川底を掘ってみるしかないのでは?」


 リーメは金貨を良く知っているので、金の価値がどれだけ凄いのかも理解もしているが、今のところ一般人には銅貨の方が価値がある。

 周王国が認めた貨幣価値が銅貨にあり、それで十分通用するからである。


 一方で、金貨を独占している周王家でも、多分、例の10グラム程度の含有量しかない金貨を2千枚ぐらいしか持っていない。

 流通は国内限定だし、王家の決済用か、報償としてしか貴族にも出回らない。


 俺に100枚もくれたのは、倭国に渡るための準備として周王国内で消費してしまうからだ。

 それに、金貨を使えば王の命令だとすぐに理解されるからでもある。

 速やかに島流しにもできるのだ。

 他国に流れても、朝貢国なら周王に面会する時に金貨を持参すれば面会しやすくなるし、印象も良くなる。

 使者も金貨を持参したがるだろう。

 首切り王に会うのに、少しでも安全が確保されるなら、それに越したことはない。


 とは言え、俺が金を欲しがるのは周王に面会するためではない。

 貴族や他国の王たちの意識改革と経済の活性化のためである。


 まあ、貴族とか大臣たちというのは、食料、安全、地位が確保されれば、後はひたすら金である。

 これは何処の国、いつの時代でも同じである。

 金を欲しがらない大臣など聞いたことがないし、大臣の本業は金であると言い切ってもいいくらいだ。

 そのごうというのかさがというのは、悪辣な商人すら赤面するだろう。


 選挙資金?

 政治献金?

 報告会?

 勉強会?


 どんな言い方をしても言い訳でしかない。

 地位を利用して稼ぐだけ稼ぎたいのである。


 実は貴族もご同業である。

 名を変えただけか、類似品か?

 権力は金だけではないが、金は権力である。

 王ですら金で悩むのだから、これはもう、誰にもどうにもできない。


 今は金貨がないから、銅や宝石や虎の毛皮などで富に対する渇望を癒やしているのだが、金貨が出回れば一気に拝金主義者の団体が出来上がる。

 それも、世界中でだ。


 価格の安定しない毛皮や宝石などより、金本位制はわかりやすい。

 宝石を見せびらかすのは見栄でしかないが、金貨を山積みにできるのは実力である。

 だから、逆に見せびらかす必要すら感じないだろうな。


 ならば、金貨を持っている相手は、亜人かどうかなど関係無いのだ。

 表向きは何とでも言い繕うかもしれないが、本音は『金貨ちょうだい』に決まっているのである。

 それで、金貨を流通させる。

 あらゆる権力者たちに、自分が飢えていることを自覚させるのだ。

 商人や一般市民は、すぐに巻き込まれていくだろう。


 世界は金で動くのではなく、金に対する欲望で動いていくのだ。


 あははは、取ったぞ、世界を!


(まだよ、クズ)


「あのう、伯爵様? でも、これは本当に麦の粒に似ていますよ」


 リーメがドン引きしながらも、俺の注意を引く。

 心配しているのかも?

 まあ、頭はとっくに手遅れである。

 俺には金よりも、リーメの下半身の方が価値があるからだ。


(クズだわ)


 そこに、イチハツの下半身が寄ってくる。


「これを畑に植えたら、金の麦ができるとか?」


 俺はイチハツの下半身から目を離し、手のひらにある砂金をマジマジと見直した。


「それだ!!!」

「ひぇぇ、きゃんん」


 俺が指を指して叫んだから、イチハツは浅瀬で尻もちをついた。

 俺の目は、再びイチハツの下半身に戻った。

 濡れた下半身は、いいものだった。


 イチハツは冗談で言ったつもりなのだろうが、俺が本気にしたのでビックリしたのだろう。

 勿論、イチハツだけではなく、周囲の皆さんが驚いている。


 だが、俺にはわかる。

 あれだけ、大判小判がザックザクの前振りをしたのだ。

 ひねくれた神様が、素直に砂金を置いておくわけがない。


(ポチは小木村でお留守番だしね)


 ポチとは、アヤメのことであるが、今は関係無い。

 警備のトップとして、俺がいない間、船と村の指揮を執ってくれている。


 それに、砂金を継続的に生じさせるのも不自然であるし、埋蔵量と産出量は異なるはずである。


 砂金が麦の粒になっているのなら、麦と同じように収穫しろという暗示か、示唆にちがいない。

 しかし、この金の麦を何処に蒔いても収穫できるわけではないだろう。

 それでは無限に作れてしまうからだ。


 するとだな。


「全員で、あの山の周辺を捜索する」

「何を探すのでしょう?」


 カキツバタの疑問は最もだった。


「金の麦にふさわしい場所はたけがあるはずだ」


 全員が、俺が壊れたのではないかと疑っていたが、とっくに壊れているから大丈夫である。


「川が冷たいから、上がって探していいぞ。種麦は後で取りに来よう」


 この頭は、自慢じゃないが、クズ頭なのである。

 今更、取り繕っても仕方がないのだ。


 砂金山は、目の前にそそり立っていた。


(そそり立つ、と言うほどじゃないでしょ。あなたのと一緒だわ)


 俺の何と一緒なんだ?


なにでしょうね?)


 なんだって?

 自慢じゃないが、自慢のものだぞ!


(ぷっ!)


 失礼な奴だな!

 お前は14歳の処女だって言ってたじゃないか!


(ぷふぅ)


 ちくしょう、今に泣かしてやる。

 先に泣いちゃうけど……

 いいかな?




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