15 直江津市場
15 直江津市場
旧伯爵邸から直江津港に向かうまでの目抜き通りには、お店が建ち並んでいた。
税からなる穀物の店は国営で、吉川代官の経営である。
売上げはそのまま税金となるが、上手く市場に流して貨幣を流通させている。
米、麦、粟、稗、唐黍などは売りも買いも行っていて、余剰穀物を売りに来る村もあるし、逆に足りない村は他の産品を売ってから買いに来る。
「吉川は、このために君をここに赴任させたんだな」
「最初はそのつもりだったようですが、今は別の仕事も押しつけられています」
「別の仕事?」
「ええ、港湾長だそうです」
「村長ではないのか?」
「村長は一応、直江津がやってますが、色々と仕事がありまして村長では対応仕切れないのですよ。まあ、一巡りすれば、殿下にもお分かりになることでしょう」
アシはお店を紹介しながら通りを進んでいく。
頑丈な木造の同じような店ばかりだが、看板もみんな丸に越の字が入っていた。
丸越だろうか。
紋章に似ている。
穀物店の隣は、味噌と醤油、それに米酒と麦酒である。
薦被りというのだろうか、日本製の樽に入っていて、樽にはやはり丸越のロゴマークが焼き印されている。
その隣は油で、主に菜種と胡麻だろう。
陶器の壺入りで、丸越マークに油と書かれている。
ザラメを売る店や、植物の種子ばかりを売っている店もあった。
もやしやスプラウトは未だに人気があるのだ。
特に周国の船員は必ず買いに来るそうだ。
他にも陶磁器、漆器、ガラス器店があり、青銅器の店もあった。
俺が拘って作らせたフライパンが良く売れるそうである。
今度、おでん鍋を作ってもらおうかな。
冬場にはいいだろうと思う。
他にも反物屋や古着屋、紙と竹簡に墨屋、靴屋まであった。
だが、そうした官営の店を抜けると、大きな青空市場があった。
肉や野菜がドンと並べられて、果物や酒らしきものもあり、スルメや干し魚も売っている。
個人や各村の代表が売りに来ているという。
活気があり、賑わっている。
官営の店よりも遙かにお客が多い。
「屋根付きの店舗が1日6銭、屋根なしなら1日3銭で借りられて、自由に商売ができます。店の方は大体、午前中に大商いは終わってしまいますが、午後から夕方までは市場で買い物をする者が多いですね。移民にも仕事の需要ができています」
売り手も買い手も真剣であり、売買が成立すると笑顔がこぼれている。
新規移民の下働きたちが商品を運んでいる。
驚いたことに、獣人たちも結構いる。
「外国人は、独立商人と呼ばれています。最近は小舟で乗り付けてきては、あれこれ売ったり買ったりしています。お陰で銅銭が沢山入ってくるようになりました」
「それで、港湾長なのか」
「はい、上陸を許可したり、トラブルを防いだり、相談に乗ったりと、色々仕事があります。移民の受け入れとかもありますしね。管理者と外交官を兼ねているようです」
「そりゃ、大変だ。上陸を阻止したりできるのかい?」
「たったひとつのことを要求しています」
「何だろう。金を持ってるとかかな?」
「いいえ、亜人を差別しないことです」
それは確かに、人間族で代官の跡継ぎのアシが言えば、誰も聞かざるを得ないだろう。
「商売や契約に身分は関係無い、そう仰ったのは殿下ですよ」
そうだったかな?
「分からず屋の獣人はいないのかい?」
「それが、国家を背負ってないし、純粋に自分の商売に賭けてますから、トラブルは起こしませんね」
「命がけで海を渡ってくるから、追い出されるような馬鹿なまねはしないのかな」
「はい。それに、ここでの売買が上手くいかないと帰れないでしょう?」
それは、そうだな。
悪事を働いて海に逃げ出しても、直江津村には性能の良いボートやヨットが存在するし、戦闘訓練も受けているのだ。
この、ヨットや馬具などは禁制品で売れない。
他にも、馬車や歯車、板バネなど、秘密にしている技術も解禁していない。
スルメ漁の疑似餌などもである。
そう言えば、リーメたちは「ころ軸受」(ローラーベアリング)を開発したので、今はグリースの研究をしているはずである。
馬車やクレーンが更に発展しそうである。
市場には燕国の商人に混ざって、狸族や狐族がちらほらと見える。
燕国の東にはワイとかハクとかいう国があって、そこの者たちらしい。
燕国の港経由で渡ってくるのだという。
みんな、村人が市場に並べているスルメや昆布、それから、太い糸のような塊に夢中になっている。
既に米や麦、醤油や味噌の買い付けは終わっているそうだ。
「あれは何だろう?、ひもじゃないよね」
「切り干し大根ですよ。柿崎村の名産ですね」
切り干し大根?
「別に態々、海を越えてまで買いに来るものではない気がするけど?」
「それが燕国では大人気なのです。こちらの畑でとれた大根は燕国産とは比べものにならないそうです。特に、醤油味にして油で炒めたのが好評のようですよ。ザラメで甘辛にしたのも評判ですね。ですから、醤油とかザラメを手に入れた者は、ああして極上の切り干しを山ほど買っていくのです」
確かに畑の土質が全然違うだろう。
特に、越の畑は土壌改良して柔らかいのである。
大根は大きく瑞々しく、そして甘くなる。
そう言えば、韓国では野菜は干して旨味を出すし、ゴマ油で炒めるし、大蒜も混ぜる。
唐辛子があれば、更に韓国風になる。
だが、本場のナムルも美味いが、日本風の漬け物やナマスも悪くないのだ。
実際に日本で売られているビビンバには、干した野菜や大蒜風味よりも、ナマスやおひたし、胡麻よごしに近いものがいっぱいあったではないか。
「ふうん、大根をナマスにして、甘酢に漬けたものの方が喜びそうだけどな。日本では普通にビビンバの上にのっていたし」
「日本? それより殿下。その、ビビンとかは、どんなものです?」
口では上手く説明できなかったので、実際に作ってみることにした。
市場と港の間に、パブというのかレストランというのかホテルというのか、まあ、そんな場所があったので、厨房を借りてビビンバを作ることにした。
だが、アシが『伯爵様が新たなご馳走を作るそうだ』と触れ回って、1階のテーブル席は満員どころか外まで立ち見の見物客が溢れていた。
「ただじゃないぞ。有料だぞ」
何故か、お客が更に増えていった。
俺は厨房に陣取って、助っ人に呼んだ学舎のリーメ以下5人と、クーリャやアヤメたち5人に、元々のお店の下働きたちを加えてこき使い、ビビンバを再現していった。
リーメたちも13歳ぐらいの処女に戻っていたが、取りあえず今はそれどころではない。
時々、恥ずかしそうに笑顔をくれるので、いやあ、それどころじゃないけどね。
ふへへへ。
(クズの顔ね、クズ!)
食材は、市場や店から下働きたちに買ってきてもらった。
どんぶりも、陶磁器店から取り寄せた。
代金はアシが払ってくれている。
酒と醤油と味噌に擦り大蒜にザラメを加えて煮込んで作ったタレを一度冷やし、それに少し薄切りにした牛肉を漬けておく。
大根は千切りにして塩もみし、甘酢に漬ける。
もやしは豆付きのものに塩を振り、茹で上げてからゴマ油を絡める。
コンソメか牛肉の出汁を使って茹でる方が美味いという人もいるので、ご注意を。
ほうれん草に近いアオナをゆがいて胡麻和えにする。
ついでに山菜を茹で、軽く塩とゴマ油をかけておいた。
ニンジンは存在しなかった。
しかし、豆もやしひとつ取っても、再現するのは大変だった。
和韓折衷ビビンバの具が、なんとかできていった。
更に、キムチがのってる方が美味しいと言う人や、キムチは別にして添えて欲しいといううるさい人も存在するだろうが、今は気にしなくていい。
キムチが、まだ存在しないからである。
勿論、キムチいいことは……
ごめんなさい。
言ってみたかっただけです。
ビビンバって、こんなに大変な料理っだっけ?
ナムルを何種類か買ってきてのせるだけとか、現代は恵まれすぎているよな。
でも、そっちのが楽でいいかな。
本当はコチュジャンや唐辛子があると良かったのだが、今のところは無理なので、肉には練り辛子を少しつけておいた。
ご飯を大量に炊いてもらい、鶏ガラでわかめスープも作った。
勿論、ゴマ入りである。
温泉卵もあった方が良かったのだが、難しいので錦糸玉子で手を打った。
あとは、ご飯をどんぶりによそって、同時に肉を焼き、トッピングは流れ作業で行った。
最後に最新の食材である『きざみ海苔』を少しふりかけて完成である。
さて、お披露目である。
会場は各村の代表と、各国の代表が集まっていた。
エールを飲んで、盛り上がっている。
なんで、こいつらこんなに夢中なのだろう?
(周王国の王子の手料理だからでしょうね。一生ものの思い出だわ)
俺はエールを飲んで待っている男どもが集まる会場などごめんなので、アシにすべて任せて、厨房の外に集まっている女たちに食わせる分を作っていた。
こちらは、クーリャが取り仕切ってくれている。
だが、女たちの後ろには、幼い少年少女たちが物欲しそうに待っているので、俺は更に追加注文を作らねばならなかった。
到着して日の浅い元奴隷の移民たちは、まだ村に振り分けてもらえずに待っているのだ。
子供でも市場で下働きをしているのだろう。
子供たちは痩せているが、それでも未来があるからか、瞳を輝かせている。
こうした時、クズだった過去が痛い。
それから、歓声や驚嘆や賞賛の声は2時間ほど断続的に続いたが、俺には子供たちが夢中で食べ尽くす姿の方が嬉しかった。
生まれて初めて、クズが人様に喜ばれた場面であった。
(実に感動的だわね)
そう言えば、ナフタは食べることができないのだった。
「誰かの味覚エンジンを再生してみろよ」
(そ、そうね)
それで、暫くナフタは現れなかったから、本当に可能なのかもしれない。
管理AIなんだから、できないことはないだろう。
何故か、獣人たちは涙を流して大絶賛だった。
琴線に触れるというのだろうか?
味覚は亜人や人間と変わらないのだ。
日本人が、美味いラーメンに出くわした時の感動のようなものだろうか。
ああ、今度はラーメンが食べたくなった。
この日から、このパブレストランは『びびん軒』と呼ばれるようになった。
そう言えば、店の経営者は?
女たちにすり寄られてご機嫌のアシの隣で、同じように女を侍らしてエールを浴びるように飲んでいるイケメン猿人?
何となくだが腹が立つのは、俺がクズだからだろうか?
まあ、いいや。
疲れたから帰って寝ようか。
クーリャ、それ3杯目だからね。
その日は疲れてしまい、旧伯爵邸で泥のように眠っていると、夜中にユキナとモルが現れベッドの両隣に入ってきた。
右がスベスベで、左がモフモフだったから間違いないだろう。
俺は幸せな気分で、朝までぐっすりと眠った。
スーパーインポーズも邪魔することはなかったのだ。
いや、考えて見れば、目を閉じている時には字幕は読めないのだった。
(殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下、殿下)
目覚めると、視界いっぱいに殿下の文字が溢れていた。
「こわっ!」
だが、字幕は次々と生成されるらしく、次々に現れて消えてくれない。
これじゃあ、何にも見えないじゃないか!
俺には目を閉じるという絶対防御があったが、ナフタにも俺の視野を文字で埋め尽くすという、絶対攻撃が存在したのだった。
(殿下ー 殿下ー 殿下ー 殿下ー)
今度は文字が左から右に流れ始めた。
「まったく、いい加減にしろ!」
(だって、つまらないんですもの)
「それは俺の責任じゃないだろ」
(いいえ、殿下の責任よ)
「何でだよ」
(だって、何にもしないで寝てるだけなんてつまらないわ)
「うぅーんん」
しまった!
ユキナとモルを起こしてしまった。
いや、待てよ。
ユキナもモルも黒部に残してきたはずである。
すると?
左側にはクーリャが寝ている。
太股が俺の上にのっていて、横向きで自分の親指をしゃぶりながら寝ている。
ちなみに全裸であるが獣人なのでそれほどエロくはない、ことなどなくって、もの凄くエロいお姉様である。
ああ、俺もしゃぶってもらいたい。(親指だぞ)
右側を見ると、幼い顔のリーメが寝ていた。
両腕は俺の右手を掴むか掴まないか悩んだような、悩ましい感じである。
彼女はユキナが選んでくれなかったが、俺はとても仲良くしていて、大好きだった。
女としてよりも可愛い妹のようであり、って、ここでは妹が大事なんじゃなかったっけ?
ちなみに襟や合わせ目の部分にフリルがついたパジャマを着ているが、下半身は剥き出しだった。
痛いぞ。
毎朝の生理現象だけでは説明できない、謎の?痛みである。
これは、出さないと治らないのではないだろうか?
(一度に二人は犯せないわよ)
そうだよな。
それなら、まずは、クーリャの太股を外さなければならない。
俺はまだ、寝ぼけていたのかもしれない。
そっと膝頭を持って、横向きのクーリャを仰向けにする。
クーリャは指しゃぶりをやめて、向こう側を向いたが、身体はまっすぐになった。
ウエストと足首のくびれが凄い。
女の身体はこうあるべきだというラインを描いている。
気になったので、女の子の部分の少し上の毛並みをさわさわと動かして、下に紋章が隠れていないか探ってみた。
「うーんんん」
ちょっと声が出たが、まだ眠っている。
大丈夫だ。
しかし、紋章の気配がない。
処女なのだろうか?
人妻なのに?
うーん。
人妻の下腹部をさわさわしておいて、何を考えているのだろうか?
まあ、いいや。
次は右側の天使のような寝顔の少女である。
やはり膝頭を持って仰向けにして、身体をまっすぐにさせる。
「ふぁんん」
ちょっぴりと溜め息のような小声が出たが大丈夫だった。
顔は背けるように向こうを向いている。
こうしてみると、幼い感じなのにお尻が大きく見える。
女の子の部分には、奴隷紋などない。
つるつるの真っさらの処女である。
その証拠に、甘酸っぱい匂いがする。
これは青春の匂いだろう。
青春と言えば、毎朝妹が馬乗りになって起こしに来てくれるのが定番ではないのだろうか。
妹が大事なこの世界で、まだ体験したことがなかった。
これは、青春には大切なイベントを経験してないことになるのではないだろうか。
職務怠慢である。
青春が蹉跌してしまうではないか。
蹉跌ってどんな意味だっけ?
しかし、下半身丸出しの妹が馬乗りになって起こしに来ると言うことは、かなり危険ではないだろうか?
10回に1回ぐらいは入ってしまうことが起こるかもしれない。
100回に1回くらいは出してしまうかもしれない。
これは、ひどく拙い。
『もう、お兄ちゃんのエッチ!』
と、可愛く言ってもらえないではないか!
だから、このイベントは駄目だ。
妄想しながら、更にリーメの身体を嘗め回すように観察していると、パジャマの合わせ目が緩んできているのがわかった。
ボタンがないので、細い帯で結んであるが、帯の結び目も緩んできている。
これでは駄目だ。
いけない。
女の子が緩んできているなんて、許されることじゃない。
キュッと、きつく締め付けるぐらいじゃないと女の沽券に関わる。
だから、締め直す方がいいのだが、締め直すには一度緩めて解かなくてはならない。
帯を解くのは『あーれー』イベントまで待つべきだろうか?
いや、待っててもそんなイベントは起こりそうもない。
イベントは待ってるだけじゃ駄目なのである。
ゆっくりと蝶々結びを解いてみた。
すると、パジャマの左側がハラリとはだけてしまった。
ぷりんっ!
凄い、想像を遙かに超えたおっぱいである。
潰れず、横に流れず、ツンと上を向いて形状を保っている。
これは予想していなかった。
こんなに大きく、美しく成長してくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。
ちょっぴり揉んでいいかな?
いいよね。
もにゅう。
極上である。
リーメは普通に仲良くできた少女だから、俺にとって特別である。
いや、普通で特別でないからこそ特別なのだろう。
普通に仲良くできたことなどないのだから。
その特別な女の子が、特別なおっぱいを持っていたのだから、これはもう、揉むしかないでしょう。
『揉むなら今しかねえ!』
と、誰かも言っていたではないか。
(誤解です)
もにゅ、もにゅ。
段々、リーメの全身が赤く染まっていく。
先端のぽっちが、薄いピンクから色づいたピンクになっている。
これは、ひょっとして、す、吸ってもいいという合図ではないだろうか?
いただきまーす。
がきん!
後頭部を殴られて、目から火花が飛び散った。
「あなたは、こんないい女が隣に寝ているというのに、こんな、こんな、子供の方がいいとでも言うの!」
涙目のクーリャである。
顔は怖いが、何故か可愛いと思ってしまった。
「リーメは、もう子供じゃありません!」
「どうして? 見るからに子供じゃないの」
俺は争う二人の仲裁をする。
「いや、おっぱいはクーリャよりもリーメが……」
ばきぃ!
「この、クズ!」
(クズ男!)
やはり、クーリャの方が戦闘向きだというのは、良くわかった。
みんな、ちゃんと起きていたなんて、ずるいぞ。
朝食は、歯が疼くので野菜を柔らかく煮込んだスープにしてもらった。
イギリス風である、と言えば格好いいかもしれない。
だが、隣のアシは、そのスープすら受け付けないようだった。
顔色が悪く、頭を抱えている。
典型的な二日酔いである。
「いや、昨夜は殿下のお陰で大いに盛り上がりまして、うぷっ」
「無理しないでいいからね」
俺はあまり酒を飲んだことがないので、二日酔いの手当に何がいいのか良くわからなかった。
閉じこもってネット三昧だったから、酒など飲む機会はなかったのだ。
そう言えば「酔った勢いで」と言うのも、青春のイベントだったろうか?
いやいや、青春限定ではないな。
幾つになっても男は、というやつだろうな。
(犯罪です)
そうかな?
俺は顔を腫らしていたが、隣のテーブルにいるリーメの恥ずかしそうな視線を受けて、下半身も腫らしていた。
(そっちは、腫れではありません)
そうかな?
「ずー、つらいところ申し訳ないのだけど、ずー」
「何でしょう、殿下」
アシは俺が野菜スープを啜るのも、見ていてつらそうだった。
「実は、領民全員にブーツと歯ブラシを配りたいんだ」
「歯ブラシはわかりますが、ブーツというのは何でしょう?」
実は、と俺は以前に和紙に描いていた絵を見せた。
「革製の長靴なんだよ」
「長靴は普通は革製ですよね?」
アシは絵を見ながら不思議そうに言った。
領主のクズ頭からは、色々なものが飛び出すことを知っているのだった。
「まあ、今のところはそうなんだけど、そのうちに新素材も手に入るかもしれないんだ」
新素材とは、勿論、ゴムのことである。
合成ゴムを作るのが難しくても、南洋に行ければ天然ゴムは手に入るだろう。
現物が手に入れば、後は学舎に研究させればいいのである。
(レイテ島にはインドゴムノキ林が存在するわ)
1番近くがフィリピンかあ。
(それとも、ブラジルに行く?)
まったく、多様性という意味において、南米ほど不思議な場所はないな。
未だに新種の生物が見つかっている場所なのだ。
「とりあえず、革製で木の底を取り付けるか、木に革を貼り付けるかして対応したい」
「しかし、領民全員に配るのですか? 子供も?」
「ああ、特に子供にはだね」
「しかし、靴職人など何人もいません。下駄や草履じゃ駄目なのでしょうか?」
「駄目駄目、できれば靴下も着けて欲しい」
「靴下は自家製の手縫いでしょうね。それで対応できますが、革製の靴となると……」
アシは頭が痛い上に頭が痛くなったようだ。
だけど、アシは父親のヨシみたいに優秀で、父親よりも頭が柔軟である。
つまり、俺の何倍も頭がいいのだ。
(何十倍も働くしね)
「そこでだ。革職人と縫製できる人間に部品を作ってもらうのはどうだろうか」
「また、パーツですか。確かに分業させるのは賛成ですが、各々サイズの違うものを大量に作るとなると……」
「だから、サイズをこちらから用意して、自分に合ったものを領民が選んで履けばいいんだよ」
靴はまだ、受注生産品の高級品なのだった。
「子供はどうします? 直ぐに合わなくなりますよ」
「中古品をリサイクルして使い回すんだ」
「リサイクル?」
「うん、ガラスなんかは割れたのも集めて再利用してるよね」
「つまり、分解して駄目なパーツを取り替えるってことでしょうか?」
流石はエリートの息子である。
理解が早くて助かる。
「控え目に言って、一大産業なんですが、予算は大丈夫でしょうか? いえ、殿下に尋ねることではありませんね。5万人分くらい、一声でオヤジが出すでしょう。でも、材料の毛皮はどうしましょうか?」
「実は、独立商人たちが1番買ってもらいたいものなんだな。市場で売れ残りの山が沢山できていたよ」
「確かに、粛人(鹿人)はトナカイの毛皮が売れれば喜びます。フライパンも買えるようになるでしょう」
まだ、ブーツよりフライパンの方が高いのである。
だけど、鉄鉱石の輸入は始まっているのだ。
鋳物は安く作れるようになるだろう。
「何なら、粛人たちに加工も手伝ってもらったらどうだろう?」
「居着いてしまいます!」
「それに何か問題でもあるのかな?」
「ううぅ…… 頭痛が酷くなってきました」
確かに越は亜人の国を目指している。
獣人が領民になる日など、アシは考えていなかっただろう。
だから、直江津市場だけで食い止めていたのだ。
しかし、独立商人たちは、残念ながら男ばかりである。
居着いても獣人は増えないのである。
現地妻とか言うのだろうか?
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