14 管理AI
14 管理AI
朝食を終えてから、自室でナフタと会話する時間が持てた。
ナフタは字幕スーパーでしか伝えられないという。
こちらは声に出さなければならないのだろうか?
(普通にしゃべってもらえれば、徐々に私の認識率が上がっていきます)
「それって、心が読めるようになるって言うことかな?」
(わかりません。ボディランゲージや表情、視線などから感じがつかめるのと変わらないと思います。一応、管理AIですから、どんな気持ちの時にどんな行動をとるかは、ある程度理解しています。閣下の固有の行動などは学習しなければなりませんが、肯定や否定、好意や嫌悪、喜びや悲しみなどは、付き合いが長いと口に出さなくても理解できるようになると申します。そうお考えください)
長年、連れ添いたくはない気がする。
(何ですか?)
「いや、俺に敵対したり、邪魔したりすることはないよね」
(完全中立よりは、閣下よりの立場だと思いますね。でも、面白い時や面白くない時は、正直にコメントさせていただきます)
「プライベートは?」
(あると思いますか?)
うーん、ないんだろうな。
そうでないと、神様が事後統合なんてできないだろう。
いや、事後統合するのは神様じゃなかったかな?
神様はそっち方面には興味がないのだ、だったような気がする。
自信は無い。
女たちの性欲とか、好感度からの状況証拠では、無罪は勝ち取れそうもないような感じだが、俺のせいかもしれないしなあ。
結構、むっつりだったりして?
いや、聞こえてないよね?
とは言え、完全録画状態ではないことを祈りたい。
四六時中監視された上に、完全再生なんかされたら嫌だよな。
流出なんて考えたら、死ねると言うか、帰れなくなりそうだ。
(事後統合用データは、ある条件下で記録状態に入ります)
「エッチな気分になったら?」
女中のひとりがお茶を持ってきて、必要以上に気にしてるようだった。
部屋で独り言を言って過ごしているのだから仕方がない。
単なる好奇心か、それとも妹たちに様子を見てくるように言われたのか、探っているのはいいとしても、下半身を晒しているから、こっちも気になる。
大きめのお尻も良いもんだなあ。
(おほん。その通りですが、閣下の気分ではありませんよ)
「相手が、なの?」
(はい。基本的には上気して、濡れて……)
「ぐ、具体的な描写はいいや。それで、ナフタは女の子なの?」
(はい、14歳の処女です)
ああ、こいつは嘘つきなんだろう。
(いいえ、正直者ですよ。嘘は嫌いです!)
「面白くする嘘は?」
(勿論、ありでしょ! いや、今のなしで!)
「遅いよ」
(ちっ!)
こいつは~。
「それで、ナフタの目的は何なの?」
(面白ければ別に、特に注文はありません)
「面白くなかったら?」
(面白くしたくなるかも?)
「それじゃ、世界征服を任せるよ」
(それで閣下は毎日子作りに励むんですか?)
「ああ、そうしたいね」
俺はベッドに寝転んだ。
すぐに別の女中がやってきて、お茶のお替わりを置いていく。
サイクルが早くないか?
お盆で前を隠してお辞儀するのが、結構ズキリと来る。
アングルが変わったせいだろうか?
彼女は『モモ』だろう。
一番綺麗なお尻をしているからだ。
最初に来たのは、多分だが、ウメである。
まだ、20人も覚えられないのだった。
「モモ、お盆を頭に載せてくれるかな」
俺はベッドに片手枕でだらしなく寝転び、モモの美しいヒップラインを眺めながら、だらしない顔で頼んでみた。
「お戯れは、嫌でございます」
モモは顔を真っ赤にして身体を捩るが、じっと見ていると、そろそろとお盆を持ち上げようとして、何を思ったのかクルリと後ろを向いてからお盆を頭に載せた。
それからすぐに美しいお尻が丸見えになっているのに気づき、再びクルリと振り向いて恥じらい、今度はお盆を戻し忘れたのに気づいたのか、急いでお盆を使って前を隠した。
「これ以上は、恥ずかしいです……」
やはり、何故か羞恥心を獲得したのだ。
となれば、処女もきっと獲得している。
(それで、まだ先を続けるのですか? クズ!)
「もう、いいや」
俺はナフタに言ったつもりだったが、この部屋にはモモしかいないので、モモがピクリと動いて、涙目になってしまった。
俺は慌てて起き上がり、逃げ出そうとするモモの腕を掴んだ。
「お、お戯れは、お許しください」
「ごめんよ、モモ」
俺はモモの瞳に溜まった涙を指先で拭ってから、お下げの髪を触り、頭を撫でて謝った。
「いえ、モモが生意気を申し上げました……」
モモは安心して気が抜けたのか、少しだけ俺の胸に頭を預けると、顔を上げて微笑んでくれた。
「まあ、これからも、よろしくな」
「はい」
モモは嬉しそうに出て行った。
(それにしても、好感度高いわねー。ゲームバランスとしてはどうなのかしら?)
ナフタの口調が変化した。
こっちが素なのだろう。
まあ、固っ苦しいのは嫌だしな。
「なあに、ここはホームなんだ。これから難しくなるよ」
(これから先、亜人はみんなホームよね)
「ナフタの好感度はどうなんだ?」
(べ、別に閣下なんか意識してないんだからね! と言うか、攻略対象じゃないでしょ!)
「そうなの?」
(そ、そうよ!)
「じゃ、子作りしたくはならないんだな」
(あ、当たり前です!)
何となく、ナフタのことが理解できた。
好奇心が強くて、退屈していたのだろう。
多分、接触することはルールとして禁止されていないのだが、管理者として推奨されることではないのだ。
本当は挨拶程度で退散するつもりだったのだが、つい残ってしまったのだろう。
「なんで、近親婚の世界なんだ?」
(それは、寿命が短く、コアは貴重だから、再生して使うからね)
「それって、生まれ変わるってこと?」
(この世界に順応した能力は、再学習させる時間がもったいないの。そこで、ある程度の生活記憶を残して再利用するのよ)
「効果はあるの?」
(ええ、勿論。11歳の少女が15歳くらいの中身を獲得しているでしょ?)
「大人になるのが早いってこと?」
(寿命が短いってこともあるわ。最大で60歳と言われているけど、現実には40歳は老人よね。平均寿命でも庶民は36歳くらい。奴隷は苛酷で23歳よ)
「平均だよね? 生まれて直ぐに死んでしまうとかが含まれない?」
(原因は栄養、気候、労働条件、ケガ、疫病と様々な理由があるけど、すべて文化の低さとも言い換えられるわ)
「劇的に改善する解決策はないのかな」
(1つは栄養だわ。ここでは改善されつつあるけど)
「原始的な農業だったからねえ。これくらいは俺でも何とかできるよ」
(次はケガとか病気ね。衛生面の強化で特に子供たちの生存率は高まるわ)
「風呂か! 風呂だね!」
(何が言いたいかわかるわ、クズ閣下。でも、風呂だけじゃないの。例えば歯磨きの習慣で虫歯からの死亡率が激減するし、靴をちゃんと履けば、ケガが化膿したり、破傷風が防げるわ)
「破傷風?」
(そう、越の風土病なの)
そんなのまであるのか。
周王国ではマラリアに違いない。
水が豊富な越では見かけないが、あっちでは風邪みたいに日常的な病気だった。
原因は澱んだ水が多いからだ。
赤痢だとかコレラだったら、もっと激しい疫病になると思う。
(ふうん、馬鹿だと思ってたけど、結構やるじゃない)
「だけど、自然災害イベントも多いのに、風土病なんか必要なの?」
(平均で子供を5人も産むから、放っておくと直ぐに飢饉になるの。食料生産が追いつかないから、支えられる人口が少ないのよ。だから、色々とイベントで負荷を掛けるの)
「残酷なんだね」
(死んでもコアが回収されるから、生まれ変われるわ。すべての記憶は引き継げないけど、つらい人生をやり直せるわ。それで、文明を加速させようとしたのだけど、何かが上手く行かないのよ)
「上手く言えないけど、今の人生に手を貸してあげた方が喜ばれると思うよ。経験上、正しいと言っていいと思う」
特に女の子はそうだ。
水のせいか性の喜びは想像以上に凄いけど、身分や立場が悪すぎる。
(管理AIが直接干渉できないわ)
「それで、イベントで虚しく死んでいくのが正しいとは思えないけどね」
(その代わりに生まれ変われるのよ。それが管理AIの一番の仕事になるわ。だから、血族内で生まれ変わることが多くなるの。特に管理AIが目をかけていた優秀なコアはコピーして数を増やしたりもするの。姉妹とかにしてね)
「だからって近親婚にする必要はないんじゃないかな」
(辺境のコアよりも中央のコアの方が管理しやすいのよ。それに辺境のコアでも優秀なのは、自然と出世して中央のコアに近い身分になって現れるの。そうなったら、婚姻させて優秀なコアサンプルとして管理する)
「辺境のままだったら?」
(それはそれで、ルーチン化した生き方をするようになるから、問題は起こさないでしょうね)
「本当はルーチン化している場所は、スイッチを切ってあるんじゃないの? 変化しないなら、動かさなくても同じだとか?」
怪しいのはアメリカ大陸とかだな。
農耕しないでも生きられるのは、豊かな場所なんだけども。
(クズのくせに鋭いわね。変化しない場所は時間をゆっくり動かしてる。管理AIも常時監視しないで済むしね)
「一見、不必要に思えるものでも、意味はあるんだと思わないのかい?」
(変態クズ男とか?)
うるせいや、ほっとけ!
(でも、閣下のように学舎を作って教育するという歴史は今までどこにもなかったわ。今後は貴重なコアになる可能性が高いから、亜人管理AIが選ばれることになったの)
何処の世界でも、篩にかけられるのは同じか。
まあ、それでナフタがここにいるのか。
「色々と思うところはあるけど、君のせいじゃないだろうから仕方がない。今後はよろしく頼むよ。仲良くやっていこう」
(あなた、クズのくせに身内には横柄で情け容赦なしってタイプね。それとも、それがクズの証拠かしらね。そういうの内弁慶って言うのよ)
「弁慶? ああ、踵に弱点があった人ね」
(それは、アキレスでしょ!)
「神様とのハーフで力持ち?」
(それは、ヘラクレスよ!)
「三条大橋でヒラリヒラリ?」
(それは牛若丸の方でしょ! 五条大橋だし!)
なかなかの博識である。
神様が管理者として選んだだけはある。
「戦車競走のスペクタクル」
(ベンハー)
「ネズミが復讐するパニックホラー」
(ベンよ。題名はウイラードね。もうベンしか合ってないじゃない?)
「有能な青年医師で」
(ベン・ケーシーね。大昔のテレビドラマよ)
「もう一つ、同時期に有名なメディカルドラマがあったとか?」
(ドクター・キルデアね。主演はイケメンのリチャード・チェンバレンよ)
実は、どっちも見たことないけど。
昔、母親に一度見てみたいと検索を頼まれて知ってただけなのだ。
面倒なので、その時は断ったのだけど、その後、気になって調べたのだ。
見つけられなかったが。
「へええ、そうなんだ」
(実はウィリアム・シャトナーがスタートレックに出るので辞退したからリチャード・チェンバレンが抜擢されたらしいわ)
「うへえ、詳しいね」
(昔の映画やドラマが好きだったの。ずっと観ていたような気がするわ)
ずいぶんと乙女チックじゃないか。
ふん、スタートレックぐらいなら俺だって知ってるぞ。
ダースベイダーが出てくるやつだよね。
違う?
(実は、ネットで調べて観てたのよ。ネットには昔のことに詳しい人がいるから嬉しいわ)
ネットにアクセスできるのか。
なるほど、神様のAIがコンバートされたんだな。
若しくは、コピーかな?
何となくだが、口調が誰かに似ていると思ったのだ。
これで納得できたよ。
神様が現れるわけにはいかないからな。
ちなみに好みのタイプもわかったぞ。
リー・ヴァン・クリーフ?
サー・ローレンス・オリビエ?
全然わからないな。
「わかった。アラビアのロレンスに出ている人だ!」
(ピーター・オトゥールよ!)
それからもナフタと昔の海外ドラマや映画ネタで盛り上がり(但し、21世紀以降しばりで)、昼過ぎまで入り口で見張っている女中たちを呆れさせていたようだった。
午後になって、新湊からギイの弟子たちの馬車が到着した。
佐渡では大工仕事が沢山必要なので、優秀な者を選んで連れてきてもらったのだ。
新湊は、直江津と別に作った新しい港という意味で、今後は軍港になるかもしれない。
柏崎が海軍工廠と言うことになる。
勿論、商船や貨物船は新湊や直江津でも作っていく。
新湊にはまだ住居はなく、ギイたちの本拠地は射水川近くにある三ケ(さんが)という村である。
最近は大工だけではなく、石工や左官と呼ぶべき職種が増えてきている。
レンガや陶磁器の職人も増えている。
直江津よりも、越中方面に増えている気がする。
基礎工事が多いからだろう。
今は射水川の氾濫が激しいので、ギイたちは三ケ村長と治水対策も行っているらしい。
俺よりもギイの方が王家の人間らしく見えるなあ。
(射水川の治水は、川を二つに分けることよ)
ナフタがそう言うのだから間違いないだろうが、いくらカンニングができても、現在の技術水準では工事が難しいのだった。
まあ、できる限りの所で、手を打ってもらうことにする。
今は、佐渡が最優先だろう。
佐渡での工事は、マハたち船大工が沢山いるので弟子たちの手伝いはできるだろう。
後は、直江津の学舎から金属学を研究しているリーメたちを連れて行けば大丈夫だ。
「クズ兄様、私も行きます」
「モルもご一緒します」
「サリも、お世話したいです」
妹たちは、まだ愚図っている。
「ユキナは領地の管理があるだろう?」
ユキナは政治と財政に欠かせない人材になってきた。
特に巫女的な才能も重要である。
交渉能力も高いのだが、外交方面は高飛車的な態度が多発するので任せられない。
王女様だからかな?
「モルは越の守りに必要だろう?」
モルも、軍事面では『将軍』である。
今は平和だけど、何処の国で何が起こっているかわからない。
波及効果で、他国から難民が流れ込んできて悪さをするかもしれないのだ。
「サリは、邸の管理と食糧の管理と分配を頼むよ。すぐに吉川領から色々と入ってくるから」
領民たちは奴隷の意識が強く、農作物の殆ど(食べる分を除いて)は税金だと思っている。
2割は村で管理させて、軍事演習や土木作業で駆り出された時の費用にしている。
残りの2割が代官の所に集められるが、保存が利くものの殆どは、伯爵邸に送ってこられている。
税が4割は本当は高いのだが、収穫率が高い農業のお陰で、領民は以前よりずっと豊かな暮らしをしている。
5反から7反で1石の農業と、1反で2石の農業の差である。
もっとも、プロの農家なら1反で4石(600キロ!)くらいの収穫がある。
2千年くらい先の話であるが、驚きである。
この裕福さが漁業や商業、工業を育んで、更に領民たちの生活を豊かにしていた。
食品加工技術と保存技術が進んだお陰でもある。
「それより、俺が戻ってくるまで処女でいてくれよ」
「まあ! いきなりクズ発言ですか」
「あ、当たり前じゃないですか」
「我慢できます」
3人は赤くなってモジモジし始めた。
ああ、これがリア充の快感なのか!
(多分、クズの快感でしょうよ)
水を差す奴がいるが、先に進もう。
(これが、噂の放置プレイね)
うるせえぞ! 何処の噂だよ。
「お久しぶりね、領主様」
ぞろぞろと出てきて挨拶する大工たちの後ろから、18歳ぐらいの牛族の女が現れた。
誰? この人。
「もう忘れたの?」
「く、クーリャなのか?」
いや、見た目、別人のように若いからね。
クーリャの娘とかでも信じるからね。
しかも、透けて見える長衣一枚だから、色っぽいよね。
「今回は、ギイは残るって聞いてたけど?」
「ええ、ギイは残るわ」
それって、もの凄く拙い気がするんですが。
「なあに、私が息子たちに会いに行くのがそれほど不都合なの?」
「いや、でも、マハもビクも一緒に佐渡に行くのですが」
それに、息子たちと同年代に見えますよ、奥様。
しかし、クーリャは次婚だったから、マハたちは先妻の子供なんだろうな。
「私も、ついてく」
「それは拙いのではないでしょうか」
「何が拙いの?」
「いや、危険かもしれないし」
「危険なのは領主様も一緒でしょう。戦いなら、私の方が役に立つわ」
そう言えばそうか。
別にクーリャと二人で旅行しようと言うわけじゃないし、意識しすぎだよな。
大体、クーリャにはずっと嫌われていたのだ。
意識すること自体がおかしいし、本人にバレたら笑われるか、軽蔑されるだろう。
突然、右目の視野の一部に好感度メーターが現れた。
名前:クーリャ
種族:牛族
タイプ:純血種
性別:♀
年齢:19(外見)
好感度:85(レッドゾーン)
嘘だよな!
(嘘ですよ。心までは読めないから)
良かったあ。
考えすぎだった。
(本当はそれも嘘かも……)
「何だって!」
「ほら、なに呆けているの。早く行くわよ」
クーリャが俺の手を引いて、伯爵用の馬車に連れ込む。
妹たち3人は呆然としているが、実はクーリャには散々世話になっていて、頭が上がらないのだった。
それとも、若返っているからか。
「出発!」
クーリャは勝手に号令をかけてしまい、馬車は走り出した。
弟子たちの馬車も、不満そうにだが続いてくる。
モルは悔しそうに怒っていたが、ユキナは悔しそうだが珍しく涙目だった。
考えて見れば、ユキナと一緒に行動しないのはこれが初めてである。
そう思うと、後ろ髪を引かれる思いだったが、クーリャが情け容赦なく馬車の横と後ろの障子戸を閉めてしまった。
お陰で、サリの顔までは見れなかった。
それから、クーリャは俺の左隣席からにじり寄ると、左腕を掴んで頭を俺の肩に預けて目を閉じてしまった。
暫く黙っていろという感じがする。
生まれて初めて、人妻にしがみつかれてしまった。
何、この超展開?
一体、どうすれば良いのだろうか?
感触も匂いも凄くいいけど、拙いよね。
(修羅場展開、きたー)
ええっ、どういうことだ?
だが、ナフタの言っている意味はすぐにわかった。
馬車は最高級の6人乗りで、板バネによるショックアブソーバー装備である。
街道は土か草原だが、最近では馬車や荷車が毎日のように通るせいか、揺れは少なくなっている。
馬車の前方の窓は開け放たれていて、そこには御者が二人座っている。
御者の座席が高い位置にあるので、お尻がふたつ見え隠れしている。
二人ともくノ一部隊の精鋭で、小太刀や弓矢や刺又を装備している。
今回の、所謂、警護官である。
しかし、問題は御者ではなく、御者のお尻でもなく、馬車内にいる人物である。
俺とクーリャの向かい側の席には、更に二人の警護官が座っている。
アヤメとカキツバタである。
多分だが。
アヤメとカキツバタは狼族の亜人で、同じ狼族の亜人だった夫と移民してきたのだが、二人ともすぐに未亡人になってしまった。
別に夫がひとりだけの生活はしてこなかったのだから、そのままグループに所属して複数の妻や夫と共に暮らしていけばいいと思うのだが、それは俺の個人的な見解に過ぎないらしい。
共に村に子供を預けて邸に来て、くノ一部隊で修行し、今ではユキナの不見流小太刀の免許皆伝である。
つまり、剣術や武術がまだ未熟なこの世界では、一番強い人たちである。
ただ、俺の記憶ではアヤメは25歳で、カキツバタは23歳ぐらいのはずだった。
次婚で奴隷解放されるような年齢だったはずなのだが、こちらも設定が変更されたのか、別人ではないかと思うほど凄く若く見える。
再び、字幕が流れた。
さっきのグラフ付きのやつである。
名前 アヤメ
種族:狼族亜人
タイプ:未亡人
性別:♀
年齢:17(外見)
好感度:90(レッドゾーン)
名前 カキツバタ
種族:狼族亜人
タイプ:未亡人
性別:♀
年齢:17(外見)
好感度:90(レッドゾーン)
おい、タイプが変わってるぞ!
(修羅場! 修羅場!)
アヤメもカキツバタも、クーリャの世話になっていない。
つうか、初対面か?
狼族は現在の周王国北方の遊牧民で匈国若しくは凶国と呼ばれる、所謂、匈奴である。
もっとも、正式に国はなく、部族ごとに纏まったり争ったりを繰り返し、実際には最強国家なのに経営者が決まらないで分裂している。
圧倒的に強大な部族が現れないと、部族長会議も開催できないのだ。
しかも、良く似た犬族の部族(鮮卑)が国境紛争?で混じり合い、遊牧民として餌場の奪い合いをしている状態である。
しかも、双方共に亜人を侮蔑しているのだが、奴隷として亜人を使いたがる。
それで、狼族の亜人の娘は犬族に攫われ、犬族の亜人の娘は狼族に攫われるという、悪循環というか悲劇的な扱いを受けているらしい。
部族の配下に亜人の部族がいて、身分制度により労働奴隷として財産化され、家畜みたいに沢山持っていると族長の地位が安泰になるのだという。
亜人は放牧の家畜の世話が仕事だが、家畜と同じ財産なのだった。
実は犬族が先に東胡という部族国家を形成していたのだが、北方の狼族が滅ぼした。
その生き残りが烏丸(烏桓)と鮮卑だと言われているが、人間族にとってみればどちらも同じ遊牧民の蛮族で、
『農耕民族にとっては迷惑なだけだ』
と、燕国の代官が言っていたのを思い出した。
彼らは風習として姉妹で兄に嫁ぎ、兄が死ぬとその弟に嫁ぐか、息子に嫁ぐ。
基本は末子相続で、兄たちは次々に独立して一家・一族を形成する。
息子が幼く、一家を形成できない時は叔父に嫁ぐと決まっている。
定住しないので国家を形成することなく、大抵は族長が最高位で暮らしている。
最初に気に入った男(兄だが)に嫁ぐところは、周王国の初婚・次婚システムに似ているが、あくまでも獣人の習慣であり奴隷には適用されない。
遊牧民族では奴隷は死ぬまで奴隷である。
奴隷の部族があるだけである。
周王国では、次婚が気に入った男との生活だが、遊牧民には農奴階級みたいな中間層がないそうで、奴隷の部族が小作みたいなものらしい。
そもそも、奴隷解放が次婚のシステムの核だが、遊牧民というのは、奴隷の解放先がないのである。
小作みたいに畑の一画を分けてもらえるようなことは起こらないのだ。
獣人の部族でも弱ければ吸収合併されるのだから、亜人だけの部族が独立など不可能だろう。
それで、最初から下部組織として奴隷の部族が存在するから、それが農奴とか小作みたいなもので、そんなのが大草原で独立してやっていける訳がなく、いつまでも奴隷なのだ。
勿論、大草原で逃亡しても他の部族に捕まる可能性が高い。
精々、商人のキャラバンと遭遇して、奴隷市で売られるだけである。
ついでに言っておくと、この世界に法律というのはまだないのだ。
周国王の御触れぐらいで、大体が慣習・風習である。
領内では領主が法であり、領主に対しては国王が法である。
法を守らせるのは身分と力である。
満蒙の草原で、族長が嫌がる女を押し倒しても、誰からも罰せられることはない。
妻に軽蔑されるぐらいだろう。
その妻とか嫁とかの婚姻も定めがなく、族長がすべて決めていく。
それで紋章が有効なのだろう。
誰の女とかが決めやすい。
だけど、奴隷は奴隷紋だから、部族の共有財産である。
ある意味で誰のものでもなく、誰もが好きにしていいとも言える。
どんな感じなのかは、想像を絶するので、良くわからない。
ただ、それでも亜人溜まりに向かって逃亡する女たちは後を絶たないという。
普通の人間は、悪いことをすると村長に罰せられる。
村長に逆らえば村八分になり、食っていけなくなるから、普通は素直に処罰を受け入れる。
奴隷なら追放で、女は性奴隷として売られてしまう。
性奴隷は子供を取り上げられてしまうから、女にはつらいことである。
解放されるまで、家族は持てないのだ。
その村長の任命権を持つ領主や代官は、もの凄く偉いと言うことになる。
その代官を任命できる伯爵って、本当は偉いんだよねえ。
尊敬はされていなくてもさ。
でも、最初の嫁ぎ先が兄ではなく叔父って、少女たちにすれば嫌なのかもしれない。
初めてのキスが叔父さんだって人も、何処かにいたような気がするのだが。
ああ、神様! 決して馬鹿にしているわけではありませんよ。
しかし、移民であるアヤメとカキツバタには、越には親族が誰もいないのだった。
そこで、領主(この場合は俺)に判断が委ねられるのだろう。
領主とは、彼女たちにすれば部族長なのだ。
部族長は大抵、父か兄か伯父か叔父なのだから。
簡単に言ってしまえば、一番食うのに困らないところへ嫁ぐと言うことだろう。
(いつまで現実逃避しているのよ?)
ほっとけ! と言いたいところだが、アヤメもカキツバタも凄い目でクーリャを睨み付けている。
そう言えば、クーリャは純血種だったな。
それだけで憎まれるのかもしれない。
しかし、どうすれば良いのだろう?
暫く全員が無言で馬車に揺られている時間が続いたが、ついにアヤメが立ち上がった。
肩当て、肘当て、腰の鞘とベルトを外すと、胸当てとブーツだけの姿になった。
下腹部の奴隷紋が赤く息づいている、と思ったら紋章がない。
処女なのだろうか?
鋭い顔は武人であり、美人ではないのだが精悍で健康的な表情は好印象である。
剥き出しの下半身は、どれだけ褒めても褒めたりないほどである。
子作り適齢期の色っぽさは半端ではない。
結局、何だかわからないまま右は未亡人、左は人妻にしがみつかれ、正面には赤くなって挙動不審に陥っている未亡人妹がいる状態で、直江津村に到着した。
(所謂、モテキでしょうね?)
我慢するだけのモテキなんて、モテキの意味はないだろ!
(我慢する意味はないわね。一応、忠告しておくけれど、ここは一種のギャルゲー世界よ?)
まあ、そんな説明はざっとだけど神様から聞いていた。
しかし、誰も彼もが攻略対象じゃないだろう?
それに、ナフタは味方かどうか判断できなかった。
管理AIと自称しているが、ただの面白がり屋としか思えない。
意地の悪い神様の劣化コピーかも?
(閣下は、目的をお忘れね?)
目的は世界征服だろ。
(それはクリア条件。目的は違うでしょ)
ええと、何だっけ?
(AIに、人間の心を教えること)
そう言えば、そんな話だったなあ。
(自分勝手で、やりたい放題のクズになるんじゃなかった?)
それが神の意志なのだけど、人に嫌われるのはちょっとご遠慮したいのですけど……
それに、嫌われていたら、人材確保ができないからミッションクリアどころではないだろう。
(嫌われないようにすれば、好かれるというわけじゃないわよ。ご存知でしょ?)
まあ、そうだよな。
頑張っても友達はできなかったし、高校デビューも俺なりに努力はしたつもりだったが、悲惨な結果にしかならなかった。
勿論、女の子など誰も話しかけてこなかった。
(では、逆に嫌われる訓練をしましょう。何処まですると嫌われるかは、後々貴重な体験になるわ)
嫌われるのは得意だけど、どうして嫌われるのかわからないから嫌われるんだ。
それに、無理に嫌われる必要は無いんじゃないかな?
(まあまあ、嫌われてからフォローする訓練もできて、一石二鳥じゃない。頑張りましょうー)
うーん、何となく乗せられているような気がする。
だが、クーリャにせよ、アヤメにせよ、カキツバタにせよ、ちょっと異常事態である。
クズらしく振る舞って、嫌われてみようかな?
エッチなことをして嫌われるなら、駄目元だろうか?
少しだけ、心が動いてしまった。
直江津は様変わりしていた。
俺の感覚では昨日まで暮らしていたところなのだが、田舎の漁村みたいだったのに、賑わう市場街に変貌している。
元伯爵邸に馬車が入っていく。
「お待ちしておりました、殿下」
出迎えてくれたのは、吉川の長男、アシである。
行政能力は父親譲りで、間違いなく跡継ぎになるだろう。
流石に物事を良くわきまえていて、俺のふたつの身分の内の上位に敬称をつけるのが礼儀だと知っているのだ。
(伯爵は、閣下でいいのよね?)
王子は殿下が正しいんだよ。
多分、元王子だけどな。
(それは失礼しました。殿下)
実は王子というのも厄介で、継承権がある内はなかなか王子という身分から解放されない。
継承権は王の兄弟、その子息ということになっている。
目上にはいかない。
単純に、王よりも年上に継承権はいかないと思ってくれればいいと思う。
大海叔父からすれば、兄であった葛城王の息子たちは、継承権の第2グループである。
勿論、大海の息子たちが第1グループである。
大海叔父に男子の跡継ぎがいなくなれば、第2グループの王子を娘の婿にして跡継ぎとすることも可能であるが、まず、あり得ないことである。
王子の継承権を外すには公爵にするか、または領地を分けて分家の王にするしかない。
冊封ではあるが、王を名乗れる。
長江南岸の更に奥には大呉国があるが、昔の王子が冊封を受けた領地である。
燕国も、ひょっとしたら血筋としては王の家系だったのかもしれない。
だが、分ける領地がなければ、適当な役職を与えて宮殿で飼い殺しである。
大貴族に婿入りという手もあるが、跡継ぎがいなくなる貴族はやはり少ない。
後は、殺すか追放するかだろうか。
俺が伯爵なのは身分ではなく、仕事として与えられた役職である。
飼い殺しと追放の中間だろうか?
成功すれば、伯爵領を公爵領にすればいいのだ。
問題なければ、倭王でも構わないと思っているだろう。
どうせ、その前に野垂れ死に、とは思っているだろうが。
まあ、匈奴王に任命されて、任地で確実に殺されるよりはマシだったと思っている。
ちなみに、俺の兄であった大友王子以下1名は謀反人として父上と一緒に処刑されている。
三男の『多湧の王子』は逃亡して行方不明であり、残ったのは四男の『葛の王子』である。
ちょっと日本史に似ているのは神様の趣味なのだろう。
どうせ、日本語を共通語にするのだからという考えが丸わかりである。
王朝ロマンとかが好きだったのかもしれない。
まあ、俺は葛の王子に憑依したってところである。
本当に日本史なら、大海叔父には鸕野讚良という凄い妻(俺の姉妹になる)が現れて、後の歴史に影響を残すはずなのだが、今のところ現れてはいない。
やっぱり違うのだろう。
「出迎え、ありがとう。吉川は元気かい?」
「はい。忙しい平和が何よりとか言ってました」
吉川は本当に優秀で勤勉であり、信用もできる。
何で、難民だったのだろうか?
父上(葛城王)の下で官吏をしていて、失脚したなんてオチは嫌だけどな。
(惜しい。妻のマイが多湧の王子の乳母でしたー)
本当に?
すると、吉川の息子たちは兄上の乳兄弟ってことかな。
(乳兄弟の概念がないし、20年近くも前の話だから関係無いでしょうね。飢饉で逃散した村など幾らでもありますよ、殿下)
俺のフリーズ時間はナフタのせいで、以前より悪化しているのだろう。
だが、アシは苛立つことなく待ってくれている。
やはり、父親譲りの人格者なのだった。
そもそも、くっついてきているクーリャについても何も言及しないのだから、いい人なのだろう。
「アヤメ、馬を替えておいてくれないか」
「今日中に柏崎に行く予定ですか?」
本当はその予定だったが、直江津が様変わりしているし、アシが案内したそうなので変更するか。
(そうしましょうよ)
大工たちも見物したそうだしな。
「直江津で一泊しようか。夜まで自由行動にしよう。警護官もね」
不満そうなのはアヤメだけで、大工も御者も嬉しそうだった。
クーリャもだ。
一泊は、拙かっただろうか?
15へ




