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13 紋章消失

 13 紋章消失




 エステルに会えるまで粘ろうとしたのだが、俺の意識がそれより先に閉じてしまった。

 エステルはすべての体験を事後統合し、追体験したので寝込んでしまったようである。

 そう言えばメンテナンスのことも、事前に色々と口を出していたそうだ。


 美加先生がきて、俺と目を合わさずに色々と調節しながら説明してくれたので、俺は大人しくせざるを得なかった。


 どうやら、3日間眠っていたらしい。


 恐ろしく感じていた悦子先生には『エステル会いたい』と散々ごねたのに、冷たい感じだが優しい美加先生には、恥ずかしくてごねることができなかった。


 不思議な気分だった。


 しかし、メンテナンスは大層な時間がかかる割に、俺の面会時間は限られているようだった。

 一回に2時間ほどしか意識は保てないのだが、メンテナンスはこの後2日ほどかかるらしい。

 六日ほどのメンテで、起きていられるのは4時間か。


 落ち込んでいるだけでは何も得られないので、悦子先生から情報を収集することにした。

 何故か彼女はいつも傍らにいて端末を叩いている。

 かなり忙しいと思うのだが?


 エステルも現れないから、ほかにやることなどないだろう。


 あっちの世界のことで、悦子先生には譲れない部分があるが、エステルは幾つかのパートを受託して処理しているとのことである。

 まあ、今の俺にはあっちの世界の方が重要な気がするから、エステルが係わってくれた方が好都合だろう。

 きっと、俺にとって都合がいいように改善してくれるはずだった。


 そう願っておこう。


 悦子先生は、難しい作業が終わって流れ作業になると、おしゃべりしながらでもメンテナンスができるようになる。

 AIの処理作業を見守るだけだからだろう。

 これは俺にとっては好都合だった。


「朝鮮半島から渡る先が九州ではなく、どうして能登半島なんでしょう?」

「そ、それは日本をコピペする時に、す、少しだけずれたからよ」

「どれくらいですか?」

「能登が朝鮮の南南東?」

「対馬とかは?」

「えーと、ないわね」

「ええっ?」

「仕方がないでしょ、日本の輪郭だけ切り取ったから、細かいところまで入らなかったのよ」


 どうも、悦子先生の地理的感覚はおかしいような気がする。

 致命的なミスが見つかる前に、ちょっとおねだりして、ディスプレイ上で地図を見せてもらうことにした。


 結論から言うと、日本地図全体はおかしくないのだが、位置がおかしかった。

 日本列島全体が、ズレて貼り付けてあるのだ。


 北海道はかなりウラジオストックに近かったし、九州は東シナ海上にあり、上海や杭州、台湾にずいぶんと近かった。

 飛行機なら福岡ー大阪より福岡ー上海の方が近い感じだ。

 沖縄はあったが九州の真南で、奄美大島に見えるし。


 いや、違うな。

 コピペで沖縄あたりが九州に上書きされて消えたのだ。


 沖縄の各諸島に見えるのは、奄美大島とか種子島だろうと思う。

 九州と台湾が斜めに並んでいるかのようで、もう少し近かったら日本列島のひとつに見えてもおかしくないかもしれない。


 樺太など、千切れて二つになっている。

 対馬どころか、済州島や五島列島もない。

 流石に佐渡島さどがしまは忘れなかったようだが、伊豆諸島が取り残されていて、千葉県の房総沖にあるようだ。

 ざっくりと日本列島を海ごと切り取り、ざっくりと貼り付けたのが良くわかる。


 確かにこの世界なら、朝鮮半島から能登に向かうのが正しい感じだ。

 これが一番近いのである。

 もっとも、上海から九州に渡るのも簡単そうだ。

 潮流がきついかもしれないが。


「日本海、狭っ!」

「た、たいして違わないでしょ!」


 まるで日本を知らない人が、日本の輪郭を切り取って貼り付けたようだった。

 太平洋が少し広がったが、多分、日本人以外は気にかけないだろう。


 しかし、世界地図で『福笑い』をする人がいるとは思わなかった。


「それでも、日本以外はおかしくはないですね。少しだけ単純化してあるようですが」

「フリーソフトでね。極東が湾曲してたので、日本地図だけ別の地図から持ってきて貼り付けたのよ。な、なんか文句でもあるの、クズ!」


 ディスプレイのアイコンを視線で操作しプロパティ表示すると、『縄文後期の日本』とコピー元のデータが現れ、世界の方は『紀元前2千年世界』と表示され、別のデータを繋げたことがわかった。

 きっと、日本列島がかなり変だったのだろう。


 それからも悦子先生は真っ赤になって、何か怒鳴っていたが、いつもより怖くはなかった。

 少しだけ、対人恐怖症が良くなっているのか、悦子先生に慣れてきたのかはわからなかった。


 そう言えば、ずいぶんと会話に慣れてきた。

 この状況では、二人の先生方しか話し相手がいないのだから仕方がないし、エステルと会えたとしても二人きりにはなれないのだから、慣れた方がいいに決まっている。

 それに、一応、先生方は命の恩人なのだ。


「あのぅ、未来央さん」


 部屋の入り口から、家政婦のおばさんが入ってきた。

 照子さんだっけ?

 この人は叔父の連れ合いの妹だから他人と言えば他人だが、まあ、叔母さんに近いのだろう。

 正確には金を払って雇っているのだし、更に他人なのだが、恩人の先生方の生活面のサポートまでしてくれているのだから、あまりに素っ気ない態度も取れないか。

 悦子先生が怒鳴るだろうし、美加先生の気分も害するだろう。

 今後は、叔母として対応しようか。

 しかし、俺はやはりコミュ障なのだった。


「ああ、その」

「ええっ、いやぁー」


 叔母さんもコミュ障だったっけ?

 顔を赤くして叫ぶと、飛び出して行ってしまった。


 何だったんだろう?


 そう言えば、あの人の年は幾つなんだろう。

 精神年齢が15歳の俺は、大人の女性はみんな『おばさん』と認識してきたが、自分よりずっと年下の先生たちに接するようになって認識を改めた。

 彼女たちにすれば、俺は40代のおっさんなのだから、俺も少女とおばさんとお婆さん以外のカテゴリを意識した方がいいだろう。


 ああ、15歳でいられる向こうの世界は何と心地良いのだろう。

 15歳でも、メタボでハゲだが、向こうではそれでいじめられたりしないし。


 美加先生が赤い顔をして、俺を覆っている治療器の下の方をバスタオルで隠した。

 感覚はなかったが、下半身の辺りだった。


 ひょっとして、俺も下半身は丸出しなの?

 紋章などないよね?


 それは恐ろしい事実なので、流石に美加先生に確認することはできなかった。

 出ないはずの冷や汗が出て、ないはずの胃の腑が痛んだ。


 そう言えば、腎臓は片方で両方のクローンが作れるから、程度の良い方は使い続けてるのだ。

 となれば、下の世話は必要なのか?

 当たり前のことに気づかなかった。

 下半身も治療器の内部にあると思っていたのだ。

 まあ、管か何かは入れられているのだろうけど。


 特殊な排泄物とかは?

 向こうで出すとこちらでも出るとか?

 そもそも、生殖器関係は臓器なのだろうか?

 子宮は臓器のような気がするけど、男のモノはどうなんだろうか?


 いや、恐ろしいから考えるのはやめておこう。

 どうせ、こちらの世界では使い道などないのだから。

 トイレ以外ではな。

 うん、ちょっと寂しいかな。


 まあ、下半身には感覚がないし、専属の医師がついているのだから任せておこう。

 とは言え、暫くは恥ずかしくて専属の医師みかせんせいの顔を見れそうになかった。

 そして、俺が戸惑っている間に美加先生は、廊下に出て行ってしまった。

 ちょっと、泣いてもいいでしょうか?


「み、未来央さん。娘を助けてくれるそうで、ありがとうございます」


 暫くすると家政婦の叔母さんが戻ってきて、入り口で頭を下げながら早口で、そんなことを言うと、そそくさと出て行ってしまった。

 嵐、いや、つむじ風のようである。


「まあ、その、上手くいけば。いや、助けるのは美加先生だから、そっちに」


 俺も、キマリが悪いのかバツが悪いのか、上手くしゃべれなかったが、叔母さんの背中にそれだけを投げかけた。

 殆ど廊下に向かって話したようなものだったが、最低限のことは伝わっただろう、きっと。

 叔母さんは、廊下の外に追いかけて行った美加先生と話しているようだった。

 聞き取れないくらいの声がボソボソと聞こえてくる。


 ふたりの仲が良さそうなので、ホッとしたと言うのが正直な気持ちである。

 身内の女性に下半身を晒すのと、身内ではない女性に下半身を晒すのとは、一体どちらが恥ずかしいのだろうか?


 俺が動揺しながらも未練がましくディスプレイで日本列島を探っていると、悦子先生が気づいて消去してしまった。

 視線コマンドだけでは、あまり情報も引き出せなかった。


 ただ、日本海(えち海)の潮流がわかった。

 北海道とウラジオストックの間に千切れた樺太の一部が島のように取り残されていて、その島の南側から太平洋側の冷たい海水が流れ込んで日本海が温かくならないようにしている。

 これは佐渡島などの倭国側を流れて能登半島沿いを北上して、更に朝鮮半島東岸を北上してウラジオストックに戻っていく。

 そして、今度は樺太の北側から太平洋に流れ出すようだ。

 しかし、南側から冷たい海水が流入して来るのは何処かが変だと思っていたら、何年かに一度は逆転するらしい。

 その時は日本海全体が更に冷え込み、冷害が起こる。

 但し、その時は北海オホーツクの魚が日本海に大量流入してくるようだ。


 一方で、台湾と大陸の間と、台湾と九州の隙間は常に一定の潮流が見られるが、昼と夜には流れが逆転するらしい。

 陸風と海風みたいである。

 でも、毎日流入流出があっても、すべての帳尻が合う訳ではないので、時々、大潮が起こり、東シナ海全体と太平洋側の水量を調整するようだ。

 その時には、船舶は航行禁止にした方が良さそうだったが、いつ起こるのかはわからない。

 朝鮮半島と能登半島の間は、その時その時の状態で変わり、予想困難なようである。


 これらを見て取ったディスプレイは最新型の空間投影型であり、部屋の空中であれば何処にでも映像を映し出せる優れものである。

 種明かしをしてしまえばAR空間に投影されているのだ。

 ウェアラブルコンピュータを使用すれば誰にでも見えるが、現実空間には何もないのだ。


 湾曲させれば180度の視界まで映し出せるし、立体映像にもできる。

 制作側が360度立体映像を撮影していれば、視線を巡らせると映像がスライドしていき、真後ろまで観ることが可能である。


 360度映像は需要がないのでコンテンツが殆どないのだが、最近『関ヶ原の戦い』を再現したゲームが発売され、東軍と西軍に挟まれた位置から、臨場感のある戦場を見渡せると評判になっている。

 他には、海中散歩と月面散歩のコンテンツぐらいだろうか。

 まあ、今後に期待しようか。

 暫くはゲームどころではないのだが。

 いや、24時間ゲーム三昧なのかも?

(ギャルゲーだし)


 結局、エステルに会えないまま時間切れとなった。

 俺のウェアラブルコンピュータは、地図を見ただけでまったく出番がなかった。

 ちなみに眼鏡型のウェアラブルコンピュータでは、精々120度ぐらいしか見えないのだが、AR空間を使えば何でも投影可能だった。

 それでもVR空間ってもっと凄いのだ。

 温もりとか、匂いとか……




 伯爵邸のベッドで目覚めると、何故か一人きりで寝ていた。

 だが、部屋の感じが変わっている。

 何となく高級な感じである。

 寝具も貴重なシルク素材になっているし、窓が和紙の障子になっている。

 床はニスが塗られているし、机や椅子も漆塗りの高級品である。

 黒漆や赤漆も使われていて、一部は螺鈿になっている。


 そう言えば、松脂からテレビン油の精製に成功したんだっけな。

 書生たちは、なかなか優秀である。

 梶の木から和紙も作り出した。

 養蚕も始めているのだ。


「お目覚めですか、領主様」


 すぐに、見目麗しい女中たちが5人も現れて、青銅器のタライと、お盆の上に陶磁器の水差しと、半透明のガラスのコップ、シルクの手拭いを持ってきた。


 直接、俺の傍にこない連中もレースのカーテンを開けてから障子戸と雨戸を開け、一部は開け放ち、一部は白い障子戸を閉めたまま陽光を映し出して部屋を明るくする。


 それはいいのだが、全員がセーラー服姿であり、それも白い夏服だった。

 ただし、ニーソを穿いているのに下半身にはスカートがなく、丸出しなので心臓に悪い。


 昔、女の子が裸を見られた時に、


 ①股を隠す。

 ②胸を隠す。

 ③ヘソを隠す。


 という、国によっては文化が違うという話を聞いたことがあったが、俺はヘソを隠す国に行ってみたいという感想を持った。

 その後、本気で調べたことはなかったが、ヘソを隠す国の情報が得られたことはなかった。


 デマだったのかもしれない。


 お尻は隠さなくてもいいのだろうか?

 そもそも『覗き』は国によらず、犯罪なのではないだろうか?


 まあ、しかし、ここは変なせかいである。

 考えていても、仕方がないだろう。


 セーラー服は洋上に出るのに使えるという話を知っていて、以前にメアとミアに着せてようと計画して失敗していたので別に驚かない。

 驚かないが、スカートがなくヘソ下からニーソの太股部分までが『絶対領域』なのは、案の定、変だ。

 絶対に失敗である。


 視線が、下半身から離せないじゃないか!


 着物風の短衣を着ていた時には違和感がそれほどなかったが(見慣れてきたのだろうが)、セーラー服はやはり次元が違うのだ。

 いけない感が、半端じゃない。

 現実の女子更衣室内でもあり得ない光景だし、男子の妄想だとしてもこれほどエロくはないだろう。

 全裸より凄いのである。

 凄いのを通り越して、冒涜とでも言うのだろうか?

 棒得かな?

 痛いくらいだ。


 布団から出られないんじゃないか?


 俺は女中の差し出す水(真水だよ)をグラスで飲んで返し、一息ついてからタライで顔を洗った。

 その間も、女中たちの顔を見る暇などはなかった。

 一番重要な部分は、やはり股間なのかもしれない。

 股間を隠す国が、正しい文化を持つと言うべきだろう。


 逆説的にだが、股間を晒す国は、男にとっては夢の国だろうか?


 手と顔を女中たちに丁寧に拭われながら、これは文化ではなく、特権ではないだろうかと疑問に思った。

 ひょっとしたらだが、現代日本の富裕層にも、こんな朝を迎えている人が幾人かいるかもしれない。


 いやいや、それはないだろう。

 多分、封建制だか、絶対王権だかが存在しないとあり得ないと思う。

 きっと、身分制度が必要なのだ。

 庶民だったら、妻や恋人ですらこんなことはやってくれないのではないだろうか。

 ええっ、やってくれる人がいるって?

 しかも美人?

 そして、ロリ?

 まあまあ、妄想はほどほどにしておこうね。

(クズのくせに上から目線?)


 そんなことを考えながら顔を拭ってもらっていると、別の女中たちによって布団がめくられ、俺の敏感な、元気な部分が晒され拭われていく。

 俺は全裸で寝ていたのだった。


「ひぇ!」


「す、すみません、痛かったですか?」

「私は、は、初めてなものですから……」


 赤い顔をして涙目の少女たちに、そんなことを言われたら、何て答えればいいのだろうか?

 しかも、先っぽをフキフキされながらである。


「ももういいいかから」


 俺はそう言って廊下に飛び出し、トイレに飛び込んだ。

 しかし、トイレは広いだけの和式であり、床に穴が空いただけのような所で、元気なものを抱えて排泄するのは困難だった。


 今度、洋式トイレを作ってもらおう。

 でも、これは洋式トイレでも解決しないだろうな。


 無理矢理下を向かせるには、年齢が若すぎたし、先ほどの刺激も大きすぎたようだ。

 俺がトイレで唸っていると、何と、別の女中が三人も入ってきた。


「遅れて申し訳ありません」

「ただ今、準備いたします」

「お着替え、お持ちしました」


 全裸で佇んで呆然としていると、クリッとした瞳の可愛い子が覗き込んできた。


「やはり、朝はこれが必要ですね」


 赤い顔をして恥じらいながら、彼女は陶器製の『しびん』を持ち出してきて、先っぽにあてがおうとした。

 もの凄く恥ずかしそうだが、慣れているという矛盾した感じがした。

 こんな毎日を続けてきたのだろうか?

 きっとそうなのだろう。

 いいえ、記憶にございません。


「さあ、どうぞ」


 彼女はそう言いながら、俺の先っぽ付近を握って誘導した。


 む、無理だからね!


 俺は三人を突き飛ばすかのようにトイレから飛び出すと部屋に戻ったが、部屋には先ほどの5人が整列して待っていたので、更に奇声を発して廊下の先を走り抜けていった。

 そこには優雅に紅茶らしきものを飲んでいる、ユキナとモルとサリがいた。

 三人は驚いて立ち上がり、全裸の俺の一点を見つめてから顔を赤らめて、身を捩った。

 ちなみに俺は全裸だが、三人は重ね着の短衣である。

 俺の勝ちだろうか?


「まあっ、クズ兄様ったら」

「もうっ、お兄様は」

「あ、朝から、そんなにして」


 ち、違うからね。

 朝だからね。

 いや、そうじゃないからね。


 とは言え、世界は何かがおかしかった。

 何がおかしいのかは、その後、女中20人に囲まれる中、ユキナとモルとサリの3人に服を着せられながら考えた。


 ユキナはひもトランクスを何度も直しながら、


「こんな位置でいいのかしら」


 と、頬を赤く染めながら嬉しそうに言っていた。

 後ろからモルがシャツを着せてくれていて、Tシャツなんだから着こなしなど気にしなくていいのに、必要以上に弄くり回し、ズボンを穿きやすいようにして待っているサリをイライラさせていた。


 しかし、3人ともどう見ても13歳にしか見えなかった。

 モルなど、出会った時よりも若いのだ。


 これは絶対に変である。


 周囲で待機して見守っている女中たちも、同じように若いし、猿族の亜人だったが以前よりもずっと美しい。

 田舎娘っぽさがなくなっていて、品が良くなってもいる。


 これは設定を弄くった神様の仕業に違いない。

 世界は大きく変わってしまったのかもしれないのである。


 しかし、つい、セーラー服連中の下半身を見渡してしまった。

 実に豪華な景色である。

 下半身がズキリとする。


「もう、私の前で、兄様はクズですね……」


 ユキナが俯いてそんなことをいうので、更にズキリとしてしまった。

 油断である。


 どすっ!


「ううぅ…… 酷いよ、ユキナ」

「酷いのは兄様の方です!」

「じゃ、ユキナだけガン見していい」

「もう、クズなんだから……」


 とは言え、嫌そうではない。

 流石は元祖『妹』である。


 でも、そこで気づいた。

 ユキナは銀色の髪の毛をロングのストレートにしている。

 モルは褐色の髪をツインテールにしている。

 サリは肩までの髪をリボンで束ねている。


 何てことだ。

 女中たちも全員がツインテールである。

 年齢にふさわしい髪型で、以前よりもずっとお洒落で可愛い。

 そして、誰も紋章を持ってなかった。

 女中たちは処女かもしれないが、ユキナもモルもサリも、俺の紋章がなかった。


「ユキナ、まっすぐに立ってくれ!」

「は、はいぃ!」


 ユキナを気をつけさせると、俺はしゃがんでユキナの股間を観察した。


「く、クズ兄様。そんなにあからさまに見られると、は、恥ずかしいですぅ」


 ユキナは真っ赤になり涙目だった。

 両手で股間を隠そうともする。

 今まで、こんなことはなかった。

 どう考えても、羞恥心である。


 この場にいる全員が股間を隠そうとして、モジモジしている。


 亜人の髪が伸びたことより、ひとりひとりが美しく見えることより、若返ったことより、これが一番の驚きだった。


 そう言えば、処女設定をするとか何とか、何処かで聞いたような気がする。

 羞恥心付きなのだろうか?

 嬉しいけど、嬉しい誤算である。

 しかし、どんな条件で処女にしたのだろう?

 女全員が処女とかないだろうな。

 しかし、若返っている者は処女になったと思って間違いなさそうだ。


 その後、着付けが終わり、朝食となった。

 俺とユキナとモルとサリがひとつのテーブルで食べる間、女中たちが給仕をしてくれている。


 良く晴れているので、食堂の障子が開け放たれ、中庭のような場所には田んぼが広がり、そこでは田んぼの草取りが行われていた。

 作業しているのは女だけだが、猿人だけではなく、羊人や鹿人もいる。

 作業中のお尻では見分けがつかないけれど。


 そうか、尻尾がないんだ!


 元々、猿人には尻尾がなかったので気づかなかったが、ユキナやモルにもないのは、設定が変わったからだ。

 どうやら、弄くったのは神様だけではないようだった。


 しかし、変わった所もあるが、変わっていないこともあるようだった。

 基本的なことは確認しないといけないだろう。

 いけないことは、夜まで待たねばならない。

 理性が持てばだが。


 色即是空、空即是色。

 怨敵退散、淫魔覆滅。

 六根清浄、六方処女。

 まかはんにゃはらみたー。

 またおんにゃはらませたー。


 いかんな。

 遺憾であります。


「ユキナ、越の村の数は?」

「はい、今季で吉川領が80、越中の直領が38になります」


 村ひとつは大体100家族だから、人口は500人前後だろう。

 すると、越の領民は5万人を超えている。

 豊かになってきているからだろう。

 これなら大規模土木工事に、千人や二千人は動員できそうだ。


「相変わらず、周王国から難民が来ているのかな?」

「はい、毎季一度か二度は、周国と燕国から集まってきます」

「しかし、みんな亜人(奴隷)なんだろう?」

「はい、大人ひとり120銭で買い取っています」

「うん、良くやってくれたね」

「はい、クズ兄様」


 ユキナは輝くような笑顔を見せてくれた。

 本当に、ユキナ以上の美人は見たことがない。

 いや、今は美人になるだろうと言った感じである。

 以前よりも、性格が柔らかくなったような気がする。


 ちなみに120銭は米15キロである。

 同じ重さなら麦でも取引される。

 それは、ひとりが1季(30日)に必要とする食料と同じ量だった。

 最近はスルメが人気で、燕国は特にスルメと取引したがるが、流石に鉄器までは出してこない。


 それにしても、亜人はかなり安い。

 今のところは難民や余った奴隷だからなのだ。

 燕国の北東部は人種が錯綜していて、奴隷が数多くいる。

 特に労働力にならない亜人の少女たちは、半値の60銭で売られているのだ。


 現代の日本では、考えられない価値基準である。

 ロリ奴隷が間違いなく一番の高値だろう。

 男の奴隷など、需要があるとは思えない。


 多分、すぐに値上がりするだろう。

 越では奴隷を買って、領民にしているのだ。

 商売になると思えば、きっと奴隷商人が現れる。

 そして、裏には貴族が必ず絡んでいるだろう。

 逆らえない奴隷や難民、流民などを集めて、高値で売り込んでくるだろう。

 だが、奴隷の流出は、結局のところ貴族の首を絞めることになるのだ。

 周王国では100畝(約46反、越では表高46石だが、周では良くて35石)が、一家5人の農地であり、例え半分が休耕でも、労働奴隷の手が必要なのである。


「モル、訓練は続けているのかい?」

「はい、お兄様。くノ一部隊は精鋭200になりました。訓練兵と予備役も200以上になります。村人の男たちを時々集めては模擬戦をしていますから、双方の実力は上がっています」

「騎馬はどうかな?」

「騎馬100は、いつでも揃えられます」

「そうか、倭国内なら心配することないな」

「吉川が言うには、越前付近に関西きんき人が侵入してきて様子を窺っているようです」

「倭王が来ているのかい?」

「今のところ、飢えた農奴と言った感じです」

「それなら、放っておこうよ」

「馬車で物売りを送って偵察を続けさせます」

「そうだね。そうしようか」

「はい、お兄様」


 13歳のモルは、凄く可愛い。

 発展途上の感じがする。

 食べちゃうのが、もったいない感じである。

 それじゃ、騎馬兵なんかさせられないじゃないか!

 モルの処女は大丈夫なのか?


 しまった!

 処女に関する知識が全然ないぞ。

 あっちから仕入れてくるんだった。

 どこから?

 そう言えば、あっちでも童貞だった。

 いや、処女の知識と童貞は関係無いだろう。

 そうだったっけ?

 キスはエンディングだったよな?

 それから先って、やはり記憶にないぞ。


「でも、黒部って思ったより良いところですね」

「サリが一番反対してたのに」

「兄様のことだから、越中の女目当てだと思ってたのだけど」

「吉川領民よりものんびりとしている気がするわ」

「土地柄なんですねえ」


 女中たちが目玉焼きとベーコンを炒めたものを運んできた。

 俺がフリーズしているからか、妹たちは和気藹々と言うのか、楽しそうにおしゃべりしながら朝食を始めている。

 焼きたてのパン(スコーンぽい)とミルクティーまで出てくる。

 サラダは、シロナ(白菜の原種)とアルファルファに柑橘類のアルコール漬けを合わせたものだが、先日開発した?マヨネーズがついている。

 大豆のスープも出されて、ちょっと現代的である。

 俺はフリーズしながらも、行ったり来たりする女中たちのお尻を眺めていた。


 しかしだ、妹たちの会話を聞きながら少し思い出してきた。

 俺は直江津を離れて、黒部に首府を移転させたのだ。

 ギイに頼んで柏崎に港を作ってもらい、そこでマハヴィーたちが帆船を何隻か造って試験している。

 直江津が、周国にも燕国にも知れ渡ってしまい、貿易港と漁港として繁栄し始めているからだ。

 そんなところで、帆船と佐渡の金を見せびらかすわけにいかないのである。


 とは言え、こちらはまだ金山をものにしたわけではないのだった。


「お兄様、すぐに佐渡に行かれるのでしょう? 警護はモルにお任せくださいね」

「ずるいわよ、モル。クズ兄様にはユキナが必要なのよ」

「領主様、サリのお世話が必要ではありませんか?」


 うーん、俺としては目玉焼きはケチャップで食べたいのだが、この世界にはトマトがないのだ。

 そう言えば、コーンもトマトもカボチャも南米原産だったような気がする。

 サツマイモもジャガイモもそうだったかな?

 ヒマワリ、イチゴ、唐辛子、ピーマン、落花生、カカオ、パイナップルなどもそうだった気がする。

 そうしたものがあれば、食生活が豊かになることは確かだが、芋類は戦略物資にもなり得る。

 特に周国より北方の遊牧民の国でも農業が振興する可能性があり、周国を圧迫することだろう。


「しかしなあ、アメリカ大陸なんだよな」

「?」

「?」

「?」


 妹たち3人が、一瞬、不思議そうな顔をするが、いつもの独り言だろうと食事に戻る。

 マーマレードを出されて喜んでいる。


(なら、一足先にアメリカ大陸の発見といきましょうか?)


 突然、視界の中に字幕が現れた。

 スーパーインポーズという奴である。


「ななっ!」


(初めまして、閣下。私、亜人管理AIに選ばれた、ナフタレンと申します。ナフタとお呼びくださいませ)


「お兄様、どうかしましたか?」

「いつもより、呆けてませんか?」

「顔色が悪いです」


 少しだけ、思い出した。

 妹たちがずっと美しく見えるのは、グラフィックエンジンを改装したからだ。

 より、現実に近くなったのである。

 そして、妹たちが処女になったのは、設定を弄ったからだ。


 しかし、管理AIが話しかけてくるって、そんな話まであっただろうか?


 味方だとは限らないだろう?


 俺には、そんな考えが浮かび上がったが、敵になる理由は思い浮かばなかった。




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