第7話
彼女たちは僕に恋をしている。
そう書く。
家では礼儀正しく振る舞う。
そう書く。
親父やお袋に好かれる。
そう書く。
夕食には見たこともないご馳走が並ぶ。
そう書く。
スザンヌたちは夜、妹の部屋で寝る。
そう書く。
何も問題は起きない。
だって僕がそう書くのだから。
そして最後の日。
二人は少し寂しそうな顔でこう言う。
「私たち、お兄さんが好きなの」
妹は驚く。
弟は口を開けたまま固まる。
お袋は泣く。
親父は無言で頷く。
そして二人は名残惜しそうに旅立っていく。
完璧だ。
完璧すぎる。
僕の小説のファンだったことにしておけば、家族だって僕を見る目が変わるだろう。
今まで散々馬鹿にされてきた僕の小説家人生も少しは報われる。
その後は東京へ行かせる。
飛行機に乗せる。
そしてイワン民主主義国へ帰国。
すべて解決。
「バッチリじゃないか」
僕は満足そうに頷いた。
こんなに上手くいく計画を思い付くなんて、やはり僕は天才なのかもしれない。
熱海で出会った時はどうなることかと思ったが、終わってみれば大した問題ではなかった。
そう。
確かにそれ自体は上手くいったのだ。
本当に驚くほど上手くいった。
だが、その時の僕はまだ気付いていなかった。
もっと大きな問題が残っていることに。
そして、その問題こそが、この騒動の本当の始まりだったのである。
スザンヌとマリアは、上機嫌のまま母国へ帰っていった。
見送りの時は少し寂しかったが、それ以上に達成感の方が大きかった。
何しろ、僕は自分の小説で現実を動かしたのだ。
あの二人は確かに僕の書いた通りに行動し、そして帰っていった。
その後の我が家は大騒ぎだった。
父はすっかり僕を見直したらしい。
「お前が本当に小説家になるなら、俺は応援するぞ」
そう言ってくれた。
今まで散々「そんなもので飯は食えん」と言っていた父である。
それが全面協力である。
人間、変わるものだ。
母はもっとすごかった。
近所のお母さん連中に会うたびに自慢していた。
「うちの息子のファンが外国から来たのよ」
何度聞いたか分からない。
弟は弟で学校に写真を持って行ったらしい。
クラス中の男子に見せびらかし、
「兄貴のファンなんだぜ」
と得意顔だった。
そして妹。
これが一番ひどい。
いつの間にか僕のことを「先生」と呼ぶようになっていた。
しかも彼女は直接聞いている。
スザンヌとマリアが、
「お兄さんが好きなの」
と言ったのを。
そのため今では完全に尊敬の眼差しで僕を見る。
「先生、私もいつかあの国へ行きたい」
などと言っている。
はははっ。
架空の国なんだが。
そんなことは言えない。
とにかく気分は最高だった。
人生でこんなに気持ちの良い思いをしたことがない。
そして――。
また悪い考えが顔を出していた。
僕は思わずニヤリと笑った。
もし小説の通りになるなら。
もしかして。
いや、きっと。
そういうことなんじゃないだろうか。




