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第8話

休み明けの学校。




 僕は鼻歌でも歌い出しそうな気分で登校した。




 すると。




「あっ、いたいた」




 声がした。




 振り向く。




 令奈ちゃんだった。




 僕の憧れの人。




 ふふふ。




 ついにこの時が来たか。




 今までは自信がなくて言えなかった。




 でも今は違う。




 スザンヌたちで証明された。




 小説は現実になる。




 だったら――。




「令奈ちゃん!」




「あっ、小宮くん」




 令奈ちゃんは笑顔を向けた。




「聞いたわよ。小説書いてるんだって? すごいね」




「いやあ、それほどでも」




 僕は少し照れた。




 だが心の中では勝利を確信していた。




 そして思い切って言った。




「令奈ちゃん。僕と付き合ってください」




 一瞬。




 令奈ちゃんは困ったような顔をした。




 ふふふ。




 照れているのかな。




 可愛いなあ。




 そんなことを考えていた。




 次の瞬間までは。




「あのね」




 令奈ちゃんは申し訳なさそうに言った。




「私、好きな人がいるの」




 僕の笑顔が固まる。




「あっ、授業始まるから。またね」




 そう言って彼女は走っていった。




 僕はその場に立ち尽くした。




「えっ?」




 頭が真っ白になる。




「えっ?」




 もう一度言った。




「えええっ?」




 何で?




 何で小説通りにならないんだ?




 スザンヌたちは全部その通りだったじゃないか。




 熱海も。




 横浜も。




 東京も。




 全部。




 なのに何で?




 僕は完全にパニックになっていた。




 その時だった。




「小宮くん!」




 後ろから声がした。




 嫌な予感がした。




 恐る恐る振り返る。




 三人の女子生徒が立っていた。




 腕を組み、こちらを睨んでいる。




 どこかで見た光景だった。




「私たちのこと覚えてるわよね?」




「はい?」




「服部早苗」




「恵里香」




「白石舞」




 三人が順番に名乗った。




 そして僕は思い出した。




「あっ……」




 血の気が引く。




「ああーっ!」




 夢の中の女子高生たちだった。




 いや。




 小説の中の女子高生たちだ。




 三人は一歩前へ出た。




「思い出した?」




「さて」




 三人同時に言う。




「どうしてくれるの?」




「ど、どうしてくれるって……」




 僕は後ずさった。




「君たち、この学校の生徒だよね?」




「そうよ」




 白石舞が頷いた。




「でも私たちの家族は?」




 服部早苗が言う。




「家はどこ?」




 恵里香が続ける。




「あなた、私たちのこと何も設定してないじゃない」




 三人の目が光る。




「どうしてくれるのよ!」




「まじかあ……」




 僕は頭を抱えた。




 そんなところまで考えてなかった。




 知らないよ。




 そんなの。




「何ぶつぶつ言ってるの?」




「早く何とかしてよ!」




 じりじりと三人が迫ってくる。




 スザンヌたちは帰せばよかった。




 でもこの三人は違う。




 人生そのものが設定されていない。




 どうすればいいんだ。




 分かるわけがない。




 そして僕は本能的に行動した。




 逃げた。




「あっ!」




「ちょっと!」




「待ちなさいよ!」




 三人が追いかけてくる。




 僕は全力で走った。




「わああああっ!」




 校庭中に僕の声が響く。




「誰か助けてくれぇぇぇーっ!」




 その日、小宮和人は人生で一番速く走った。




 だが三人の女子高生は、どこまでも追いかけてきた。




 完



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