第3話
「何笑ってるのよ!」
金髪の女の子が怒鳴った。
「スザンヌよ! スザンヌ! 忘れたの!?」
「……え?」
「自分で作ったキャラでしょ!」
完全に怒っている。
後ろの女の子なんか腕を組んで、ものすごい目で睨んでいた。
僕は一瞬、思考が止まった。
スザンヌ。
温泉。
自分が作ったキャラ。
その単語が頭の中でゆっくり繋がっていく。
そして――。
「あっ……!」
「思い出した!?」
いや、待て。
待て待て待て。
そんなわけない。
あれは小説だ。
しかも、かなりでたらめな。
現実じゃない。
絶対誰かが僕をからかっている。
だが、スザンヌと呼ばれた女の子は、ずんずん僕に近づいてきた。
浴衣姿だった。
しかも――。
近い。
というか、色々と近い。
僕は一瞬で目のやり場に困った。
(いやいやいや……!)
頭の中が真っ白になる。
こんなグラマーな設定にした覚えはない。
絶対おかしい。
絶対何かがおかしい。
なのに、スザンヌは怒った顔のまま、じっと僕を見つめていた。
――絶対、信じない。
僕はスザンヌたちを見ながら、必死に頭を回転させていた。
そんなはずがない。
小説のキャラクターが現実に出てくるなんて、そんな漫画みたいなことがあるわけない。
絶対に誰かが仕組んでいる。
問題は、その犯人が誰かだ。
僕は腕を組み、真剣に考え込んだ。
(待てよ……)
まず、この小説の内容を知っている人間は限られている。
というか、かなり少ない。
小西ゆき。
そして――。
「あと三人……」
僕はぶつぶつ呟いた。
「え?」
スザンヌが怪訝そうな顔をする。
だが僕は構わず推理を続けた。
(あっ……沢木か!?)
真っ先に顔が浮かんだ。
沢木。
いつもヘラヘラしているくせに、絶対裏で何か企んでそうな男。
文化祭の時も、僕の机の中にカエルの置物を仕込んだ前科がある。
しかも妙に行動力がある。
外国人を二人連れてきても不思議じゃない。
「いや、あいつだ……絶対あいつ……」
「さっきから何なのよ」
スザンヌが呆れた顔をする。
だが次の瞬間、僕はハッとした。
(いや待てよ……)
今週、沢木は部活の大会だったはずだ。
確か朝から夜まで拘束されるとか言っていた。
そんな暇があるとは思えない。
じゃあ違う。
なら誰だ。
僕はさらに考え込む。
そして、ある人物の顔が浮かんだ。
「あっ……香川先生!」
「……誰よそれ」
スザンヌが眉をひそめる。
だが僕の中では急激に話が繋がっていった。
絶対あいつだ。
間違いない。
この前、“絶対書けない読書感想文”みたいな宿題を出してきた。
しかも提出したら、
『小宮、お前の感想文は意味が分からん』
とか言いやがった。
その腹いせだ。
絶対そうだ。
あの先生ならやりかねない。
「そもそもあんな宿題出す時点で性格悪いんだよ……」
「ねえ」
「しかも人の小説勝手に読んで……」
「ねえってば!」
スザンヌの声が少し大きくなった。
だが僕はまだ推理を続けていた。
(……いや、待てよ)
香川先生、今日普通に授業あるじゃん。
さすがに学校休んで熱海まで来ないか。
いやでも、あの人ならやる可能性あるな。
でも職員会議とかあるって言ってたし――。
「何をぶつぶつ言ってるのよ!」
突然、スザンヌが一歩前に出た。
近い。
近い近い近い。
僕は思わず後ずさる。
「とにかく、何とかしてよ!」
「いや、何とかって言われても!」
「私たち、本当に困ってるんだから!」
後ろの女の子も、うんうんと頷いている。
その表情は妙に真剣だった。
……演技にしてはリアルすぎる。
いや、でも騙されるな。
最近のドッキリ番組は凝ってるんだ。
多分、今もどこかでカメラマンが笑ってる。
僕はちらりと観葉植物の裏を見た。
……ない。
時計の上を見る。
……ない。
いや、超小型カメラかもしれない。
そう思った瞬間だった。
「あっ」
僕の頭に、ある考えが浮かんだ。
――確かめる方法がある。
彼女たちは、僕の小説で生まれたわけじゃない。
いや、正確には違う。
僕はただ夢を見たのだ。
その夢に出てきた人物を書き留め、それを小説にしただけだった。
だから、もし本当に彼女たちがあの夢の中の存在なら――確認する方法は一つしかない。
僕は腕を組んで不機嫌そうに立っている少女を見た。
スザンヌではない。
もう一人の少女だ。
彼女の名前だけは、小説にするとき変更していた。
夢の中では確かに「マリア」だった。
だが、さすがにそのまま使うのはどうかと思った。
どこかで聞いたことのある神聖な名前だし、読者にも変な先入観を与えそうだった。
だから僕は「メアリー」に変えた。
もし彼女たちが本物なら――夢の中の名前を知っているはずだ。
逆に、小説の中の存在なら「メアリー」と答えるだろう。
僕はごくりと唾を飲み込んだ。
「き、君……名前、何て言うの?」
少女は怪訝そうに眉をひそめた。
「はぁ? 覚えてないの?」
そして呆れたように言った。




