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『双子の交差線』  作者: 鳥藍
第一章 集え、交差点へ
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第二十三・五話 特別な自由

 ?????視点


 空を飛ぶ。翼をはためかせ、太陽の光に紛れ込み、絶対的な自由を腕に抱えて世界を見下ろす。それは、超古代において人の夢のひとつだった。飛行する物体に乗り込むのではなく、人のままで自由に飛びたい。そう願った者たちは、結局地に伏せて終わった。空は自由だ、そう、自由なのだ。


 自由のない空を想像できた者は、どれだけいたのだろうか。巨大な怪鳥に連れ去られ、崖の上で踏み外して、落下の恐怖に呑まれて、散る。そういう体験をした者以外に、空の不自由さを知った者はいただろうか。


 今でこそ、特殊能力で空を飛べる者もいる。だが、特殊能力がなかった時代、超古代に、その身ひとつで空の不自由さに嘆いた者は……。


「地上も空も水中も、結局どこも不自由だものね」


 空を歩く彼女は、独り言をぶつぶつとつぶやきながら、地上を見下ろす。無法者たちが跋扈するバイオの街は、悲惨な状態となっていた。あちこちで破壊が産声を上げ、それらを取り締まるべき免疫たちはたったひとつの巨大な脅威に群がっている。


 彼女は、無法者たちの中でも特に悪質な者に狙いを定め、刃を落とし、斬首した。一連の動作には少しの迷いもなく、彼女の心が一切揺れていないことを示していた。

 彼女がこんなことをやっている理由は、善意だけではない。もちろん、善意もあるのだが、それ以上に大切な理由があった。


「ぐーちゃんが私に直々に! えへ、えへへへ!」

 

 とがった耳を持つ想い人を思い浮かべて、彼女は頬に手を当て、顔を赤らめた。想い人が避難所に入る直前の、時間にして数十秒の会話……とも言えないような命令を反芻して、ふうっと息を吐いた。

 

 彼女が命じられたことは、簡単に言えば街の治安維持だ。空から見回りをして、悪人を見つけたら止める、というものだ。

 命令に従って、彼女はまた一人の胴をふたつにした。命令では、殺せとまでは言われていないのだが……彼女にしてみれば、無法者たちを止めるために地上へ降りるよりも、空から動きを封じるほうが効率的だったのだ。


「ふんふふーん、報酬になでなで……えへへへへ」


 彼女が警備を始めてから、彼女によって重大な怪我を、それも致命傷を負わされた者は、すでに三桁に達しようとしている。

 それだけの人数が殺されれば、それぞれで好き勝手やっている無法者たちでも、異変に気付く。ある者は地下からの攻撃だと叫び、またある者は天罰が下されていると泣き叫ぶ。

 

 空を見た者もいた。だが、昼過ぎ、ちょうど小腹がすいてくるこの時間に、雲ひとつない晴天の下で空色の服を着た彼女を見つけることができる者はいなかった。

 

「ふふふ、ざーこ」


 光のないジト目に色を付け足して、彼女はまた刃を落とす。自由落下する刃、色はもちろん空色。その刃が咲かせるのは、真っ赤な花火だが。


 武器を撫でて、抱きしめる。彼女の想い人に初めて贈られたプレゼント、それが彼女の持つ巨大な武器だった。大きさに反して軽いそれは、保護色に変化し、断頭台につけられているような刃を作り出せるという改造生物だ。


「さて、次は……ん?」


 彼女は立ち上がり、武器を持ち、そして一人の人間に気付いた。

 

 彼は、胸元を押え、よろよろと足を引きずって歩いている。彼は、奇妙だった。彼女は最初、無法者同士の小競り合いで負傷したのかと考えた。彼の近くに幾人かの死体があったからだ。

 だが、奇妙だったのは……彼が、そんなに強そうに見えなかったことだ。上空から見る限りは、武器のひとつも持っていない。がっしりとした体をしているわけでもない。やせ細ってすらいる。


 そして、彼の周囲の死体は、ありえないほどにきれいだった。


「うーん、危険人物? なんかひっかかるなあ」

 

 彼女の中に、ふたつの案が浮かんだ。危険人物として、早めに処理するか。それとも、恩を着せて味方にするか。


 ぐーちゃん——愚者王が聖者を殺すための仲間を集めていることを、彼女は知っていたのだ。


「んー、ど・う・し・よ・う・か・な?」


 上から潰してしまうのが、彼女にとってもっとも安全なのだ。


「でも、個人的に気になるんだよね~」


 何かが違う。


「あの死体、なんか見たことあるんだよね……?」


 違和感がある。だから、確かめに行く。


 方向を変えて、落下していく。方向を変えて、着地する。下向きに蹴り、方向を変えて落下していく。また方向を変えて着地する。それを繰り返し、彼女は自由落下よりも速く落ちていく。ただし、完全には落下しきらない。地上十メートルほどに、音もなく移動した。


「ねえねえ、そこの……」


 彼女が彼に声をかけようとしたとき、彼女は気付いた。背後から向かってくる、鋭い殺意に。

 どうして気付けたのか。簡単な理由だ。

 

 彼女——自由度愚者は、武器を背中にまわし、襲い掛かってきた刃を間一髪で受け止めた。

 

「自由度、死ね!」


「ひさしぶり、由逢ちゃん!」


 殺気に塗れた表情は、由逢のかわいらしさを塗りつぶしていた。

 

 ひさびさの小数話でした。

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