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双子の交差線  作者: 鳥藍
第一章 集え、交差点へ。
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第十四話 約束は言葉だけでいい?


「なあ、凛奈ぁ。今、入れ替わる……入れ替わりをやめる? ことってできるかぁ?」


 夕方。手帳に文字を書き続ける凛奈の部屋を訪れたのは、沢山の道具を抱えた名だった。

 真剣な表情の名に気圧され、一瞬戸惑ったが、結局凛奈は首を振った。


「え、うーん、ちょっと、いや、だいぶ難しいかも……」


「そうかぁ……入れ替わりの、条件とかあるのか?」


「え? それは、犠牲を聞いてるの?」


 凛奈は首を傾げた。

 

「あぁー? そういう判定になるのか? ……できる限りでいい、教えてくれ」


「わかった」


 名が必要とするのなら、必要なのだろう。

 凛奈は、直接の犠牲を避けてうまく言える、そんな言葉を探した。


「私から入れ替わる、元に戻る方法は……入れ替わった場所で、眠ること。それと……」


 情報の天秤が傾く。違う、傾きが是正されていく。そして、別の天秤が無情にも、そして暖かく、傾いていく。

 凛賀の確かな存在に、凛奈は胸を抑えた。

 

「それとぉ?」


「……ごめんね、名さん。こっちは、言いたくない」


 凛奈には、予感があった。

 ――これを言ってしまえば、像を取り返す機会が遠ざかってしまう。


 勿論、聖者たちには聖者たちの目的があるので、像を取り返す作戦が中断されることはないだろう。それは凛奈もわかっていた。

 だが。凛奈自身が、自分自身――体は違うが、凛奈の意識のままで取り返したい。そんな、人を巻き込むわがままが、浮かんでしまった。


 凛奈にとって、今の像はそこまで大事なものではない、はずだ。

 凛奈を止めるのは、凛賀の体にこもった、別の意識なのかもしれない。

 

「……わかったぜ」


「ありがと。それで、どうかしたの?」


 名が頭を掻いた。


「あぁー? 像の捜索、そのためにテメーが必要だからなぁ。……アタシは安全なとこで待機するぜぇ」


「え? あ、そっか」


 凛奈は手をたたいた。拍子に転がったペンを、慌てて追いかける。

 

「それと、テメー、走れるのかぁ?」


「それは……うーん、やってみないと……」


 床とぶつかって折れたペンから、赤いインクが飛び散った。


「……移動は基本、小走りだ。だいぶキツイだろーがぁ? 行けるか?」


「うーん……」


 名から手拭いを受け取って、凛奈は床を掃除する。水っぽいインクは、一瞬で吸い込まれていった。


「無理なら、アタシが行く。黎真の役割が増える分、そして黎真の犠牲の分、成功率は下がっちまうがな!」


「それは、でも」


 凛奈は、真っ赤に染まった手拭いで、凛賀の手を赤く塗りつける。


「あぁ?」


「最悪、足が腐っちゃう……」


 凛奈の懸念、それは。

 移動できない犠牲。歩きを超えた主体的な移動が、どう牙をむくかわからない。

 少なくとも、移動に使った足はボロボロになってしまうだろう。


 弟を取り返すために弟の足を失わせる。そんな決断をするには、凛奈の意志は幼すぎた。


「……っち」


 名の舌打ちに、凛奈は顔をあげた。


「テメー、凛奈! その程度でビビってんなら、行かなくていい、いや、行くな!」


 突然の怒声に、凛奈は目を白黒させた。


「命がけなんだ、今回の作戦はぁ! 向こうが仕掛けてきた以上、そして時間がない以上! 最後は殺し合いしかねーんだよ」


「で、でも」


「テメーは、テメーの()()()心配しろ! 体ぁ? 後でどうにかすりゃいいだろがぁ!」


「でも、この体は凛賀の……」


「そのうっすらした火傷は飾りかぁ?」


 凛賀の瞳が、揺らめいた。

 

「ちげーだろ、テメーの弟が()()()でテメーを守ろうとした証拠じゃねえか!」


 揺らめいたのは、瞳だけだろうか。

 

「……そっ、か。りんが」

 

「テメーは幼児だ、なんでかは知らねぇ。過保護すぎたんだろ、たぶん。そぉろそろ、子供くらいには成れよ」


「ん……」


 名は身を翻した。


「待って」


「あぁ?」


 凛奈は、手についたインクで、手帳に文字をにじませていく。


「これ、本当は、入れ替わるときにポケットいれておきたかったんだけど……名さん、預けても、いい?」


「……んだこれ?」


「私から弟に宛てた手紙、みたいなもの。あと、もう一つ」


 凛奈は深く、息を吸い込んだ。


「私が死にかけたら。すぐに、死体の中に投げ込んでほしい」


「……テメー、それは……」


「お願い、名さん」


「……っちぃ、わかったわかった。黎真と由逢には、アタシから言っとく」


「聖者さんは?」


「アイツはどーせ、何も言わなくてもやるぜぇ?」


「そっかぁ」


「あぁ。明日は、頼むぜぇ?」


「うん、ありがとう。よろしくね」


 フッと鼻を鳴らし、名は廊下を歩いていった。


『はぁ、覚悟決めるの早すぎだろ、アイツ……あー、二度目か』


(聞こえてるよ、名さん。大丈夫。明日、頑張るから)


 凛奈は寝間着に着替え、布団にくるまった。

 逸る心は、なかなか凛奈を眠りに誘わなかった。

 


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