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双子の交差線  作者: 鳥藍
第一章 集え、交差点へ。
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第十三話 買い物は難しい


 凛奈は一人、外を歩いていた。

 

 作戦会議はまだ終わっていない。今も、或居の家で話し合いが進められている。

 重要参考人の凛奈が、なぜ外にいるのか。その理由はずばり。


(遠隔で会議に参加できるって……革命なのでは!?)


 凛奈の特殊能力。それは、広範囲の探知である。犠牲が強まってしまうが、意識することで、少し離れた会議の様子を見ることもできる。

 黎真の特殊能力。凛奈が知る限り、それは、空気の操作である。距離が離れるほど精度が落ちるようだが、少し離れた場所の音を拾って、さらに他の人にまで聞かせるくらい造作もないらしい。


 二つを合わせると、遠隔で会議に参加できる。勿論、屋外で重要な情報を話すわけにはいかないが。


『つまり、地下実験室があるってことだな、或居ばあさん』


『ええ。それどころか、バイオの研究機構の九割は地下にあります』


『まじか、スゲー技術じゃねぇか。入り口はどこだ?』


『入り口は、街の中央にあります。誰でも入れるわけではありませんが……(わたくし)がいれば確実に入れます』


「街の中央? あの……高い建物?」


『ええ』


『……そうか。なら、地下に入るのは簡単そうだな』

 

 作戦会議が滞りなく進んでいく。この合わせ技による遠隔通信に、凛奈は希望を見出していた。

 

(私も、役に立てるかも!)


 基本的に移動できない凛奈は、直接の戦力になれない。裏方として徹しようとも、結局最後は見ているだけで終わってしまうかもしれない。それが、凛奈の心配の一つだった。


 情報をいち早く共有できれば……凛奈はそう、心を躍らせた。

 ――命を取り合う恐怖を、凛奈はまだ知らないのだ。


 そうこうしているうちに、凛奈は一つの建物の前に辿り着いていた。或居のおすすめの雑貨屋である。


(ふー、道、間違ってなくてよかったあ……あれ、ここだよね?)


 不安を感じながらも、凛奈はドアを開けようとした。そして気づいた。ドアノブがないことに。


「あれ!? 入れない……」


『? どうした、嵩陽?』


「あ、ごめん、こっちの話……ドアノブがなくて……」


『あー? 触れたら開くタイプじゃねぇの?』


 名の話を聞き、凛奈は恐る恐る扉に触れた。扉が少し震え、急激に縮まっていく。扉の先に、通路が現れた。


「おお! すごいね、これ」


『開いたかぁ? お使い、頼んだぜぇ?』


「うん。会議遮っちゃって、ごめんね」


『問題ない。侵入経路の話だが……』


 沢山の商品が置かれた雑貨屋。観葉植物の緑が、清潔感のある白い壁や、温かい木製の棚を彩っている。

 凛奈はポケットから紙を取り出した。


(ええっと、三十八蛍光剤……? と、魚油製薬用カプセル……? と、六倍弱化爆薬……爆薬!? そんなもの売ってるの!?)


 凛奈は一つ一つ、棚を見ていく。ここは違う、ここも違う、と。雑貨店はなかなかの広さで、全ての棚を見ていたら日がくれてしまうだろう……だが、買い物自体初めてに近い凛奈には、もっといい方法が思いつかなかった。単純に、緊張していたのだ。


(ここも違う、ここも……あ、手帳だ。……そうだ! 凛賀のために、手帳を買っておこう!)


 凛奈は、買い物かごに手帳とペンを入れ、商品探しを再開する。なかなか見つからないことに不安を覚えながら、凛奈はずっと、棚と睨めっこをする。


「あの……お客様? もうすぐ閉店ですが……」


 気がついた頃には、外が暗くなっていた。作戦会議もいつのまにか終わっており、凛奈は慌てて紙を取り出した。

 結局、買い物かごに入っているのは手帳とペンだけ。なんとかしようと焦る凛奈に、店員が優しく声をかける。


「お客様……お困りですか?」


「あ、あの、えっと、その、お使い、見つからなくて……」


「メモを拝見させていただいても?」


「え、あ、どうぞ」


 凛奈は紙を手渡した。不思議そうな顔をする店員。


「えっと、幾つか証明書が必要な商品があるのですが……お持ちですか?」


「え、ええ?」


(証明書!? え、なにそれ!?)


 凛奈は焦った。汗を噴き出すその姿は、店員の目に疑いを宿らせた。


「お客様? これらの商品は、証明書がないと……」


「ごめんなさいね、店員さん。うちの連れが……ねえ、証明書ならお財布に入れといたはずだよ?」


「え、れ……」


 黎真が、凛奈の口を塞いだ。


「こら、人前で名前を呼ばない! 全く、世間知らずなんだから……ほら、お財布かして」


「え、あ、うん。わかった」


(そっか、名前呼んじゃダメなんだった)


 凛奈は反省しながら、財布を取り出した。


「店員さん、これでいいかな?」

 

「……確認しました、聖者一行の方々だったのですね。少々、会計所でお待ちください」


 そういうと、店員はパタパタとかけて行った。


「ほら、会計所にいくよ。ついてきて」


「どうして、ここにいるの?」


 凛奈の目の前に、黎真がいる。よくよく考えたら不思議だと、凛奈は首を傾げた。


「お使いにいった人が帰って来なかったら、様子を見にいくのは当然でしょ」


「そ、そっか」


 会計所の場所もわからない凛奈は、素早い黎真について行った。



 会計が終わり、二人はやんわりと光を発する道を進んでいた。壁や地面の一部が線を成して光る光景は、物珍しく、凛奈は目を奪われていた。

 道中、買い物袋を覗いた黎真が、危険物の間に挟まる異質な物に気づいた。


「……ねえ、なんか手帳とペンが入ってるんだけど。嵩陽、勝手にかごに入れた?」


「あ、うん。欲しいなって思って」


 黎真はため息をついた。


「造里さんが少し出してくれたとはいえ、みんなの共同資金だから、勝手に別のもの買って欲しくないんだけど」


「え、あ、ごめんね、知らなかった……」


「……そうだよなあ、見た目青年の中身幼児だもんなあ……そりゃ、わかんないか……全く」


 そういうと、黎真は財布を取り出した。凛奈が持っていたものとは違う、別の財布だった。


「この手帳、何に使うの?」


「ええっと……弟、凛賀と入れ替わった時に、私直筆の状況説明があったほうがいいかなって……あの子、疑い深いから……」


「ああー。確かに、面倒なことが起きそうだし……わかったよ、今回は僕が立て替えとく。後で、お金稼いだら返してね」


 黎真は、小さな財布から真ん丸の貝殻を数枚取り出し、共同資金に入れた。


「ありがとう。わかった、いつか返すね」


「ほら、ここの中に入れとくと変でしょ。この手帳セットは凛奈が持っててよ」


 凛奈は手帳を抱き、何を書くかを整理しながら、或居の家へ向かった。



 * * *



 翌日。


「……よし、全部あるな。んじゃ、ちょっと工作するぜ」


 買い物袋の中身を取り出し、名が何かを作り始めた。


「黎真ぁ、凛奈ぁ、テメーらも手伝えよなぁ? 光爆弾はアタシがどうにかすっからぁ、こっちの麻酔、いつも通りにしてくれ」


「えー、名、僕武器の調整しなきゃなんだけど……」


「あぁ? っち、そうか……わかったわかった、しゃーねー、凛奈一人じゃできねーだろうし、凛奈ぁ、テメーは黎真から道具の使い方教えてもらっておけ!」


「うん、わかった」


「いやいや、僕、武器の調整が必要なんだって!」


「時間ねーんだ、さっさとやれ!」


 作戦会議の結果、凛奈像の奪取は明日……丁度、バイオと愚者たちの間で交換会が行われる前日に行われることになった。

 つまり、今日中に準備を終わらせなければならないのだ。


 凛奈は、屋外……或居の家の庭に向かった。

 

「道具の使い方って言っても、そんな難しくないから、身構えないでいいよ」


 そういうと、黎真は凛奈に筒を手渡した。手作り感満載のその筒は、見た目に反してずっしりしている。


「あ、でも、気をつけてね。誤った使い方すると、大怪我するからさ」


 ゾッとする言葉に、凛奈は背筋を伸ばした。


「わ、わかった……」


「と言っても、紐がついてるでしょ? 紐がついてない方を的に向けて、紐を引くだけ。勢いよくね。すると、筒の先から眠くなる煙が出るんだ」


「えーと、紐を勢いよく引くと、煙が出るってこと?」


 すごく危険じゃないか、と凛奈は目を細めた。爆薬でも入っているのか、と。


「そう。薄い煙だから、視界を遮るとかは難しいんだけど……吸ったらすぐに眠くなるんだ。あ、ガスマスクつけて使ってね」


「うん、わかった」


 なんだ、爆発しないんだ……凛奈はそう思い、胸を撫で下ろした。


「あ、もし先端を塞いじゃったら、爆発するから気をつけてね」


「爆発するんだ!?」


 急に怖くなってきた凛奈は、黎真に筒を返した。


「お、ありがと。本当は、実際に使ってみて欲しいんだけど……数が足りないからさ、ぶっつけ本番で、ね」


「わ、わかった……」


「じゃあ、僕は武器の調整するから……うーん、嵩陽は、まあ自由にしてていいよ」


「わ、わかった」


(よし、手帳書こう)


 凛奈は、割り当てられた部屋へ向かった。椅子に座り、一つ一つ思い出しながら、丁寧に文字を連ねていく。

 名が多少肩代わりしているとはいえ、体の震えは止まらない。どれだけ丁寧に書いても、いつも通りの読めない暗号のようになってしまう。


(これでいい、これでいいよね)


 凛賀なら、きっと読んでくれる。

 凛賀なら、この文字をみて、私の、姉貴の文字だって信じてくれる。


 そんな確信が、凛奈にはあった。凛奈は一日中、文字を書き続けた。



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