8話でも死にゲー
読んでいただけそうなら頑張らねば・・・。
「・・・ノハ・・・コノハ。」
セフラの透明な声に導かれて、僕は覚醒した。
気が付くと、先程仔猫と争った船室だった。
「また、死んだんだな。」と他人事みたいに思った。
「セフラ。さっきの奴は?」
「もーここにはいません。別の船で湧き出る骸骨を滅ぼしているのでしょー。」
セフラが敵は既にいないと首を振る。
船の墓場と言われるだけあって、この海域で遭難する船は後を絶たないらしい。その度毎に執着ある魂が魔物となってさまよい歩くのだそうだ。
セフラが「彼」と呼んだターゲットは、あの猫で間違いないらしい。どうして仔猫の姿なのかと訊いたが、それはよくわからないようだ。たまたまどこぞの船に乗り込んでいた猫に、憐れな魂が憑依したのではないか?という憶測を話してくれた。
セフラは、終始淡々と何の抑揚もなく話すから、怒っているのか、憐れんでいるのか、はたまた喜んでいるのかわからないが、探索している間、訊いたことにはしっかりと説明をしてくれた。
再び探索しなくてはならないのか・・・。と思ってげんなりしていると、
「彼の場所はわかります。先程の戦闘中にマーキングしておきました」
とセフラが暗闇へ進み始める。
マーキングって・・・そんな余裕があるなら助けてくれてもいいのに・・・。と思ったが、その場に置いて行かれる恐怖の方が勝って、慌ててセフラの後を追いかけたのだった。
船室を出て、違う船に飛び移る。何度も海中に沈んだ経験を持つ僕だったが、今回は不思議と一発ジャンプで飛び移ることが出来た。それを見ていたセフラが怪訝そうな視線を僕に送る。どうしたのか?と訊こうとすると、くるりと振り返って先へ先へと行ってしまう。
渡った船の甲板に骸骨がいた。こちらに気づいたらしい、のっそり首をもたげる様子が蛇みたいだと思った。恐怖はない。僕は腰元からナイフを取り出そうとして、そこに何もない事に気が付いた。さっき死んでしまった時、何処かに落としてしまったのだろうか?失くしてしまったようだ。
仕方なく拳を固め、骸骨を真正面に構える。テレビで見るボクシングのスタイルだ。でも、なんかの漫画に書いてあったっけ?素人には、こう狭っ苦しい、息苦しい構えなんだって。専門的なことはわからないから、おそらくはボディがら空きの隙だらけスタイルだ。
骸骨が両手を前に突き出しながら、こちらへ迫って来る。セフラは離れたところで腕を組んで傍観している。僕は骸骨に両肩をしっかり掴まれ、大きく開けた骸骨の顎が首に迫って来た。
次の瞬間、ガコン!という音と共に吹き飛んだのは、僕の血飛沫ではな骸骨の頭だった。何故だろう。ショートアッパーの要領で右手を振るったら、狙い通りに骸骨の顎に当たり空っぽの脳が詰まっていたであろう筈の部分を撃ち抜き、頸椎と頭部を切り離していた。
「お見事。レベルアップです」
セフラが微笑んだ。驚いた。笑うことが出来るのだと思った。もっと言うと表情が変わるんだと思った。
「武器装備レベル1がスキルとしてつきました」
言うが早いか僕の手に剣鉈が現れた。
「武器?さっき武器がなくなって困ったからかな?」
そう呟く僕に、セフラは微笑むとくるりと身を翻して先へ進んでいった。船から船へ、船から岩へ飛び移った。随分大きな岩だ。何度登っても手が滑って海に落ちた岩壁の筈だったが、どこに手をかけたら良いのか、どこで踏ん張ったら良いのか、体が覚えているかのようにするすると登ることが出来る。一瞬、何かに操られているのかも知れない。と思ったが、もう既に幾百回、幾千回と死んだ身だ。今更何を怯える必要があろうか?という心境になり、またまた自分で自分に驚いた。
岩壁を登り切った先に、仔猫は居た。仔猫の足元に崩れた骸骨がいた。
岩の上は、平たい円状になっていた。多少デコボコしているが普通に立てるくらいには平らだった。14~15メートルくらいの直径だ。自然に出来たにしてはおかしいと思ったが、猫と戦うには、闇の廊下や室内よりは、月明かりを浴びて視界も利くここがベストだと感じた。勿論、猫が逃げないってことが前提だが・・・。
でも、その心配はなさそうだった。仔猫は僕を敵と捉え命を刈ろうとしている。証拠にこちらを睨みながらゆっくりと近づいてきた。間合いを測っているのだろう。獲物の動きを見逃すことのない様に、慎重に、慎重に近づいてくる。
僕は、刀身剥き出しの剣鉈を腰ひもから引き抜くと、右手で固く握り構えた。次の瞬間、ずるっとズボンが脱げて、下着を履いてない僕の憐れなゾウさんがお出ましになる。
「ギャオオオオオォォォ!!!」
仔猫がブチ切れた!
何故!?
いや、この「何故?」は仔猫ブチ切れもそうだが、主に僕の息子ゾウさんぺロリン♡について、だ。
「先程武器を取り出した時に、腰ひもが切れたのですね。チンケな主張をして頂きましても残念さが増すだけですよ。チンケなゾウさん」
新しい呼ばれ方。チンケって・・・泣けるぜ。
と泣くが先か憐れが先か、銀の猫弾丸が一直線に飛んできた。ズボンを上げる間もなく、仔猫ミサイルがチュドンだ。幸い猫の方もテンションが下がっているのか、速度が遅く弾道が読める。股下を潜らせてみた。ぴゅうーとゾウさんとお稲荷先生に風が当たる。岩山の縁にいた僕を突き抜けた猫が向かう先は絶壁だ。海に落ちたかのように見えた。だが、やはり強敵。落ちた先の岩壁を駆け登り物凄い勢いで迫って来る。
僕はズボンを引き上げながら中央に行こうとするが、切れた紐をうまく結ぶことが出来ず、ズボンがすぐに落ちてしまう。今一度グイッとズボンを上げようとした瞬間、ズボンの股間部分に猫ミサイルが着弾した。ズボン!と音がして股間とお尻の部分に仔猫大の穴があいた。
「・・・・・・」
潮風が冷たい・・・。するっとズボンを履けたことは良かったが、イケナイ部分は前も後ろもキレイに出ていた。
「ぎゃおおおおおおおおおお!!!!」
猫が唸る!
いや!唸りたいのはこっちの方だろう!ナニやってくれてんの!?
「最低ですね。変態ですね。死んでください」
セフラが氷のナイフの様な視線で僕を見ていた。
仔猫が足を踏ん張っている。次の一撃が・・・来る!
タシュ!という軽い音がした気がした。猫が進む軌道が見える。御丁寧に貫通力を上げる為にきりもみ状に身体を回転させて突っ込んできているようだ。だが、十分速さも目で追える。「見える!私にも見えるぞ!」と呟く余裕はなかったが、僕は僅かに左に動いて体を反らし縦に剣鉈を振り下ろす。そう、このタイミングで。思った通りに身体が動く。
ブシュ!と音を立てて刃が仔猫に突き刺さった。ゾウさんはその真横で寂しそうに萎えていた。回転している体に刃が食い込んでぐるりと浅からぬ傷が刻まれる。地に降り立った仔猫からエリマキトカゲのエラのように円状の赤い飛沫が上がる。自分以外の血が噴き出るのを見たのは、この世界に来て初めてのことだった。想像以上にエグイ。吐きそうな気分になる。なるだけだけど・・・。
次の瞬間、敵の気配が大きく膨れ上がった様な気がした。重圧を含んだ突風が仔猫を中心に巻き起こる。ブチ切れってやつだろうか?ゾウさんがふるふると突風に煽られて震えていた。
「グウウオオオオオオオオ!!!!」
と猫のくせに犬の様な唸り声を上げると、みるみるうちに変態した。言い方がマズかったか?変身した。もこもこと膨れ上がり巨大化していく。どこか苦しそうな唸り声をあげながら形成されたその体は、いつかやったゲームに登場したキャラクター「狼人間」に酷似していた。
「グウオォォォォォォォ!!!オデのおぉぉぉ、宝だぁぁぁ!!!誰にもぉぉぉぉ、奪わせないぃぃぃぃ!!」
しゃ、喋るんだ!?なんて呑気に驚いている場合じゃなかった。
猫弾丸の比ではない超高速で、ワーウルフの鋭い爪が横薙ぎに振るわれた。正直何も見えない一閃で、僕の身体は引き裂かれて意識もろとも吹き飛んでしまった。
トイレいこー。




