9話でも死にゲー
戦闘シーンだあ
「リスポン」
セフラの声が聞こえた。ここはどこだ?なんて思う余裕はない。空中だ!真下にワーウルフが見える。その距離4~5メートル。剣鉈は手に持っていた。落下しながら両手で刃を握りしめ、首元めがけて落ちていく。完全に死角だ。貰った!!
ドシュ!という刃物が刺さる音がするのと同時に、背中から僕の身体が地面に落ちた。衝撃で一気に肺の中の空気が外に出ていった。ワーウルフの背丈は250センチは軽く超えている。ワーウルフの首元で減速したとはいえ、受け身も取れない素人には結構な痛みだった。死なないだけ有難いのかも知れない。
「グギャアアアアアアアア!!!」
ワーウルフが苦しそうに悲鳴を上げる。その首元からぴゅーぴゅー赤い液体が噴出している。極度の興奮状態であられる様だ。
次の瞬間、僕の目の前がグラッと傾いた。一瞬にして視界が真っ暗になり「あれ?死んだのかな?」と思ってしまった。
でも、それは違った。視線の遥か向こうからセピア色の何かが迫ってきて、僕の目の前一杯に広がった。
どこからか低くて渋い感じの男の声が聞こえる。
「俺は、手に入れたかった・・・。」
イケボってやつだな。となんとなく思った。
「俺が存在する理由を・・・。」
セピア一色の光景に一本の大樹とデコボコのアスファルト舗装されていない田舎道、そして、見渡す限りの草原が現れた。
セピア色だから正確な色はわからないけど、長いブロンドと思われる綺麗な髪にくっきりとした目・鼻立ち、すっきりと流れる輪郭。海外モデルの雑誌にでも出ていそうな白人女性が木の根元で足を擦っていた。芸能関係に疎い僕だが、シャロ〇・ストーン?ってこんな感じだったかな?となんとなく思った。擦っている足首は腫れあがっている。ケガをしているようだ。
「大丈夫ですか?」と声をかけようとして、自分の声が空気を震わせていない事に気がついた。息苦しさは感じないが、声として出ていかない。それに、僕の存在にすら、女性は気づいていないようだった。
僕のズボンの穴もさっきのリスポーンと同時に塞がっていた様で、雰囲気ぶち壊しだけは避けられそうだ。
「どうしたんだい?」
さっき聞こえたイケボが、穏やかな口調で女性に届いた。女性の視線の先に浮かび上がるように一人の青年が現れる。い、イケメン!!なんだっけ?ほら!あの・・・ジョニーじゃなくて・・・そう!ブ〇ピ!!
美男美女の二人は、まるで運命が引き合わせたかの如く、そうすることが当然のようににこやかに話を始め、ブラちゃんがシャロちゃんの足を擦り腰元から取り出したバンダナを彼が巻いてあげる。僕が仮にそれをやったら、一瞬でレイプ魔扱いされて、刑務所送りだ。憎いぞ!イケメン!
お姫様抱っこされたシャロちゃんは、ブラちゃんの乗って来たらしい馬に乗せられて、映画のワンシーンの様な二人乗りで去っていった。
「守りたいと思った。それが俺の生まれてきた意味かも知れないと・・・。そう思ったんだ」
独白の様な愁いを帯びた男の声だった。
セピアの場面が真っ暗になったかと思うと、再び別の場所を映して切り替わる。森の中を駆け抜ける二人。さっきの美男美女だ。後ろを時々振り返りながら、どちらも緊迫した表情で、でも、どこか嬉しそうな満足そうな色が差していた。
「最高だった。禁忌を犯すことが喜びなのか、二人でいれることが喜びなのかわからなかったが、俺は彼女と生きていく為なら、世界を敵に回しても良いと。そう思っていた。」
実際に見たことはないが、これが「駆け落ち」ってやつなのだろうか?車でブーンと連れ去るよりも、馬でパカパカ連れ去るよりも、二人で手を握りしめて互いの表情を確かめるように見ながら駆け抜けていく逃避行。羨ましすぎて、爆発しろ!!と正直思った。
再び、場面が切り替わるとそこはボロ屋だった。石造りの壁に、粗末なダブルベッド。傷だらけのテーブルに同じくらい傷んだ椅子が二つ。お世辞にも裕福とは言えない感じだった。
「俺は、間違っていたんだろうか?サリーと一緒に生きていきたいと思ったはずなのに・・・。それなのに、物足りなさを感じるようになってしまった。俺は、生きている実感が欲しかった。スリルに飢えていた。サリーとの生活は貧しくても嫌なことはなかったのに・・・、俺は、求めすぎたのだろうか・・・?」
悲しげな表情をしているシャロちゃん。この人が「サリー」なのだろう。ブラピ似の彼が何かを一生懸命訴えている。
何を言っても無駄なんだと、女性はわかったような、でも、それでも行かせたくないという思いが渦巻いた何ともいえない暗い表情をしていた。
だが、俯いた女性が次に顔を上げた時、何かを決意したかのような瞳で、懸命に笑顔をつくって手を振った。お別れなのだろうか?いや、そうじゃない。彼女は決めたんだろう。彼の我儘に付き合うことを。
彼を送り出す女性の目尻に、光るものが見えた。
場面が変わる。船の上。大嵐だ。怒り狂った大蛇のように海が大きくうねっている。
大声で指揮を執っているのは彼だ。必死の形相で船員たちに声をかけ、嵐の海を抜けようとしていた。
「サリーに海賊になるとは言えなかった。一旗揚げて一生裕福に暮らせるだけの財産を得て、サリーを迎えに行こう。喜ばせようと思った気持ちに偽りはなかった。だが、海賊になって、海と共に生き、野郎共と寝食を共にし、豪華な船を襲い、勢力を拡大していく魅力に、俺の心は捕らわれた。
面白かった。楽しかったんだ。だが、俺は、いつしか・・・何のために海賊になり、宝を手に入れ、それを守るのか。忘れてしまった・・・。」
場面が切り替わる。この岩場だ。彼は辿り着いたんだ。船の墓場に。
まさに、僕たちが争っている岩場の頂上、その中央に片膝立ててうなだれる男。イケメンの顔も伸び放題の髪や髭に覆われて表情が見えない。
「ここまで・・・か。散々巻き上げた財宝も海の底に沈んだ。もう、何年経ったんだろうか?サリーは無事に生きているだろうか・・・。俺は、何のために生きて・・・生まれてきたんだろうか?意味など無かったのだろうか?愛する人を忘れ、捨ててまで・・・何もなかったなんて・・・そんなこと・・・認めない。認められるはずがない・・・」
ぶつぶつ呟く彼の懐から、あの銀猫が顔を出した。猫とこの男、一体どういう繋がりがあるというのか・・・。飼っていたのだろうか?
男は猫を取り出し、両手で大切そうに掲げると大声で泣き始めた。殆ど絶叫に近かった。
男は全てを失ってしまった事に気づいたのだろう。大切な人も、仲間も、船も、宝物も。
天を仰ぐようにして涙を流し続ける男に、天から黒い雲を突き破るようにして一条の光が差し込んだ。
スポットライトの様に光を浴びる彼と掲げられた子猫はとても神秘的で、神の許しを得た罪人のようにも見えた。男は泣くのをやめて何やら呟く。
「・・・いやだ。これ以上・・・とられるのは、嫌だ・・・・・・。まもる・・・。それが、俺の、生まれてきた・・・意味。奪わせない・・・。どんな姿になっても・・・。まもる・・・。」
最後の言葉は弱弱しかった。そこに意味を見いだせない事を、本当はわかっているような、悟っているような、諦めにも似た悲しそうな声だった。
光が消え去った後、そこに男の姿はなく闇色の雲を纏った銀色の仔猫が一匹、佇んでいた。
彼はどこに行ってしまったのだろう?海の底に消えたのだろうか?若しくは、彼が猫になったのか、猫が彼を取り込んだのか定かではない。しかし、セフラの話をここに繋げるならば、あの仔猫こそが憐れな彼の魂を宿した存在なのだろう。
一つ言えることは、彼は護りたいと願った。本当は財宝なんかではない何かを。でも、それは遠い過去に捨て忘れてしまったものだった。思い出しても戻っては来ない。だからなのだろうか。これ以上奪われてしまわないように、守ろうと思うのは。誰が何を奪いに来るような場所でもないのに、人の姿を棄ててまで、護り続けたいと彷徨うのは。
結局彼は見つけることが出来たのだろうか・・・。生きる意味を。自分が存在する理由を。
強烈な引力にでも引き付けられるように、僕は突然、覚醒した。大の字で寝転がっている僕の目の前で、巨大な体躯を折り曲げて後頭部を押さえながらワーウルフが僕を睨んでいる。ワーウルフは大きく右足を振り上げると僕の顔めがけて踏みしめた。落下した時のダメージは全く残っていない。咄嗟に飛び起きると、僕の顔のあったところにワーウルフの右足がめり込んでいた。
僕は、剣を片手に持ち替えて言った。
「あんたなんだな?ブラピ似イケメン。だとすると、あんたの事情は少しだけわかった。あんたを信じて待っている人の事も、それを裏切って生きてきたことも」
さっき僕を引き裂いた獣の爪が、空間を斬る。
避けた筈なのに、顔に切り傷が走った。浅い傷だがじわじわ血が集まってくるのがわかる。
「僕とあんたは似ていると言われた。確かに、生きる意味が欲しくて、存在する理由が欲しくて探し続けようとする生き様は、似ているのかも知れない」
僕が上空から斬りつけたワーウルフの首の傷は、すっかり元に戻っているようだ。出血している様子がない。ワーウルフって治癒力半端ないんだな。と話しながら感心した。
「でも、僕には、あんたの様な思い切った生き方は出来ない。あんた、すげぇと思うよ。僕には何かを棄ててでも満たされない気持ちを埋めようとする度胸はなかった。出来なかった」
グッと獣が体勢を低くした、来る!と思うよりも早く巨体が僕の身体を二つに裂いた。
「リスポーン」
セフラの声だ。ワーウルフの後ろに僕は立っていた。
「でも、あんたは、結局この場所で何かを見つけきれたのか?生き甲斐や意味を見つけられたのか?・・・ないから彷徨っているんだろう?宝を守る?奪われない為に生きてる?そんなの言い訳だ。何もあんたを満たしやしない。だからあんたは探してるんだ。理由を探してうろついてるんだ。」
ワーウルフが両腕を広げた。強烈なエネルギーがワーウルフに集まる。また、やられるのか!?と覚悟したが、今度は違った。中距離のソニックブームだろうか?爪から発射されたように見えた。
バシュウ!と放射されたエネルギーと共に爪が引き裂いた先は、僕ではなく右隣にいたセフラだった。
セフラの身体がその空間ごと切り裂かれて消滅した。
「・・・え?」
思わず呆然となった。なんで?なんで僕じゃなくてセフラが?
別に大して思い入れのあるやつじゃない。何度も何度もデッドループさせられて迷惑もいいところだった。でも、殺すことないんじゃないか?
あの子だって、彷徨う憐れな魂を何とかしてあげたくって、もしかすると必死だったんじゃないのか?一瞬一度だけ目にしたセフラの嬉しそうな笑顔が目に浮かんだ。何も言えず、何も言わず消滅してしまった。
ブチン・・・と僕の何かが切れる音がした。
頭に血が上るっていうのは、どういう感じなんだろう?と思ったことがあった。
そういう奴等は大抵自分を見失う。我を失うって表現は的確だと思う。
でも、僕は凄く冷静だ。感情が動かない。悲しいも、寂しいも、辛いも、嬉しいも、楽しいもない。ただ、シンプルに「消えて欲しい」と願うだけだ。
「ギャオオオオオォォォォォォォォ!!!」
ワーウルフの咆哮で、空気が震える。
右足に力が溜め込まれるのがわかる。ドン!という音より早く、獣の巨体が僕に迫る。迫りながら爪で空間を薙ぎ払い、そこに真空の波が起こる。ああ、この鎌鼬現象が、避けきれないトリックの一つだったんだな。と呑気に思った。
さっきは攻撃の何も見えなかったのに、今は敵の動きが見える。スタミナ切れか?疲れちゃったのかな?思えばこういうのの繰り返しだな。
骸骨の時も、仔猫の時も、そして、こいつも。レベルアップの賜物だろうか。
僕は、ただ冷静に落ち着いて着実に獣の眉間めがけて剣鉈を振りかぶり、投擲した。
音よりも早いワーウルフが僕に迫って来るスピードと、非力な僕が投げつけた刃。獣はそれを避けることなく距離を詰めた。侮ったのか、見えなかったのか・・・。
ズズズズッパァァァァァン!!
と盛大なクラッカーが鳴ったような音がして、ワーウルフは4本の足を残してこの世から消え去った。
戦闘終わったあ




