クラス一の美少女
「うおっ! 誰かと思ったら真田じゃねぇか! びっくりしたぁ……」
下駄箱で、吉村が俺の頭を見るなり声を上げた。
まぁ、二日前に一緒に遊んでるからね、その時はまだ髪が肩まであったから、びっくりするのも当然だ。
「おはよう。夏休み明けって何でこんなに怠いんだろうね」
「いやいや、普通に会話続けるなよ。その頭の理由を説明しろよ」
「ちょっとイメチェンしてね」
「イメチェンなのか、それ……何か嫌なことでもあった? 話なら聞けるぞ」
「そんなんじゃないよ。髪の手入れが面倒になっただけ」
「それならいいけどさ……」
心配してくれるなんて吉村は優しいな。
「宿題やった?」
そう聞くと、吉村は自信満々に答える。
「もちろん! 彼女に徹夜で手伝ってもらったからさ!」
「おぉ、リア充……」
いいなぁ、彼女欲しいなぁ。
吉村の彼女は、剣道部の先輩。目鼻立ちの整った綺麗な人で、全国大会三位の実力者でもある。
二人が一緒に廊下を歩いていた時にたまたま会ったことがある。年下の俺に対して礼儀正しく挨拶してくれて、頼れるお姉さんって感じの人だった。
夏休み明けということもあって、教室内はいつもより賑やか。
「俺、二組の山下と付き合った」
「祭りの時だろ!」
「せーかーい!」
「お前焼けたな!」
「もうサーフィン三昧よ。ってかお前も焼けてんじゃん」
「俺は部活だよ。部活三昧」
「えっ、美帆髪切った?」
「ちょっとだけ!」
「めっちゃ似合ってる! かわいい!」
「ほんと? ありがとう〜! 美咲こそ髪染めてるー! 似合ってるよ!」
「そう? ありがとう!」
俺が坊主になったからといって、誰も気づく者はいない。
みんな夏休みの思い出話に花を咲かせるのに夢中だ。
まぁ、笑われなくて良かった。変な心配をしてしまっていたな。俺は別にクラスで目立つような人間じゃない。
でも、せっかく思い切って坊主にしたから、誰か気づいて欲しかった欲はある。吉村が気づいてくれたからまぁ良いかな。
「始業式の後、普通に授業とか怠いよなぁ」
「ほんとそれ」
俺の前の席に座るのが吉村だ。
友達と席が近いって良いね。こうして気楽に話せる。
「俺もう帰りてぇもん。しかも部活あるし」
「いいじゃん。彼女と会えるんだしさ」
「それもそうか」
「リア充め……」
そんなくだらない話をしていると、不意に教室の入り口が少しざわついた。
「あ、中島さんだ」
誰かが呟く。
俺もつられて目を向ける。
中島莉久。
整った顔立ちに、涼しげな目元。顎のラインに沿って切り揃えられた黒髪。男女問わず人気があり、クラス一の美少女と呼ばれている。
そんな彼女が、自分の席へ向かう途中――
ぴたり、と足を止めた。
視線の先は、俺。
いや、正確には俺の頭だった。
中島さんは何か珍しいものを見つけたように目を丸くすると、そのままこちらへ歩いてくる。
「真田くん……?」
「え……」
一瞬だけ沈黙。
そして彼女は俺の頭をじっと見つめた。
「……坊主?」
「う、うん」
「え、本当に?」
「え……」
え、本当に? ってなに? 俺の頭そんなに変?
そんな不安を吹っ飛ばすかのように、中島さんは元気に言い放つ。
「真田くん、坊主似合ってるじゃん!」
クラスメイトの視線が俺に集まる。
これまでにないくらい注目されてる。
「あ、ありがとう」
まさかまさか、クラス一の美少女から似合ってると言われるとは……。
たじたじながらお礼を言うと、中島さんはニコッと笑って、自席に向かった。
俺に集まっていた視線は、中島さんの方へ向けられる。
「りくちゃん久しぶり〜!」
「久しぶりー! って昨日会ってるじゃーん!」
中島さんの周りには自然と人が寄ってくる。男女問わず。
あのグループが、いわゆる一軍と呼ばれている人たちだ。
でも、そんな人の中心人物である中島さんに坊主を褒められた。
「お前、ニヤニヤしすぎだぞ」
「仕方ないでしょ、あの中島さんに似合ってるって言われたら嬉しいに決まってる」
「まぁそうだけどさ」
「坊主にして良かった」
吉村は呆れたように肩をすくめる。
でも、そんなことはどうでもよかった。
坊主は思い切りが過ぎたかとちょっと不安だった。
けど、クラス一の美少女の中島さんから「似合ってる」と笑顔で言ってくれた。
その一言だけで、坊主にした価値はある。むしろお釣りが来るレベルで。




