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EP 2

炎上とフェイクニュース! オルウェルの包囲網

ルナミス帝国、内務省・地下情報統括局。

壁一面に設置された無数の魔導モニターが、青白い光を放っている。画面に流れているのは、ルナミス帝国中の『T-TUBE』や『SNS(魔導掲示板)』の膨大なトラフィックデータだ。

「……現在、ポポロ村関連の検索ワードがトレンドの1位から5位までを独占。昨日配信された『もやし炒め』と『喋る哲学ネギ』の切り抜き動画は、すでに再生数500万を突破しています」

報告する情報局員の声に、内務卿オルウェルは冷たいモノクルを光らせて頷いた。

「大衆とは愚かなものだ。美味そうな食事と奇抜な見世物さえ与えておけば、いとも簡単に熱狂する」

オルウェルは手元の『ビッグ・ブラザー端末』を操作し、ポポロ村の過去のデータを表示させた。

「帝国の管理外にある莫大な食料生産能力、地下帝国ドンガンとの密輸の形跡、そして……かつてのレオンハートの近衛騎士候補や、素性不明の強力な魔闘術士(料理人)の存在。……あの村は、放置すればいずれ帝国の『管理された幸福(秩序)』を破壊するガン細胞になる」

オルウェルは、冷徹に『群集心理』のセオリーを口にした。

「熱狂は、簡単に憎悪へと反転させることができる。大衆は『隠された真実』や『陰謀論』という甘い蜜に目がないからな。……工作部隊トロール・ファームを動かせ」

「ハッ! シナリオはいかがいたしますか?」

「第一段階。あの異常に美味そうな『もやし』や作物は、魔族の瘴気を用いた『違法な魔薬成分』を含んでいるという噂を流せ。あの哲学ネギは、精神を支配された村人の成れの果てだとな。……第二段階。昨日配信を行った下級天使のアカウントに、大量の誹謗中傷とボットによる通報スパムを集中させろ」

オルウェルは法執行ペンをクルリと回し、静かに宣告した。

「物理的な軍隊は使わない。血を一滴も流さず、情報の力だけであの村を社会的に『抹殺キャンセル』する」

◇ ◇ ◇

翌朝、ポポロ村。

爽やかな朝の光が差し込む村長宅のリビングでは、ルチアナとリーザが『エンジェルすまーとふぉん』の画面を覗き込んで、キャッキャと歓声を上げていた。

「ちょっとリーザ! 見てよこれ! 昨日リアンが作ったもやし炒めの動画、再生数がとんでもないことになってるわよ! アタシたち、映り込んでただけでインフルエンサーの仲間入りじゃない!?」

「すごいですぅ! これで私の地下アイドル活動も、一気にメジャーデビューの道が開けるかも……って、あれ?」

ご機嫌だったリーザの顔が、突如として曇った。

「……ルチアナ様。なんか、コメントの様子が変ですぅ」

『おい、お前ら騙されるな! あの村の野菜、魔族の違法ドラッグが混ざってるらしいぞ!』

『どうりでただのモヤシがあんな美味そうなわけだ。完全にヤバい粉使ってるだろ』

『あの村、帝国に税金払ってない反社村なんだろ? 早く討伐しろよ』

『昨日配信してたキュララって天使も、金もらってステマ(ステルスマーケティング)してるんだろ! 失望したわ!』

「な……なによこれ! 違法ドラッグ!? 反社!? アタシたちの神聖なポポロ村が、なんでこんな言われようしてんのよ!」

ルチアナがパニックになりながら画面をスクロールするが、見れば見るほど「ポポロ村の野菜を食べると洗脳される」「料理人は元・暗殺結社の残党」といった、事実無根の(一部当たっているが)フェイクニュースが爆発的な勢いで拡散されていた。

「あかん! あかんでリアンはん!! えらいこっちゃ!!」

そこへ、血相を変えた猫耳商人・ニャングルが、ポポロ屋の厨房に駆け込んできた。

カウンターで仕込みをしていたリアンが、訝しげに眉をひそめる。

「朝っぱらから騒々しいな。どうしたニャングル」

「ポポロ村の特産品、月見大根も太陽芋も、ポポロシガーも……全部や! 帝国からの大口の注文が、たった今、全部キャンセルになりよった!!」

「……なんだと?」

リアンの手がピタリと止まる。

「それだけやない! ゴルド商会の本部から通達が来て、ウチの村のL-Pay(QR決済)の口座が『不正利用の疑い』で一時凍結されよったんや! タローソンへの物流も完全にストップやで!」

「……情報操作と、経済封鎖ってわけか」

リアンはエプロンを外し、忌々しげに舌打ちをした。

昨日、自分がつまようじで撃ち落としたドローンカメラ。あれが引き金となって、ルナミス帝国の上層部オルウェルが本気でこの村を潰しにかかってきたのだと直感した。

バンッ!!

「許せませんっ!!」

リビングの扉を蹴り開けて、村長のキャルルが現れた。そのウサギ耳は怒りでピンと逆立ち、手にはすでに愛用のダブルトンファーが握られている。

「罪のない農家のおじさんたちやネギオさんを、危険ドラッグ扱いするなんて……! 私、今すぐルナミス帝国の内務省にカチコミかけて、責任者の顎を粉砕してきますっ!!」

マッハ1の速度で飛び出そうとするキャルル。

しかし、その前にスッと、長身の男が立ち塞がった。

「お待ちください、キャルルお嬢様。それは下策中の下策でございます」

ポポロ村の宰相にして執事。人狼族のリバロンである。

彼は完璧な所作で一礼すると、冷徹な目で状況を分析した。

「今、お嬢様が帝国で暴れればどうなるか。……『やはりポポロ村は野蛮で危険な反社の集まりだった』と、連中の流したフェイクニュースを自ら証明することになります」

「うっ……それは……」

「敵は剣や魔法ではなく、『大衆の悪意』という実体のない武器で攻めてきています。……物理的な暴力も、リアン殿の極上の料理も、相手の口に入らなければ何の意味も成さないのです」

リバロンの言葉に、ポポロ村の面々は重い沈黙に包まれた。

そう、今回の敵は、蹴り飛ばす顎もなければ、美味しい飯を食わせる胃袋もない。

ルナミス帝国1億人の民衆が放つ、『炎上』という名の見えない暴力なのだ。

「……私のせいだわ。私が、こんなヤバい村の配信なんかしたから……」

部屋の隅で、天使のキュララがポロポロと涙を流して震えていた。

彼女のエンジェルすまーとふぉんには、今この瞬間も「詐欺師」「天使の面を被った悪魔」といった誹謗中傷の通知が鳴り止まない。

絶望と無力感が、ポポロ村を覆い尽くそうとしていた。

物理最強の村が、たった一夜にして「社会の敵」へと仕立て上げられてしまったのである。

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