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第六章 絶対防衛戦線! ポポロ村フェスと炎上のインフルエンサー編

T-チューバー襲来! 盗撮された究極のもやし

「皆さ~ん! 今日もルナミスからホーリー配信っ☆ あなたの心にエンジェル・スマッシュ! キュララだよ~!」

ルナミス帝国と獣人王国、魔皇国の国境が交わる辺境の森。

その木陰に隠れるようにして、フリフリのメイド服に身を包んだ下級天使・キュララが、空中に浮かぶ超小型の『魔導ドローンカメラ』に向かってウインクを飛ばしていた。

彼女は、ルナミス帝国で絶大な人気を誇る動画配信者(T-チューバー)である。

手元の『エンジェルすまーとふぉん』の画面には、猛烈な勢いで視聴者のコメント(チャット)が滝のように流れている。

『キュララちゃんキター!』

『今日も可愛い! スーパーチャット(金貨3枚)!』

『てか、背景の森ヤバくない? どこにいるの?』

「ふふんっ。よくぞ聞いてくれました! 今日はなんと、ネットの都市伝説で『絶対に近づいてはいけない魔境』と噂されている、あの**【ポポロ村】**に潜入ドッキリ配信をしに来ちゃいました~!」

『マジか!?』

『あそこ、三大国が手を出せないガチのヤバい村だろ!?』

『死ぬぞ! 帰れ!』

視聴者の煽りコメントで、配信の熱気(と視聴者数)がグングンと上がっていく。

キュララは「炎上上等、撮れ高命」の根粋の配信者である。

(ふふっ、チョロいもんね! 未開の田舎村の野蛮な生活を面白おかしく隠し撮りすれば、今日の同接(同時接続者数)は過去最高間違いなしよ!)

キュララは気配を殺し、ドローンカメラを先行させて村の広場へと潜入した。

「さぁ、未開の蛮族たちの恐ろしい生態を……って、え?」

画面に映し出された光景に、キュララは目を丸くした。

そこには、血に飢えた蛮族などいなかった。麦わら帽子を被った素朴な農家のおじさんたちが、何やら真剣な顔で円陣を組んでいる。

だが、その中心にいるのは人間ではなかった。

巨大な「ネギ」である。

しかも、ポポロシガー(最高級葉巻)をふかし、腕を組んで偉そうにしている、二足歩行のネギだった。

『……おい、なんだあのネギ』

『葉巻吸ってんぞ』

『CGか?』

コメント欄がざわつく中、ネギ(ポーン突然変異体・ネギオ)が、口から紫煙を吐き出しながら農家たちに向かって響き渡る声で叫んだ。

「甘い! 甘すぎるぞ貴様ら! その程度の弁証法で、この俺の『極上ネギ』を分けてもらえると思っているのか!」

農家のおじさんが、顔を真っ赤にして言い返す。

「だ、だから! カントの定言命法に従えば、汝の意志の格率が常に普遍的な立法の原理として妥当するように行為せよ、という事になる! つまり、お前のネギを今日の夕飯の鍋に入れる事は、普遍的善なのだ!」

「馬鹿め! お前の言う普遍的善には、功利主義的な『最大多数の最大幸福』の視点が欠落している! その鍋を食うのはお前の家族(4人)だけだろうが! プラトンのイデア論から出直してこい!!」

「ぐはぁっ……!! 論破されたぁぁ……!!」

農家のおじさんが、膝から崩れ落ちて号泣する。

「……えぇっ?」

茂みに隠れていたキュララは、ドン引きしてスマホを落としそうになった。

『農家とネギが哲学でレスバトルしてんぞwww』

『なんだこの村カオスすぎるwww』

『ネギの語彙力が帝国大学の教授レベルで草』

コメント欄は大爆笑の渦に包まれ、視聴者数はあっという間に3万人を突破した。

「す、すごい……この村、ツッコミどころが多すぎて撮れ高が無限にあるわ!」

キュララは興奮を抑えきれず、ドローンカメラをさらに村の奥へと飛ばした。

次にカメラが捉えたのは、村の定食屋『ポポロ屋』の厨房の窓である。

そこでは、黒髪の青年リアンが、凄まじい手つきで中華鍋を振るっていた。

カァァァァンッ! ジュワァァァァァァッ!!

立ち昇る炎。それはただの調理の火ではない。リアンが微細な『炎魔法』と『闘気』を鍋に這わせ、食材の旨味を一瞬で閉じ込めるという、三ツ星シェフ特有の超絶変態技術だった。

「ほらよ、お待ち。……原価100円の『究極のもやし炒め定食』だ」

リアンがカウンターにドンッ!と大皿を置く。

そこには、神々しいほどに艶光りする、シャキシャキのもやし炒めが山盛りになっていた。

カウンターに座っていた金髪の美少女ルチアナと、極貧アイドル(リーザ)が、涙を流しながらそれに食らいつく。

「はふっ、はむっ! うぅっ、美味しいよぉぉぉ!! なんでただのもやしなのに、高級レストランの味がするのよぉぉ!」

「マグロより美味しいですぅぅ! ご飯がおかわり止まりませんぅ!」

ドローンの高性能マイクが、ニンニク醤油と豚の脂が焦げる『暴力的なまでの食欲をそそる音』を拾い、ルナミス帝国中のリスナーの鼓膜へと直接届ける。

『……やばい、腹減ってきた』

『なんだあの料理人の包丁さばきと鍋の振り方。素人じゃねぇぞ!』

『もやし炒めだけでご飯3杯いけそう……飯テロやめろ!!』

『スパチャ投げるから俺にも食わせてくれえええ!!』

【同接視聴者数:10万人突破】

キュララの配信枠は、未知の哲学ネギと、理不尽なまでの飯テロ映像によって、瞬く間にルナミス帝国の「T-TUBE総合ランキング1位」へと躍り出たのである。

「やったぁ! 大バズりよ! これで今月のクレジットカードの支払いも余裕……って、あれ?」

キュララが歓喜の声を上げた、その時。

画面の端に映っていたリアンが、ふとドローンカメラの方へ鋭い視線を向けた。

(……チッ。なんか飛んでると思ったら、盗撮用のカメラか。タチの悪いハエだな)

リアンはため息をつくと、手元にあった『つまようじ』を一本指で弾いた。

ヒュッ――パァァァァンッ!!!

闘気を纏ったつまようじが、時速300キロでドローンカメラのレンズを正確に撃ち抜き、配信画面は「ザーッ」という砂嵐と共に唐突にブラックアウトした。

「あぁっ!? 私の最新型ドローン(金貨50枚)がぁぁぁ!?」

キュララが頭を抱えて悲鳴を上げる。

かくして、ポポロ村の存在は「哲学を喋るネギ」と「飯テロ動画」として、ルナミス帝国のネット社会に大々的に拡散されてしまった。

しかし、このバズりが単なるエンタメで終わるはずがなかった。

ルナミス帝国・帝都。

暗い執務室の中で、巨大なモニターに映し出された『もやし炒め』の録画映像を見つめながら、内務卿オルウェルが冷たくモノクルを光らせていた。

「……ポポロ村。帝国の管理下にない高カロリー食の供給源と、規格外の戦闘力つまようじを持つ料理人。さらには未登録の知性体ネギ……」

オルウェルは、手元の法執行ペンをカチリと鳴らした。

「これは、帝国の『絶対的な情報統制と経済循環』に対する明確な脅威だ。……潰さねばなるまい。民衆が、あの村の『自由』に憧れる前に」

ネットの熱狂の裏で、冷酷なる情報統制の刃が、今まさにポポロ村へと向けられようとしていた。

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