EP 9
港の競りと、借金完済!
数日後。ルナミス帝国が誇る最大の港町、オーシャン・ゲート。
早朝の魚市場は、かつてないほどの熱狂とパニックに包まれていた。
「ウオォォォォォ!! マジかよ!! 伝説のマグローザだァァァ!!」
「しかもこのデカさで、傷一つねぇ完全な『神経締め』が施されてやがる……! 一体どんなバケモンが仕留めたってんだ!!」
巨大なクレーンによって第三天魔丸から水揚げされた、全長五十メートル超のマグローザ。
その黒光りする圧倒的な巨体と、鮮度を極限まで保たれた極上の肉質に、大陸中から集まった大商人や高級料亭の仕入れ係たちが血走った目を向けていた。
「へっへっへ……。こいつぁ、とんでもねぇシノギになったぜ」
アルマーニのスーツを綺麗にクリーニングし直した船長・デュアダロスが、極上の葉巻を吹かしながら笑いが止まらない様子だ。
そして、そのマグローザの前に、一台の高級魔導車が横付けされた。
降りてきたのは、算盤を小脇に抱え、煙管を吹かす猫耳の商人――ゴルド商会のニャングルである。
「……やりよった。ホンマに釣り上げよったで、あの料理人」
ニャングルの『神眼の動体視力』が、マグローザの価値を瞬時に弾き出す。
(この鮮度、この脂の乗り……! ルナミス帝国の皇室に献上するレベルや。なんぼ金積んでもお釣りが来るで……!)
「ニャングルさぁぁぁぁん!! 帰ってきましたぁぁぁ!!」
「生きて地上に帰れましたぁぁぁ!!(号泣)」
ゴム長靴とカッパ姿のルチアナとリーザが、タラップを転がり降りてニャングルにすがりついた。ゲロと魚の血の匂いが混ざった二人に、ニャングルは露骨に顔をしかめる。
「おぉ、ヨシヨシ。よう頑張ったな、アホども。ほな、さっそくこのマグローザの競り(オークション)を始めさせてもらおか!」
ニャングルがパンッ!と手を叩くと、港の競り人たちが一斉に木槌を鳴らした。
「さぁさぁ! 伝説の魚獣マグローザ! ゴルド商会の名にかけて品質は完全保証! 開始価格は金貨1000枚から!!」
「金貨2000枚!!」
「ふざけるな、ウチの料亭が金貨3000枚で買う!!」
「ルナミス皇室の御用達として、金貨5000枚だ!!」
怒涛の勢いで釣り上がっていく価格。
ルチアナとリーザは、その額が跳ね上がるたびに「キャアアア!」と歓声を上げて抱き合った。
「金貨……金貨10000枚(約1億円)やぁぁぁ!!」
最終的に、ルナミス帝国の超高級料亭組合が合同で資金を出し合い、『金貨10000枚』という天文学的な価格でマグローザを落札した。
「よしっ! 決まりや!」
ニャングルがパチパチと算盤を弾く。
「ほな、精算やな。落札額10000枚から、デュアダロスはんの船のチャーター代と手数料で1500枚。……残りの8500枚から、ワイの投資用裏口座の借金と利子分、8000枚を引かせてもらうで」
「えぇっ!? 利子高くないですかぁ!?」
リーザが抗議するが、ニャングルは「FXの追証と遠洋漁業の手配料や! 命があるだけマシと思え!」と一蹴した。
「……まぁ、いいわ! それでも手元には『金貨500枚(約500万円)』が残るじゃない!」
ルチアナが目を輝かせる。
「借金もチャラ! しかもお小遣い付き! 私たち、ついに自由よぉぉぉ!」
「やりましたぁ! 頑張って撒き餌を吐いた甲斐がありましたねっ☆ これでポポロ村に帰って、マグローザの最高級大トロでお寿司食べ放題ですね!!」
無邪気に飛び跳ねる二人。
しかし、その後ろから、荷物をまとめたリアンとキャルルが静かに歩み寄ってきた。
「おい。その金貨500枚、俺に寄越せ」
リアンがルチアナの手から、ズシリと重い金貨の袋をひったくった。
「ちょっと! なにするのよリアン! それはアタシたちの労働の対価よ!」
「バカ言え。トドメを刺して神経締めしたのは俺とキャルルだ。お前ら、船底でチンチロやって吐いてただけだろ。……それに、この金は『ポポロ屋の新しい業務用魔導冷蔵庫』を買うための大事な資金だ。1円たりとも無駄遣いはさせねぇ」
リアンは金貨の袋を魔法ポーチに放り込むと、ニヤリと笑った。
「だがまぁ、借金完済と生還の祝いだ。ポポロ村に帰ったら、俺の奢りで『盛大な打ち上げ宴会』をやってやるよ。楽しみにしてな」
「えっ……リアンさんの奢り!? やったぁぁぁ!!」
「三ツ星シェフの腕が振るわれるのね! アタシ、大トロの炙りがいいわぁ!!」
すっかり調子を取り戻し、ヨダレを垂らしながら喜ぶダメ神と極貧アイドル。
だが、彼らは完全に忘れていたのだ。リアン・クラインという男が、いかに「コスパ」にうるさく、そして自分たちに迷惑をかけた者に対して容赦のない男であるかということを。
借金という重圧から解放された一行は、意気揚々と(そして盛大な勘違いをしたまま)ポポロ村へと帰還するのであった。




